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May 23, 2017

東宝っぽい見聞録 チャン・イーモウ 『グレートウォール』

8公開が終わってしまった映画のレビューがまだ続いています… 今回は火星での活躍が記憶に新しいマット・デイモンが、はるか昔の中国で大暴れする『グレートウォール』、ご紹介します。

中国は宋王朝の時代。ヨーロッパから絶大な破壊力を持つ黒色火薬を求めてやってきたウィリアムとバートルは、盗賊から逃れて巨大な長城へと逃げ込む。ひとまず命を永らえたと安心した二人だったが、彼らには予想だにしない危機が待ち受けていた。その長城には恐ろしい怪物の群れがすべてを食い尽くすべく殺到しつつあったのだ…

最初に企画を聞いたとき、「中国の史劇になぜマット・デイモン…」と少なからずひいてしまいました。しかしまあ中国から欧州に火薬が伝わったのは宋のあとの元の時代とされているので、この時代早めに連中がウロチョロしてたとしても不思議ではないかもしれません。そして予告であんなものがじょわじょわ群れをなしているのを見て、歴史の齟齬などどうでもよくなりました(笑) SFモンスターに比べればマットくらいいたってなんの問題もありません。それに製作しているのは怪獣映画の雄、レジェンダリー・ピクチャーズ。ちょっとくらいあれなところがあってもファンとしてはお布施を払わなくてはなりません。

で、感心したのはそのモンスターが「饕餮(とうてつ)」であるということですね。これ、中国の神話に登場する由緒正しい怪物。酒見賢一氏の小説『陋巷にあり』などに登場したりしてます。どうでしょう、この恐ろしくややこしい漢字。字幕の人の苦労がうかがえます。劇中では「神の怒りにより隕石と共にあらわれた」みたいな説明がされていましたが、饕餮を流星に乗ってきた宇宙怪獣としてアレンジしたようです。ちなみにさらに古代の殷の時代、この怪物のシンボルとおぼしき「饕餮文」という模様が施された青銅器が多く作られました(下画像参照)。映画の怪物のおでこにもくっきりこれが刻まれていて、アホ映画とはいえその辺はディティールが細かいな、と思いました。

そうしたアイデアはやはり中国出身のチャン・イーモウによるものでしょうか。この監督、どちらかといえば『紅いコーリャン』や『初恋の来た道』といった叙情性豊かな人間ドラマが本領のはず。『HERO』や『LOVERS』といった武侠ものも撮っておられますが、彼の長いキャリアでも怪獣が出てくるのはこれが初めてでは。なんというか… お疲れ様でした。いろいろ事情があってこの仕事を引き受けたのだとは思いますが、とりあえず怪獣と次から次へとくりだされるビックリ戦法には本当に楽しませていただきました。

Ll_137今年上半期ですでに『バーフバリ』『モアナと伝説の海』といった古代伝承的映画がありましたが、この『グレートウォール』が一番無茶だったような気がします。でもこういう無茶な映画、俺は嫌いじゃないぜ? 来月公開の『キング・アーサー』や、夏の『トランスフォーマー 最後の騎士王』の無茶ぶりにも期待しています。


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May 22, 2017

帰ってきた「電車で業!」 ダニー・ボイル 『T2 トレインスポッティング』

T2terminator2judgementday2014237630ダニー・ボイルの名を知らしめたあの快作が、なんと20年ぶりに帰ってきました。かつてエジンバラでブイブイいわしてたあの悪ガキたちは、2010年代の今どうしているのか? 『T2 トレインスポッティング』、ご紹介します。

レントン、ベグビー、サイモン、スパッドは子供のころからつるんでいる悪友同士。青春時代はともにドラッグをキメたり盗みを働いたり刹那的な日々を謳歌していた。だがその友情はレントンが仲間を裏切り、一人故郷を離れたことで一度終焉を迎える。
それから20年。人生に疑問を感じたレントンはふらりとスコットランドに戻ってくる。会いたかった友達、会おうかどうか迷う友達、そして絶対に会いたくない友達… レントンの思いをよそに、彼の帰郷は仲間たちを再び引き合わせる。

