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September 08, 2016

忘れても好きな人 新海誠 『君の名は。』

Yn1宮崎駿なきあと(まだ生きてる)、日本のアニメ映画を(売上的に)制するのは細田守氏かと思われましたが、ここにきてぐぐっと急成長を遂げた勢力があります。本日はその新海誠監督の最新作『君の名は。』をご紹介します。

都心に暮らす少年・瀧と、山間の町で生活している少女・三葉。ある朝二人は突然お互いの体と心が入れ替わっていることに気が付く。幸いそれは一度眠りにつくと元に戻る現象ではあったが、「入れ替わり」はその後も定期的に起きた。慣れない肉体と見知らぬ環境、そして自分の体で好き勝手動き回るどこかの誰かに、二人は苛立ちをつのらせる。しかしいつしか瀧と三葉は相手の住む場所や交友に愛着を覚えていくのだった。そして遠い場所に住む「入れ替わり」の相手にも…

新海監督の映画でまず目を惹くのは、そのまばゆいばかりに光に満ちた背景。「キラキラ」でも「ギラギラ」でもなく、過剰でありながらしつこくはない。なかなか言葉では説明しづらいですがいっぺん観ていただければわかると思います。自分はアニメファンでありながら「実写でできる話は実写でやれや」と思ってしまうクチなのですが、新海監督の描き出す空や風景はそんなちんけなこだわりを吹き飛ばしてしまうほどの「映像力」に満ちています。
お話はというと、わたしも全部観てるわけじゃないですが、遠く離れた相手を想い続ける…というものが多い。当然恋愛がストーリーの主軸になるわけですが、そのロマンスも濃厚なものではなく、儚い消え入りそうな思慕の念をつづったものというか。あと体の接触はそこそこありますが、チューはまずしない。そんな作風です。

『君の名は。』を語るうえでどうしても避けられないのが監督の出世作『秒速5センチメートル』です。この作品も子供から大人へと成長していく男女二人の恋愛を描いたものなんですが、わたしのように未練がましい男にはグサグサグサグサ突き刺さる話でして(笑)。「かわいい絵柄のアニメだから夢でも見られるかと思ったか? 現実はこれだよ! 現実を見やがれ!!」とゴリゴリ懐に差し込んでくるような作品でした。そういう意味では『秒速…』はわたしにとって『火垂るの墓』となんら変わりありません。序盤の方でヒロインが「〇〇くんは、きっとこれからも大丈夫」というセリフがあるんですけど、観終わったあと「全然ダイジョーブじゃねーよ!!」と絶叫したものでした。ふふふ…

で、それから比べると『君の名は。』はかなり優しい、夢のような世界を描いた話です。以下、どんどんネタバレしていきますのでご了承ください。


この二作品の間になにがあったかというと、それは東日本大震災であります。このアニメの特に後半は、あの時失われた多くの命に対し、夢でもいいから会いたい、忘れたくない、という思いに満ちています。『君の名は。』で起きる災厄は「彗星の一部が地球に衝突する」というものでした。正直あまりに現実離れした設定ゆえ、ここでちょっとひきました(^_^; でもまあ「夢の話」であるならそれもありかなあと。あと地震とか津波とかリアルな災害にしてしまうと、いろんなところから抗議が出ると考えたのかもしれません。その点「彗星の衝突」はまず現実に起こりえませんからね。
それはともかく、物語の中盤で感じる「喪失感」はすさまじいものがあります。いつしか観てるわたしたちにも身近な存在であったテッシーやサユリン、一葉ばあちゃんや四葉ちゃん、そして三葉がこの世にはもういない…と知った時のショックは、凡百のアニメではそうそう感じられるものではありません。まあこれは実写でも言えることですが、この「喪失感」を上手に描いてるアニメは良作であることが多いですね。その喪失感が大きければ大きいほど、いつもと変わらぬ三葉たちにまた会えた時の感動もまた大きく。
『君の名は。』は新海監督の作品の中ではわりとファンタジーよりな方でしたが、それゆえに『秒速5センチメートル』にはなかった「優しさ」を感じました。この作品がそれまでよりも多くの人の支持を得ているのは、この優しさに負うところが大きいかと思います。

ただこの映画、終盤の展開を抜きにしてもいろいろ魅力にあふれた作品でした。異常に生活感にあふれた部屋の描きこみとか、地方者が都会に出てきた時の感動とか、田舎の風景や風習のきめ細かい描写や、見知らぬ土地に覚える郷愁…などなど。個人的には二人が入れ替わって男オンナ&女オトコになってからモテ度が上がる…という展開が面白かったです。まああれは二人のモトがいいから、というのもあるんでしょうけど。けっ

Yn2というわけで『君の名は。』は先の『シン・ゴジラ』を上回るほどの勢いで大ヒット公開中です。ほんまに今年の邦画の充実ぶりにはびっくりぽんですわ~


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Comments

お◎ぱいをさわるイラストでなきゃ。

Posted by: ボー | September 10, 2016 06:59 AM

>ボーさん

「あいつに悪いよ…」(神木君の声で)

Posted by: SGA屋伍一 | September 12, 2016 10:07 PM

伍一くん☆
新海監督作品の儚さともどかしさは超絶ですね~
私、この作品が初新海だったのだけど、思わず過去作品を一気に身ちゃいました!
「秒速~」では、グサグサきちゃったの??
それだけ共感できるっていうか、身につまされるってことなのかな。
その点、「君の名は。」の方は、後半の突飛さに共感は難しかったですが、とにかく爽やかだったことは確かですね☆

Posted by: ノルウェーまだ~む | September 14, 2016 12:07 PM

>ノルウェーまだ~むさん

なんつーか、女子は割と切り替えが早いのに対して男はいつまでもいつまでもいつまでも引きずっていたりするものですよね… そうです。すごく身につまされたんです(笑) 『君の名は。』もそういう話なんじゃないかと思ってびくびくしながら観てましたが、思いのほかソフトタッチでほっとしたような拍子抜けしたようなw

Posted by: SGA屋伍一 | September 16, 2016 09:45 PM

私も割と「実写でやれるものは実写でやれや」派なのですが、これについてはそんな事を気付きもしませんでした。人間ではないキャラクターが演じる事で、人が死んだりする事の生々しさを削いでくれていたりするからかもなあ、と。その逆で実写になった「心が叫びたがってるんだ」はその生々しさが堂々と表に出てきてちょっと異質な感じでした。

ただ、この「君の名は。」の三葉が自分の胸を揉むシーン、あそこだけは実写でもいい。実写の方がいい。

Posted by: ふじき78 | August 23, 2017 09:30 AM

>ふじき78さん

おお、今回は珍しく真摯に感想を書いておられるなあ…と思ったのに最後の2行で台無しです。でも同意です
ココサケは例の変な卵が出てくるあたりアニメの方がむいてる作品かと

Posted by: SGA屋伍一 | August 23, 2017 09:40 PM

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