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October 31, 2016

舞浜の空、再び 下田正美 『ゼーガペインADP』

20161017_134546皆さんは『ゼーガペイン』というアニメをご存知でしょうか。『ガンダム』で知られるサンライズが10年ほど前に作った硬派なSF作品で、一部のファンには大変高い評価を得たものの、世間一般に大ブレイクというほどにはいかず、以後ひっそりと「よかったよね…」と語られ続けておりました。わたしも放映時こんな記事を書いたりしてました。その『ゼーガペイン』が放映10周年を記念して、限定ながら特別編が劇場公開されることになりました(もう終了しましたが…)。『ゼーガペインADP』、ご紹介します。

舞浜南高校に通うソゴル・キョウは快活な男子生徒。自分以外部員がいない水泳部をなんとか存続させようと日々奮闘していた。そんな風に学校生活を謳歌しながらも、キョウは知っていた。その世界が巨大なコンピューターの中の仮想世界だということを。人類はすでにほろび、自分たちはサーバーに蓄えられた電子情報にすぎないということを。そしてこの世界は4か月に一度リセットされ、無限に同じ時間をループしなければならないということを…

企画のニュースを聞いたとき、てっきり旧作の映像を再編集した特別編になるのかと思いましたが、嬉しいことに流用もあるもののほぼ新作映画と言っていい内容になっていました。TVシリーズではオリジナルの「ソゴル・キョウ」が大破し、復元体が目覚めてからが物語のスタートとなっていました。対して『ADP』ではオリジナルのキョウがどんな日々を、戦いを続けていたのかが描かれます。早い話が前日談ですね。

先の記事でも書きましたが、『ゼーガペイン』は要するに『マトリックス』です。ただあちらでは辛うじて肉体が存在していましたが、『ゼーガペイン』ではそれすらなく、人間はプログラムとホログラムの融合体と化しています(それを「人間」と呼べるならばの話ですが)。キョウたちは肉体を取り戻すべく、人類を滅ぼした元凶に対して絶望的な戦いを挑むことになります。
この度再びその世界に触れて一層強く感じたのは、その「喪失感」。容量に限界があるため、舞浜サーバーは定期的に4か月前に時間が巻き戻されることになります。まるで短いスパンのRPGを何度も何度も繰り返しプレイするように。せっかくがんばって成し遂げた友達との仲直りも、大切な思い出もすべて「なかったこと」になってしまう。さらに状況が切迫するにつれ、周りにいた大切な人も少しずつ消滅していく。持ち前の明るさでれらを偲んでいたキョウの精神も、だんだんと疲労と虚無感にむしばまれていきます。それでも誰にもその悲しみをぶつけずに、黙々と戦い続けるソゴル君。劇中のセリフにもありましたが、「なんでもかんでも自分一人で抱え込んでしまう」ところが彼のいいところであり、悲しいところでもあり。十年経ってそんな変わることないソゴル君に再び会えて、おじさんは暗闇の中ハラハラと涙を流しておりました。

気になった点も幾つかあります。まず場面転換が非常にチャカチャカしていてめまぐるしい(もう1時間あれば…)。TVシリーズよりも前の時系列にも関わらず、世界観の説明がわかりにくく一見さんにはちょっときついかと思われます。あとこの作品のテーマが際立てば際立つほど、人型ロボット「ゼーガペイン」の存在意義がどんどん薄くなっていきます。別に人型でなくても、巨大なマニピュレーターでも戦闘機でも十分成立する話なんですよね(まあそれは大半のリアルロボットアニメに言えることですが)。
それでもやっぱりわたしはこの儚げな世界でつづられる喪失の物語が好きで好きで好きでたまりません。しつこいようですが今回またキョウやシズノやカミナギ、シマやルーシェンやクラゲやオミズやトミガイ君や水泳部の面々や「舞浜」の懐かしい風景に出会えて本当にうれしかったです。

