俺の妹がこんなにアザラシなわけない トム・ムーア 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
昨年アカデミー賞の長編部門にノミネートされ、独特の絵柄で世界中の人を魅了した本作品。日本でもようやっと公開となりました。アイルランドの民話を題材に描く『ソング・オブ・ザ・シー』、ご紹介します。
灯台で両親と幸せに暮らしていた少年ベン。だが母親は生まれたばかりの赤ん坊を残し、こつ然とベンと父の前から姿を消してしまう。突然の別れが心に傷を残したのか、ベンは妹シアーシャのことをうとむようになる。彼女が口をきけず、いつも面倒を見なくてはならないことも苛立ちをつのらせた。そんな折、シアーシャはある晩吸い寄せられるように隠されていた白いコートを身にまとう。そしてアザラシの群れと共に、海の中を生き生きと泳ぎ回るのだった。それは母親から受け継がれた妖精の血がなせる業であった。
まず面白いな、と思ったのはこれが兄と妹の話であるということですね。これが日本の長編アニメーションであればボーイ・ミーツ・ガール的なお話となり、少年の淡い恋心なんかも描かれちゃったりするわけですが、こちらは血のつながった二人のお話ゆえ、当然そういう方へは進みません。まあアニメの中には「妹萌え」というジャンルもありますが、ベン君は萌えるどころかうざったく感じていたりする。この主人公の少年が最初あまりいい子ちゃんじゃないところがよかったです。ややひねくれ気味だったベン君が、旅や試練を通じて、「自分こそが妹を守らねば」という思いに目覚めていく。兄として、男としてたくましく成長していく。はじめがアレだった分、感動も倍増するというものです。
で、このシアーシャちゃんがなんで兄が邪険にするのか理解不能なくらいかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうて(略)。 あの、わたしロリコンじゃないですよ? 純粋な意味でですねええ! …と、こういうのは必死になればなるほど疑われるんだよな。あの…違いますから…(クールに) こんなにかわいいのはやっぱりドラえもんのように円を基調としたデザインだからでしょうかね。マトリョーシカにもよく似ています。監督さんは「ジブリに影響を受けたと語っておられますが、少なくともビジュアル面はまるで別物と言っていい。妖精が身近にいる世界観などは、なるほどジブリっぽいですけどね。日本のアニメで近いものがあるとすればそれこそ『まんが日本昔ばなし』とか、細かな光の動きが『蟲師』の「蟲」によく似ていたりとか。
いまや世界の劇場アニメはすっかりCGが主流となってしまいました。日本では絵アニメ作ってますけど、こういう絵本みたいなものはほとんど見当たりませんしね。で、ヨーロッパはさすがに細々とこういうの作ってますが、妙にアートに特化して子供よりも大人よりのものが目立っていたりして。CGアニメやアート寄りのものも好きですけど、あくまで子供たちのためのしっとりとした絵アニメももっと作ってほしい。そのためにトム・ムーア監督にはがんばってほしいと思うのでした。
アイルランドの物悲しい楽曲もとりわけ印象深いものでした。わたしアイルランドの音楽っていうとエンヤさんくらいしか知らないですけどね… アイルランドの音楽といえば最近音楽映画を続けて撮っているジョン・カーニー監督の『シング・ストリート 未来へのうた』も昨日見てきたのでこちらについても近々語ります。ちなみに『ソング・オブ・ザ・シー』の副題が「海のうた」で『シング・ストリート』が「未来へのうた」です。ややこしいですね。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』はまだたぶん恵比寿ガーデンシネマを中心に地道に公開中。今年はまだ楽しみなアニメ映画がいろいろありまして。『GANTZ:0』に『ゼーガペイン』総集編に『レッドタートル』に『この世界の片隅に』に、なんと『アイアン・ジャイアント』の特別編まである! きゃっほう! まるでこれじゃわたしがアニメオタクみたいじゃないですか! …まあそうなんだけど。
Comments