23人くらいのシャールト・コプリー イリヤ・ナイシュラー 『ハードコア』
ちょっとここんとこ色々ありまして、また更新が空いてしまいました。またぼちぼち遅れを取り戻していきたいと思います(できんのかいな)。再開1発目はなかなかに実験的なSFアクション『ハードコア』を紹介いたします。
ロシアのギャング・ヘンリーは抗争で瀕死の重傷を負うが、科学者の妻・エステルの献身的な施術によりみごとサイボーグとしてよみがえる。だがその技術を狙う武器商人エイカンは、エステルを拉致。ヘンリーは突如として現れた奇妙な男・ジミーに助けられながら、妻を取り戻すべくエイカンを追う。
この映画の他に類を見ない特色は、いわゆるVR視点というやつでしょうか。約90分の間、お話はひたすらヘンリーの視界で進んでいきます。ですから最後までヘンリーの全身像はスクリーンには映らず、手や足くらいしか出てきません。で、ヘンリーもスタントが代わる代わる演じているので、スタッフロールにも名前が出てこないというから驚きです。まあそういう型式を徹底することで、わたしたちはまるで主人公になったような気分を味わえるわけです。
そしてこのヘンリーをサポートする「ジミー」がまた変わっています。彼は一人ではなく、いろんな恰好で現れてはその度に派手に死んでいきます。しかしその都度何もなかったようにまたどこかから現れるという。
予告編や前情報などから「内容がなさそうな映画だなあ」とずっと思っていました。しかしジミーとヘンリーを見ていると、「自我の不確かさ」というものについて考えさせられます。自分は本当に自分なのか? 言い方を変えれば、自分の持っている記憶は真実なのか、自分の体は自分だけのものなのか。そんなテーマも一応忍ばされてると思います。
あとこの映画で特筆すべきなのは、米露合作映画であるということ。先にロシアから米国に流入してたティムール・ベクマンベトフ監督がイリヤ・ナイシュラ―氏の才能にほれ込みお膳立てしたとのことですが、いまキナ臭いムードが立ち込めている両国の間で、映画人たちがこのように交流していることを知るとちょっとほっこりいたします。ほっこりしたといえば劇中でクイーンのお気に入りのナンバー「DON'T STOP ME NOW」が、非常にいいところでかかったのにも和みました。余談ですが、ここ一か月の間にクイーンがかかる映画を3本も観ました。まったくもって偉大ですねえ。
果たしてVR映像だけで一時間半もつのかと思いましたが、なんとか貫き通しておりました。その構成力には感服いたします。ただVR視点ゆえに同化しすぎて画面酔いする人も続出したとのこと。乗り物酔いしやすい人はお気を付けください。わたしはその点は大丈夫でしたけど、終盤人体破壊がエスカレートしすぎて、人間がグチャグチャの肉みそみたくなってたのには別の面で悪酔いしました。このちょっとくどいセンス、ヨーロッパ映画には時々見受けられますよね。日本人でしょうゆが好きな身としてはもう少しさっぱりと撮っていただきたかったです。
しかしまあ、この映像感覚はこれまでの映画には本当になかったもの。新し物好きな方にはぜひ観ていただきたい。『ハードコア』はまだぼちぼち上映残ってるところもありますので、気になった方は検索されてみてください。
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