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September 29, 2016

紅の亀 マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット 『レッドタートル ある島の物語』

Rtasm2「亀の名は。」というタイトルも考えました… 「もう新作は作らない」 業界を震撼させたジブリ・ショックから約2年。待望の新作が公開となりました。あれ??? というわけで現在公開中の『レッドタートル ある島の物語』、ご紹介します。

船が難破したのか、過酷な漂流の末に小さな島に流れ着いた一人の男。男はイカダを作って島から脱出しようと試みるが、どういうわけか決まって沖合に出たところで水中から突き上げるような衝撃が起き、イカダを壊されてしまう。何度目かの失敗の後海に落ちた男は海中で大きな紅色の亀と出会う。男は船を壊したのはこの亀だと思い込み、陸に上がったところを襲いかかるのだが…

「スタジオジブリ製作」とはなっていますが、以前とはだいぶ趣が異なっております。まずタッチがいつもの「ジブリ絵」とかなり違う。どうも海外のクリエイターにお金だけ出して作らせたもののようです。
もう一点異彩を放っているのは「セリフがほとんどない」ということ。正確に言うと「へーい!」と「うおーーー!!」だけです。こういうアニメ近年では『ミニスキュル劇場版』と『ひつじのショーン劇場版』がありましたが、これらの主人公は虫か動物かでしたからね。言葉をしゃべらないのは当たり前です。しかし『レッドタートル』の主人公はれっきとしたホモ・サピエンス。いくら無人島とはいえ愚痴や泣き言くらい言いそうなものですが。実際『キャストアウェイ』のトム・ハンクスなんてバレーボール相手にブツブツブツブツ話してましたし。実はちょっとネタバレになりますが、途中から登場「人物」が男のほかに追加されたりします。それでもセリフを言わせない製作スタッフ。まあ、多少の不自然さはありましたが、会話がなくても十分わかるし成立するお話なんですよね。その極限まで言葉を排除した作風は、まるで詩のよう…というか、詩そのものであります。

そんな静かそうな映画、ものすごく寝そう…と思ったあなた、安心してください。20分に1回くらいの割合でけっこう予想の斜め上をいく展開があるので度肝を抜かれます。ここんとこ割とセオリーに沿った娯楽映画ばかり観ていた身としては、この物語の独創性にはただただ感嘆するばかりでありました。
以下、さらにネタバレしていきますので未鑑賞の方はご了承ください。

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ストーリーはごくごくシンプルですが、観る人によって受け取るものはだいぶ異なることでしょう。自分を縛り付けるものをうとましく思っていたけれど、実はそれこそが自分に幸せをもたらすものであった…という話かもしれません。
あるいは意地悪な見方をすれば、孤独のあまり頭がおかしくなった男が、仲良くなった亀を美女と思い込んでしまった話のようにもとれます。まあそれはそれでやっぱり幸福なような気もしますけれど(^_^;

面白いのはこの映画のヒロインが亀だということですね。いわゆる異類婚姻譚でも鳥、哺乳類、蛇、妖怪、ちょっと変わったところでは先日の『ソング・オブ・ザ・シー』のアザラシなどは聞いたことがありますが、「亀」というのは初めて観ました。ほら… 亀っていうと頭がほら… いえ、なんでもありません。ただウミガメというのは涙を流しながら卵を産むという泣ける話があるじゃないですか。あと動きが遅いせいか穏やかで包容力のありそうなイメージがありますよね。そんなところから監督は亀に豊かな母性を見出したのかもしれません。
Rtasm1ちなみに鈴木敏夫プロデューサーによると「海外との共同制作は特例。次は考えてない」とのこと。なんでだよ! やれよ!! と思いましたが、全国でのあまりの不入りぶりを聞くとこの路線はまちがいなく赤字を増やすだけでしょう。赤亀だけに。たしかに広く一般受けするようなアニメではありません。でも末永く伝説として語り継がれる作品になることもまちがいありません。だからもう少し多くの人に観てほしい…

というわけで気になった方ははやく劇場に観に行ってください。来週まではたぶんまだやってると思うのですがそれすらも危うい状況です。公式HPには「大ヒット上映中!」とありますがウソはいかんウソは!! わたしの中じゃ超絶大ヒット中ですがね!!