Zgp1『ゼーガペインADP』は11月にDVDが発売予定。大概ネタバレしといてなんですが、やっぱりこの特別編はTVシリーズの後に観た方がより感慨深いかも。そんなわけで少しでも興味を持たれた方はバンダイチャンネルやfuluなどで全26話鑑賞されてください。だまされたと思って…


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October 24, 2016

女には向かないとはかぎらない職業 『エージェント・カーター』シーズン1なんちゃって総解説

Agtc1こちら実はだいぶ前に見終わってたんですが、感想を書けないままずるずると日が経ってしまいました(^_^; 先日Dlifeにて放映があったとのことなので、ちょうどよい折ということでおぼろげな記憶をもとにがんばってレビューいたします。『エージェント・カーター』です。

#1 キャプテン・アメリカの恋人(Now is Not the End)
キャプテン・アメリカと共に欧州戦線を戦ったエージェントのペギー・カーターは、戦後男社会が幅を利かせる新たな職場「SSR」で、お茶くみや雑用に追われる毎日を送っていた。そんなある日、スパイの疑惑をかけられた旧友ハワード・スタークから連絡が入る。ハワードはおおっぴらに活動できない立場になってしまったので、盗まれた彼の発明品を謎の組織から回収してほしいとペギーに頼むのだが…
というわけで『エージェント・カーター』第一シーズンのお話を一言でまとめると、「ハワードのうっかりミスの尻拭い」であります。なんて気の毒なペギーさん。頭の固い同僚たちにも色々苦労をしょわされるし
ただ、それ以上気の毒なのが彼女の病弱なルームメイト。わたしこういう話ダメなんで本当にやめていただきたいですね。
大戦直後のレトロな風俗もこのドラマの魅力のひとつです。


#2 ミルク・トラックを追え(Bridge and Tunnel)
暗躍する謎の組織「リヴァイアサン」。ペギーはわずかな手がかりをもとにその組織の正体を暴こうとするが。
この回はもうあんまり覚えてません(^_^; ひとつ強烈に記憶に残ってるのは劇中で流れるラジオドラマの「キャプテン・アメリカ」。内容は「ポパイ」と大差ない感じです。まあもともと「キャプテン・アメリカ」とはこういう話だったはずなんですが、それにしても笑えるw
ゆれるトラックの屋根の上でマッチョマンと互角の殴り合いを繰り広げるペギーさんも強烈でした。吉田沙保里さんはキャプテンのファンでペギーさんのコスプレまでしてましたが(下画像参照)、吉田にも負けてないですよ!


#3 執事の過去(Time and Tide)
現場に残してきたナンバープレートのせいで、ペギーのサポートをしていたスターク家の執事ジャービスがSSRに拘束されてしまう。ペギーはなんとか彼の容疑を晴らそうと、同僚たちの足をひっぱる。
のちにアイアンマンの補助プログラムとなった?(あるいは名の由来となった)ジャービスさんがメインのエピソード。この人いい人すぎてスパイとか隠し事とかあまりむいてない気がします(そこがいいんじゃない!)
大捕物のあとに、ようやく顔を覚えたSSRの太っちょがさっくり死亡。この職場、七曲署くらい殉職率が高いんじゃない? ちなみに監督は「シビル・ウォー」「ウィンターソルジャー」のルッソ弟。


#4 ハワードの帰還(The Blitzkrieg Button)
とりわけ重要な発明品を回収するため、NYのこっそり戻ってきたハワード。ペギーは彼の隠れ場所を用意するためにさらなる迷惑をこうむることに。実はその発明品とは…
ハワードにしてもペギーにしてもまだキャプテンの死(本当は仮死ですんでるんだけど)をいまだに乗り越えられていないことがうかがえるエピソード。その割にはハワードさん、ペギーのアパートの女の子たちを食い放題とすごいことやってくれちゃいます。さびしさの裏返しなのか?(たぶん違う) こないだ『シビルウォー』で見た堅物そうなおっさんとはまるで別人です。ペギーの最強のライバルとなる「お隣さん」、ドッティもここから登場。


