國村を音読みで読むと ナ・ホンジン 『哭声/コクソン』
『チェイサー』『哀しき獣』などで注目を集めたナ・ホンジン監督の新作は、なんと日本の名優國村 隼氏をメインに据えたオカルトサスペンス。『コクソン』、ご紹介します。
韓国の辺鄙な村、谷城(コクソン)で次々と起こる奇怪な殺人事件。警察官のジョングは聞き込みを続けるうちに、山で一人で暮らしている謎の日本人が怪しいという情報を聞く。それでものんきに構えていたジョングだったが、最愛の娘までが奇行を繰り返すようになり、呪術師らしきその日本人と対決することを決意する。
前二作はコワモテ風の男が主人公だったホンジン作品ですが、今回はごく普通ののんきな父さんが主役をつとめます。だから出だしはおっかないどころか大変ユーモラスでさえあります。個人的にはそのまんま進んでくれた方が大変心地よかったのですが… 久しぶりなんで忘れてました。ホンジンさんはつかみこそまったりしてるくせに、最終的には観客を地獄の底へ叩き落とす人だということを。
うっかりしたムードが徐々にしゃれにならない状況へシフトしていくこの恐怖、ちょっと昨年の『ヒメアノール』に通じるところもあります。
人が怖いと思うこととは普通なんでしょう。理解できないものが襲ってくることとか、自分が死ぬこととかでしょうか。しかしかわいいお子さんを持つ親御さんにとってなによりも恐ろしいのは、最愛のわが子がどうにかなってしまうこと。このテーマあまりにも救いのない話になりそうなので、扱われることも少ない気がしますが、ホンジン監督その辺をは容赦なく追及してネチネチと主人公・観客を追い込んでいきます。
で、その恐怖のキーマンとなるのが先にも述べた國村隼さん。なんでも監督は彼の顔写真かなにかを見て一発でこの役にキャスティングしたとのこと。向こうではヒットと同時に無数の子供にトラウマを植え付けたそうです。「いくら怖いと言っても、あの(こちらでは見慣れた)國村さんでしょ?」とたかをくくっていたのですが、いやちゃんと怖かった。さすがは名優、おみそれしました。
そしてこの映画、彼の他にももう二人ばかり怪しげなキャラが登場するのです。一人は評判はいいけどどこか胡散臭い祈祷師。もう一人は浮浪者っぽい謎の若い女。二人ともジョングに助言を与えてくれるのですが、双方言ってることがバラバラなのでジョングとしてはどちらを信じていいかわからない。そうこうしてるうちに娘はどんどんおかしくなっていく… どう行動したらわからない状況で、それでもなにかせねばとあがくお父さんの姿があまりにも痛ましくて胸がキリキリいたしました。國村さんがふんどし一丁であばれているというので、もっと愉快な映画を想像していたのですが。これが村を訪れたのが國村さんでなく金田一耕介であったなら、お話はだんだん理論的に解決され、最後にはみんな笑ってエンドマークとなっただろうに。もう大概ネタバレですけど、この映画結局さんざん謎や伏線を振りまいて、結局は回収せずに終わってしまいます(ヒントめいたものは残しますが)。『哀しき獣』にも若干そうした要素がありましたが、ホンジン監督はますますそういう方向へ進んでいくのでしょうか。『チェイサー』の時のシンプルさが懐かしい…
というわけで大変奥の深い力作ではございますが、わたしとしては本作品が2017年上半期のワースト作品です。おめでとう。でも個性の強い作品や答えを観客にゆだねる映画が好きな人にはおすすめ。来月下旬にはDVDが出ますので興味を持った方はごらんください。
Comments
そそそそそうか、國村を音読みで読むと……。
まったく気づいていませんでした。おみそれしました。
Posted by: ナドレック | June 30, 2017 01:01 AM
>ナドレックさん
えへん、どんなもんだい!
…と言いたいところですが、単なる偶然なのかどうか?
Posted by: SGA屋伍一 | July 05, 2017 11:00 PM