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September 27, 2016

DC悪党列伝 デイビッド・エアー 『スーサイド・スクワッド』

Scscマーベル・シネマティック・ユニバースに追い付き追い越せと一生懸命がんばっているDCエクステンデッド・ユニバース。その第3作が現在公開中です。悪党たちを集めた異色のチームの活躍を描く『スーサイド・スクワッド』、ご紹介します。

お話は『バットマンVSスーパーマン』の直後から始まります。世界の守護者スーパーマンを失った米国政府は、人知を超えた脅威が襲来したとき、何を持ってそれを防ぐか明確な対策を打ち出せないでいた。やり手の政治家アマンダ・ウォラーは特殊な能力を持つ犯罪者たちを集め、特殊部隊「タスクフォースX」を結成。減刑と引き換えに計り知れぬ力をもった怪物と彼らを戦わせることにする。別名「自殺部隊」とも呼ばれる彼らは果たして任務から生還することができるのか。

実は自分アメコミファンを標榜するわりにこのタイトルのこと、映画化が決まるまで知りませんでした(^_^; 『スーサイド・スクワッド』が創刊されたのは1987年。けっこう前じゃん! まあアメコミでもジャンプでもそうですけど、人気キャラは突然前フリもなく死んだりしないものですよね。しかしこの『スーサイド・スクワッド』は忘れ去られたようなマイナーキャラばかり集められたチームゆえ、「いつだれがいきなり死んでもおかしくない」という非常にスリリングなお話となりました。しかしまあこのシリーズでブレイクしてしまったゆえ、主役格のデッドショットさんは自殺願望があるにも関わらず(原作のみでの設定)現在に至るまで生き残り、とうとうスクリーンデビューまで飾ってしまったから驚きです。
『スーサイド・スクワッド(以下、SS)』でもう一人俄然目立っているのはピエロのようなメイクが印象的なハーレクイン。希代のサイコ犯罪者ジョーカーにベタぼれしてしまってスーパーヴィランになってしまったやっぱりイカレてる女の子です。ハーレクインはもともとアニメシリーズで生み出されたキャラでしたが、人気が出てしまったのでコミックの方に逆輸入されたという変わった経歴の持ち主。ですからマイナーぞろいの『SS』の中では異端の存在と言えるかもしれません。

さて、映画の話。結論から言うと脚本が強引なところがないでもありません。時空に穴をあけてなんかヤバいものを呼び込む…といったクライマックスも最近よく見る陳腐な展開でありました。しかしその欠点を補ってあまりある魅力がこの映画にはあふれてました。特にアメコミファンには(笑)
まず冒頭のキャラ紹介シーン。特別出演のバットマンやらあのキャラやらがSSのメンバーとアクションを繰り広げ、画面をにぎわしてくれます。この辺でもう沸騰してるわがアドレナリン。さらに刑務所や修羅場で嬉々として銃を乱射するデッドショット、ふだん力を抑え込んでいるものの切れたら周りを焼き尽くしてしまうエル・ディアブロ、ビッチを気取ってるものの心の奥底に悲しい夢を抱え込んでるハーレクイン、それぞれの本性が露わにされる場面がいちいち突き抜けていて、忘れがたい印象を残していきます。

「もっと悪党として暴れてほしかった」という意見もあってそれもわかるんですが、わたしにとってはこの中途半端さ加減が『SS』 の魅力だったりします。わかりやすい活劇では大抵善玉は善玉、悪玉は悪玉と区分がはっきりしてるものですが、普通は程度の差こそあれ「人間いいことをしながら悪いことをし、悪いことをしながらいいことをする」ものです。そんな池波正太郎の名言通りに、善悪の狭間をぶらぶらしている『SS』の面々が実に親しみやすくいとおしい。
結末もまた最近のアメコミ映画の流れ通りにすっきりするものではなく… この辺もアンチさんの気に入らないところでしょうけどわたしはアリです(^_^; なにもかもがめでたしではない分少しほろ苦さが残るんですが、ちょっとだけ状況が前進している。そういう幕切れが好みなので。
いまのところ彼らの次なる活躍は未定なようですが(「解散させろ」とまで言われている…)、売り上げも好調なようですしDC映画世界のどこかでまた彼らに出会いたいものです。

