« やばいサンゴと礁 ジャウム・コレット=セラ 『ロスト・バケーション』 | Main | お化け退治プリキュア ポール・フェイグ 『ゴーストバスターズ』 »

August 14, 2016

残酷な遺伝子のテーゼ 庵野秀明 『シン・ゴジラ』

Photo蓋をあける前は昨年の『進撃の巨人』の再現か、と危ぶまれていましたが(わたしは大好きですけどね…)、公開されるや否や日本特撮映画久々の快作!と各所で大評判を呼んでいる本作。そんなわけで今回は日本では十二年ぶりの復活となりました『シン・ゴジラ』、ご紹介します。

東京湾を漂流していた謎のボート。調査に向かった海上保安庁のチームは、突如として海底で起きた爆発に飲み込まれ消息を絶つ。海底火山の噴火か…と内閣は推測するが、その後海中から巨大な尻尾が出現。爆発は未知の巨大生物に関わりがあることが明らかになる。やがて沿岸に上陸しその姿を現した怪獣。政府はある島の伝承に基づき怪獣を「ゴジラ」と命名する。ゴジラは付近の建物を盛大に破壊し海に帰って行ったが、それはまだ日本が直面する未曾有の災厄の始まりにすぎなかった。

最初にあまり語られることのない「1984年版」と重なるところが多いな、と感じました。対抗する怪獣が出てこない、政府がゴジラのために核兵器の使用を許可するか苦慮する、生物学的なアプローチからゴジラ退治の方法を考え出す…といったあたりが共通してます。ただ公開当時自分は小学生だったので、スクリーンでゴジラが観られただけで大満足でしたが、現在観てみて傑作かといえば幾分微妙と言わざるを得ません(^_^; 理由に関しては後ほどまた触れます。

そして何より思い出されたのは庵野監督の代表作『新世紀エヴァンゲリオン』です。襲来する未知の怪物、ブリーフィングルームで対策を練る特務機関の面々、都市機能を利用した迎撃方法、工場の生産ラインの細かい描写、そして画面にでかでかと映るテロップの数々、。最後のはもともと岡本喜八監督が好んで用いていた手法ですが、そういった演出を見て『エヴァ』を連想した人は多かったようです。
しかし『シン・ゴジラ』には『エヴァ』とは決定的に異なる点が二つあります。それについて述べましょう。

まずひとつは(当たり前ですが)この映画にはエヴァンゲリオンは登場しません。ウルトラマンも巨大ロボットも1984年版にさえ出てきた未来の超兵器さえありません。あくまで現実にある科学技術で、ミサイルも戦車砲も受けつけないバケモノをどのように倒すのか… そこがこの映画の見どころのひとつでもあります。一昨年のギャレス版でも描かれていましたが、ほとんど神とも言えるゴジラを前にして、人間たちは虫けらとほぼ変わりない存在です。そんな虫けらたちが頭を寄せ合い、あらん限りの知恵を絞って、集めて、ゴジラに立ち向かう。そう、今回ゴジラと戦うのはあくまで同格の怪獣ではなく、ちっぽけな人間たちなのです。

時々怪獣映画を観ていて「人間いらなくね?」と思うことがあります。怪獣映画の主人公というか語り手たちは、偶然その場に居合わせた一般人ということが多く、怪獣退治のヒントを見つけたりはするものの、自らがモンスターに立ち向かうことはあまりありません。まあ普通の人間がゴジラやその他の怪獣に立ち向かってもまず勝てませんからね。そこで最近どこぞのキャッチコピーにもありましたが、怪獣には怪獣をぶつけて事態の収拾をはかるわけです。しかしそうなると主人公たちはほとんど傍観者となって怪獣同士の闘いを見守るだけになり、先ほど述べた「人間いらなくね?」につながるわけです。あくまで人間が怪獣と真っ向から闘いを挑むのは、それこそ一作目『ゴジラ』や、平成ガメラ三部作、やはり平成に入ってからのメカゴジラ関連作品、『パシフィック・リム』くらいでしょうか。ちなみに対抗する気など全くなくてただひたすら逃げることに徹したのが『クローバーフィールド』です。

で、現実に怪獣が出現した場合、そいつと戦うことになるのは誰になるでしょうか。それは自衛隊であり、また自衛隊に指示を下す政府のお役人さんたちであります。居合わせた少年でもなく事件記者でもなく、このお役人とゴジラの戦いを真っ向から描いたところが、今までなかった『シン・ゴジラ』の新しい部分と言えるでしょう。

