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February 28, 2017

荒野の七人2017 黒澤明&アントワン・フークア 『マグニフィセント・セブン』

Mg71映画史に燦然と名を輝かせ、いまだ多くのファンから愛されている『七人の侍』、および『荒野の七人』。この度鬼才アントワン・フークアの手により、その系譜が継がれることとなりました。『マグニフィセント・セブン』、ご紹介します。

南北戦争から程ない時代のアメリカ西部。私腹を肥やすためならどれだけ血を流しても意に介さないヴォーグという実業家がいた。そしてまたひとつ彼の欲望のために、立ち退きを迫られているローズ・クリークという町があった。夫を殺された若き未亡人エマは、街と正義を守るべく手練れの用心棒を探す。その心に打たれた黒人の賞金稼ぎサム・チザムは自分を含めた七人の精鋭を探し出し、ヴォーグの軍勢に敢然と立ち向かう。

…というわけで今回もオリジナルと大筋は同じです。七人のかっこいやつらが集結して、とことん悪いやつからか弱い人々を守るために戦うわけです。そのメンバーをまず紹介しましょう。

☆サム・チザム…旧作では勘兵衛およびクリスに相当するキャラクター。いかなる時も沈着冷静な頼れるリーダー。この時代まだまだ風当たりが強かろうと思われるアフリカ系アメリカ人ながら、凄腕の賞金稼ぎとして恐れられている。演じるは先日アカデミー主演男優賞にノミネートされたデンゼル・ワシントン。

☆ジョシュ・ファラデー…旧作では平八+五郎兵衛、ヴィンに相当するキャラクター。順番的に副官となる立場でもありながら、お調子者のギャンブラーのためどこまで信用できるかいまひとつ怪しい。演じているのがクリス・プラットのためどうしても『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のスターロードがオーバーラップしてしまいます。

☆グッドナイト・ロビショー…旧作では七郎次とハリー+リーに相当するキャラ。かつて南軍に属し数知れぬ兵士をあの世に送ったという伝説のスナイパー…なのだが、そのために悪夢に悩まされている。演じるは哀しそうな表情がよく似合うイーサン・ホーク。

☆ビリー・ロックス…久蔵・ブリットに相当するキャラ。ナイフの達人で東洋人。かつてグッドナイトに助けられて以来、彼とは強い絆で結ばれている。「この時代のアメリカにアジア人とか…」と思いましたが、実際に西部には労働力として連れてこられた中国人がけっこういたそうです。演じるは原田泰造によく似ているイ・ビョンホン

☆バスケス…ちょっとだけ菊千代とベルナルドおじさんに相当するキャラ。賞金首のメキシコ人で、第一印象は見るからに凶状持ちといった印象で最悪。ですが村に着いてからはちらちらと意外な一面を見せるようになります。演じるはマヌエル・ガルシア=ルルフォというあんまり知らない役者さん。たぶんまだ若い。

☆ジャック・ホーン…特に旧作に相当するキャラが思い当らない… 山奥で原住民狩りに精を出していた怪人。怒らすとジェイソンのように斧を振り回す殺人鬼だが、それでいて信心深く女子供にはやさしい。演じるはかつて「ほほえみデブ」、今ではキングピンとして知られるビンセント・ドノフリオ

☆レッド・ハーベスト…もしかしたら勝四郎かチコにあたるキャラなのかな…?(それにしては強い)。なんとなくフィーリング?でついてきたネイティブ・アメリカンの青年で弓矢の名手。中の人はマーティン・センズメアーというたぶん新人さん。

というわけで今回は旧作とくらべ人種的にバラエティに富んでおります。誰が誰なのかぱっと見分けのつきやすい構成。北軍と南軍、黒人と白人、入植者と原住民、アメリカ人とメキシコ人と、これまで生まれや社会の事情で戦いあってきた者たち。当然最初はやや不穏な空気が流れますが、割とあっさりその辺のわだかまりはスルーされます。たぶん彼らはそれまでの戦いに正当性を見失って、いささか人生に疲れていたんでしょうね。しかしどこからどうみても正義と思える闘いを見つけて、己の命の燃やし場所をそこに定めるわけです。その正義とは言うまでもありませんが、「自分の欲のためになりふり構わない悪党から、力なき一般庶民を守る」ことです。まあその正義感をあんまり表に出さず、ちょいと悪ぶってへらへら笑ってるあたりがかえって好感がもてたりして。

『七人の侍』『荒野の七人』の面々は例外もちょっといますが、おおむね出てきた時から英雄であり好漢でありました。「マグニフィセント(素晴らしい)」とタイトルについている所以であります。しかし今回の面々はほとんどがならず者かはぐれ者か犯罪者。その日その日を目的もなくフラフラと漂い、時々もめては同種のガンマンを墓場に送ったりするような連中。そんなどっちかといえばヘイトフルな輩たちが、真にマグニフィセントな男たちになっていく。そのあたりが新『マグニフィセント・セブン』の醍醐味と言えましょう。

