紅の亀 マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット 『レッドタートル ある島の物語』
「亀の名は。」というタイトルも考えました… 「もう新作は作らない」 業界を震撼させたジブリ・ショックから約2年。待望の新作が公開となりました。あれ??? というわけで現在公開中の『レッドタートル ある島の物語』、ご紹介します。
船が難破したのか、過酷な漂流の末に小さな島に流れ着いた一人の男。男はイカダを作って島から脱出しようと試みるが、どういうわけか決まって沖合に出たところで水中から突き上げるような衝撃が起き、イカダを壊されてしまう。何度目かの失敗の後海に落ちた男は海中で大きな紅色の亀と出会う。男は船を壊したのはこの亀だと思い込み、陸に上がったところを襲いかかるのだが…
「スタジオジブリ製作」とはなっていますが、以前とはだいぶ趣が異なっております。まずタッチがいつもの「ジブリ絵」とかなり違う。どうも海外のクリエイターにお金だけ出して作らせたもののようです。
もう一点異彩を放っているのは「セリフがほとんどない」ということ。正確に言うと「へーい!」と「うおーーー!!」だけです。こういうアニメ近年では『ミニスキュル劇場版』と『ひつじのショーン劇場版』がありましたが、これらの主人公は虫か動物かでしたからね。言葉をしゃべらないのは当たり前です。しかし『レッドタートル』の主人公はれっきとしたホモ・サピエンス。いくら無人島とはいえ愚痴や泣き言くらい言いそうなものですが。実際『キャストアウェイ』のトム・ハンクスなんてバレーボール相手にブツブツブツブツ話してましたし。実はちょっとネタバレになりますが、途中から登場「人物」が男のほかに追加されたりします。それでもセリフを言わせない製作スタッフ。まあ、多少の不自然さはありましたが、会話がなくても十分わかるし成立するお話なんですよね。その極限まで言葉を排除した作風は、まるで詩のよう…というか、詩そのものであります。
そんな静かそうな映画、ものすごく寝そう…と思ったあなた、安心してください。20分に1回くらいの割合でけっこう予想の斜め上をいく展開があるので度肝を抜かれます。ここんとこ割とセオリーに沿った娯楽映画ばかり観ていた身としては、この物語の独創性にはただただ感嘆するばかりでありました。
以下、さらにネタバレしていきますので未鑑賞の方はご了承ください。
ストーリーはごくごくシンプルですが、観る人によって受け取るものはだいぶ異なることでしょう。自分を縛り付けるものをうとましく思っていたけれど、実はそれこそが自分に幸せをもたらすものであった…という話かもしれません。
あるいは意地悪な見方をすれば、孤独のあまり頭がおかしくなった男が、仲良くなった亀を美女と思い込んでしまった話のようにもとれます。まあそれはそれでやっぱり幸福なような気もしますけれど(^_^;
面白いのはこの映画のヒロインが亀だということですね。いわゆる異類婚姻譚でも鳥、哺乳類、蛇、妖怪、ちょっと変わったところでは先日の『ソング・オブ・ザ・シー』のアザラシなどは聞いたことがありますが、「亀」というのは初めて観ました。ほら… 亀っていうと頭がほら… いえ、なんでもありません。ただウミガメというのは涙を流しながら卵を産むという泣ける話があるじゃないですか。あと動きが遅いせいか穏やかで包容力のありそうなイメージがありますよね。そんなところから監督は亀に豊かな母性を見出したのかもしれません。
ちなみに鈴木敏夫プロデューサーによると「海外との共同制作は特例。次は考えてない」とのこと。なんでだよ! やれよ!! と思いましたが、全国でのあまりの不入りぶりを聞くとこの路線はまちがいなく赤字を増やすだけでしょう。赤亀だけに。たしかに広く一般受けするようなアニメではありません。でも末永く伝説として語り継がれる作品になることもまちがいありません。だからもう少し多くの人に観てほしい…
というわけで気になった方ははやく劇場に観に行ってください。来週まではたぶんまだやってると思うのですがそれすらも危うい状況です。公式HPには「大ヒット上映中!」とありますがウソはいかんウソは!! わたしの中じゃ超絶大ヒット中ですがね!!
Comments
> しかし『レッドタートル』の主人公はれっきとしたホモ・サピエンス。いくら無人島とはいえ愚痴や泣き言くらい言いそうなものですが。
れっきとしたホモなんだから「いやあ~ん、日焼けしちゃう~」とか「どんだけ~」とか言ってほしかったです。
Posted by: ふじき78 | October 09, 2016 10:04 PM
>ふじき78さん
亀の頭をアレと考えれば確かにゲイ映画ととれなくもありません。ていうかもっとレベルの高いアーティスティックなコメントおねがいします
Posted by: SGA屋伍一 | October 10, 2016 09:50 PM