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June 20, 2017

やさしさに包まれたならきっと目に映るすべてのものは テッド・チャン ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『メッセージ』

10c3195fおお、これはまだ辛うじて公開中。新作を発表するごとに注目を浴びている俊英ドゥニ・ヴィルヌーヴが今回挑んだのは、なんとびっくりの宇宙人SF。『メッセージ(原題はArrival)』ご紹介します。

突如として世界各地に現れた巨大な「ばかうけ」状の物体。それははるか宇宙よりやってきた異星人の艦であった。各国はそれぞれ異星人「ヘプタポッド」との更新を試みるが、言語体系がまるで異なるために苦戦を強いられる。アメリカの言語学者ルイーズはあきらめずに様々な方法を試みた結果、少しずつ彼らとコミュニケーションを図れるようになる。しかしその最中ヘプタポッドが発したある言葉が、世界に緊張をまねくことに。

原作はテッド・チャンの著した短編『あなたの人生の物語』。普通SF映画で宇宙人がでかい船でやってくれば、目的は侵略と相場が決まっています。ところがこの映画のヘプタポッドは意外にもどうもそれが目的ではないらしい… というか何を考えてるのかよくわからない。前半はその謎を根気よく紐解こうとするお話なので、非常にまったりのんびり進んでいきます。
意外なことといえばヴィルヌーヴ作品はこれまで『灼熱の魂』『プリズナーズ』『ボーダーライン』と観てきましたが、社会派でえぐいテーマを手掛けてこられたドゥニさんが、こんなぶっとんでいて優しい映画を作り上げたことに驚きました。サド描写をいれなきゃ気が済まない人なのかと思ってましたが、やればできるじゃん!という感じです。
逆にミステリー的な謎を追う展開や、意表を突く真相を用意している点ではこれまでのドゥニさんと一緒でした。

あと落ち着いた絵画のようなビジュアルが幾つか目立つのですが、わたしにはドゥニさんのお気に入りの美術コレクションを色々見させられてるような気がしました。まず宇宙船が宙に浮いているシーンはばかうけというよりマグリッドの『ピレネーの城』(下画像参照)によく似ています。その宇宙船が駐留している美しい草原はミレーの風景画を彷彿とさせますし、ヘプタポッドがブシュッと描く文字は水墨画か書のような趣があります。かと思えば子供が美術の時間に描くかわいらしい絵も登場します。眺めていて楽しいけれど、なんとも脈絡のないコレクションであります。

イカ、本格的に結末までネタバレで。
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わたくしがこの映画を特に評価するのはふたつ。まずひとつは原作に負うところが大きいのかもしれませんが、オチが非常に独特。いろいろ飽きもせず映画を観てますが、こういう○○の○○かと思っていたものが実は○○の○○だったというオチは初めて観ました。しかもただ驚かせるだけでなく、同時に感動もさせる。こういうのかなり至難の業だと思うのですよ。
もうひとつは「人生は結末がすべてではない」ということを訴えている点。とかく人は結末とか最後を重視しがちなものですが、たとえばずっと幸せな人生を送っていた人が、悲惨な死に方をしたら、その人の一生は不幸なことになってしまうのでしょうか? わたしはそうではないと思うのです。それ以前の豊かな生涯が結末だけですべて否定されてしまったら、こんなに理不尽なことはないなあと。だからこの映画のヘプタポッド的な見方というか、始まりも終わりも中間もすべてひっくるめて等しい価値があるという考えは、非常に心地よいものでありました。うう~~~ん、もっとうまく言えたらよいのですが。

1476268557そんな『メッセージ』ですが、おおむね次の金曜で上映終了するようです。あと3日! 興味ありつつも観そびれてひとはがんばって映画館に行ってください。
そしてドゥニさんの次回作はこれまた驚くべきことに、あの『ブレードランナー』の続編。いったいどんな風に仕上がるのか想像もつきません。10月末の公開をおっかなびっくり楽しみにしています。

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June 19, 2017

23人くらいのジェームズ・マカヴォイ ナイト・M・シャマラン 『スプリット』

S06これまたもう公開終了してますね… ここんとこ調子が戻りつつある業界きってのヘンテコ監督ナイト・M・シャマラン。その最新作はあのベストセラーを彷彿とさせるサイコスリラーであります。『スプリット』、紹介いたします。

