やさしさに包まれたならきっと目に映るすべてのものは テッド・チャン ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『メッセージ』
おお、これはまだ辛うじて公開中。新作を発表するごとに注目を浴びている俊英ドゥニ・ヴィルヌーヴが今回挑んだのは、なんとびっくりの宇宙人SF。『メッセージ(原題はArrival)』ご紹介します。
突如として世界各地に現れた巨大な「ばかうけ」状の物体。それははるか宇宙よりやってきた異星人の艦であった。各国はそれぞれ異星人「ヘプタポッド」との更新を試みるが、言語体系がまるで異なるために苦戦を強いられる。アメリカの言語学者ルイーズはあきらめずに様々な方法を試みた結果、少しずつ彼らとコミュニケーションを図れるようになる。しかしその最中ヘプタポッドが発したある言葉が、世界に緊張をまねくことに。
原作はテッド・チャンの著した短編『あなたの人生の物語』。普通SF映画で宇宙人がでかい船でやってくれば、目的は侵略と相場が決まっています。ところがこの映画のヘプタポッドは意外にもどうもそれが目的ではないらしい… というか何を考えてるのかよくわからない。前半はその謎を根気よく紐解こうとするお話なので、非常にまったりのんびり進んでいきます。
意外なことといえばヴィルヌーヴ作品はこれまで『灼熱の魂』『プリズナーズ』『ボーダーライン』と観てきましたが、社会派でえぐいテーマを手掛けてこられたドゥニさんが、こんなぶっとんでいて優しい映画を作り上げたことに驚きました。サド描写をいれなきゃ気が済まない人なのかと思ってましたが、やればできるじゃん!という感じです。
逆にミステリー的な謎を追う展開や、意表を突く真相を用意している点ではこれまでのドゥニさんと一緒でした。
あと落ち着いた絵画のようなビジュアルが幾つか目立つのですが、わたしにはドゥニさんのお気に入りの美術コレクションを色々見させられてるような気がしました。まず宇宙船が宙に浮いているシーンはばかうけというよりマグリッドの『ピレネーの城』(下画像参照)によく似ています。その宇宙船が駐留している美しい草原はミレーの風景画を彷彿とさせますし、ヘプタポッドがブシュッと描く文字は水墨画か書のような趣があります。かと思えば子供が美術の時間に描くかわいらしい絵も登場します。眺めていて楽しいけれど、なんとも脈絡のないコレクションであります。
イカ、本格的に結末までネタバレで。
わたくしがこの映画を特に評価するのはふたつ。まずひとつは原作に負うところが大きいのかもしれませんが、オチが非常に独特。いろいろ飽きもせず映画を観てますが、こういう○○の○○かと思っていたものが実は○○の○○だったというオチは初めて観ました。しかもただ驚かせるだけでなく、同時に感動もさせる。こういうのかなり至難の業だと思うのですよ。
もうひとつは「人生は結末がすべてではない」ということを訴えている点。とかく人は結末とか最後を重視しがちなものですが、たとえばずっと幸せな人生を送っていた人が、悲惨な死に方をしたら、その人の一生は不幸なことになってしまうのでしょうか? わたしはそうではないと思うのです。それ以前の豊かな生涯が結末だけですべて否定されてしまったら、こんなに理不尽なことはないなあと。だからこの映画のヘプタポッド的な見方というか、始まりも終わりも中間もすべてひっくるめて等しい価値があるという考えは、非常に心地よいものでありました。うう~~~ん、もっとうまく言えたらよいのですが。
そんな『メッセージ』ですが、おおむね次の金曜で上映終了するようです。あと3日! 興味ありつつも観そびれてひとはがんばって映画館に行ってください。
そしてドゥニさんの次回作はこれまた驚くべきことに、あの『ブレードランナー』の続編。いったいどんな風に仕上がるのか想像もつきません。10月末の公開をおっかなびっくり楽しみにしています。
Comments
理屈に合わないと思うので、ペケです。
Posted by: ボー | June 21, 2017 08:43 PM
>ボーさん
リプライめちゃくちゃおくれてすいません…
理屈じゃないんです! 魂なんです!(ほんまかいな)
Posted by: SGA屋伍一 | June 29, 2017 10:36 PM