リアルさかなくん クォン・オグァン 『フィッシュマンの涙』
『お嬢さん』『コクソン』『アシュラ』と最近韓国映画がいろいろ話題を呼んでますが、本日はその少し前に公開された風変わりなコリアンムービーを紹介します。その名も『フィッシュマンの涙』、ご紹介します。
とくにとりえもない平凡な青年パク・グは製薬会社の怪しげな実験に参加したことから、頭部が巨大な魚の「フィッシュマン」に変形してしまう。パクの自称恋人ジンとテレビマンのサンウォンはそのことを報道し、金と名誉を手に入れようと企む。パクの存在は二人の目論見どおり世間の注目を集め、様々な社会現象を呼び起こすのだが。
こんなあらすじを読むと抱腹絶倒のワンアイデアストーリーを想像します。自分もそうでした。実際幾つかのシーンはおなかを抱えて笑いました。ですが観ているうちにどんどん切ねえ思いが高まっていくのです。
自分の意志とはかかわりなく世間からもてはやされたり、やっかまれたり、崇められたり、憎まれたりする主人公。その無表情でじーっと耐えてる姿がなんとも物悲しいのですね。サカナ面なんで表情を出しようもないのですが。そんな風に人として笑うことも泣くことも奪われてしまったフィッシュマンのたたずまいについホロリとさせられました。さらに彼はダメ押しのようにとてもいじらしいことを言ったりするので、「も~、やめてよ~、おじさんそういうのダメなんだよ~」と鼻水を噴きながら身もだえしておりました。
そして彼を出世の道具としか見ていなかったサンウォンの心にも、次第に変化が訪れていきます。まるで接点のなかったサンウォンとパク。でも色々なことを共に経験していく中で、サンウォンはパクも自分と同じ夢を見失った一人の若者であることに気が付きます。そんな二人がポツポツと心を通わせていくくだりに、おじさんはまた鼻水を搾り取られたのでした。
わたしはお隣の事情とかよく知らないのですが、この映画を観る限りでは向こうの若者を取り巻く事情というのはとても厳しいようです。中央の大学を出なければ立派なポストにつけなかったり、公務員になれる倍率がかなり厳しい数字だったり。日本も含めなかなか将来に希望を持てない青年たちが、笑って顔をあげられるような社会にするにはどうしたらいいのだろうと、足りない頭でつい思いめぐらしてしまいます。そこで簡単に答えが出せれば苦労はしないんですけどね…
韓国映画といえば血しぶき飛び交うバイオレンス調のものが多い印象ですが、この『フィッシュマンの涙』はめずらしく物静かで心優しいファンタジー作品でありました。「涙」とタイトルにありますけど涙だけには終わらないところもけっこう好きです。
こちらでは遅れてかかったうえに感想を書くのがもたついたので(またですか…)、もう全国でも5館くらいしか上映予定がないのですが、興味を持たれた方はごらんください。来月末にはもうDVDが出るようです。
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