女子高生のケイシ―はクラスメイトの誕生会の帰り、友人共々謎の男に拉致監禁されてしまう。意識を取り戻したケイシーたちは、再度現れた男の物腰や振る舞いが一変しているのに驚く。男は23もの人格を持つ多重人格者だったのだ…

わたくしのツイッターのタイムラインで最も愛されてる映画監督というと、やはりナイト・M・シャマランではなかろうかと思います。本当にシャマランの新作が公開されると皆さん内容はどうあれお祭りのように騒ぎ、はしゃいでます。それはシャマランの作品が一見よくあるジャンルムービーのようでありながら、彼にしか作れない実にヘンテコな映画ばかりだからでは…と思っています。この『スプリット』も確かにサイコスリラー風でありながら、どこか変というかお笑い風。さっきまでコワモテだった男がそのまんまの顔で急にオネエ言葉になったり、小学生のようにふるまいだしたりするのですから、ヒロインたちでなくても「それはひょっとしてギャグで言ってるのか?」とツッコミたくなるであります。前作『ヴィジット』もそんな感じでありました。かと思えば突然緊張感みなぎるシーンもあったりする。最後までギャグでいくのか? それともちゃんとスリラーになるのか? そんなところでハラハラしながらスクリーンに見入っておりました。

で、この映画のキモとなるジェームズ・マカヴォイ氏。23人もの人格を演じなければいけないから大変です。まあ実際登場したのは8人格くらいだったのですが… それだって器用な人でなければできない役であります。役者さんには大体いつも同じ役柄のタイプと、カメレオン的に色々演じられるタイプにわけられると思います。マカヴォイ君は芸達者そうではありますが、そんなに幅は広くないというか、大体育ちのいいお坊ちゃん役か、クズの役がほとんどのような。ですから今回は彼にとってチャレンジとも言えるキャラだったのでは。少々コント風ではありましたが、落ち着かないせわしい役をまずまずがんばっていたと思います。

さて、こっからはラストまでネタバレでありんすが。

gemini
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この映画、サイコキラーと少女が戦う映画でありながら、最後はサイコキラーが少女の魂を結果的に救済する話でもあるのです。この辺実にシャマランらしいヘンテコさでありました。そしてすでに世界で発表されてしまいましたが、『スプリット』は実はあのシャマラン初期の名作『アンブレイカブル』と同じ世界の話であることが明らかにされました。『アンブレイカブル』がいびつなヒーローの誕生話だとすれば、『スプリット』は風変わりなヴィランのオリジン・ストーリーということができます。そして両者は2019年の『グラス』で激突することになっています。本当にオラ、ワクワクしてきたぞ!って感じです。
『アンブレイカブル』は予備知識を入れないで観に行ったら、アメコミにがっつり絡んだ作品だったので当時大変驚いたのを覚えています。シャマランさん、あんた実はこっち側の人だったのか…と大変うれしくなったものでした。しかしその後シャマラン作品にアメコミ要素が現れることはほとんどなく、自分もそのことをすっかり忘れておりました。ですが最近のアメコミ映画ブームを眺めているうちに、シャマランのそっちの愛情に火がついてしまったんでしょうね。俺もアメコミが、ヒーローとヴィランの対決が、クロスオ-バーする世界が作りたい!と。彼がやるならば絶対直球ではない、ヘンテコなアメコミ「風」映画になるかとは思いますが。

41zpkbcau4lそれにしても17年前の続編も作られてない映画をいきなり新作と結びつけるとは、シャーミンも大胆なことをなさいます。彼をずっと追いかけて来た人なら狂喜乱舞することでしょうけど、ほとんどの人はポカーンだったのでは。本当にあの当時アメコミ映画が絶滅しかけていて泣いていたファンのためのご褒美のような企画です。幸いにも『スプリット』は低予算が功を奏してすでにけっこうな黒字を計上しているので、よっぽどのことがないかぎり『グラス』は実現するでしょう。というかいい加減映画会社も、彼はお金あげない方がいいものを作るということに気付いたようですね… 果たしてシャマラン・ユニバースはそこからさらなる広がりを見せるのか? 『グラス』は2019年1月に全米公開予定です。