あとなんといってもこれほどまでに男たちがかっこよく輝いている映画はそうそうありません。どっかのアニメ映画で「かっこいいとはこういうことさ」というキャッチフレーズがありましたが、まさにその言葉がズバッとあてはまるような作品です。薄汚れた風体が、立ち姿が、不敵な表情が、目にもとまらぬアクションが、朴訥なセリフの数々が、本当にいちいち「勘弁して!」と言いたいくらいかっこいい。男なら誰でも憧れ、女たちなら誰でも惚れる、そんなやつら。ドノフリオさん(ジャック・ホーン)だけはちょっと例外というかゆるキャラのような立場ですけど。
C5mb3vguyaawii5C5mb5afu8aau5sb正直これまでいまひとつ「合わないな」と感じていたフークア作品でしたが、この映画に限ってはずぼっとツボにはまりました。ありがとう! そしてありがとうフークア監督!!

それほどまでな大傑作なのに日本ではあまり売れ行きが芳しくなく、今週中には上映が終わってしまうというのが哀しくて悔しい… 自分ももっとはやく感想を書いて微力ながら応援するべきだった… 僕のバカバカバカバカ。
観られる状況にありちょっとでも興味を抱いた方は、あと3日のうちに劇場に急がれてください。下側のイラストは『ドクター・ストレンジ』にひきつづきウシ先生が描いてくださったジャック・ホーン。かっこかわいいとはこういうことさ!

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February 24, 2017

決定! 第6回人間以外アカデミー賞!!(2016年公開の作品から

いよいよアカデミー賞が3日後にせまってまいりました。そこで恒例の「人間以外アカデミー賞」をそろそろ決めたいと思います。2016年の映画で活躍した人間以外の生物・自我を持つものを表彰してまいります。それでは例によってゲノムの単純なやつらから。

Yn2☆細菌・微生物部門 『君の名は。』より三葉ちゃんが噛んでた口噛み酒に含まれていたコウジカビ
昨年度ナンバーワンヒット作より時空を超えた細菌を選びました。次点というか功労賞に『バイオハザード ザ・ファイナル』のT-ウィルス

☆植物部門 『オデッセイ』よりジャガイモ
これしか思いつかんかった…

☆昆虫その他の無脊椎動物部門 『テラフォーマーズ』のみなさん
正確にはこのひとたち背骨あるんですけどね。純粋な昆虫では『TOO YOUNG TO DIE!』の神木君が転生したカマキリとか。無脊椎動物では『レッドタートル』のカニも光ってました。

Rtasm1☆魚類および海生哺乳類部門 『ファインディング・ドリー』よりタコのハンク
『ドリー』だけで10種くらい候補があったんですが。あと『ロストバケーション』のホオジロザメと『白鯨のいた海』の鯨

☆両生類・爬虫類部門 『レッドタートル』より赤い海亀
『ミュータントタートルズ 影』との亀対決でありました。ほかに『キング・オブ・エジプト』のでかい蛇もいました。

☆鳥類部門 『アングリ―バード』の赤い鳥と『コウノトリ大作戦』のコウノトリ
この二本観てないので公平に同時受賞。『ロストバケーション』のカモメと『ひな鳥の冒険』のひな鳥もよかったです。

☆犬猫小動物部門 『ズートピア』のジュディと『猫なんてよんでもこない』のクロ
本年度も激戦区でした。ほかには『ペット』のスノーボールほかのペットたち、『ミラクル・ニール!』のワンコなど。『メン・イン・キャット』は観そびれました。

Pdt1☆草食動物・牧畜部門 『ひつじのショーン いたずらラマがやってきた!』よりいたずらラマ
ほかは『ズートピア』のポゴ署長とか悪者のヒツジとか。

☆肉食動物・野獣部門 『パディントン』よりパディントン
『ジャングルブック』のバルーや『レヴェナント』などクマの活躍が目立ちました。『ジャングルブック』からはシア・カーンやバギーラも印象深かったです。あと肉食ってなさそうだけど『ズートピア』のニック

☆類人猿部門 『ジャングル・ブック』より巨大オランウータン
あと『ターザン』のゴリラや『神様メール』のゴリラ。今年は二大サルシリーズの新作が公開されるので楽しみです。

☆恐竜その他絶滅した動物部門 『アーロと少年』よりアーロ
この部門は『アーロと少年』の独壇場ですかね。ほかに翼竜ゴロピカドンやT-REX一家

ここから現実離れした路線になります。

Sots1☆妖精・伝説の生き物部門 『ソング・オブ・ザ・シー』よりシアーシャちゃん
めっちゃかわいかったですねえ… ほかに『ピートと秘密の友達』のドラゴンや『ファンタスティック・ビースト』のもろもろ

☆怪獣部門 『シン・ゴジラ』よりシン・ゴジラ第二形態と第四形態
どっちかひとつにしようと思ったんですが選べませんでした。ほかに『インデペンデンスデイ リサージェンス』『10クローバーフィールドレーン』『モンスターズ 新種襲来』のあれら