そのお役人の中心となるのが長谷川博巳氏演じる官僚・矢口蘭堂です。ここが『エヴァ』と決定的に違う点の二つ目ですが、この矢口さん、基本的にどんな時も恐ろしいほどに前向きです。次々と不測の事態が起きても絶えず次の手段を考え続けます。一秒たりとも迷ったりはしません。あのことあるごとに「戦いたくない」「なんでぼくが」と愚痴っていた『エヴァ』のシンジ君とまるで正反対の存在であります。そこだけ考えるととてもあの『エヴァ』を作った人の手掛けた作品とは思えません。聞くところによるとこの作品を撮る少し前まで、庵野監督はちょっとした鬱状態に陥っていたとのこと。それを聞くとますます「どうしてこんな前向きの映画が出来たんだろ?」と思えますが、そこまでポジティブなキャラクターに自分を投影しなきゃ鬱から抜け出せなかったということなのかな? ともあれ、監督がそうすることで回復したのなら実に喜ばしいことであります。

おそらく、庵野監督に鬱をもたらした原因のひとつに、3.11に起きた巨大地震と原発事故があります。これらの災害を怪獣映画として表現したという点でもかつてない作品です。1954年のゴジラが核兵器の申し子であるならば、2016年のゴジラは原発のメタファーであるというわけです。『エヴァ』がブームだったころ、インタビューで監督は「ぼくたちの世代には何もない」ということを言ってました。前の世代は戦争や安保闘争といった国を揺るがすような事態を体験しているけど、ぼくらにはそれがない。だからサブカルにのめりこむしかなかった…といった趣旨の発言だったかと。しかし不幸なことに、わたしたちも2011年、そうした事態に直面してしまいました。その体験や考えたことを庵野氏はこの映画に全力でぶつけています。「最後まで、この国を見捨てずにいてやろう」と言う矢口。やっぱり庵野さんは、そしてわたしもこの国が好きなんですよ。だってこんなにサブカルにまみれたヘンテコな国はそうないですからね。これは「愛国心」とは違います。「好国心」とでも言うべきか。国のために犠牲になる気はさらさらないけど、平和にサブカルが楽しめるようなんとかしていきたい… そんな気持ちでしょうか(^_^;

まあ正直この『シン・ゴジラ』、完璧な作品ではありません。あえて申しませんが、愛すべきつっこみどころも幾つかあります。それでも斬新で圧倒的な映像で細かい欠点をねじふせております。それが1984年版には足りなかった。この映画がこれだけ高い支持を得ているのは、その映像力にやられた人たちがそれだけいたということなのでしょう。もちろんわたしもその一人です。
B4zzvkmcyaemsa_『シン・ゴジラ』は現在二週にわたって売り上げトップを占めるほどの大ヒットを記録(信じられん…)。これでなんとか「次」にはつながったかな。少なくとも12年待たされることはないでしょう(笑)


|

« やばいサンゴと礁 ジャウム・コレット=セラ 『ロスト・バケーション』 | Main | お化け退治プリキュア ポール・フェイグ 『ゴーストバスターズ』 »

Comments

主人公の年齢っていうのもあるんじゃないですかね。
でも、いい年した大人が「やだやだ」言ってる『All You Need Is Kill』も面白かったけどw

>国のために犠牲になる気はさらさらないけど、平和にサブカルが楽しめるようなんとかしていきたい… そんな気持ちでしょうか(^_^;

オタクの本音ですよねwアニメとか映画に携わる人たちがもうちょっとマトモなお給料もらえるようになって欲しいもんですが

Posted by: ゴーダイ | August 14, 2016 at 11:39 PM

>ゴーダイさん

それはありますね。「やだやだ」言ってる大人だったらよっぽど強力なコネでもないとあの地位にはつけないw

庵野さんはエヴァで儲けた時スタッフにきちんと還元しよう努力してたそうなので、これからもその気持ちを忘れないでほしいものです

Posted by: SGA屋伍一 | August 16, 2016 at 09:45 PM

「震ゴジラ」→「寝ゴジラ」→「慎吾ジラ」 なんじゃそりゃ

Posted by: ボー | August 17, 2016 at 09:39 AM

伍一くん☆
さすがゴジラの絵上手!!パチパチ☆
彼はエヴァ作っているときにとっくに壊れていたからww
怪獣映画にもお詳しい伍一くんが概ね高い評価もらえて、ちょっと安心しました。
私はかなり傑作と思っているので~~
発声可能上映行きたかったなぁ。

