プラと呼ばないで クリス・マッケイ 『レゴバットマン・ザ・ムービー』
上半期最も楽しみにしてた1本だったのに、感想書くのがモタモタしているうちに完全に公開が終わってしまった~~~! とほほ…
何の力添えもできず大変申し訳ないかぎりですが、遅まきながら『レゴバットマン・ザ・ムービー』、ご紹介いたします。
そこは全てがレゴでできた世界。犯罪都市ゴッサムシティで活躍するヒーロー・バットマンは、今日も惨事を未然に防ぎ、声援をあびながら秘密基地に戻る。だが広大な邸宅で彼を待つのは執事とコンピューターだけ。孤独に晩飯をチンしてくつろぐバットマンに、執事はそろそろ家族を作ってはとすすめるが…
本作品は2014年に公開された『レゴ(R)ムービー』の姉妹編というかスピンオフのような位置づけ。あちらにもすっとぼけたバットマンがサブキャラとして登場します。ただ今回の映画と同一人物なのかというと、そんな気もするし、違う気もする大変あいまいな設定です。まあこんなゆるさがレゴ映画の魅力のひとつとも言えます。
バットマンといえばまず『ダークナイト』を思い浮かべて、暗くてハードでシリアスなイメージをもっておられる方も多いことでしょう。確かにいまのバットマンに関していうなればそれは間違いではありません。しかしなにせ約80年もの歴史を持つシリーズですから、その間にはギャグ調に振り切れた時期もあったのです。いい例が今回もちらっと出てきた60年代に作られたTV版。そんな黒歴史も含めて、バットマンの長い長い歩みと本質を総括した内容となっていました。
バットマンの本質とはなんぞや。それは彼がスーパーヒーローで世界最高の探偵であると同時に、子供で偏執狂であるということです。子供のころ目の前で両親を殺されたというトラウマが、犯罪と戦う原動力となっている反面、未だに彼の内面を子供のままとどめてしまっている。言うなればごつくて暗いピーターパンのようなもの。まあ普通ちゃんとした大人は犯罪と戦うにしてもあんなコスプレしたり、不眠不休で訓練したり働いたりしないものでしょう。自分のペースと家族を大事にしたうえでやるものだと思います。
だからブルース・ウェインが普通の大人になる…幸せになって孤独感を感じなくなったら、『バットマン』という物語は終わるのだと考えます。実際映画『バットマン&ロビン』や『ダークナイト・ライジング』はそんな感じでしたし。
では肝心の原作はと申しますと、いまバットマンには養子・実子含めて3人の息子がいます。それとは別にぐれて勘当したような子供までいます。そんだけ子供に囲まれてブルースが立派なお父さんになったかといえば、これがはなはだ微妙でして… どの子どもたちにもちゃんとコミュニケーションを築けてないようですし、その上しょっちゅう死んだり失踪したりしてます。まあウェイン氏が本当にまともな大人になってバットマンを卒業してしまったら、DCコミックスとしては大変な痛手になるでしょうからそれはまだまだ先のこと…というか実現しないような。コナン君が半永久的に元の姿に戻れないのと一緒です。
もうひとつバットマン世界…というか多くのヒーローものに関して言える本質としては、「ヒーローとヴィラン、ふたつそろってて初めてお話が成立する」ということです。建前としては悪者なんかいないほうがいい、ということになってますが、もしあの世界にコスをまとっているのがバットマンだけで、ほかに珍妙な格好をした悪役がいなかったとしたら、そもそも物語としてなりたちません。まさにヒーローがいるからこそヴィランがいて、ヴィランがあってこそのヒーローであります。『レゴバットマン』では普通はごまかされそうな、そんな二者の絆が微笑ましく描かれておりました。これを通常のバットマンでやったら白けるか、めちゃくちゃ皮肉っぽくなると思うんですけど、二頭身のレゴの世界ならばみんなが幸せになれるというとてもほっこりした仕上がりになっております。
ちなみにいまコミックのマーベルではどちらかというとヒーロー同士が主義主張をめぐって激突するという話がとても多く、悪役の影がとても薄くなっています。その方が現実的でテーマも深くなるのでしょうけど、ここんとこの売上がぱっとしないところを見ると、もう少しバランスたもってやった方がいいんじゃないかな~と1ファンとしてはお思うわけです。
まわりくどい理屈ばかり書き連ねてしまいましたが、『レゴバットマン』はこんな面倒くさいことなど考えなくても…というか考えない方が楽しめる映画です。仏頂面でかっこ悪いバットマンに笑い、邪険にされるジョーカーに腹をかかえ、DC以外からもやってくる大量のカメオ出演に興奮し、文字通り血の一滴も出ない活劇ににんまりする。ああ… こんなに面白い映画なのに日本ではなぜ大コケしたんだ!! 世の中いろいろ間違いが多すぎる!!