2015_0428photo4というわけで『スーサイド・スクワッド』は現在全国でそこそこヒット上映中。先のX-MEN、タートルズが不発だっただけにさして派手でもないこの映画がそれなりにうけているのは意外です。ハーレクインちゃんの独特なかわいさが日本のガールズたちにも好評だったということでしょうかね。
DCEUの次なる作品はMCUでもまだないスーパー「ヒロイン」映画『ワンダーウーマン』。日本では来年夏に公開予定。そして第1期の総決算たる『ジャスティス・リーグ』へと続く予定です。


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September 22, 2016

超合体神セトバトラー アレックス・プロヤス 『キング・オブ・エジプト』

Koe1独特な映像センスが異彩を放つ豪州の映画監督アレックス・プロヤス。これまでSFっぽい作品を主に手掛けてきましたが、今回はファンタジーの世界に挑戦を試みています。『キング・オブ・エジプト』、ご紹介します。

その昔、エジプトでは神と人が共に交わって暮らしていた。神は人よりも大きな体と様々な超能力を有し、支配者として民衆の上に君臨していた。長く王座についていたオシリス神はある折、息子のホルスにその地位を譲ることを決める。だがオシリスの弟セトはそれを快く思わず、王位を簒奪。兄を殺し、甥を辺境へと追放する。セトの圧政は人々を苦しめ、それがもとで盗賊ベックと妻ザヤの絆は引き裂かれてしまう。ベックは妻を取り戻すために、失墜したホルスの力を借りようとするが…

まず注目すべきはたぶん映画で初めてエジプト神話を映像化したというとこですね。これまでファラオとかミイラとかを題材にした作品はそれなりにありましたが、ホルスやセトの物語を大々的に映画でやった例はなかったと思います。
ただこのエジプト神話、オシリスがバラバラ死体になるもののあの世でくっついて復活したとか、そのまんまやると娯楽作品としてはお客さんがついていけなくなる可能性があります。そこで多くの人が親しめるエンターテイメントにするべく、様々なアレンジがされていました。
ひとつにはオリジナルの人間キャラ・ベックを用意することによって。神様だけだと話に入りづらい感じがしますけど、わたしたちと同じ人間のキャラが主人公をつとめるならばぐっと感情移入もしやすくなるというもの。このベックがホルスとコンビを組むことでバディものとしても楽しめるようになっています。

で、神話のホルス神はまんま鳥の頭をしている変わった神様なのですが、この映画ではいざという時全身金ぴかの鳥人間に変身できるという思い切った設定になっています。古代の神話や英雄譚は現代のヒーローものの原型とよく言われますが、この『キング・オブ・エジプト』も一種のヒーロー映画として観られなくもありません。ただお話の序盤でホルスは早々と変身能力を失ってしまいます(笑) 変身できなくなった高慢な英雄が色々学んで、その力をいかにして取り戻すか。この映画はそんなヒーローの成長物語でもあります。

プロヤス監督のこれまでの作品は『アイ・ロボット』とか『ノウィング』とか暗い雰囲気のものが多かったように思えます。『キング・オブ・エジプト』にも少し物悲しい要素はあるんですが、それ以上に「楽しさ」を追求するカラーが目立っていました。冒険・超人・怪人・怪獣・合体・変身・バトル・おっぱい・魔法・謎解き・超アイテムとよくもこんだけ中二さんたちが好きなものをかき集めたな、という感じです。
なかなか一からオリジナルものを作るのはむずかしい。この『キング・オブ・エジプト』も一応「エジプト神話」という原作があります。金ぴかの神様やその他の演出もどこかで見た気がしないでもありません。しかしプロヤス監督はいろんなところからモチーフをかき集めて、なんとかオリジナル色の強いものをこしらえようと腐心しております。リメイクや続編ものがひしめいている映画業界にあって、そういった努力はもっと評価されていいんじゃないかな…と思いました。ちなみにわたしがこの映画で特にオリジナルを感じたのは巨大フンコロガシの馬車とかですね(笑) あと毎晩太陽の船で魔物を退治しにいくラーじいさん。センスがぶっ飛び過ぎててちょっと吹き出しちゃいましたが、なかなか強烈なインパクトでした。