#5 ベラルーシ行き(The Iron Ceiling)
リヴァイアサンの尻尾をつかむため、ペギーたちSSRの精鋭はベラルーシへ飛ぶ。そこで彼らが見たものとは。
基本的にNYを中心に展開される本シリーズにおいて、珍しく海外が舞台となる特別編。ここで出てくる女子ばかりあつめた暗殺者養成所、ブラック・ウィドウが元いた場所だと思うのですがどうでしょう。
いままでペギーを小ばかにしていたトンプソンが、実はけっこう小心者だったことが明かされるエピソードでもあります。ざまあみろ。そしてここでうっかり連れ帰ってきた善人そうなおじいちゃんが、あとでSSRに大変な災厄をもたらすことに。


#6 取り返せない過ち(A Sin to Err)
いままでこそこそ同僚たちをだしぬいて来たことがバレ、ペギーは犯罪者として追われる立場に。そのころベラルーシからきたおじさんイフチェンコは、SSR局長を罠にはめるべく暗躍を始めていた。
こういう「罠にはまっておいつめられて決死の逃避行を繰り広げる」話、わたし好きなんですよね。おもえば「ウィンターソルジャー」もそういう話でしたし。というわけでクライマックスに向けて段々と盛りあがってきた第6話。彼女をめぐるトンプソンとスーザの攻防が面白かったです。スーザはいまんとこペギーの旦那の第一候補となりそうないいやつですが、果たしてその予測通りにいくか。


#7 催眠博士(Snafu)
ジャービスの活躍でペギーへの嫌疑は晴れたものの、時すでに遅く、局長はイフチェンコの奸計にはまり壮烈爆死を遂げることに。そしてNYの劇場ではハワードのもっとも恐るべき発明の効果が実験されていた。
トニー・スタークに偉そうなことをいろいろ垂れていたお父さんハワード氏ですが、戦争中はいろいろ黒歴史があった模様。そのひとつがここで明かされます。いやあ、これきついわ… そしてタイトルにあるイフチェンコの能力もまた恐ろしく。「コードギアス」のルルーシュや「ジェシカ・ジョーンズ」のキルグレイブを思わせる能力ですが、彼らより効果が表れるまでに多少手間がかかることが救いです。


#8 ミッドナイト・オイル(Valediction)
事件を解決すべく戻ったハワードだったが、逆にまんまとリヴァイアサンに洗脳されてしまい、人々を殺人鬼へと変えるガスをばらまくべく自家用機で飛び立ってしまう。彼を止めるため、ペギーは仇敵ドッティとイフチェンコとの決戦に赴く。
「ファーストアベンジャー」の時はあまりうかがえませんでしたが、ハワードってそんなにもキャプテンのことが好きだったんですねえ。これを観てから「シビルウォー」を鑑賞すると一層感慨深いものがある…かもしれません。
いろいろ一件落着し、スティーブへの思いにも一区切りつけるペギー・カーター。そのウン十年後に悲しい再会が待ち受けていようとは… それはともかくいまだ「シールド」も立ち上がらずリヴァイアサンの正体もよくわからず(ヒドラと違うの?)、彼女の戦いはシーズン2へと続いていきます。

05ABCスタジオのもうひとつのシリーズ「エージェント・オブ・シールド」に比べると映画のMCU作品…というか「キャプテン・アメリカ/ファーストアベンジャー」とがっつり絡んでいる本作品。スピンオフというか後日談と言っても過言ではありません。キャプテン・アメリカファンならぜひ押さえておきましょう。


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October 20, 2016

君の偽名は。 ポール・グリーングラス 『ジェイソン・ボーン』

012昨年下半期はスパイ映画が花盛りでしたが、今年はこれ一本。波がありすぎだろ! そんなある意味おいしいとも言えるその作品は、9年ぶりにマット・デイモン復帰となる人気シリーズ『ジェイソン・ボーン』。ご紹介します。

