荒野の七人2017 黒澤明&アントワン・フークア 『マグニフィセント・セブン』
映画史に燦然と名を輝かせ、いまだ多くのファンから愛されている『七人の侍』、および『荒野の七人』。この度鬼才アントワン・フークアの手により、その系譜が継がれることとなりました。『マグニフィセント・セブン』、ご紹介します。
南北戦争から程ない時代のアメリカ西部。私腹を肥やすためならどれだけ血を流しても意に介さないヴォーグという実業家がいた。そしてまたひとつ彼の欲望のために、立ち退きを迫られているローズ・クリークという町があった。夫を殺された若き未亡人エマは、街と正義を守るべく手練れの用心棒を探す。その心に打たれた黒人の賞金稼ぎサム・チザムは自分を含めた七人の精鋭を探し出し、ヴォーグの軍勢に敢然と立ち向かう。
…というわけで今回もオリジナルと大筋は同じです。七人のかっこいやつらが集結して、とことん悪いやつからか弱い人々を守るために戦うわけです。そのメンバーをまず紹介しましょう。
☆サム・チザム…旧作では勘兵衛およびクリスに相当するキャラクター。いかなる時も沈着冷静な頼れるリーダー。この時代まだまだ風当たりが強かろうと思われるアフリカ系アメリカ人ながら、凄腕の賞金稼ぎとして恐れられている。演じるは先日アカデミー主演男優賞にノミネートされたデンゼル・ワシントン。
☆ジョシュ・ファラデー…旧作では平八+五郎兵衛、ヴィンに相当するキャラクター。順番的に副官となる立場でもありながら、お調子者のギャンブラーのためどこまで信用できるかいまひとつ怪しい。演じているのがクリス・プラットのためどうしても『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のスターロードがオーバーラップしてしまいます。
☆グッドナイト・ロビショー…旧作では七郎次とハリー+リーに相当するキャラ。かつて南軍に属し数知れぬ兵士をあの世に送ったという伝説のスナイパー…なのだが、そのために悪夢に悩まされている。演じるは哀しそうな表情がよく似合うイーサン・ホーク。
☆ビリー・ロックス…久蔵・ブリットに相当するキャラ。ナイフの達人で東洋人。かつてグッドナイトに助けられて以来、彼とは強い絆で結ばれている。「この時代のアメリカにアジア人とか…」と思いましたが、実際に西部には労働力として連れてこられた中国人がけっこういたそうです。演じるは原田泰造によく似ているイ・ビョンホン
☆バスケス…ちょっとだけ菊千代とベルナルドおじさんに相当するキャラ。賞金首のメキシコ人で、第一印象は見るからに凶状持ちといった印象で最悪。ですが村に着いてからはちらちらと意外な一面を見せるようになります。演じるはマヌエル・ガルシア=ルルフォというあんまり知らない役者さん。たぶんまだ若い。
☆ジャック・ホーン…特に旧作に相当するキャラが思い当らない… 山奥で原住民狩りに精を出していた怪人。怒らすとジェイソンのように斧を振り回す殺人鬼だが、それでいて信心深く女子供にはやさしい。演じるはかつて「ほほえみデブ」、今ではキングピンとして知られるビンセント・ドノフリオ
☆レッド・ハーベスト…もしかしたら勝四郎かチコにあたるキャラなのかな…?(それにしては強い)。なんとなくフィーリング?でついてきたネイティブ・アメリカンの青年で弓矢の名手。中の人はマーティン・センズメアーというたぶん新人さん。
というわけで今回は旧作とくらべ人種的にバラエティに富んでおります。誰が誰なのかぱっと見分けのつきやすい構成。北軍と南軍、黒人と白人、入植者と原住民、アメリカ人とメキシコ人と、これまで生まれや社会の事情で戦いあってきた者たち。当然最初はやや不穏な空気が流れますが、割とあっさりその辺のわだかまりはスルーされます。たぶん彼らはそれまでの戦いに正当性を見失って、いささか人生に疲れていたんでしょうね。しかしどこからどうみても正義と思える闘いを見つけて、己の命の燃やし場所をそこに定めるわけです。その正義とは言うまでもありませんが、「自分の欲のためになりふり構わない悪党から、力なき一般庶民を守る」ことです。まあその正義感をあんまり表に出さず、ちょいと悪ぶってへらへら笑ってるあたりがかえって好感がもてたりして。
『七人の侍』『荒野の七人』の面々は例外もちょっといますが、おおむね出てきた時から英雄であり好漢でありました。「マグニフィセント(素晴らしい)」とタイトルについている所以であります。しかし今回の面々はほとんどがならず者かはぐれ者か犯罪者。その日その日を目的もなくフラフラと漂い、時々もめては同種のガンマンを墓場に送ったりするような連中。そんなどっちかといえばヘイトフルな輩たちが、真にマグニフィセントな男たちになっていく。そのあたりが新『マグニフィセント・セブン』の醍醐味と言えましょう。
あとなんといってもこれほどまでに男たちがかっこよく輝いている映画はそうそうありません。どっかのアニメ映画で「かっこいいとはこういうことさ」というキャッチフレーズがありましたが、まさにその言葉がズバッとあてはまるような作品です。薄汚れた風体が、立ち姿が、不敵な表情が、目にもとまらぬアクションが、朴訥なセリフの数々が、本当にいちいち「勘弁して!」と言いたいくらいかっこいい。男なら誰でも憧れ、女たちなら誰でも惚れる、そんなやつら。ドノフリオさん(ジャック・ホーン)だけはちょっと例外というかゆるキャラのような立場ですけど。
正直これまでいまひとつ「合わないな」と感じていたフークア作品でしたが、この映画に限ってはずぼっとツボにはまりました。ありがとう! そしてありがとうフークア監督!!
それほどまでな大傑作なのに日本ではあまり売れ行きが芳しくなく、今週中には上映が終わってしまうというのが哀しくて悔しい… 自分ももっとはやく感想を書いて微力ながら応援するべきだった… 僕のバカバカバカバカ。
観られる状況にありちょっとでも興味を抱いた方は、あと3日のうちに劇場に急がれてください。下側のイラストは『ドクター・ストレンジ』にひきつづきウシ先生が描いてくださったジャック・ホーン。かっこかわいいとはこういうことさ!
Comments
伍一く☆
今回も上手な絵~!勿論伍一くんの絵もすごくカッコイイ♪
もうアカデミー賞関連の映画が来はじめているから、どうしてもその前のは終わっちゃうのね・・・
これ結構私好きだったけど。
Posted by: ノルウェーまだ~む | March 03, 2017 04:37 PM
>ノルウェーまだ~むさん
上手でしょう… こちらもほめてくださりありがとうございます
いまみんな西部劇に関心がないのかなあと。だまされたと思って観てくれれば面白さがわかると思うんですけどねえ。さめざめ
Posted by: SGA屋伍一 | March 04, 2017 10:09 PM
やっぱり七人がそれぞれ旧作の誰に該当するか考えてしまいますね。私もブログに書いてみましたが、全員を当てはめるのはなかなか難しくて、あれこれ考えるだけで楽しいです。
こういう映画こそヒットして欲しいものですね。
Posted by: ナドレック | March 25, 2017 02:24 AM
>ナドレックさん
先日「ガンバの冒険」にあてはめても考えてみましたが、なかなか楽しかったです。
一般的にヒットはしませんでしたが、根強いファンはたくさん生まれたようで長く語り継がれる作品になりそうです
Posted by: SGA屋伍一 | March 29, 2017 09:09 PM