仮面ライターの告白 ジェイ・ローチ 『トランボ ハリウッドから最も嫌われた男』
『ローマの休日』といえばだれでも知っている名作映画。しかしその脚本を本当に書いたのは誰なのか、知ってる人はどれほどいるでしょう。本日はその真の作者を題材とした『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』、ご紹介します。
第二次大戦直後、脚本家として活躍していたダルトン・トランボと仲間たちは、共産主義の思想に傾倒していたため、ほされ、訴えられ、ついには投獄されてしまう。出所してから実名では仕事が来ないと考えたトランボは、偽名を使い安いギャラで、小さなプロダクションの脚本を書き続ける。だがその才能は世間の注目を集め始め、ついにはアカデミー賞の候補にまでなるのだが…
トランボのことはむかしヤングジャンプに連載されていた漫画『栄光なき天才たち』で読んだことがありました。不当な圧力に表面上は屈した風を装いながら、静かな闘志を燃やし続けた男…という感じに描かれてました。ですがこの度の映画ではもっと熱くてやんちゃで喧嘩好きな人物像となっています。ただ喧嘩好きといっても彼が用いるのは武器やパンチでなく、毒舌とだまくらかしと巧妙な戦術。彼自身ハードボイルドの作品を何作か書いていたようですが、圧倒的な権力に対し不動の姿勢で闘いを挑むその生き方もまさしくハードボイルドです。刑務所から出るくだりで薄暗がりの中からふっと姿を現すシーンがあるのですが、まるで暗黒街を根城にする刑事か探偵のように見えました。
ただ本人がそこまで喧嘩好きだと、まわりの人たちに少なからぬ苦労をかけるもの。トランボの家族や友人たちも彼を愛しながらも、その意固地ぶりに辟易したりします。そんなトランボを巡る人間模様もこの映画の見どころのひとつです。
実在の映画監督を題材にした作品はこれまで何本かありましたよね。チャップリン、ヒッチコック、フェリーニ、エド・ウッド、メリエス… そんなもんかな? ただ実在の「脚本家」をモチーフとした映画ってなにかあったかな…と。わたしが知らないだけでしょうか。まあ映画作品を代表する存在となると、普通はやっぱり監督であります。舞台挨拶でも雑誌のインタビューでもスタッフで一番目立っているのは彼らですからね。ひごろそれなりに映画を観ているわたしですら脚本家の名前は知ってても、顔はほとんど知らない方ばかりです(^_^; 時には映画監督よりも作品に貢献してる例だってあるだろうに… というわけで、これからはもう少し彼らのお顔も覚えていこうと思いますた。そういえば日本のテレビドラマなんかはなぜか脚本家に注目が向けられることが多いような。
セリフを考える人がモチーフのせいか、すごく会話の量が多い作品でもありました。どんな人がこしらえたんだろう…とまたついつい監督に注目を向けたらこれがびっくり、『オースティン・パワーズ』や『ミート・ザ・ペアレンツ』の方でした。ほかにもギャグ映画ばっかり作ってたみたいですが、ここに来て急に新境地を迎えたというところでしょうか。
幸いに『トランボ ハリウッドから最も嫌われた男』は各所で好評を得た模様。トランボさんも草葉の影で喜んでおられるでしょうか。ちなみに取り上げられた作品は『ローマの休日』『黒い牡牛』『スパルタカス』『栄光への脱出』など。これらを予習復習するともっと楽しめるかもしれません。
Comments
脚本家がモチーフではないですが、脚本家が主役の映画は「キネマの天地」かな。映画じゃないけどラジオドラマの脚本家が主役の「ラヂオの時間」とか。あれは三谷が監督で脚本家だから書いても変更されてしまう脚本家の悲哀がよく出てた。
Posted by: ふじき78 | October 23, 2016 09:59 PM
>ふじき78さん
補足情報ありがとうございます。『キネマの天地』覚えておきます。『ラジオの時間』はたしかにおっしゃる通りでしたね。鈴木京香泣いてた
Posted by: SGA屋伍一 | October 31, 2016 09:27 PM