☆人でなし部門 『クリーピー』の香川照之さんかなあ… これ観てないんだけど
『ヒメアノ~ル』の森田君は辛うじて人の心が残ってたので落選。『スーサイド・スクワッド』のアマンダ女史もひどかったですね。

Iamh1☆ゾンビ・吸血鬼部門 『アイアムアヒーロー』の体育会系ZQNさん
ゾンビに新しい性質を与えた『アイアムアヒーロー』。『バイオjハザード』『高慢と偏見とゾンビ』『インド・オブ・ザ・デッド』と今年もゾンビは元気でした。

☆幽霊部門 『貞子VS伽耶子』より貞子&伽耶子
怖くて見てませんが。『クリムゾン・ピーク』のトム・ヒドルストンはあまり怖くなくてよかった。

☆妖怪・モンスター部門 『GANTZ:O』 のぬらりひょんさん
観ているこちらがぶるってしまうほどの恐ろしさでした。正確には宇宙人かもしれませんが

Koe2☆神様部門 『キング・オブ・エジプト』のラーさん
『キング~』ではホルス、アヌビスも目立っておりました。『神様メール』のエアちゃん、『X-MEN アポカリプス』じょアポやんもよかったです。

☆悪魔部門 『キング・オブ・エジプト』よりセトさん
『キンエジ』2冠です。『デスノートLNW』のアーマさんもよかったですね。

☆宇宙人部門 『PK』よりPK
あとは『GANTZ:O』のみなさんや『インデペンデンスデイ リサージェンス』『10クローバーフィールドレーン』『モンスターズ 新種襲来』のあれら

Swr11☆ロボット部門 『ローグワン』よりK-2SOトと『エクスマキナ』のエヴァ
例年より元気のなかったこの部門。貴重な候補だったので同時受賞といたしました。

☆正体不明部門 『ソーセージ・パーティー』よりソーセージ
いや、ソーセージじゃないの…?という意見もありましょうが、やはりあれらは別の何かという気がしてなりません。

そして栄えある大賞に選ばれた作品は順当に

『シン・ゴジラ』

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であります。『ズートピア』『ジャングルブック』『キング・オブ・エジプト』といった強力なライバルたちを征しての受賞、大変お見事でした。

今年も『キングコング』や『エイリアン・コヴナント』、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』にアニメ版ゴジラなど楽しみな人間以外映画が目白押しです。期待して待ちましょう!

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February 22, 2017

妖術のお医者さん スコット・デリクソン 『ドクター・ストレンジ』

1487749940503_3『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』から約9ケ月。ようやくマーベル・シネマティック・ユニバースの最新ヒーローがお目見えです。その名も『ドクター・ストレンジ』!(…) ま、ともかくあらすじからご紹介しましょう。

自他ともに認める天才外科医スティーブン・ストレンジは、不慮の事故により両手に大けがを負う。医師としてのキャリアを諦めきれない彼は、「半身不随さえ回復させた」施設の噂を聞き、その施設がある場所カマー・タージへと向かう。だがそこで彼が出会ったのは医師ではなくエンシェント・ワンと名乗る魔術師であった。魔術と聞いて一笑に付したストレンジだったが、エンシェント・ワンの強大なパワーを目の当たりにし、弟子入りすることに。しかしそれはこの世に災厄をもたらす異次元の怪物との闘いに足を踏み入れることでもあった。

X-MENは差別問題、アイアンマンは電子工学、スパイダーマンは地道な自警団員…と、アメコミヒーローにはそれぞれ得意分野や役割分担があります。ドクター・ストレンジの割り当ては地獄や魔界からくるモンスターと戦い、我らの世界の門番となること。日本のキャラで一番近い存在と言えば「悪魔くん」でしょうか。決して本国でもメジャーなキャラではなかったようですが、そのラリッたようなサイケデリック・アートが一時期マニアな大学生さんたちにウケていたそうです。
まあなんというかヒーローにしては独特ないでたちですよね。素顔丸出しでちょび髭で派手な衣装。正義の味方というより悪の幹部かマジックショーの舞台が似合いそうです。つい最近まで単独タイトルは訳されたことがなく、わたしの印象は「大規模なクロスオーバーでいつの間にかいて偉そうなことを言ってるおじさん」というものでした。ゲームファンには人気シリーズ「マーヴルVSカプコン」などでも親しまれているようです。

さて、この度の映画ですが、オカルト系の作品やあまりほめてる人のいない『地球の静止した日』のスコット・デリクソンがメガホンを撮っております。だからなんとなく不安だったのですが、マーベルのかじ取りがうまくいったのか、デリクソン監督のキャリアで最も称賛を浴びた作品となりました。本当に大人から子供まで広く楽しめる一大エンターテイメントに仕上がっています。自身の十八番であるオカルト描写を抑え、代わりに『インセプション』のようなサイバーパンク的なビジュアルで観客の目を楽しませてくれます。
あとこれも意外だったのですが、今回かなりギャグが多いです。しんみりした場面の直後でもすかさず入れてくるので「ちょっとやりすぎじゃね??」とも思いましたが、見逃しましょう。