Koe2『キング・オブ・エジプト』は現在全国の映画館で上映中ですが、客入りは微妙な様子。エジプト好きにはたまらんと思うのですが。それとも日本にはエジプト好きってそんなにいないものなのでしょうか。
ちなみに「世界20か国で初登場1位!」をうたってますが、製作費がかかりすぎたためかそれでも大赤字なようです(^_^; 映画ってむずかしいですねえ~


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September 20, 2016

光あるところに亀がある デイヴ・グリーン 、『ミュータント・ニンジャ・タートルズ 影』

Tnnts1懐かしさとゆるキャラブームからかわが国でもそこそこのヒットを飛ばした前作から約1年半。驚くべき速さでやつらが帰ってまいりました。長年アメリカで親しまれている忍者亀の活躍を描く第二弾、『ミュータント・ニンジャ・タートルズ 影』、ご紹介します。一作目の紹介記事はこちら。

NYを恐怖に陥れたシュレッダーとの激闘からしばらくして後。タートルズは町の平和を守りながらもバスケの試合のタダ観などにもいそしんでいた。そんな折、彼らのもとにシュレッダーの脱走計画が進行中との情報が入る。あわてて現場に急行し、激しいチェイスを繰り広げるタートルズとシュレッダー。その闘いを、遠い宇宙のかなたから
見守っている者がいた…

みんな同じ顔をしているせいか、ちょっと見分けがつきにくいタートルズ。しかし二作観てさすがにわたしにもなんとなく彼らの個性がわかるようになってきました。
まず長男的存在のリーダー・レオナルド。責任感あふれる頼もしいヒーローですが、たまに兄貴風を吹かし過ぎて弟たちからひんしゅくをかったりしてます。
次いで次男的存在のラファエロ。四人の中で最もマッチョな体格を誇り、自身もタフガイを気取っておりますが、肝心なところでビビリモードに入ってしまったりする。ワイルドスピードに出てきた黒人のアンちゃんの片方とよく似ています。
三男的な立場になるのは天才的なエンジニアであるドナテロ。メカオタクらしくメガネがトレードマークであります。メンバーの中で一番性格がまともというか、友達にいて支障ないタイプと思われます。
最後に末っ子的なキャラのミケランジェロ。とにかく騒々しくてやかましくてうざい(笑) おまけにピザが武器とか食べ物がもったいないやん! …とまあメンバー紹介はそんなとこです。

前作では「こんな家族いやだ! 家出してやる!」とラファエロが反抗期をこじらせるのがお話のメインでしたが、今回は彼らが人間になれる秘薬が発見されたために、それをめぐって兄弟の分裂が起きる…というストーリー。
「こんな醜い体はいやだ! はやく人間になりたい!」と願う彼らはまさに『妖怪人間べム』で、モンスターとしての自分に思い悩む姿にはつい涙を誘われました。まあ『べム』に比べればムードは全然明るいんですけど。

対照的に全く悩んでないのが新顔の悪役ビーバップ(イボイノシシ人間)とロックステディ(サイ人間)。異形の姿に変えられたのに「このボディ、めっちゃパワフルでええわ!」と大喜び。その底なしのポジティブさにわたしも見習いたいと思いました。新顔の悪役にはもう一人?脳みそがボディで、ロボットのおなかにおさまっているクランゲというのがいます。文章ではわかりづらいと思いますので下のフィギュアの画像をご参照ください。なかなかのグロさです。このお笑い3人組に囲まれてさぞやりづらいだろうに、それでも仏頂面を崩さないシュレッダーさんが大変おかしゅうございました。

製作のマイケル・ベイはよく「火薬盛りすぎ」「画面がごちゃごちゃしててわかりづらい」などと言われますが、『タートルズ』では彼が自ら監督してないせいか、火薬も適量ですしアクションも大変みやすい。この2作目ではその長所がさらに進化を遂げていました。…にも関わらず、日米ともに前作よりも売上的に伸び悩んでいるというのが現状です。理由としてはやっぱり「前作とそんなに間が開いてない」ということがあげられるでしょうか。よっぽどタートルズが好きな人は別として、一般の人たちは「えー、こないだやったばっかりじゃん!」と思ってしまいますからね。ヒット作がひしめく中にぶつかってしまった公開時期の悪さもあるかもしれません。せっかくそつなくいい作品に仕上がっているのに… 残念です。