ジェイソン・ボーンが姿を消して数年後。CIAはこりずにまたさらなる陰謀を企てていた。かつてボーンの仲間だった元エージェントのニッキーは、その悪事を暴くためボーンに助力を請う。彼らと再び対峙するのを渋っていたボーンだったが、その計画のファイルに自分の「真の過去」が秘められているのを知り、戦う決意を固める。

続編ものの醍醐味というのはなじみ深いキャラクターにまた再会できた、というところにあります。この『ボーン』シリーズ、実は007よりミッション・インポッシブルより思い入れが深く、マット演じるボーン君に久々に会えるのを心待ちにしていました。しかしこの度のボーン君はなんだか以前よりさらに憔悴していて、やさぐれているというか、あらぶっているというか、そんな印象。前の彼は仕方なく敵を殺めてしまった時はよくメソメソしていましたが、新作では進んでバリバリ殺るってほどではないにせよ、けっこう気持ちの切り替えが早い感じです。「ボーン君、どうしちゃったの? ビタミン足りてる? 一緒に温泉いく?」といろいろ気遣ってあげたくなりました。

実は今回の『ジェイソン・ボーン』、脚本が1~4作目まで関わっていたトニー・ギルロイから、ポール監督とクリストファーなんちゃらという人に変わっています。ボーンの性格が微妙に変わってしまったのは、この交代によるものか、それとも年食って苦労してぐれちゃったせいか… できれば後者と考えたいです。生活に疲れて人生の曲がり角に来てるおじさんとしては、色々うなずける部分もあったので。

一概には言えませんが、実際の記憶喪失の患者さんの場合、失いたての時は汚れなきピュアボーイみたいなのに、段々と元の性格に近付いていく…という例もあるとか。ボーン君もあんなに暴力を忌避していたのに、地下格闘技で生計を立てていたりとか、自分の中に眠る「戦う本能」を押えがたく感じている模様。そんな様子からCIAの新人さんに「かれは諜報員に戻りたがっているのでは?」と推測されてしまいます。ほんで組織の方も「それもありか」と意外な対応を見せたりします。「え… いままであんなに激しくやりあってたのに…」とも思いますが、小説のスパイではチャーリー・マフィンという先例もありますし、腐敗を苦々しく思いボーンを助けるかわいこちゃんもいるので、本当にボーンくんが正社員に復帰しちゃう可能性もないでもない。最終的にボーン君がどう決断するのか、その辺もこの映画の見どころのひとつです。なんせボーン君口数が少ないうえに始終むっつり顔なんで何考えてるのかわかりませんからね。

以下、若干ラストのネタバレにもなりますが、『ボーン・アルティメイタム』の時に書いたことを再掲させてもらいます。「好きなあるマンガのセリフを借りるなら、『彼の心はまだ血を流して』います。その傷が完全でなくても癒されて、彼が(1作目ラストのように)心の底から笑えるようになって、初めてこの物語は『終れる』と思うのですが、どうでしょう」 今回評判いまいちのようですが、その笑顔を見られる時までシリーズを続けてほしいものです。できればギルロイさんにも復帰していただいて。

As20160819000737_commlそんなわけで『ジェイソン・ボーン』は現在全国で公開中。1週目は2位、2週目は3位と地味な見かけにしては健闘している模様。ボーンシリーズも日本でだいぶ浸透してきたということですかねー


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October 15, 2016

仮面ライターの告白 ジェイ・ローチ 『トランボ ハリウッドから最も嫌われた男』

136237_01『ローマの休日』といえばだれでも知っている名作映画。しかしその脚本を本当に書いたのは誰なのか、知ってる人はどれほどいるでしょう。本日はその真の作者を題材とした『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』、ご紹介します。