最初こそじれったくなるほど魔法の習得にてこずっていたストレンジ先生ですが、「素質がある」と言われるだけあって一度壁を越えたらあとはグングンと様々なスキルを身に着けていきます。そんな風になんでもできちゃうようでいて、実はそれなりに法則にのっとっていたり、侵しちゃいけない領域があったり、失ったものは取り戻せなかったり…というあたりが面白いですね。魔法モノでありながらこういう色々不自由な設定がハリポタとは一風違ったところです。今回「時間」がひとつのテーマにもなっているのですが、先生が恋人から贈られた時計が要所要所で印象的な使われ方をしていて心憎かったです。

あともう一点気づいたのはストレンジ先生がMCUの代表的ヒーローであるアイアンマンとよく似ているということ。天才で傲慢でちょび髭でどんどん新技術を習得していくとこや、その実正義感を胸の奥に隠していたり、一度手痛い挫折を味わっていたり…と本当に「もう一人のアイアンマン」と言っても過言ではないかと。しかし上手に差別化されている…アイアンマンは科学技術の申し子、ストレンジは精神世界の探求者…ため、「二番煎じ」という印象は全く受けません。アイアンマンが基本ワンマンなのに対し、ストレンジには兄弟子たちや師匠が支えとなってくれるところも異なってますね。劇中で「アベンジャーズとは違い、我々は…」というセリフがあったように、ストレンジ先生はこれから別方面の侵略者たちと戦うヒーローたちのリーダーになるのかもしれません。もしそうであれば一人でなんでもしょい込んでしまうキャップやアイアンマンたちにとって、非常に心強い存在となるはず。ちょっとすっとぼけた一面もありますが、そんなストレンジ先生の活躍に期待しております。
Drst3『ドクター・ストレンジ』は『ファンタスティック・ビースト』の余波にうまくのっかったのか、日本でも初週第一と好調な成績をおさめました。いや~~~ わしゃ、これてっきりはずすと思ったけどな~~~
そしてMCUの次なるタイトルはあの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の続編。さらに今年はスパイダーマンの新作や(たぶん)『ソー』の第3作も待機しております。ああ… 楽しみなことが多くてなんだかあたし怖い…
左のイラストはお友達のウシさんが描いてくれたもの。上のわたしが描いたヘボ絵との画力のギャップをお楽しみください。

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February 20, 2017

おじいちゃんは復讐鬼 アトム・エゴヤン 『手紙は憶えている』

Tgmiho2カナダ映画界にその人ありと言われている実力派作家アトム・エゴヤン。そのアトムさんの作品が珍しくこちらでも上映されたので、先日(もう一か月前…)行ってまいりました。『手紙は憶えている』、ご紹介します。

グループホームに暮らすゼブは齢90。最愛の妻を亡くしたばかりだが、一度寝るとそのことすら忘れてしまうほど記憶の機能が衰えていた。しかしそんな彼を友人のマックスは「独り身になったいまこそ、私たちの復讐を果たそう」とせきたてる。かつてアウシュビッツで彼らの家族を殺し、いまだ隠れ暮らしているナチ高官の居所をつきとめたと言うのだ。マックスは足が不自由なため施設を出られないので、すべてをこと細かくしるした手紙をゼブにもたせ、仇とおぼしき四人のもとにむかわせるのだが…

アトムさんの経歴をさらっと読んでみたのですが、犯罪や暴力といったモチーフを好み、ある人物の秘められた素顔が徐々に暴かれていく…そんな作品が多いようですね。ただわたしがこの映画を観ようと思った最大の動機は「あっと驚くどんでん返しがあるから」と聞いたからでした。確かに社会派作品というより、ミステリー・サスペンスとしてよく出来ています。
グループホームでの友情から始まるあたりは名作アニメ『しわ』を思い出させますが、ゼブが旅に出てからはクリストファー・ノーランの初期の傑作『メメント』を彷彿とさせます。なんせ自分の状況をすぐ忘れてしまうゼブおじいちゃん。手紙を見ればなんとか事情を把握できるため、腕にマジックで「手紙を読め」と書いてはあるのですが、いろいろと不安です。足元だっておぼつかないし、旅の目的は温泉やグルメではなく処刑であります。90過ぎのおじいちゃんにそんなことが可能なのか?と全力で止めに行きたくまります。少し前の『100歳のおじいちゃんの華麗なる冒険』の人だったら余裕でできそうな気はするんですけど。

そんな風にハラハラする一方で、おじいちゃんがよたよたしながらも旅を続けているのを見ていると、その恐ろしい目的のことも忘れてなんだかほのぼのした気持ちになってくるから不思議です。北米の雄大な風景もなごやかムードを増してくれます。なんか最近旅行してないからめっちゃ観光とか行きたくなりましたよ。

ただやっぱり、ゼブが真の標的に近付けば近付くほど、そんなのんきな空気はかぎりなく薄くなっていきます。アトム・エゴヤン監督は迫害された歴史を持つアルメニア人でもあるゆえ、ユダヤ人には共感を覚えるのかもしれません。しかしゼブに負わされた業の痛々しさを思うと、復讐を是としているわけではないことは明らかです。自分は正義の側で正当な理由があると信じていても、それはどれほど確かなものなのか? そんな問いも投げかけられているかのようです。結局、暴力に頼って報復をなしとげるということは、公ではなく個人のエゴやん?みたいな?