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June 15, 2017

父性からの物体X ジェームズ・ガン 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』

20170610_200126快進撃を続けるマーベル・シネマティック・ユニバース。その最新作では宇宙を駆けるあのはみ出しものたちの活躍が再び描かれます。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー/リミックス(原題はVol.2)』、ご紹介します。1作目の感想はコチラ

クリーの武人ロナンから惑星ザンダーを守りきったガーディアンズ・オブ・ギャラクシー。その腕を見こまれて惑星ソブリンから発電所の警護を依頼される。ところがチームの1員のロケットが高価な電池をちょろましたため、ガーディアンズは彼らから追われる身に。絶体絶命のその時、彼らはエゴという謎の男に救われる。エゴはスターロードことピーターに、自分が父親であると告げるのだが。

1作目ははみ出しものたちがドタバタ暴れまわってるうちに、いつの間にか家族になってしまった話でありました。それに対して今回はその即席家族をなんとかして維持していく話であります。家族とはいいながら(家族だから?)彼らは本当によく喧嘩をします。まあ言いたいことも我慢してストレスをためこんでいくよりは、喧嘩になっても正直に本音をぶつけあったほうが家族としては健全なのかな? その喧嘩が時々シャレにならないレベルになってしまうこともあるわけですけど。

さて、こっからは本格的にネタバレで。

今回の「リミックス」はガン監督の「神様観」が見え隠れする作品でもありました。キーキャラクターでスターロードの父でもある「エゴ」は、星を創造し宇宙をも支配できるほんまもんの神様であります。ただここでは一般に信じられてるように神様は慈愛深い方ではなく、そこからかけ離れた独善的で利己的な者のように描かれています。ここで思い出すのは二つ前にガン監督が撮った『スーパー!』。あちらは神の啓示を受けた(と思い込んだ?)男が自分なりの正義を実行していく話でしたが、その正義というのが明らかにやりすぎで狂気じみたものだったりして。そして正義を懸命に代行した主人公に、神様はなんの報酬も与えてくれません。
かようにガン監督は神様は信じた自分を裏切った、自分勝手な存在と感じているようです。素っ頓狂でバカばかしい作風が持ち味のようで、時折そんな傷つきやすい少年のような人柄が作品から伝わります。

で、神様の代わりに彼が惜しみない愛情を注いでいるのが家族であり仲間たちであります。ことに『リミックス』においてはメジャーな監督作品第1作『スリザー』からずっとつきあってくれてる、ヨンドゥ役のマイケル・ルーカーへの愛情が大爆発しておりました。全身青色のヘンテコモヒカンの凶状持ちが、この映画ではめちゃくちゃ親しみ深く、愛すべき野郎としてわたしたちを魅了します。そのチャーミング力は公開日ガーディアンズの正規の面々を押しのけて、「ヨンドゥ」がツイッターのトレンド上位にあがったことからもよくわかります。
ガン監督の家族愛がもう一人よく表れているのが、実弟のショーン・ガン演じるクラグリン。「弟をこんなに目立たせて身びいきかよ!」とも思いますが、このガン弟、お兄ちゃんのひいき?に十二分に答えていて、本当に申し分ない働きを見せておりました。決して主役にはなれないタイプという気はしましますが、その異相といい妙におどおどした雰囲気といい、実に面白そうな役者さんであります。これからもいろんな作品での活躍を期待するものであります。

そんな家族愛がビンビンにみなぎりすぎて、終盤等はちょっと浪花節的なムードまでただよい始めました。この辺のベタベタなセンスはとても日本的でさえあります。ちょいと「泣かせ」がくどいと感じる方もおられましょうが、年で涙腺と鼻が弱くなっているわたしはダラダラと泣きました。二回目は鼻水が滝のように吹き出ました。終盤以外でもマンティスが泣き崩れてる横で微笑してるドラックスおじさんや、「(普通の人間に戻ることの)何が悪い」と毅然と言い放つピーター、あと彼が力に目覚める直前に仲間たちを思い出すシーンにもいちいちやられました。ガンさんったら本当ににくらしい人… 