Tnnts2敵味方含めて誰も死なないという『星雲仮面マシンマン』のような優しさが光る『ミュータント・ニンジャ・タートルズ 影』、お子様たちにも大変おすすめです。ただ公開は今週か来週で終了かも… 興味のある人はダッシュで観に行ってください。


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September 16, 2016

ビー・バップ・ミッション・スクール ジョン・カーニー 『シング・ストリート 未来へのうた』

Ma_01_s「音楽」をテーマにさわやかな傑作を撮り続けている、アイルランド出身の新鋭ジョン・カーニー。今日はその最新作、『シング・ストリート 未来へのうた』をご紹介します。

1985年のアイルランド。コナーは家庭の事情で学費の安いカトリック系の「シング・ストリート高校」へ転校することになる。だがそこは喧嘩や非行が横行する荒れ果てた環境だった。意気消沈したコナーの慰めとなったのは、校門の向かいにいつも座っている大人びた女性ラフィナ。彼女の気を引くためにバンドを結成したコナーは、恋と同時に曲作りの面白さにものめりこんでいく。

80年代のアイルランドというと『マスターキートン』や『機龍警察』を読んでいたせいで、殺風景な街並みの中「イギリス憎い~ イギリスぶっ殺す~」という呪詛に満ちているような、そんな印象がありました(すいません)。しかしこの映画を観ますと少なくとも若者たちは、英国や米国に純粋な憧れを抱いていたことがうかがえます。その点では80年代に十代だった日本のわたしたちとほとんど変わりありません。あのころの自分らにとって英語の映画や音楽というのは、絶対にかなわない圧倒的な存在として君臨していて、憧れと崇拝と反感がないまぜになったような気持ちを抱いていたものでした。いまの若い方たちはそこまでは意識していないように思えます。

面白かったのはカトリック系の学校といったら風紀とかめっちゃお上品になりそうなものなのに、なぜかビー・バップ・ハイスクール状態になっていたことですね。これまた当時校内暴力の名残があり、不良たちの存在にびくびくしながら学校に通っていた身としてはコナー君に感情移入せずにはいられませんでした。
ただですね~ コナー君曲作りが上達すればするほどに、痛さも残しつつどんどんかっこいい「男」として成長していってしまうのですね。ここら辺でさくっと置いてかれそうになる自分(笑) いくらなんでも進化早過ぎであります。で、そのコナー君と彼が恋い焦がれるラフィナの位置関係も興味深いものでした。

当初、ラフィナはコナーよりはるか先を進んでいるような女として登場します。しかし話が進むにつれ実はラフィナとコナーにはそれほど大きな隔たりがなかったことがわかってきます。彼女が海に飛び込んだ時キメキメのメイクが剥がれ落ち、まだあどけなさが残る素顔が出てきて、かわいらしさとと共に痛々しいものを感じました。初期のコナー君は「痛い」で、ラフィナは「痛々しい」です。この微妙なニュアンス、わかっていただけるでしょうか。そしてついにはコナー君はラフィナの手を取って引っ張っていくほどの成長を遂げていきます。

以下、ラストまでネタバレしてますのでご了承ください。

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わたくしてっきりこの映画バンドのサクセスまで描いていくのかと思ってましたが、希望と同時にかなり不安を残すような形で幕となってしまいました。すごくハッピーなムードなんだけど「やっぱりこのあと親の元に連れ戻されちゃうんだろうな」と予想させる『小さな恋のメロディ』を彷彿とさせたりもして。コナーとラフィナが数々の難関をうちやぶってずっと二人でいられれば…と願わずにはいられません。
80年代にティーンエイジャーだった自分の周りにはギターに夢を託す友人が多かったけれど、いまそれで飯を食ってるのは一人くらいしか知りません(しかも食うのがやっとだとか…)。今はもうコナー君ももう自分らと同じいいおっさんになっているとは思いますが、これがジョン・カーニー監督の自伝的作品であるということなら、少なくとも音楽に関わりのある仕事をしていることには変わりないわけですよね。そう考えるとちょっと安心いたします。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』へのオマージュとか、世に出たてのいかにもなミュージック・ビデオなど、3、40代には涙ちょちょ切れるネタが満載なのもこの映画の魅力です。遠く離れたアイルランドの話でこんなにも郷愁を感じるとはまったく予想外でありました。ありがとよ… 痛いメモリーも含めていろいろ思い出させてくれてよ…