そんな『レゴバットマン・ザ・ムービー』、8/2にDVDが出ます。観られなかった方はそれからでも観てください。そしてこれだけレゴ映画が不振なのに秋には新作の『レゴ・ニンジャゴー』が公開決定してます。あまりにも無謀すぎるチャレンジ。わたしはもちろんお布施と思って観に行きますよ!
Comments
SGAさんおはようございます♪
そういえば本作の一場面に、レゴのバットマンが過去の色々なバットマン作品を自虐的に語っているシーンみたいなのがありましたね。自分も一通り観てきたつもりだと思ってましたが、60年代辺りはさすがに分からずで、その黒歴史含めてやはり時代に合わせた色んなバットマン像があったんだなとも思ったりです^^;
あとバットマンとジョーカーのお馴染みの因縁も面白く可笑しく描かれていた一方で、正義の味方と悪者の在り方も考えさせられる深い(?)部分もあってそこも見応えありましたね。前作のレゴムービーもそうでしたけど、パロディ一辺倒じゃない所が良くて、本作でもバットマンとロビンの擬似親子的な関係に感動もしてしまったのでした。
Posted by: メビウス | May 20, 2017 09:47 AM
>ちらっと出てきた60年代に作られたTV版。そんな黒歴史
聞き捨てならーん!
バットマンといえば60年代のお馬鹿ドラマでしょう。
フランク・ミラーが『ダークナイト・リターンズ』を発表してからこっち、シリアスでダークなバットマンが持てはやされてますが、60年代の馬鹿さがあってこそダークナイトが輝きます。
なんてったって、60年代のTV版&劇場版は『フラッシュ・ゴードン』('80)のロレンツォ・センプル・ジュニアが脚本を手掛けてますから、馬鹿さでは他の追随を許しません。
>そしてこれだけレゴ映画が不振なのに秋には新作の『レゴ・ニンジャゴー』が公開決定してます。
ワーナーは攻めてますね。不振をはねのけるには配給し続けることと腹を括っているように思います。日本でも新作映画を続々作っているし、その姿勢に敬服します。
『ヒックとドラゴン2』の公開を見送ってしまう20世紀フォックスとか、見習っていただきたいです。
Posted by: ナドレック | May 20, 2017 02:55 PM
>メビウスさん
さすがに60年代版は生まれる前の話なのでよく知りません。ただ一度バートン版が人気あったころに劇場版を地上波放送してたような
ダークナイトではあれほど恐ろしかったジョーカーがこちらではこんなにかわいくなってたのが面白いですよね。ロビンといえば吹替えの小島よしおも健闘してたとか。自分は字幕で観たのでDVDが出たらそちらをチェックしてみたいです。
Posted by: SGA屋伍一 | May 22, 2017 10:44 PM
>ナドレックさん
すすす、すいません(^_^;
逆にいえばそれだけギャグに振り切ったバットマンをあそこまでシリアスに立て直したフランク・ミラーがすごいですよね…
フラッシュ・ゴードンとそんなところでつながりがあったとは知りませんでした。60年代バットマンはベンチャーズ、フラッシュ・ゴードンはクイーンと超メジャーアーティストが主題曲を演奏してるところも共通してますね
思えば『怪盗グルー』も1作目は不入りでしたが、いまこんだけ隆盛を極めてるのでレゴ映画もなんとか状況を逆転してほしいところ…!
Posted by: SGA屋伍一 | May 22, 2017 10:49 PM
悪役あってのバットマン。
バットマンが裏でヴィランに金を渡しているというのは本当ですか?
Posted by: ボー | January 20, 2018 09:54 AM
>ボーさん
それではバットマンがバッドマンになってしまう!(ベタだなあ)
Posted by: SGA屋伍一 | January 23, 2018 10:03 PM