『トレインスポッティング』1作目が日本で公開されたのは1996年11月。ちょうどわたしが映画にはまる2か月ほど前でした。公開後映画雑誌やらレンタル店やら各種メディアで大々的に取り上げられ、当時のオシャレな若者たちに大いにもてはやされたようです。たしかコピーが「もっとも陽気で悲惨な青春映画」だったかな。便器の底でもスタイリッシュな映像、イギ―・ポップのビートの効いたスコア、そしてモデルのようにスラリとした主演の若者たち。遅れてビデオでようやく鑑賞したわたしは、「ほほー まんずかっこええ、都会っぺえ映画だっぺ」と地方の薄汚れたアパートでひとりごちたものでした。
そんなわけでそれなりにたのしんだものの、まず「おしゃれ映画」としてのイメージが強く、そんなに思い入れが深かったわけでもなかった『トレインスポッティング』。20年ぶりにメインキャスト続投で続編を作ると聞いて、主に懐かしさと物珍しさで観に行ったのでした。ところがこれが予想外に大変突き刺さるお話でありました。

まずアホっぽくてもキラキラと輝いてたレントン。あの独特のへらへらとした笑顔はもう見られません。時折微笑むことはありますが、ジェダイの弟子を育てそこなったせいでしょうか、基本的にいつも眉根にしわをよせています。彼などはまだいいほうで、ベグビーはいまだ収監中ですし、サイモンはヤクザな商売を続けていて、スパッドは結婚にも仕事にも失敗して相変わらず重度のヤク中…と誰一人まともで幸福な家庭を築けていない。ただねえ、自分だってドラッグや犯罪にこそ手を出していないものの、この20年どれほど成長したかといえばいささかこころもとないし。くわえて体力もけっこう落ちてる。おなかも出てる。そして相変わらずの独り者… そんな自分の停滞・劣化ぶりをいちいち指摘されるようで胃がキリキリといたしました。

でもそれでいてこの映画、すごく楽しいんですねえ。笑えない境遇にありながらそれでもカラ元気で暴れまわるレントンたちがとにかく愉快ですし、ダニー・ボイルってこんなにお笑い得意だったかな?と思うくらいギャグセンスが秀逸。私が観た回は10人くらいしか入ってなかったんですが、それでもけっこう場内笑い声が響いていました。特に印象に残ったギャグはやっぱりトイレ関係。本当にダニーさんはトイレを撮らせたら天下一品ですね。

あととりわけ胸にしみたのは友情の面倒くささでしょうか。友情の素晴らしさを描いた映画はたくさんありますが、この面倒くささを強調したものはあまりないような。だいたいレントンはあんなことをしでかしたあとで、どの面下げて仲間たちに会うのだろうと思ってましたが、やはりみんなからぶんなぐられてました(笑) ただそのあとが三者三様で、スパッドがすぐにうととけたのに対し、サイモンはもう少し一悶着あったりする。ベグビーにいたっては到底和解は無理だろ、と思ってましたが幼少のころを思い出すにつれ、意外な感情が湧いてきたりして… どれだけ喧嘩しても結局縁が切れない4人。どっちかといえばバラバラでいた方がお互いのためになる気もするんですが、やっぱりその存在がなによりの慰めなんでしょうね。
ベグビーなんかは20年前到底理解できないような男だったのですが、今回はその不器用ぶりが泣けて泣けてしょうがありませんでした。

そんなアホどもを優しく照らすのはエジンバラの美しい夜景。前作はビデオ鑑賞だったからそんなに感銘を受けなかったけど、この歴史を感じさせる風情ある街並み、いいですよね… お金もないけど行ってみたくなりましたよ。
Photoなんかまだまだ語りたいことがるような気もするんですけど、鑑賞から1ヶ月経ったいまもあんまりうまくまとまりません。それほどにいろんな感情が呼び起こされる映画です。1作目がそれほど特別な映画でもなかっただけに、こんな気持ちになるとは大変意外でありました。
ちなみに『トレインスポッティング』原作(アーヴィン・ウェルシュ著)にも続編がありますが、『ポルノ』というタイトルで映画とはやや内容が異なるとか。加えて『Skagboys』なる前日談もあるそうです。
『T2 トレインスポッティング』はさすがにだいぶ公開が終わりましたが、東京ではまだほそぼそと続いてるところもある模様。やっぱさすがだべな、東京は!