3e35e06e4693f95e9e8ad9897b6a133e『シング・ストリート 未来へのうた』はわたしの住んでるところではついさっき最終上映がはじまったところかな(^_^; まだ公開が残ってるところも色々ありますので、くわしくは公式サイトをごらんください。

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September 12, 2016

犬と猫と鳥と兎とその他諸々の生活 クリス・ルノー&ヤーロー・チーニー 『ペット』

081106_131707夏休み中もっともヒットした邦画といえばご存知『シン・ゴジラ』ですが、洋画はといえばこちらになるのかな… ユニバーサル傘下のCGアニメの雄、イルミネーション・スタジオが送る最新作『ペット』、ご紹介します。

大都会NYで暮らす小型犬マックスは、大好きな飼い主のケイティと日々幸せな毎日を送っていた。だがある日その幸せは突然終わりを迎える。ケイティが保健所からもう一匹新しい犬を引き取ってきたのだ。態度が大きくぬけめない新入りのデュークに、マックスは苛立ちを募らせる。そして二匹の争いは散歩の途中ピークに達し、激しくやりあっているうちにリードが外れ見知らぬところへ迷い込んでしまう。果たしてマックスとデュークは無事ケイティのもとへ帰れるのだろうか。

これまでミニオンとかロラックスおじさんとか謎の物体をメインに作品を作ってきたイルミネーション・スタジオ。しかし今回はぐっと現実的にわたしたちの身近にいる動物を題材にしてきやがりました。ただ身近な動物といってもそこはイルミネーションさんなのでまっとうに描かれるはずもなく、ミニオンも顔負けのヘンテコ軍団として大活躍します。中心となっているのはマックスとデュークのコンビなんですが、彼らをめぐってマックスのアパートのペットチームと、ペットを目の敵にするNYのレジスタンス動物たちが激しいチェイスやバトルをえんえんと繰り広げるという構図になっております。

そんなドタバタの中にさりげなくこめられているのは、「他者を受け入れる」というテーマ。はじめは角突き合わせていたマックスとデュークも、旅の途中助け合っているうちに次第にお互いを仲間と見るようになっていきます。人間とペットたちを敵視していたギャングのボスのウサギ(この辺の設定が爆笑もんですが)も、敵意を捨てることにより真の幸せを得ることになります。そしてこの点で最も懐が広いのは、二匹の飼い主のケイティ。出番は決して多くはないんですが、行き場のなかった二匹を迷わずひきとり、部屋をちらかされても苦笑するだけで怒ったりしない。この世の中には…まだこんな聖母のような女性が存在するのでしょうか? きっとこの子はいいお母さんになると思います。
どちらかといえばテーマよりもバカバカしさに重きを置いているイルミネーションさんですが、この「自分の容量を広くしよう」というメッセージは一貫して訴えてきたことかもしれませんね。「女も子供も嫌いだ!」と言っていたグルーさんはその苦手意識を克服して幸福な家庭を得ましたし、『ロラックスおじさん』はある意味壮大な「許し」の話でありましたし。『イースターラビットのキャンディ工場』はすいません。観てません。

ただそんな暖かなメッセージもスノーボールのあまりのインパクトに伝わりにくくなってるかな、という気はします。このウサギ、見かけはかわいいのに凶暴で狡猾で過激で衝動的で… かと思えば突然ころっといいやつにもなったりして。正直主役を食うほどのキャラ立ちぶりでありました(^_^; 本当、このとんでもねえウサギのためだけにも『ペット』は観る価値があると思います。

A0a5922a189cb9b3656b7b4ca476004a800『ペット』はさすがに息切れしてきましたがまだまだ全国の映画館で大ヒット公開中。正直「こんなノンシリーズで普通の動物が主人公のアニメなんて売れんだろ」とおもってました。ごめんなさい。これがイルミネーション・スタジオの力なのか… 『シン・ゴジラ』もそうでしたが、ますます勘があたらなくなっている今日この頃です。


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September 08, 2016

忘れても好きな人 新海誠 『君の名は。』

Yn1宮崎駿なきあと(まだ生きてる)、日本のアニメ映画を(売上的に)制するのは細田守氏かと思われましたが、ここにきてぐぐっと急成長を遂げた勢力があります。本日はその新海誠監督の最新作『君の名は。』をご紹介します。