………

ごめんなさい… 主演のクリストファー・プラマー氏はさすがに90代ではないですが、あとわずかの御年87歳。まさにその生涯現役的な熱演には心を打たれました。恥ずかしながら調べてようやく知ったのですが、この方『サウンド・オブ・ミュージック』のトラップ大佐の方だったのですね。あちらではナチスの手から脱出する役柄でしたっけ。まだまだ長生きしていただきたいものです。

Tgmiho1昨年も多かったナチス関連映画。この作品のほかにも「ヒトラー」とついたタイトルをいくつか見かけました。わたしゃ『ヒトラーの忘れもの』というのが観たかったんですが、来月ようやくこちらでかかります。『手紙は憶えている』はまだ少し公開予定のところもありますが、さすがにそろそろ興行も終わりのよう。5月にDVDが出るようなので観そびれた方はそちらでどうぞー


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February 17, 2017

地獄の会計士 ギャビン・オコナー 『ザ・コンサルタント』

Photo『夜に生きる』監督・主演に『ジャスティス・リーグ』出演と今年も大忙しそうなベン・アフレック。そんなベンアフさんが『ウォーリアー』のギャビン・オコナー監督と組んで、やや現実的なバットマンの映画をこしらえました。『ザ・コンサルタント』、ご紹介します。

暗黒街の顔役たちを顧客に持ち、警察に見返りもなく情報を提供する謎の会計士、クリスチャン・ウルフ。彼の目的は果たして…(結論から言うとよくわかりませんでした)。そんなウルフの正体も知らず、ある企業が彼に内部の帳簿の監査を依頼してくる。調べているうちに不正の匂いをかぎつけたウルフだったが、その仕事を始めてまもなく何者かに命を狙われることになる。

大体年に1,2本は作られてますかね。「その辺のあんちゃん・おっさんかと思ったら実は凄腕の殺し屋だった」みたいな話。『ボーン・アイデンティティー』『96時間』『イコライザー』『アジョシ』『ジョン・ウィック』『アメリカン・ウルトラ』『ヒストリー・オブ・バイオレンス』etc… で、アメリカさんはこういう話が大好きみたいで、かなりの高確率でヒットをおさめたりします。
『ザ・コンサルタント』もその系譜につらなる作品なんですが、ちょっと変わっているのが主人公がいわゆるアスペルガー症候群をわずらっていること。そんなウルフがどんな少年時代を送って来たか…ということも断片的に並行して語られていきます。この構成と設定、自分は『96時間』よりもバットマンよりも日本の『脳男』を思い出したのですが。

そういえば『脳男』でもよくわからなかったのですが、主人公はなぜヒーロー業を始めたのか、その辺の理由があまり語られません。あるいは彼は正義の味方のつもりはなく、保身のためと裏社会を操るためだけにあんなスゴ業をふるっているのか? でも警察に犯罪者の情報をリークしたりもしていたしなあ。うーむ… よくわかりませんw
もし仮に彼がヒーロー業を意識してやってるとしたら、車の中にしまわれていた『スーパーマン』のコミックから大きな影響を受けた…とも考えられます。単に値打ちものだったから持ってた、ということも考えられますけど。
他にもこの映画、いくつか腑に落ちないとことか、ちょっとぽかんとしちゃうところがあります。あっちは許さないのに、そっちは見逃しちゃうんだ…とか。その辺はいささか脳内補完と広い心が求められます。監督は「単なるアクションものにはしたくなかった」とのこと。うん、確かに個性的ではありましたよ。だからといってそれがカタルシスにつながるかというと… …

そんな風に細かいとこが気になる一方で、「ま、面白いんだからいいじゃねえか!」という気もします(笑)。とにかくベン・アフレック演じるクリスチャン・ウルフのキャラがかわいいしこわい。で、ちょっとだけキモい(笑) 共演のアナ・ケンドリックが小柄なせいか知りませんが、やたらとでかく見えます。まるでクマさんです。そしてその眼は『ゴーン・ガール』の時の二倍くらい死んだような光を放っています。そんなコワモテのくせに普段はとてもおどおどしてて神経質。登場した時点でキャラ立ちしまくりでした。えー、あと腑に落ちない点も色々ありましたが、前半でさらっとまかれた伏線が後半ちゃんと回収されてた点もよかったです。

ちなみに監督のギャビン・オコナー氏、フィルモグラフィーを見るとほとんどが中赤字から大赤字です。日本では大変DVDスルー率が高い。『ウォリアー』なんかは大変感動的で燃えまくるいい映画なんですが、これもやっぱり興行的に失敗したためにこちらではごく限られた映画館でしかかかりませんでした。よい作品でも必ずしもヒットするとはかぎらない。映画ってむずかしいですねえ~ というかこの人、よく映画撮り続けてられますよね…