第二次大戦直後、脚本家として活躍していたダルトン・トランボと仲間たちは、共産主義の思想に傾倒していたため、ほされ、訴えられ、ついには投獄されてしまう。出所してから実名では仕事が来ないと考えたトランボは、偽名を使い安いギャラで、小さなプロダクションの脚本を書き続ける。だがその才能は世間の注目を集め始め、ついにはアカデミー賞の候補にまでなるのだが…

トランボのことはむかしヤングジャンプに連載されていた漫画『栄光なき天才たち』で読んだことがありました。不当な圧力に表面上は屈した風を装いながら、静かな闘志を燃やし続けた男…という感じに描かれてました。ですがこの度の映画ではもっと熱くてやんちゃで喧嘩好きな人物像となっています。ただ喧嘩好きといっても彼が用いるのは武器やパンチでなく、毒舌とだまくらかしと巧妙な戦術。彼自身ハードボイルドの作品を何作か書いていたようですが、圧倒的な権力に対し不動の姿勢で闘いを挑むその生き方もまさしくハードボイルドです。刑務所から出るくだりで薄暗がりの中からふっと姿を現すシーンがあるのですが、まるで暗黒街を根城にする刑事か探偵のように見えました。
ただ本人がそこまで喧嘩好きだと、まわりの人たちに少なからぬ苦労をかけるもの。トランボの家族や友人たちも彼を愛しながらも、その意固地ぶりに辟易したりします。そんなトランボを巡る人間模様もこの映画の見どころのひとつです。

実在の映画監督を題材にした作品はこれまで何本かありましたよね。チャップリン、ヒッチコック、フェリーニ、エド・ウッド、メリエス… そんなもんかな? ただ実在の「脚本家」をモチーフとした映画ってなにかあったかな…と。わたしが知らないだけでしょうか。まあ映画作品を代表する存在となると、普通はやっぱり監督であります。舞台挨拶でも雑誌のインタビューでもスタッフで一番目立っているのは彼らですからね。ひごろそれなりに映画を観ているわたしですら脚本家の名前は知ってても、顔はほとんど知らない方ばかりです(^_^; 時には映画監督よりも作品に貢献してる例だってあるだろうに… というわけで、これからはもう少し彼らのお顔も覚えていこうと思いますた。そういえば日本のテレビドラマなんかはなぜか脚本家に注目が向けられることが多いような。

セリフを考える人がモチーフのせいか、すごく会話の量が多い作品でもありました。どんな人がこしらえたんだろう…とまたついつい監督に注目を向けたらこれがびっくり、『オースティン・パワーズ』や『ミート・ザ・ペアレンツ』の方でした。ほかにもギャグ映画ばっかり作ってたみたいですが、ここに来て急に新境地を迎えたというところでしょうか。
Yjimagedt幸いに『トランボ ハリウッドから最も嫌われた男』は各所で好評を得た模様。トランボさんも草葉の影で喜んでおられるでしょうか。ちなみに取り上げられた作品は『ローマの休日』『黒い牡牛』『スパルタカス』『栄光への脱出』など。これらを予習復習するともっと楽しめるかもしれません。


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October 10, 2016

もうひとつの『真田丸』? 堤幸彦 『真田十勇士』 

Snd1最近全然ドラマの感想書いてませんが、『真田丸』、面白いですねえ。その大河と呼応するように?絶妙のタイミングで懐かしの講談のキャラクターたちが帰ってまいりました。『真田十勇士』、ご紹介します。

時は関ヶ原の戦いからほどなくして。九度山に蟄居の身となっていた真田幸村は抜け忍の猿飛佐助と知り合い、彼を配下に加える。世間を相手にでっかいことをやりたくてうずうずしていた佐助は、雪村のもとに豪傑たちを集め、自分たちの名を天下に知らしめようとする。折しも徳川家康は幕府の支配を盤石のものとするべく、大阪城に向けて進軍を始めようとしていた。幸村と配下の豪傑たちは淀君の要請を受け豊臣方に加わり、幕府の大軍を迎え撃つことになるのだが…

