東宝っぽい見聞録 チャン・イーモウ 『グレートウォール』
公開が終わってしまった映画のレビューがまだ続いています… 今回は火星での活躍が記憶に新しいマット・デイモンが、はるか昔の中国で大暴れする『グレートウォール』、ご紹介します。
中国は宋王朝の時代。ヨーロッパから絶大な破壊力を持つ黒色火薬を求めてやってきたウィリアムとバートルは、盗賊から逃れて巨大な長城へと逃げ込む。ひとまず命を永らえたと安心した二人だったが、彼らには予想だにしない危機が待ち受けていた。その長城には恐ろしい怪物の群れがすべてを食い尽くすべく殺到しつつあったのだ…
最初に企画を聞いたとき、「中国の史劇になぜマット・デイモン…」と少なからずひいてしまいました。しかしまあ中国から欧州に火薬が伝わったのは宋のあとの元の時代とされているので、この時代早めに連中がウロチョロしてたとしても不思議ではないかもしれません。そして予告であんなものがじょわじょわ群れをなしているのを見て、歴史の齟齬などどうでもよくなりました(笑) SFモンスターに比べればマットくらいいたってなんの問題もありません。それに製作しているのは怪獣映画の雄、レジェンダリー・ピクチャーズ。ちょっとくらいあれなところがあってもファンとしてはお布施を払わなくてはなりません。
で、感心したのはそのモンスターが「饕餮(とうてつ)」であるということですね。これ、中国の神話に登場する由緒正しい怪物。酒見賢一氏の小説『陋巷にあり』などに登場したりしてます。どうでしょう、この恐ろしくややこしい漢字。字幕の人の苦労がうかがえます。劇中では「神の怒りにより隕石と共にあらわれた」みたいな説明がされていましたが、饕餮を流星に乗ってきた宇宙怪獣としてアレンジしたようです。ちなみにさらに古代の殷の時代、この怪物のシンボルとおぼしき「饕餮文」という模様が施された青銅器が多く作られました(下画像参照)。映画の怪物のおでこにもくっきりこれが刻まれていて、アホ映画とはいえその辺はディティールが細かいな、と思いました。
そうしたアイデアはやはり中国出身のチャン・イーモウによるものでしょうか。この監督、どちらかといえば『紅いコーリャン』や『初恋の来た道』といった叙情性豊かな人間ドラマが本領のはず。『HERO』や『LOVERS』といった武侠ものも撮っておられますが、彼の長いキャリアでも怪獣が出てくるのはこれが初めてでは。なんというか… お疲れ様でした。いろいろ事情があってこの仕事を引き受けたのだとは思いますが、とりあえず怪獣と次から次へとくりだされるビックリ戦法には本当に楽しませていただきました。
今年上半期ですでに『バーフバリ』『モアナと伝説の海』といった古代伝承的映画がありましたが、この『グレートウォール』が一番無茶だったような気がします。でもこういう無茶な映画、俺は嫌いじゃないぜ? 来月公開の『キング・アーサー』や、夏の『トランスフォーマー 最後の騎士王』の無茶ぶりにも期待しています。
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