都心に暮らす少年・瀧と、山間の町で生活している少女・三葉。ある朝二人は突然お互いの体と心が入れ替わっていることに気が付く。幸いそれは一度眠りにつくと元に戻る現象ではあったが、「入れ替わり」はその後も定期的に起きた。慣れない肉体と見知らぬ環境、そして自分の体で好き勝手動き回るどこかの誰かに、二人は苛立ちをつのらせる。しかしいつしか瀧と三葉は相手の住む場所や交友に愛着を覚えていくのだった。そして遠い場所に住む「入れ替わり」の相手にも…

新海監督の映画でまず目を惹くのは、そのまばゆいばかりに光に満ちた背景。「キラキラ」でも「ギラギラ」でもなく、過剰でありながらしつこくはない。なかなか言葉では説明しづらいですがいっぺん観ていただければわかると思います。自分はアニメファンでありながら「実写でできる話は実写でやれや」と思ってしまうクチなのですが、新海監督の描き出す空や風景はそんなちんけなこだわりを吹き飛ばしてしまうほどの「映像力」に満ちています。
お話はというと、わたしも全部観てるわけじゃないですが、遠く離れた相手を想い続ける…というものが多い。当然恋愛がストーリーの主軸になるわけですが、そのロマンスも濃厚なものではなく、儚い消え入りそうな思慕の念をつづったものというか。あと体の接触はそこそこありますが、チューはまずしない。そんな作風です。

『君の名は。』を語るうえでどうしても避けられないのが監督の出世作『秒速5センチメートル』です。この作品も子供から大人へと成長していく男女二人の恋愛を描いたものなんですが、わたしのように未練がましい男にはグサグサグサグサ突き刺さる話でして(笑)。「かわいい絵柄のアニメだから夢でも見られるかと思ったか? 現実はこれだよ! 現実を見やがれ!!」とゴリゴリ懐に差し込んでくるような作品でした。そういう意味では『秒速…』はわたしにとって『火垂るの墓』となんら変わりありません。序盤の方でヒロインが「〇〇くんは、きっとこれからも大丈夫」というセリフがあるんですけど、観終わったあと「全然ダイジョーブじゃねーよ!!」と絶叫したものでした。ふふふ…

で、それから比べると『君の名は。』はかなり優しい、夢のような世界を描いた話です。以下、どんどんネタバレしていきますのでご了承ください。


この二作品の間になにがあったかというと、それは東日本大震災であります。このアニメの特に後半は、あの時失われた多くの命に対し、夢でもいいから会いたい、忘れたくない、という思いに満ちています。『君の名は。』で起きる災厄は「彗星の一部が地球に衝突する」というものでした。正直あまりに現実離れした設定ゆえ、ここでちょっとひきました(^_^; でもまあ「夢の話」であるならそれもありかなあと。あと地震とか津波とかリアルな災害にしてしまうと、いろんなところから抗議が出ると考えたのかもしれません。その点「彗星の衝突」はまず現実に起こりえませんからね。
それはともかく、物語の中盤で感じる「喪失感」はすさまじいものがあります。いつしか観てるわたしたちにも身近な存在であったテッシーやサユリン、一葉ばあちゃんや四葉ちゃん、そして三葉がこの世にはもういない…と知った時のショックは、凡百のアニメではそうそう感じられるものではありません。まあこれは実写でも言えることですが、この「喪失感」を上手に描いてるアニメは良作であることが多いですね。その喪失感が大きければ大きいほど、いつもと変わらぬ三葉たちにまた会えた時の感動もまた大きく。
『君の名は。』は新海監督の作品の中ではわりとファンタジーよりな方でしたが、それゆえに『秒速5センチメートル』にはなかった「優しさ」を感じました。この作品がそれまでよりも多くの人の支持を得ているのは、この優しさに負うところが大きいかと思います。

ただこの映画、終盤の展開を抜きにしてもいろいろ魅力にあふれた作品でした。異常に生活感にあふれた部屋の描きこみとか、地方者が都会に出てきた時の感動とか、田舎の風景や風習のきめ細かい描写や、見知らぬ土地に覚える郷愁…などなど。個人的には二人が入れ替わって男オンナ&女オトコになってからモテ度が上がる…という展開が面白かったです。まああれは二人のモトがいいから、というのもあるんでしょうけど。けっ