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May 19, 2017

プラと呼ばないで クリス・マッケイ 『レゴバットマン・ザ・ムービー』

1491803297468上半期最も楽しみにしてた1本だったのに、感想書くのがモタモタしているうちに完全に公開が終わってしまった~~~! とほほ…
何の力添えもできず大変申し訳ないかぎりですが、遅まきながら『レゴバットマン・ザ・ムービー』、ご紹介いたします。

そこは全てがレゴでできた世界。犯罪都市ゴッサムシティで活躍するヒーロー・バットマンは、今日も惨事を未然に防ぎ、声援をあびながら秘密基地に戻る。だが広大な邸宅で彼を待つのは執事とコンピューターだけ。孤独に晩飯をチンしてくつろぐバットマンに、執事はそろそろ家族を作ってはとすすめるが…

本作品は2014年に公開された『レゴ(R)ムービー』の姉妹編というかスピンオフのような位置づけ。あちらにもすっとぼけたバットマンがサブキャラとして登場します。ただ今回の映画と同一人物なのかというと、そんな気もするし、違う気もする大変あいまいな設定です。まあこんなゆるさがレゴ映画の魅力のひとつとも言えます。

バットマンといえばまず『ダークナイト』を思い浮かべて、暗くてハードでシリアスなイメージをもっておられる方も多いことでしょう。確かにいまのバットマンに関していうなればそれは間違いではありません。しかしなにせ約80年もの歴史を持つシリーズですから、その間にはギャグ調に振り切れた時期もあったのです。いい例が今回もちらっと出てきた60年代に作られたTV版。そんな黒歴史も含めて、バットマンの長い長い歩みと本質を総括した内容となっていました。

バットマンの本質とはなんぞや。それは彼がスーパーヒーローで世界最高の探偵であると同時に、子供で偏執狂であるということです。子供のころ目の前で両親を殺されたというトラウマが、犯罪と戦う原動力となっている反面、未だに彼の内面を子供のままとどめてしまっている。言うなればごつくて暗いピーターパンのようなもの。まあ普通ちゃんとした大人は犯罪と戦うにしてもあんなコスプレしたり、不眠不休で訓練したり働いたりしないものでしょう。自分のペースと家族を大事にしたうえでやるものだと思います。
だからブルース・ウェインが普通の大人になる…幸せになって孤独感を感じなくなったら、『バットマン』という物語は終わるのだと考えます。実際映画『バットマン&ロビン』や『ダークナイト・ライジング』はそんな感じでしたし。
では肝心の原作はと申しますと、いまバットマンには養子・実子含めて3人の息子がいます。それとは別にぐれて勘当したような子供までいます。そんだけ子供に囲まれてブルースが立派なお父さんになったかといえば、これがはなはだ微妙でして… どの子どもたちにもちゃんとコミュニケーションを築けてないようですし、その上しょっちゅう死んだり失踪したりしてます。まあウェイン氏が本当にまともな大人になってバットマンを卒業してしまったら、DCコミックスとしては大変な痛手になるでしょうからそれはまだまだ先のこと…というか実現しないような。コナン君が半永久的に元の姿に戻れないのと一緒です。

もうひとつバットマン世界…というか多くのヒーローものに関して言える本質としては、「ヒーローとヴィラン、ふたつそろってて初めてお話が成立する」ということです。建前としては悪者なんかいないほうがいい、ということになってますが、もしあの世界にコスをまとっているのがバットマンだけで、ほかに珍妙な格好をした悪役がいなかったとしたら、そもそも物語としてなりたちません。まさにヒーローがいるからこそヴィランがいて、ヴィランがあってこそのヒーローであります。『レゴバットマン』では普通はごまかされそうな、そんな二者の絆が微笑ましく描かれておりました。これを通常のバットマンでやったら白けるか、めちゃくちゃ皮肉っぽくなると思うんですけど、二頭身のレゴの世界ならばみんなが幸せになれるというとてもほっこりした仕上がりになっております。
ちなみにいまコミックのマーベルではどちらかというとヒーロー同士が主義主張をめぐって激突するという話がとても多く、悪役の影がとても薄くなっています。その方が現実的でテーマも深くなるのでしょうけど、ここんとこの売上がぱっとしないところを見ると、もう少しバランスたもってやった方がいいんじゃないかな~と1ファンとしてはお思うわけです。