Cv00025_01もしかしたらこの『ザ・コンサルタント』はオコナー氏のキャリアで初めて大ヒットした映画かもしれません。一応続編の構想もあるとのことなので、近い将来クリスチャン・ウルフのモジモジアクションに萌えられたらうれしいです。ただ日本ではそんなに売れてるわけでもなく、あと一週間ほどで終わりそう。ここんとこ観てから書くまでがほぼ一か月遅れになっているので、もう少しペースを早めたいなあ…と思うわたくしでした。


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February 13, 2017

チャイニーズ・マーメイド・ストーリー チャウ・シンチー 『人魚姫』

Ngh2いまや中国本国ではナンバーワンのヒットメーカーと言っても過言ではないチャウ・シンチー。本日は「アジア歴代興行収入No.1を樹立!」しながらも日本ではなぜか扱いの悪い『人魚姫』、ご紹介します。

香港郊外の自然保護区に、一大リゾート地を建設しようと野心に燃える若き実業家リウ。だがそこには人知れず暮らしていた人魚たちのコミュニティがあり、彼らはリゾート地の開発で住む地を失おうとしていた。そこで人魚たちのリーダー・タコ兄はかわいい人魚のシャンシャンを刺客としてリウのもとに送り込む。しかしシャンシャンはリウの内側に秘められた孤独に気づき、いつしか彼に恋心を抱くように…

シンチーさんといえば世間一般ではコメディ映画の作家として認知されてると思います。この映画でも前半はベタベタでコテコテなギャグがひっきりなしに連打されます。まず何と言ってもおかしいのが普通の人魚たちの一団の中に、一人?だけ下半身がタコのお兄さんがいることです。この時点で可憐なタイトルとは裏腹に、「ああこれはマジメな映画ではないな」と思います。ついでに言うとこの映画、キュートな人魚は登場しますけど、彼女別に「姫」ではないんですよね。どちらかといえば庶民派です(ちなみに原題は『美人魚』)。少女漫画のヒロインは往々にしてドジっ子である場合が少なくありませんが、こちらのシャンシャンちゃんの天然ぶりはそんなレベルではなく、ドジのあまり絶えず流血を繰り返したりしてます。前から思っているのですが、シンチーさんは女優に対して少し厳しすぎるというか、サド気質がある気がしてなりません。わたしはどちらかといえば彼女の恋敵となる、通常のツンデレを五人分くらい濃縮したような財閥令嬢の方が好みでした。

…話がそれました。そんなバカバカしいムードでお話は進んでいくのですが、後半に入ると一転、物悲しいメロドラマへとシフトしていきます。最近のシンチーさんにありがちな傾向ですけど、以前は最初から最後までどんちゃん騒ぎが続くような映画を作っていたのに、近年はクライマックスで急に「泣かせ」にかかるんですよね。そういうのがダメとは言わんけど、ぼくはやっぱり以前のヒロインが最初ブスでひたすらギャグに徹してたスタイルの方が好きだったなあ… と、言いながら、終盤しっかり泣かされてしまいました(笑) こんなアホな映画で!! シンチーさんの計算に見事に乗せられてしまったようで大変悔しいです。あああ! 悔しい!!

それにしてもここんとこ国境を越えて水棲人間のロマンティックなお話が続いている気がします。『レッド・タートル』(フランス)に『ソング・オブ・ザ・シー』(アイルランド)、あまり話題にならなかったけど『蜜の哀れ』(日本)、あと『フィッシュマンの涙』(韓国)というのもありました。近々公開の『モアナと伝説の海』も魚にならないまでも水と仲良しの女の子の話ではなかったかな。たぶん世界中の人々がいま切実に「水・魚・自然と仲良くしよう→大切にしよう」と思ってるってことなんじゃないでしょうかね。強引ですね。

Ngh1その『人魚姫』、前作『西遊記』の興行が日本でふるわなかったせいでしょうか。とても上映館が少ないです。『少林サッカー』の時はあんなにもてはやされたのに…
そして『西遊記』の続編はシンチーは製作に回り、これまた香港映画の大御所ツイ・ハークがメガホンを取るとのこと。すでに予告編もアップされてます。後半なんかシンチーとハークが謎のおしゃべりをしていて意味不明なんですが、DVDスルーになりませんように…


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February 11, 2017

闘病ラブストーリー 中野量太 『湯を沸かすほどの熱い愛』

Maxresdefault2昨年数々の映画賞に輝いた新進監督の作品。年が明けてようやく静岡東部で公開となりました。熟女となってから女優としての躍進が著しい宮沢りえ主演『湯を沸かすほどの熱い愛』、ご紹介します。

双葉は栃木で暮らす平凡な主婦。ともに銭湯を営む夫に逃げられてしまっていたが、健気にパートに出て一人娘の安澄を養っていた。だが無情なことに不調で倒れた折、双葉は自分が癌で余命いくばくもないことを知る。それでも彼女は泣き崩れたりはせず、残された時間を情けない夫といじめに悩む娘のために使おうと決意する。