こうやって書くと実にオーソドックスな時代劇のように思えますが、冒頭の勇士たちが集まるくだりはなぜか今風のアニメだったりするのでなかなか面喰らいます。ロケのシーンを増やすより、アニメでやっちゃった方が予算の節約になると考えたのでしょうか。あとこちら、一応原作はマキノノゾミ脚本による舞台とのこと。だからか演技も構図もいかにも舞台調でありました。そこへ堤幸彦監督(舞台では演出)お得意の微妙なギャグが入ったりするので、さらに調子が狂います。まあこの映画では『SPEC』劇場版ほどひどくありませんでしたが、どうして彼はコテコテの浪花節と、わけのわからんオチャラケを交互に繰り出したりするのでしょうね… そりゃシリアスなドラマでも多少のユーモアはあったほうがいいと思いますが、それにしたってちょうどいい量ってもんがあると思います。あるいはコメディがやりたいなら「泣かせ」の場面は最低限にしてもっとテンポをよくするとかね~

ただ、その辺はおおむね想定内でありました。ではなぜ観に行ったかといえば、それは意外と映像化に乏しい真田十勇士の活躍が見たかったからにほかなりません。十勇士といえばお調子者の猿飛佐助とクールな霧隠才蔵あたりはひろく知られてるし、いろんな小説・漫画にも顔を出していますが、他の八人はえらい影が薄いのが実情。ウィキペディアを見ますとそのキャラ付けとか情報量の差はあまりにも歴然としています。というわけで「その他大勢」的な皆さんがどんな風に描かれているのかが気になったのですね。その点の個性の描き分けはなかなか面白かったです。ざっと紹介してみますと
三好清海・伊三…荒くれ者の兄弟
由利鎌之助…歴戦の武人
筧十蔵…元役者のオカマ
真田大助…幸村の嫡男。おぼっちゃん
望月六郎…大助の執事
海野六郎…財政担当
根津陣八…口だけ君
といった感じ。講談では「穴山小助」というキャラクターもいるのですが、今回は大助君と交換された模様。
これらの凸凹した面々が楽しそうに暴れているのを見てるとそれなりに愛着もわいてくるのですが、こちらは大坂の陣の結果を知ってるがゆえに「果たしてどれだけ生き残れるか…」と心配にもなるわけです。

個人的に小気味よかったのは面々が「十」という数字にこだわるあたりですね。その理由は単に「語呂がいいから」「かっこいいから」というものでしたが、確かに「九勇士」や「十一勇士」ではいまひとつぱっとしない(『サイボーグ009』のことはおといて)。そんなくだらないこだわりが上手にいかされるシーンもあり、全体的に「もとはとったかな」という気分にさせられました。まあ人にすすめられるかといえば… 「自分で判断してください」としか言いようがありませんけどね(^_^;
Snd2『真田十勇士』は現在全国の映画館で上映中ですが、いまひとつお客さんが入ってないようなので終了も間近いかも。どうも大河ドラマと相乗効果で…とはいかなかったようです。映画も合戦も成功させるのは難しいものですね!


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October 06, 2016

ダーティー・サリー クリント・イーストウッド 『ハドソン川の奇跡』

Hdsn1『アポロ13』で宇宙から生還し、『キャプテン・フィリップス』で海賊の襲撃を生き延びたトム・ハンクスが、今度は航空機事故のサバイバルに挑みます。まあ彼が主演というだけでもう絶対大丈夫って気がするんですけど… 御大クリント・イーストウッド監督による実話の映画化、『ハドソン川の奇跡』、ご紹介します。

2009年1月15日。チェスリー・"サリー"・サレンバーガーの操縦するエアバスは離陸からほどなくして鳥の群れと衝突。そのため二つのエンジンが壊れたエアバスは推力を失い、不時着を余儀なくされる。出発した空港まで戻る余裕はないと考えたサリー機長はとっさにハドソン川への着水を決行。奇跡的に全スタッフ、全乗客が無事であった。だがその選択は果たして正しかったのか、国家運輸安全委員会はサリーを厳しく追及する。