Posted by: ノルウェーまだ~む | August 17, 2016 at 04:15 PM

>ボーさん

彼、いま大変みたいですね… ゴジラみたいに雄叫びをあげたいところかも

Posted by: SGA屋伍一 | August 19, 2016 at 09:52 PM

>ノルウェーまだ~むさん

愛情こめて描きましたから…
実は観終わったとき、「大満足だったけど、マニアックすぎてこれ売れんだろwww」と思ってました。すいません、庵野さん。すいません、東宝さん
女性限定のイベント上映も先日企画されましたが、3分で完売したそうです(^_^;

Posted by: SGA屋伍一 | August 19, 2016 at 09:55 PM

> 怪獣映画の主人公というか語り手たちは、偶然その場に居合わせた一般人ということが多く、怪獣退治のヒントを見つけたりはするものの、自らがモンスターに立ち向かうことはあまりありません。

魚がトラックを運転しちゃうような映画を作るディズニーとかピクサーさんなら、魚たちだけでゴジラを倒す映画を作ったり出来るんじゃないか、とか思いますね。

Posted by: ふじき78 | August 21, 2016 at 04:01 AM

>ふじき78さん

>魚たちだけでゴジラを倒す映画を作ったり出来るんじゃないか、とか思いますね。

人間の主演はぜひさかなクンにお願いしたいですね。「ギョギョ。すギョいギョジラですね!」とか言ってほしいです

Posted by: SGA屋伍一 | August 23, 2016 at 10:13 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/70832/64042492

Listed below are links to weblogs that reference 残酷な遺伝子のテーゼ 庵野秀明 『シン・ゴジラ』:

» シン・ゴジラ [HEAVEN INSITE's Blog]
 「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆ 業☆☆☆☆☆」  ラーメンのびちゃったよ。  なんとカードのポイントでタダで見れました。しかし言葉に困る。気軽に面白いって言うとヤ [Read More]

Tracked on August 14, 2016 at 11:40 PM

» 「シン・ゴジラ」 [或る日の出来事]
ユニークでおもしろい。 [Read More]

Tracked on August 17, 2016 at 09:31 AM

» 「シン・ゴジラ」☆リバイバルでリハビリ [ノルウェー暮らし・イン・原宿]
庵野映画である。 それが証拠に、劇場で売っている記念グッズのジグソーパズルだってTシャツだって、ゴジラとエヴァが戦っている絵なのだし、公式サイトでは既にエヴァにゴジラの尻尾が生えた合体フィギアも販売されていたり・・・・ いいのよ、だって庵野監督作品なんだから・・・・... [Read More]

Tracked on August 17, 2016 at 04:16 PM

» 『シン・ゴジラ』をトーホーシネマズ六本木7と、109シネマズ木場2で観て、訳分からんけどおもろいやんけふじき★★★★★(ネタバレ)その1 [ふじき78の死屍累々映画日記]
▲「こんなに目が小さい奴に二代目西川きよしを襲名させる訳にはいかん!」 五つ星評価で【★★★★★何故だか分からない。だが、面白いのだ】 ネタバレ注意 見終わっての第 ... [Read More]

Tracked on August 21, 2016 at 04:02 AM

» 『シン・ゴジラ』をトーホーシネマズ六本木7と、109シネマズ木場2で観て、訳分からんけどおもろいやんけふじき★★★★★(ネタバレ)その2 [ふじき78の死屍累々映画日記]
▲この次の第五形態で手足を引っ込めてジェット噴射で回転しながら空を飛びます(違) 引き続きネタバレ注意 その1では何で面白いのかに対して、 「人間パートで溜めたスト ... [Read More]

Tracked on August 21, 2016 at 04:02 AM

» シン・ゴジラ [銀幕大帝α]
SHIN GODZLLA 2016年 日本 119分 SF/特撮/ミリタリー 劇場公開(2016/07/29) 監督: 庵野秀明(総監督) 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.33 YOU CAN (NOT) REDO.』 樋口真嗣 『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』 脚本: ...... [Read More]

Tracked on March 26, 2017 at 08:34 PM

« やばいサンゴと礁 ジャウム・コレット=セラ 『ロスト・バケーション』 | Main | お化け退治プリキュア ポール・フェイグ 『ゴーストバスターズ』 »