無情なる潮干狩り マルティン・サンフィリート 『ヒトラーの忘れもの』
東京国際映画祭で好評を博し、先のアカデミー外国語部門でノミネートされた本作品。先ごろこちらでようやく公開されたので張り切って観てきました。まあ… もう一か月前の話なんですけどね… そんな『ヒトラーの忘れもの』、ご紹介します。
第二次大戦直後、デンマーク軍はナチスが国土に埋めていった200万個もの地雷を、ドイツの捕虜に撤去させることにする。その指揮にあたるムスッセン軍曹はドイツに激しい憎しみを抱いていたが、自分のところに派遣されてきた隊が、あどけない少年兵ばかりであることを知って動揺する。広大な砂浜で慎重に地雷を掘り出す少年兵たち。しかしどうしても犠牲は避けられず…
TIFFでは『地雷と少年兵』のタイトルで公開されました。一般ではちょっとかわいい題に変更されましたが、忘れ物をしたのがサザエさんでなくヒトラーですし、忘れ物も財布でなく地雷ですので当然なごやかな話ではありません。というか精神的にかなりきついです。デンマークの作家と言えば最近ではラース・フォン・トリアーやニコラス・ウェインディング・レフンなどが活躍しておりますが、彼らみたいに視覚的にえぐい描写は1シーンしかありません。それなのに半端なホラー映画以上に「見に来るんじゃなかった…」と胃をキリキリさせられました。しかもこれが実話に触発されて作られたというから胃痛がさらに増します。
で、もうひとつ辛いのはこれがただ残酷な話だけでなく、ほのかな人情ややさしさがストーリーに織り込まれてるからなんです。鬼軍曹にせよ意地悪な隣家のおばさんにせよ、第一印象は最悪です。そんな彼らも健気な少年たちと接していくうちに、胸に刻まれていた復讐心を薄れさせていきます。でもせっかく触れ合えるようになっても、少年たちはどんどん爆死していくし、国が報復行為をやめるわけでもない… 本当に「やるせない」としか言いようがありません。特に実質主人公である鬼軍曹に感情移入すると軽く鬱状態になるやもしれません。彼、元敵国に対する憎しみを隠そうともしませんけど、中途半端にいい人なんですよね。そんでようやく打ち解けたと思ったらある事件でまた鬼軍曹に戻ってしまうし。しかしまあ、世の中こういうブレやすい人の方が多いもので(他人事のように)。それだけに身近に感じられるキャラクターでもありました。
いつの時代も大人たちが始めた戦争でとばっちりを食うのは子どもたちであります。自分も全然大した大人ではありませんが、それでも次世代が戦争に巻き込まれないよう微力ながら努めていきたいです。隣国に対して緊張した空気が高まってきたら、それを緩和できるような声をあげて行ったりとかね。
デンマークとナチスといえば戦時中のレジスタンス活動を描いた『誰がため』という映画もありました。これまた重厚な歴史秘話を描いた作品ということでおすすめです。やっぱり大変やるせないんですけどね…
『ヒトラーと忘れもの』は飯田橋でまだ予定がありますけど、さすがに大体公開終わったようです。7月4日にはDVDも出ます。さんざん「つらいつらい」言いましたけど、できれば一人でも多くの人に観てほしい映画。がんばって観れば、もしかしたらわずかな救いもある…かもしれないよ?
Comments
サブタイトルが秀逸ですね!TBさせていただきました。
確かにああいう気分屋いますよね(^_^;)日によって態度が違う的な・・・まあ人間たまにはむしゃくしゃすることもあるだろうけど、自分も気を付けないとなあ・・・
とりあえずイヌごときで取り乱したりはしない!
あのシーンと地雷をぽいってやるシーンは演出によっちゃミスタービーン的な笑いになっちゃうのが人間の感情の不思議なところですよね。
Posted by: ゴーダイ | April 17, 2017 10:28 PM
>ゴーダイさん
ひさしぶりに来てくださったのに返事が遅れてすいません~
ええ、潮干狩りはぜひ安全な環境で行いたいものです
というか、学校の先生でああいう人たまにいたなあ… 根は悪くないんだけどお天気屋さんで怒りっぽいおじさん
「ぽいっ」のシーンはこれもしかして…と思ったら見事に予想通りでした。ドリフのギャグだったら全員真っ黒になるだけで済んだのになあ。現実は非情であります
Posted by: SGA屋伍一 | April 24, 2017 10:30 PM