原題は『Sully』。機長さんのニックネームであります。全員助かったんだからいいんじゃねえか!と、普通は思います。しかし頭でっかちの委員会は「普通に空港まで戻れたんじゃないの? 勝手な判断で乗客を危険にさらしたんじゃね?」ということをネチネチと主張します。ま、お仕事だから仕方ないのかもしれませんが、そのためにサリーちゃんのハートはチクチクとさいなまれることになります。「機転で乗客の命を救った英雄!」から「いかれた危険運転パイロット!」に転落してしまうかもしれないのですから。

というわけでこの映画のクライマックスは飛行機の不時着ではありません。普通にこの題材を約90分で撮るのであれば、最初の30分は飛行機に乗る前の機長や乗客たちのキャラ紹介があり、実際は数分だった離陸から着水までを40分くらいかけてひきのばし、終盤20分で救助と感動のラストシーンを描く…とそんな風になるかと思います。しかしそんなよくある感動ドラマ仕立てでないところが、この映画に一層さわやかな印象を与えているのが不思議です。

まず思ったのは米国の人は「ヒーロー」を求める傾向が強いのだなあ、ということ。事故のあとにサリーさんとすれ違う人々はみな、彼を熱烈な勢いでほめそやします。本人がいたたまれなくなるほどに。でも若い美女からハグされたりするのは、ちょっとうらやましかったです。いいなあ。
それはさておき、ここで思い出すのは監督の前作『アメリカン・スナイパー』。あちらもいわゆる実在の「アメリカの英雄」を扱った作品でしたが、たくさんの人を殺し自身も銃で命を奪われたクリス・カイルと、自分とともに多くの命を救ったサリー機長はまことに好対照であります。世間から向けられる敬意のまなざしに、プレッシャーを感じていたのは二人とも同じでしたが。イーストウッドもダーティー・ハリーや荒野の用心棒でもてはやされていたころ、「俺は実はあんなタフガイ・ヒーローじゃないんだ…」と悩んでいたのかもしれません。

あと毎日バカスカ誰かが暴力死している時代なのに…、というかだからこそ?人は「奇跡的に助かった」という話にカタルシスを感じるものなのだなあと。まあめったにこういう話ありませんからね。「絶望視されていたのに全員が助かった」っていう話。まさに奇跡であります。自分はおじさんなので逆噴射事故とか123便の事故とか覚えてますけど、あの時も結構な方が亡くなられましたから。もしハドソン川が近くになかったら、もし衝突がもう少し遅かったら、そして機長と副機長がこの二人でなかったら、この「奇跡」は起きなかったのではないかなあと。

映画はサリーさんをあくまで「英雄」というより「仕事に誠実な一人のプロ」として描きます。そのプロの仕事が、他のプロの協力もあって犠牲者ゼロという結果に結びつきました。うん、やっぱり仕事はマジメにやらないといけないなあ。たとえ人の命がかかわってない場合でも。いや、いつも真剣にやって… いるかな?(^_^; 分が悪くなってきたのでこの話はこれでおしまいw

さて、御大イ-ストウッド、86歳にしてまたしても重厚な名作を世に送り出してくれました。まさに名匠と呼ぶにふさわしい存在です。ただ映画を離れた政治的な発言では最近「大丈夫か!?」というものがチラホラ。老いてかつてのダーティー・ハリー的な一面がよみがえってきてしまったのでしょうか。人格と才能は別物とはいえ、ちょっと心配になってまいりました。まあ前から単なるヒューマニストというよりは、ちょっと変人っぽいところのある人だとは思ってましたが。才能ある方って大抵そんなもんなのかもしれません。
Hdsn2『ハドソン川の奇跡』は、現在全国のシネコンで普通に公開中。もはやバケモノ映画と化してしまった『君の名は。』には及ばないまでも、二週連続二位を記録しています。こういう落ち着いたいい映画が売れてると、なんか嬉しくなりますよね。