昨年はいわゆる「難病もの」「余命もの」の映画が目立ちました。おおげさな演出で泣かせようとする安っぽい作品はわたしも嫌いですが、考えてみれば人間、誰だって急な事故や病気で突然死んだっておかしくはないわけです。ですから「死と向き合う」という話は誰にでもあてはまる普遍的なテーマなのだと思います。

「死と向き合う」というとひたすら深刻な内容を想像してしまいますが、真面目に取り組みながらもどこかユーモアが漂っているのがこの映画のいいところ。そんでそのユーモアのセンスがどこか変わっているというかシュールというか独特というか。「こんなセリフ・やりとりよく思いつくな…」と変に感心したシーンがちょくちょくありました。

あともう一点心地よかったのが「正の連鎖」を描いている点。いや…正確には「負を正に変える連鎖」かな??? 「負の連鎖」という言葉は時々聞きます。親から虐待を受けた人は自分の子供にも虐待を繰り返すという例などにおいて。ややネタバレになってしまいますが、双葉さんはそれとは反対の反応を示します。自分が愛情を注がれなかった分、他の人のさびしい思いに非常に敏感だったりする。そしてそんな人たちに惜しみない愛情を注ぎます。人を思いやるというのも一種の才能で、大抵の人は努力しないとできないことが多いのですけど、中には自然にそれが出来る天才さんもおります。そういう人がまわりにいる人はまあ幸せですよね… とまあ人を羨んだりするだけでなく、努力して自分もわずかなりとも注ぐ側にならないといかんわけですが。

ただ病状が進行していくのを追うだけでなく、少しずつ隠された謎や秘められた事実が明らかになっていくのにも感心しました。この映画、なぜ「銭湯」なのかずっとひっかかっていたのですが、最後まで見ると「だから銭湯だったのか!!」と膝をうちます。この辺の着想にも独特のセンスを感じました。

役者さんたちについて。主演の宮沢りえさん、自分はなんといっても全盛期に突然出したヘアヌード写真集『サンタフェ』に衝撃を受けた世代ですが、今回の好演ですっかりそのイメージが払拭されました。昨年は他にも『TOO YOUNG TO DIE!!』のマドンナ役、『ジャングルブック』のお母さん狼役も忘れがたいです。
もう一人のヒロインである杉咲花さんは朝ドラで顔を知ってました。そちらでは最終的に子持ちの主婦まで演じてましたが、制服を着ると普通にやはり中学生にしか見えませんでした。『無限の住人』ではアクションにも挑むようですが、がんばっていただきたいものです。
男性陣では仮面ライダークウガ(オダギリジョー)とシンケンレッド(松坂桃李)の共演を見られたのが嬉しかったです。「二人は気が合うの」というセリフがありましたが、そういやこいつら特撮出身であることを語りたがらないところが似てるよな(笑) でもまあ朴訥なようで芸達者な点も共通してると思います。


もうひとつネタバレ。
fuji
fuji
fuji
fuji
主人公が亡くなるシーンをさらっと流している闘病ものはいい作品である場合が多いです。最近でいうと『聖の青春』とか、少し前だと『私の中のあなた』とか。オダジョー主演の『東京タワー』はその辺どうだったろう…(忘れた)
994901301308757_common『湯を沸かすほどの熱い愛』は
昨年秋から公開されてますが、まだ(!)上映を残してるところがあるようです。くわしくは公式サイトをどうぞ。強豪ひしめく今年の日本アカデミー賞で、どこまで食い込めるかも楽しみであります。


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February 07, 2017

バイオにグッドバイを ポール・W・S・アンダーソン 『バイオハザード ザ・ファイナル』

Bhtf1第1作公開から約14年。あの人気シリーズがついに(たぶん今度こそ)完結を迎えました。『バイオハザード・ザ・ファイナル』、ご紹介します。

行ける死者を作り出すアンブレラ社と、長い戦いを続けていたアリス。すべてのアンデッドを消滅させられるアイテムがあると知った彼女は闘いに終止符をうつべく、その薬品が隠されている始まりの場所「ラクーンシティ」へと向かう。そこで彼女を待ち受けていたのは宿敵ウェスカーと、かつて倒したはずのアイザック博士であった。

えーとね、たしか前作ラストでウェスカーってアリスに「一緒に戦おう」とか言ってたと思うんですけど、何事もなかったようにまた敵対する側にいます。ここでまず「???」となります。聞いた話では小説版では「V」と「ザ・ファイナル」の間にあったミッシングリング的なエピソードが明らかにされていて、非常にスムーズにお話がつながるようです。前作の共闘の申し出もやっぱり罠だったんだとか。でもそういうのは副読本ではなくきちんと本編でやれや!!とつっこみたくなりました。