まわりくどい理屈ばかり書き連ねてしまいましたが、『レゴバットマン』はこんな面倒くさいことなど考えなくても…というか考えない方が楽しめる映画です。仏頂面でかっこ悪いバットマンに笑い、邪険にされるジョーカーに腹をかかえ、DC以外からもやってくる大量のカメオ出演に興奮し、文字通り血の一滴も出ない活劇ににんまりする。ああ… こんなに面白い映画なのに日本ではなぜ大コケしたんだ!! 世の中いろいろ間違いが多すぎる!!

Lgb2そんな『レゴバットマン・ザ・ムービー』、8/2にDVDが出ます。観られなかった方はそれからでも観てください。そしてこれだけレゴ映画が不振なのに秋には新作の『レゴ・ニンジャゴー』が公開決定してます。あまりにも無謀すぎるチャレンジ。わたしはもちろんお布施と思って観に行きますよ!


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May 16, 2017

カレーの国の王様 S.S.ラージャマウリ 『バーフバリ 伝説誕生』

Bfb1インドで歴代興行収入1位を記録し、アメリカでもヒットしながら、日本ではとても細々とした扱い… でもそのみなぎるパワーから、少しずつ話題を呼んでいる『バーフバリ 伝説誕生』。あらすじから紹介いたします。

とおいとおい昔。たぶんインドか異世界。兵士の一団に襲われながら、侍女が身を挺してかばったおかげで命を永らえた赤子がいた。村の心優しい女性に拾われたその子はやがて成長し、屈強な肉体と豪放な魂を持つ青年となる。村の境には頂が見えないほど高い巨大な滝がそびえていたが、青年は冒険心に駆られて何度も失敗しながら、滝の頂上へと上り詰めようとする。そして彼の冒険はやがて巨大な王国を揺るがすほどの波乱を呼び起こすことになる…

インド映画といえばうたって踊ってポップでファンキーみたいな、そんなイメージがあります。昨年好評を博した『PK』もそんなところがありましたし。この『バーフバリ』もミュージカル要素はそれなりにあるのですが、どっちかというとメインは迫力あふれるアクションや合戦シーンであります。インド発のスペクタクル映画ってこれまであまり聞いたことがなかったので興をそそられたのでした。全国で数館しかかかってないのに、なぜか近くの小田原でやってくれたのも助かりました。

わたしこの映画てっきりもとになった伝説なり神話なりあるのだろうと思ってましたが、どうも監督のオリジナルらしい…? もしくは無数にあるインドの伝承・民話をシャッフル&ミックスして、新たなストーリーを作り上げた…というとこでしょうか。インドの伝説といえば『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』が有名ですが、バカ長い上に話があっちへいったりこっちへいったりするので、非常に映像化がむずかしいようです。

で、この映画でまず目をみはるのはその背景のスケールの大きさ。タイトルロールから冒頭の滝から、王都マシュマヒティからとにかくいちいちばかでかい。監督の前作『マッキ―』がハエの映画だったことの反動でしょうか。とにかくそんな画面の無限の広がりが、孫悟空のように「おらワクワクしてきたぞ!」という気分にさせてくれます。
主人公たちは男塾の面々や松田さん(ブラックエンジェルズ)のように人知を超えた怪力を有してはいますが、それ以外は超自然的要素はほとんどありません。ですからファンタジーというよりは史劇、『ロード・オブ・ザ・リング』よりは『300』っぽい要素が濃い映画。あといちいち他作品に例えて恐縮ですが、英雄が気合で大軍をふっとばすあたりなどは『キングダム』の描写そのまんまでありました。

インド映画といえば最近はアミール・カーンなどが人気でありますが、こちらのヒーローはどちらかというと『ムトゥ』『ロボット』のラジニカーント系の顔立ち。はっきりいって濃い。しかしそんなくどくどしい顔立ちが、主人公の男気に惚れていくうちに絶世のイケメンに見えてくるから映画の力は偉大であります。

