闘病ラブストーリー 中野量太 『湯を沸かすほどの熱い愛』
昨年数々の映画賞に輝いた新進監督の作品。年が明けてようやく静岡東部で公開となりました。熟女となってから女優としての躍進が著しい宮沢りえ主演『湯を沸かすほどの熱い愛』、ご紹介します。
双葉は栃木で暮らす平凡な主婦。ともに銭湯を営む夫に逃げられてしまっていたが、健気にパートに出て一人娘の安澄を養っていた。だが無情なことに不調で倒れた折、双葉は自分が癌で余命いくばくもないことを知る。それでも彼女は泣き崩れたりはせず、残された時間を情けない夫といじめに悩む娘のために使おうと決意する。
昨年はいわゆる「難病もの」「余命もの」の映画が目立ちました。おおげさな演出で泣かせようとする安っぽい作品はわたしも嫌いですが、考えてみれば人間、誰だって急な事故や病気で突然死んだっておかしくはないわけです。ですから「死と向き合う」という話は誰にでもあてはまる普遍的なテーマなのだと思います。
「死と向き合う」というとひたすら深刻な内容を想像してしまいますが、真面目に取り組みながらもどこかユーモアが漂っているのがこの映画のいいところ。そんでそのユーモアのセンスがどこか変わっているというかシュールというか独特というか。「こんなセリフ・やりとりよく思いつくな…」と変に感心したシーンがちょくちょくありました。
あともう一点心地よかったのが「正の連鎖」を描いている点。いや…正確には「負を正に変える連鎖」かな??? 「負の連鎖」という言葉は時々聞きます。親から虐待を受けた人は自分の子供にも虐待を繰り返すという例などにおいて。ややネタバレになってしまいますが、双葉さんはそれとは反対の反応を示します。自分が愛情を注がれなかった分、他の人のさびしい思いに非常に敏感だったりする。そしてそんな人たちに惜しみない愛情を注ぎます。人を思いやるというのも一種の才能で、大抵の人は努力しないとできないことが多いのですけど、中には自然にそれが出来る天才さんもおります。そういう人がまわりにいる人はまあ幸せですよね… とまあ人を羨んだりするだけでなく、努力して自分もわずかなりとも注ぐ側にならないといかんわけですが。
ただ病状が進行していくのを追うだけでなく、少しずつ隠された謎や秘められた事実が明らかになっていくのにも感心しました。この映画、なぜ「銭湯」なのかずっとひっかかっていたのですが、最後まで見ると「だから銭湯だったのか!!」と膝をうちます。この辺の着想にも独特のセンスを感じました。
役者さんたちについて。主演の宮沢りえさん、自分はなんといっても全盛期に突然出したヘアヌード写真集『サンタフェ』に衝撃を受けた世代ですが、今回の好演ですっかりそのイメージが払拭されました。昨年は他にも『TOO YOUNG TO DIE!!』のマドンナ役、『ジャングルブック』のお母さん狼役も忘れがたいです。
もう一人のヒロインである杉咲花さんは朝ドラで顔を知ってました。そちらでは最終的に子持ちの主婦まで演じてましたが、制服を着ると普通にやはり中学生にしか見えませんでした。『無限の住人』ではアクションにも挑むようですが、がんばっていただきたいものです。
男性陣では仮面ライダークウガ(オダギリジョー)とシンケンレッド(松坂桃李)の共演を見られたのが嬉しかったです。「二人は気が合うの」というセリフがありましたが、そういやこいつら特撮出身であることを語りたがらないところが似てるよな(笑) でもまあ朴訥なようで芸達者な点も共通してると思います。
もうひとつネタバレ。
主人公が亡くなるシーンをさらっと流している闘病ものはいい作品である場合が多いです。最近でいうと『聖の青春』とか、少し前だと『私の中のあなた』とか。オダジョー主演の『東京タワー』はその辺どうだったろう…(忘れた)
『湯を沸かすほどの熱い愛』は
昨年秋から公開されてますが、まだ(!)上映を残してるところがあるようです。くわしくは公式サイトをどうぞ。強豪ひしめく今年の日本アカデミー賞で、どこまで食い込めるかも楽しみであります。
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