落ちてきたヨッパライ ラージクマール・ヒラニ 『PK』
ようやっと昨年最後に観た映画の感想を書きます… こちらでは少し遅れてかかっていたマサラムービー最前線、『PK』、ご紹介します。
現代インド。地球に視察にやってきたアミール・カーン似の宇宙人は、到着するなり宇宙船のリモコンをかっぱらわれ、未開の惑星に一人置き去りにされてしまう。一方おなじころヨーロッパではインドから留学していた女子大生が、パキスタン青年との道ならぬ恋に悩んでいた。ふたつの物語はいったいどのようにして結びつくのか…?
公開前後タイトルと「『きっと、うまくいく』のスタッフが贈る」ということ以外ほぼシークレットで宣伝されていたこの映画。はっきり言いましょう。宇宙人と宗教の映画です。おそらくその辺を明かしてしまうと日本人の多くはひいてしまうと配給さんは思われたのでしょうか。ちなみに「PK」とはインドの俗語で「よっぱらい」という意味だそうです。
宇宙人映画にしては変わっているのは、アミール・カーン扮する宇宙人がETやポールやプレデターのようにエイリアンエイリアンした外見ではなく、ふつうにインド人男性の姿かたちをしていること。超能力も持っていますけど「触れたら相手の考えがわかる」という地味なのものなので、奇異な振る舞いをしていても周囲からは当然「宇宙人だ!」とは思われず、「酔っ払いか」と認識されてしまうわけです。以下便宜上彼のことをPKと呼びます。
そのPKですが、リモコンを探してあてどもなくさまよっているうちに、「神様に頼ればなんとかなる」という情報を入手します。その言葉を鵜呑みにして様々な宗教施設を訪ねるPKですが、そのうちに多くの宗教団体が持っている腐敗にきづいてしまうのです。
ITが発達し、グローバル化著しいインドですが、まだまだ信心深い人は多いようです。というか世界的に見れば、大多数が宗教に関心をもたない日本のような国の方が珍しいみたいで。ともあれなかなか貧困から抜け出せなかったり、「明日をも命が知れない」という環境にいる人たちはそれこそ神様にでもすがらないとやっていけないのかもしれません。それで多少なりとも前向きな気持ちになれるのであれば、宗教も決して悪いものではないと思います。ただそういう無力な人たちにつけこんで、お金をがっぽりかっさらっていく悪辣な僧職者たちも多くいます。これははっきり言って害悪としか言いようがありません。ぶったおさなくてはいけないでしょう。PKは宇宙人ならではの天然かつ鋭いツッコミでもってインチキ宗教人の化けの皮をはいでいきます。その様子がまことに痛快でありました。こういう映画が作られるということは、信仰心の篤いインドの人たちも「それ、おかしくね?」ということに気付き始めてるのでしょうね。
あとそれとは別にPKはまったくヒューマノイドタイプの宇宙人なので、地球人に恋しちゃったりもします。なんだか『スターマン 愛、はるかに』、みたいですね!(観てませんが…) しかし彼は精神年齢がよほど幼いのか、エッチなことは全く考えず純情少年のようにピュアな妄想をしたり、やたらまわりくどいアプローチを試みたりします。しかし彼女にはすでに意中の人がいるとわかったときのPKの胸中たるや… この辺チャップリンの『サーカス』やファレリー兄弟の『メリーに首ったけ』を思い出したりして涙がちょちょぎれました。基本自分恋愛ものはあまり興味ないですけど、与太郎が本心を隠して好きな人に尽くす話というのにどうにも弱いのです。実はこの『PK』、強引な展開にのりきれないところもあったのですが、このPKのいじらしさがツボにはまりはじめたあたりから、ぐーんとお話にのめりこんでしまいました。
そんなわけで一風変わった喜劇や、インドの社会問題に興味がある人におすすめです。もう上映が残ってるところもわずかですが、興味を持たれた方は公式サイトをごらんください。DVDは4月末に出るようです。宗教がテーマの映画といえば現在スコセッシの『沈黙』も公開中。こちらは笑える箇所とかほとんどなさそうですけど、一応観に行く予定です。
Comments
PKが神頼みでどうにかなると聞いた後に、「沈黙」でさんざん拷問にあったらこんな厳しい事はない(っつか、未開の土地でいきなりパスポート盗まれるような冒頭部が果てしなく絶望と言えば絶望なのだけど)。
Posted by: ふじき78 | February 24, 2017 10:32 AM
>ふじき78さん
とりあえずわが町に来る外国人観光客のみなさんには親切にしてあげなきゃな…と思いました
Posted by: SGA屋伍一 | February 25, 2017 09:39 PM