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October 03, 2016

親切の巨人 ロアルド・ダール スティーブン・スピルバーグ 『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』

Bfg1最近すっかり社会派の巨匠となってしまった感のあるスティーブン・スピルバーグ。そのスピさんが久々に子供も楽しめるエンターテイメントを作ってくれました。たくさんの名作童話を世に送り出したロアルド・ダール原作の『BFG: ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』、ご紹介します。

ソフィーはイギリスの孤児院でくらす女の子。ある晩眠れなかったソフィーは、窓から街を駆け回る巨人を目撃したため、その巨人にさらわれてしまう。その巨人「BFG」の国に連れてこられたソフィーは最初こそおっかながっていたが、BFGの優しさに触れて次第に親しい間柄となっていく。だがその地に住む他の巨人はBFGと違って気性が荒く、ソフィーがいることを知って彼女を食べようと躍起になる。BFGは果たしてソフィーを守ることができるのだろうか。

巨大なのんきもののおっさんBFGと、小さいながら口が達者な嬢ちゃんソフィーの組み合わせは昨年の『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』とよく似ています。そういえばあれも童話というか絵本原作でしたね。
まあよくも悪くも絵本のような映画でした。ひとつひとつのパートの背景が細部までじっくり作りこまれていて、のんびりゆったりお話が進んでいくあたりが。ですからお子さんたちへの情操教育にはまことにふさわしい映画だと思います。スピルバーグにありがちなゴア描写も今回はほとんど見当たりませんでしたし。

ただ近頃リズムに飛んだスピーディなお話に慣れてしまった身としては、正直かなり眠くなりましたw すっかり感性が刺激物でマヒしてしまったのかしら。いかんなあ。でもその直前に観た『レッドタートル』はセリフなしにも関わらず全然眠くならなかったんですよね。なんでだろうなあ~

あともうひとつ不満としては、これまでのロアルド・ダール原作映画…『チャーリーとチョコレート工場の秘密』『ジャイアント・ピーチ』『ファンタスティックMr.FOX』にはどれも過剰なまでの「バカバカしさ」があふれていて、『BFG』にもそういうのを期待したんですけど、こちらは「おならドリンク」を除けばかなりお上品だったような。これは原作がもともと例外的にお上品だったのか、それともスピルバーグの重厚な作風に染められてしまったのか。はてさて。

文句垂れてしまいましたが、よかったところもありました。個人的にツボだったのは『ブリッジ・オブ・スパイ』で東側のスパイを好演してたマーク・ライランスがBFGに扮していたことでしょうか。あの朴訥で無愛想だったじいさんがにこやかでヘンテコなジャイアントをやってるかと思うと、なんか無性に萌えるんですよね。

あと『E.T.』脚本家のメリッサ・マシスンの遺作ということもあって、ちょっぴり切なげで、でもさわやかな友情が描かれていたところも印象深かったです。たとえしょっちゅう会えなくても、いつも心に思い続けていればそれはそれで篤い絆と言えるわけです。でもこんな秋風吹く夜は、一緒に飲んでくれるお友達がほしいところです。わたしあんまり友達いないので… あああああ! さびしい!(←うざったいですね!)

Bfg2というわけで『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』は現在全国の映画館で公開中ですが『君の名は。』のあおりを食ってしまったのかあまり客入りがよくないようです。2週目で早くも10位圏内から姿を消してしまいました。若かりし頃ビッグネームだったスピさんがここまで勢いがないのもなんだかさびしいですねえ。そんなスピさんが次に挑むのはピーター・ジャクソンとコラボ作品とのことですが、これがタイトルも内容も一切不明の極秘プロジェクトなんだとか。老いてなお挑戦をし続けるスピルバーグ、よいですねえ。そんなわけでたまにこけてもめげずに映画を作り続けていってほしいものです。


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