さて、この『バーフバリ』、原題の後ろに「THe Biginning」とついてることからわかるように、思いっきり第一部というか、「次回へ続く!」というところで終わります。この辺もう少しキリよくしてほしかった… 幸い第二部がすでにインド・米国で公開され、年内にも日本にもやってくるとのことなので、あまり待たされずにすみそうです。その第二部の副題は「The Conclusion(終局)」。当初三部作として企画されたという話もあり、監督もそんなことをほのめかしているようですが、一応二部でひとまず完結するのかな…? というか、そうしてください。

Bfb2第一部である『伝説誕生』はまだちょぼちょぼと上映が続いてる・予定されてるところがあります。くわしくは公式サイトをごらんください。


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May 15, 2017

伊藤系の計画 伊藤計劃・村瀬修功 『虐殺器官』

Gsk1去年くらいからですかね。早逝の天才・伊藤計劃氏の一連の代表作をアニメ化しようというプロジェクトがありまして、これが一応ラストになるのかな? 本日は氏のデビュー作にして最高傑作とも誉れ高い『虐殺器官』のアニメ映画版を紹介します。

米軍特殊部隊に所属するクラヴィスはある任務で某国の独裁者を追う中、様々な国で虐殺を扇動していると思われるジョン・ポールなる男の存在を知る。米政府は彼をとらえるべく潜伏先と思われるチェコへクラヴィスを差し向ける。そしてクラヴィスはジョンの元恋人ルツィアに接触するが、任務を越えた感情を彼女に抱くようになる。

原作は2,3年くらい前に読みました。知り合いのあるお方が激賞してたのと「衝撃の問題作!」みたいな帯にひかれて読みました。まず印象に残ったのは巧みなストーリーテーリングもさることながら、その徹底して乾いた文体。
読者も主人公も突き放したような本作のうすら寒いムードは、日本のエンターテインメントには珍しいものでした。ハードボイルドを通り越してハードコールドとでも申しましょうか。ほかにはその道のマニアである伊藤先生の映画ネタや、なかなか想像しづらいSFメカ?「肉の鞘」、そして本作の要となるアイデア「虐殺の文法」などに興をそそられながら読んだのを覚えています。

さて、劇場版はどうだったかと申しますと、こちらではまるでガラス細工のような透明感あるキャラデザが目を惹きました。クラヴィス君は小説を読んでいてたぶんイケメンなんだろうな…とは思っていたんですが、そのあまりの美形っぷりは完全に趣味の世界の領域でありました。普段ハリウッド映画を見慣れているものとしては、軍人といえば筋肉ムキムキのいかついタイプが念頭にあったので、それなりに違和感を覚えたのは確かです。一方でその生気や感情に乏しい造形が原作の冷え切った空気になかなかマッチしてるな…とも思いました。
監督は村瀬修功氏。わたしとしては『ガンダムW』や『アルジェント・ソーマ』などの作画でなじみ深い方です。ただ今回は村瀬氏自身ではなくredjuice(れっどじゅうす)という変わったペンネームの人がデザインを担当されたとのこと。

そんなギリシャ彫刻のような美男子たちがスクリーンでアップになるだけで、それはそれで目の保養にはなります。ただSFアクションを期待していくと、動く時は動くものの、止まってる場面もけっこう多かったりしてフラストレーションがたまるやも。まあ原作がもともと薀蓄や科学理論でふんだんに彩られた小説なので、語りの部分が多くなるのは致し方なきことかもしれません。
あと前日に観た『ハードコア』にひきつづき、こちらもかなり人体グチャグチャ描写がくどくて、またしても胸焼けに襲われました。鑑賞後、無性に小動物のモフモフしたかわいらしい動画が観たくなりましたよ…