もちろん1作目の特徴であったノリノリのややマイナーな名曲、アホくさい宇宙人の習性、小気味よいギャグセリフの連打、80年代サブカルネタなども健在です。中学生時代クラスの男子がナイトライダー派とエアーウルフ派に別れていたことなど懐かしく思い出しました(少数ながら「特攻野郎Aチーム派」もいました)。

世界では予想通りの爆ヒットを記録した『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』。たしかMCUの中でもベスト5に食い込んだとか。当然ながら第3作の製作も早々と決まりました。おそらく次は家族の別れを描く内容となるという噂。そんなのいやでちゅ!! バカ!! まあその前にお祭り映画である『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』への登場が予定されています。ガーディアンズの面々がアイアンマンやスパイダーマンと共闘するかと思うと胸バクバクです。
20170610_20013620170206_130356余談ですがこのブログにも時々登場してた猫のモン吉先生、一か月ほど前に安らかに亡くなりました。メインクーンという種類だったこともあって、スクリーンで活躍するロケットがなんだかモン吉に見えてしょうがありませんでした。ううう…

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June 13, 2017

スマップ×スプラッタ 沙村広明 三池崇史 『無限の住人』

Mgjn1はい、またしても公開終わってます… 沙村広明氏の人気コミックを、最近漫画実写化のプロフェッショナルみたくなってる三池崇史監督がキムタクを主演に据えて映画化。『無限の住人』、ご紹介します。 

たぶん江戸時代中期過ぎ。とある道場の娘・浅野凜は、名を上げるために各流派を潰して回っている剣客集団「逸刀流」に父を殺され、母を拉致されてしまう。仇をとるために用心棒を探していた凜の前に、謎の尼僧が現れてこう告げる。「江戸のはずれに決して死なない男がいる。そいつを見つけ出せ」と…

原作は未読であります。とりあえずまず目をひいたのはモノクロのプロローグ。まだ主人公の万次が普通の人間だったころのエピソードなんですが、この映像が大変美しくかっこいい。できればこのまま全編いってほしかった…のですが21世紀の大衆向け邦画としてそれは許されなかったのでしょう。残念です。

で、本編に入って色が着いてくるとお話はやや現実離れしていきます。ただ現実離れといっても魔界の生き物とかそういうものが出てくるわけではなく、不老不死の要素とか、いかにも漫画的なとんでもね~武芸くらいのものでしょうか。このリアルとトンでものバランスや、奇天烈な武芸者たちのセンスなどは山田風太郎の忍法帖とよく似ております。もしかしたら間接的とはいえこれまでの忍法帖の映像化で最もよく出来た部類の作品かもしれません。確かめたわけではないけれど、きっと原作者の沙村先生はそちらから強い影響を受けているのでは、と推測します。

監督は割りと作品の出来に浮き沈みがはげしい三池監督。いや、すごくアレなところもありましたが、去年の『テラフォーマーズ』とかいろいろ突き抜けててわたし好きなんですけどね。で、今回は監督ご自身が原作の大ファンということで、いつもより気合が入っていたような気がしてなりません。三池作品にありがちなしょうもないギャグとか、ほとんどなかったですしね。邦画の欠点によくあげられるベタな演出も幾つかありましたが、それを補ってあまりあるパワーにあふれていました。

そのパワーの中心となっているのが、意外なことにここんとこゴシップで世間をにぎわせているキムタクこと木村拓哉。どなたかが指摘されていたので注目して見ていたのですが、刀を両腕に持ちながら長時間暴れていてもほとんどスピードが落ちないという。同世代(40前半)として見たら驚異的な身体能力であります。加えて最近の苦労が(笑)いろいろ経験してきた万次というキャラクターに説得力を持たせていたような。ライバルである福士蒼汰君も久々に仮面ライダー仕込の切れのいいアクションを見せてくれました。
本当にねえ、日本にはすごい動きを見せてくれるイケメン俳優がまだまだいると思うのです。ただそうした役者さんはアクション映画よりもラブコメや人情ものに持っていかれることが多いので、せっかくの長所が持ち腐れになっているのではないのかと。ほんでかなしいことにアクションよりもそちらの方が大抵ヒットしてしまうのでますますそういった傾向が進んでしまうという… う~~~ん。なんとかなりませんかねえ。