Yn2というわけで『君の名は。』は先の『シン・ゴジラ』を上回るほどの勢いで大ヒット公開中です。ほんまに今年の邦画の充実ぶりにはびっくりぽんですわ~


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September 06, 2016

俺の妹がこんなにアザラシなわけない トム・ムーア 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』

Sots1昨年アカデミー賞の長編部門にノミネートされ、独特の絵柄で世界中の人を魅了した本作品。日本でもようやっと公開となりました。アイルランドの民話を題材に描く『ソング・オブ・ザ・シー』、ご紹介します。

灯台で両親と幸せに暮らしていた少年ベン。だが母親は生まれたばかりの赤ん坊を残し、こつ然とベンと父の前から姿を消してしまう。突然の別れが心に傷を残したのか、ベンは妹シアーシャのことをうとむようになる。彼女が口をきけず、いつも面倒を見なくてはならないことも苛立ちをつのらせた。そんな折、シアーシャはある晩吸い寄せられるように隠されていた白いコートを身にまとう。そしてアザラシの群れと共に、海の中を生き生きと泳ぎ回るのだった。それは母親から受け継がれた妖精の血がなせる業であった。

まず面白いな、と思ったのはこれが兄と妹の話であるということですね。これが日本の長編アニメーションであればボーイ・ミーツ・ガール的なお話となり、少年の淡い恋心なんかも描かれちゃったりするわけですが、こちらは血のつながった二人のお話ゆえ、当然そういう方へは進みません。まあアニメの中には「妹萌え」というジャンルもありますが、ベン君は萌えるどころかうざったく感じていたりする。この主人公の少年が最初あまりいい子ちゃんじゃないところがよかったです。ややひねくれ気味だったベン君が、旅や試練を通じて、「自分こそが妹を守らねば」という思いに目覚めていく。兄として、男としてたくましく成長していく。はじめがアレだった分、感動も倍増するというものです。

で、このシアーシャちゃんがなんで兄が邪険にするのか理解不能なくらいかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうてかわゆうて(略)。 あの、わたしロリコンじゃないですよ? 純粋な意味でですねええ! …と、こういうのは必死になればなるほど疑われるんだよな。あの…違いますから…(クールに) こんなにかわいいのはやっぱりドラえもんのように円を基調としたデザインだからでしょうかね。マトリョーシカにもよく似ています。監督さんは「ジブリに影響を受けたと語っておられますが、少なくともビジュアル面はまるで別物と言っていい。妖精が身近にいる世界観などは、なるほどジブリっぽいですけどね。日本のアニメで近いものがあるとすればそれこそ『まんが日本昔ばなし』とか、細かな光の動きが『蟲師』の「蟲」によく似ていたりとか。

いまや世界の劇場アニメはすっかりCGが主流となってしまいました。日本では絵アニメ作ってますけど、こういう絵本みたいなものはほとんど見当たりませんしね。で、ヨーロッパはさすがに細々とこういうの作ってますが、妙にアートに特化して子供よりも大人よりのものが目立っていたりして。CGアニメやアート寄りのものも好きですけど、あくまで子供たちのためのしっとりとした絵アニメももっと作ってほしい。そのためにトム・ムーア監督にはがんばってほしいと思うのでした。

アイルランドの物悲しい楽曲もとりわけ印象深いものでした。わたしアイルランドの音楽っていうとエンヤさんくらいしか知らないですけどね… アイルランドの音楽といえば最近音楽映画を続けて撮っているジョン・カーニー監督の『シング・ストリート 未来へのうた』も昨日見てきたのでこちらについても近々語ります。ちなみに『ソング・オブ・ザ・シー』の副題が「海のうた」で『シング・ストリート』が「未来へのうた」です。ややこしいですね。

Nsc2『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』はまだたぶん恵比寿ガーデンシネマを中心に地道に公開中。今年はまだ楽しみなアニメ映画がいろいろありまして。『GANTZ:0』に『ゼーガペイン』総集編に『レッドタートル』に『この世界の片隅に』に、なんと『アイアン・ジャイアント』の特別編まである! きゃっほう! まるでこれじゃわたしがアニメオタクみたいじゃないですか! …まあそうなんだけど。


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