もっとも気になってた「肉の鞘」ってのがどんなものなのか見られたのはよかったけれど、『虐殺器官』ってやっぱりあまり映像化向きではなかったかも…とも思いました。ここんとこ『君の名は』や『この世界の片隅に』など、生活感にあふれたロマンスあふれるアニメ映画が続いてて(この2作はわたしも好きですが…)、「アニメはやっぱりメカだろう? SFだろう? ここら辺でそういうアニメの王道たる映画を…」と感じてた身としてはこの映画には大いに期待していました。まあ決して失望したわけではないんですけど、うーん… もう一歩なにか突き抜けるようなものがほしかったというのが正直なところです。去年日本を席巻した先の二作品には、確かにそれがありましたからね。
41prk9iwxpl__sx336_bo1204203200_ですから日本のアニメクリエイターたちには、日常系・ロマンス系に負けずに熱くド派手なSF映画をここらで一発作っていただきたい。月村了衛氏の『機龍警察』を実力あるスタッフで映像化したら面白いと思うんですが… どないでしょう。

ちょいとくさしてしまいましたが、アート系の作品として見ればそれなりに楽しめると思われる劇場版『虐殺器官』。こちらは遅れてかかってたので完全に公開が終わりました。まだ発売日は不明ですが、ぼちぼちDVDが出るのではないでしょうか。


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May 10, 2017

23人くらいのシャールト・コプリー イリヤ・ナイシュラー 『ハードコア』

Photoちょっとここんとこ色々ありまして、また更新が空いてしまいました。またぼちぼち遅れを取り戻していきたいと思います(できんのかいな)。再開1発目はなかなかに実験的なSFアクション『ハードコア』を紹介いたします。

ロシアのギャング・ヘンリーは抗争で瀕死の重傷を負うが、科学者の妻・エステルの献身的な施術によりみごとサイボーグとしてよみがえる。だがその技術を狙う武器商人エイカンは、エステルを拉致。ヘンリーは突如として現れた奇妙な男・ジミーに助けられながら、妻を取り戻すべくエイカンを追う。

この映画の他に類を見ない特色は、いわゆるVR視点というやつでしょうか。約90分の間、お話はひたすらヘンリーの視界で進んでいきます。ですから最後までヘンリーの全身像はスクリーンには映らず、手や足くらいしか出てきません。で、ヘンリーもスタントが代わる代わる演じているので、スタッフロールにも名前が出てこないというから驚きです。まあそういう型式を徹底することで、わたしたちはまるで主人公になったような気分を味わえるわけです。

そしてこのヘンリーをサポートする「ジミー」がまた変わっています。彼は一人ではなく、いろんな恰好で現れてはその度に派手に死んでいきます。しかしその都度何もなかったようにまたどこかから現れるという。
予告編や前情報などから「内容がなさそうな映画だなあ」とずっと思っていました。しかしジミーとヘンリーを見ていると、「自我の不確かさ」というものについて考えさせられます。自分は本当に自分なのか? 言い方を変えれば、自分の持っている記憶は真実なのか、自分の体は自分だけのものなのか。そんなテーマも一応忍ばされてると思います。

あとこの映画で特筆すべきなのは、米露合作映画であるということ。先にロシアから米国に流入してたティムール・ベクマンベトフ監督がイリヤ・ナイシュラ―氏の才能にほれ込みお膳立てしたとのことですが、いまキナ臭いムードが立ち込めている両国の間で、映画人たちがこのように交流していることを知るとちょっとほっこりいたします。ほっこりしたといえば劇中でクイーンのお気に入りのナンバー「DON'T STOP ME NOW」が、非常にいいところでかかったのにも和みました。余談ですが、ここ一か月の間にクイーンがかかる映画を3本も観ました。まったくもって偉大ですねえ。

果たしてVR映像だけで一時間半もつのかと思いましたが、なんとか貫き通しておりました。その構成力には感服いたします。ただVR視点ゆえに同化しすぎて画面酔いする人も続出したとのこと。乗り物酔いしやすい人はお気を付けください。わたしはその点は大丈夫でしたけど、終盤人体破壊がエスカレートしすぎて、人間がグチャグチャの肉みそみたくなってたのには別の面で悪酔いしました。このちょっとくどいセンス、ヨーロッパ映画には時々見受けられますよね。日本人でしょうゆが好きな身としてはもう少しさっぱりと撮っていただきたかったです。

Queen_dontstopmenow37261しかしまあ、この映像感覚はこれまでの映画には本当になかったもの。新し物好きな方にはぜひ観ていただきたい。『ハードコア』はまだぼちぼち上映残ってるところもありますので、気になった方は検索されてみてください。


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