余談ですがこの映画、現在公開中の『ローガン』と幾つか重なっているところがあり、見比べてみると面白いかと思います。まあこっちは上映終わっちゃってるんだけど~

Mgjn2三池監督の次回作はまたしても漫画実写化の『ジョジョの奇妙な冒険』第4部。危ぶんでいる声もよく聞きますが、予告を見た感じでは悪くなかったので自分は期待しております。


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June 12, 2017

ボーイ・ミーツ・ファムファガール エドワード・ヤン 『クーリンチェ少年殺人事件』

Krssまた間が空いてしまいました… そしてゴールデンウィークに観た映画の感想を今頃書いてます… 本日紹介しますのは早逝した巨匠エドワード・ヤン監督の伝説的作品『クーリンチェ(牯嶺街)少年殺人事件』であります。今回デジタル・リマスター版が作られたということで多くの劇場で再上映されることになりました。ではまずあらすじから。

1950年代末期の台湾。あまり風紀のよくない夜間クラスに通う十代の少年・小四は、不良たちのリーダー・ハニーの恋人だった小明と親しくなる。対立するグループとの抗争、ハニーの帰還、スパイ容疑をかけられた父の拘留、そして小明との擦れ違いなどを経て、平凡だった小四の心にはいつしか深い闇が根を下ろしていく…

作品が発表されたのは1991年。自分はまだ高校生でしたかね。都会ではおそらくミニシアターブームが華やかなころだったかと思います。いわゆる「名画」の中では比較的最近の方…といえるかな。

全編通して特に印象に残ったのはその「暗さ」でしょうか。ストーリーは中盤過ぎまではそんなに暗くはないんですけどね(決して明るくもありませんが…)。だから暗いというのは単に画面・映像についてです。もちろん昼のシーンもそれなりにありますが、とにかく夜のシーンが多い。あと暗がりの中で何がいるのかわからなったり、極端に影に覆われてたりするカットが目立ちました。
この映画はやはり少年の心の闇を描いた作品だと思うのですが、小四の心の激しい部分というのはそう滅多に表れるものではなく。家族への思いやりも、女の子への純粋な愛情も、仲間たちと楽しそうに遊んでる姿も、ごくごく平凡な少年のそれであります。しかしそうした日常の中にちらちらっと鬼気迫る何かが見え隠れしはじめます。そんな小四の危険な部分が影に覆われながらも、少しずつ大きくなっていくあたりがとても居心地悪い反面、スリリングでありました。特に我慢を重ねていた小四がバットで電球をパキンと割ってしまうシーン、いけすかない近所のおじさんに背後から忍び寄るシーンなどはやがて来る凶事を予感させて忘れがたい絵でありました。

闇が濃い、といえば当時の台湾もそうであります。『セデック・バレ』や『KANO』などを観ていたからわかったことですが、50年代といえばまだまだその土地に暴力や戦争の名残が残っていた時代。加えて冒頭でも述べられていましたが、国自体がまだまだ不安定でありました。そんな当時の台湾に漂う不安な空気が、暗めのスクリーンの中にずっと立ち込めていた気がします。

あとこの映画の特色はなんといっても約四時間もあることですね… 「4時間なんてあっという間」という方もいれば、「やっぱりそれなりに長い」という方もおられる。自分も休憩なしでこんだけの尺の映画に臨むのは初めてだったので、ちょっとおっかなびっくりでありました。トイレを我慢できるように3時間くらい前から断ったりしてね…
で、正直なところやっぱりそれなりに長くは感じましたが、不快な長さではなかったし、それだけの時間がこの物語には必要だったと思います。とはいえ上映が終わった後、ほぼ満席の映画館には「おれたち、なんとかやり遂げたよな…」という軽い徒労感も漂っていたような。気のせいでしょうか(笑)

2わたくしは今回の「デジタル・リマスター版」、第一陣が終わった後に川崎のアートセンターというところで観ましたが、まだぽつぽつと名画座等で上映が続いているようです。特に小さい箱ながらユジク阿佐ヶ谷などでは連日満席だとか。この伝説はまだまだ語りつがれていくようです。


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