もう一点。今回みんなアリスに手加減しすぎというか。よくスパイ映画にあるじゃないですか。さっさと殺せばいいのにダラダラ喋ってたり、きちんと最後を見届けないでその場を離れちゃったり。そういう余裕かましてるからあっさり逆襲されて殺されちゃったりとかね。まあこういうのもエンターテイメントの醍醐味のひとつなんで、1本の映画のうち1度や2度はゆるします。しかし今回の『ザ・ファイナル』はあまりにもそういうのが多い。多すぎる。確かにストーリーの途中でアリスがやられちゃったら元も子もないのですが、もうすこし手加減がわからないようにするとか、脚本を練り練りしてほしかったです。これは『ザ・ファイナル』にかぎったことではなく、映画『バイオ』全体に言えることですかね。とにかくノリが第一で、細かい矛盾や説明不足は各自脳内補完してください!という。ごめん。俺、かなりがんばったけどそれでも補完しきれなかったよ…

いいところもあげときましょうか。…あったかな(笑) ええと、まずいままで不明だったアリスの出自がとうとう明らかになります。この人の素性をめぐる謎とか、すっかり忘れてましたけどね。
ほかは冒頭の怪獣戦闘くらい…かな? あとアイザック博士の奇妙な設定とか、クライマックスがそれなりに盛り上がるところとか。
そしてなにより、本作を持ってとうとうシリーズが完結したことを祝したい。これまで本当にありがとう、バイオ。これでとうとうぼくたち! わたしたちは! バイオを!! 卒業します!!(エコー)
うーん。どんなに内容がメタメタでも、こうなると泣けるわ! 感動だわ!!

後半は明らかに気が抜けていたポール・W・S・アンダーソンさんですが、ようやくバイオ映画から解放されたことですし、これからはご自分の得意とする限定空間での殺し合い映画を、気合をいれて作り続けていってほしいです。

2326512i日本では無類の人気を誇る映画バイオですけど、さすがにそろそろ公開が終わりそうです。バイオとアリスにきちんとお別れが言いたい方は急いで観に行ってください。あとタイミングよくゲーム版の「7」が好評発売中です。実況を見た限りではかなりホラー色の強い内容で、チキンのわたしはとてもプレイできそうにありません…

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February 04, 2017

ロシアの森からこんにちは ユーリー・ノルシュテイン特集上映

Scan7あいかわらず1ヶ月おくれでの感想アップです… ロシアの伝説のアニメーション作家、ユーリー・ノルシュテイン。その特集上映が年末から行われていたので正月早々張り切って行ってきました。その紹介と雑感をば。

☆「25日・最初の日」(1968年)
ロシア革命の日を振り返った勇壮な絵アニメ。一言でいうなら共産主義のプロパガンダアニメなのですが、労働者側の描き方があまりにも迫力ありすぎてあまり正義の側には見えないような。現代人からのフィルターがかかった目から見ているせいでしょうか。

☆「ケルジェネツの戦い」(1971年)
AD988年にあったロシアとタタールの戦いを題材にした作品。バロック調の絵画を切り抜いたような絵柄が独特な印象を残します。クライマックスの激戦はさながら切り絵版『300』のような迫力があります。

☆「キツネとウサギ」(1973年)
前二作とはうってかわった子供向けの動物童話。ただ絵柄はなかなかにシュール。凶暴なキツネに家を追い出されたウサギくん。森の猛者たちは彼を助けようとするがことごとく敗退。誰もがキツネにはかなわないとあきらめたとき現れたのは…
後の「霧の中のハリネズミ」と同様、損得抜きの純粋な友情が胸をうちます。腐女子の皆さんが妄想をかきたてられそう。

☆「アオサギとツル」(1974年)
純情なアオサギと気位の高いツルの擦れ違いの恋模様。まあ最後はうまいとこおさまるところにおさまるんでしょう?と予想していたら笑えるサプライズ・エンディングが。例えて言うならつげ義春の「ねじ式」のような。
淡い色調と細い描線は日本の浮世絵を意識したとのこと。

☆「霧の中のハリネズミ」(1975年)
ノルシュテインの最高傑作との誉れ高い1本。友達の熊のもとへイチゴを届けようとしたハリネズミだが、道は霧が深くどんどん迷ってしまう。「迷う前と後でハリネズミの価値観が変わる」「我々が見ている世界は全体のごく一部でしかない」という深遠なテーマも含まれていますが、それはともかくハリネズミ君がほんと~~~~にかわいい。高畑勲激賞もなっとくの満足感です。

☆「話の話」(1979年)
へんてこな子犬を狂言回しに、脈絡もなくつむがれる幾つかのシュールな情景。ほかの作品はすべて10分ですが、これだけ30分弱です。
十代のころ深夜放送で一度見たのですがわけがわからず、今なら理解できるかな~と再挑戦したのですが、やっぱりちんぷんかんぷんでしたw ただ今回はそのわけわからなさを楽しむ余裕がありました。
解説を読むとどうもノルシュテインの幼少期の記憶や原風景をつなぎあわせたらこうなった…とのこと。そう考えるといろいろうなずけるところがあるような。

Scan6気に入った順は上からハリネズミ、キツネ&ウサギ、話の話…というところでしょうか。噂に名高い傑作を一挙に観られてようございました。
ノルシュテイン特集上映はひきつづき横浜、川崎などで細々と公開中。今回はデジタルリマスターを記念してのイベントだそうなので、近々DVDも出ると思います。


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