サカナはあぶれたタコでいい アンドリュー・スタントン 『ファインディング・ドリー』
八代亜紀の声で読んでください… ID4にアリスにゴーストバスターズに、今夏もいろんなタイトルがカムバックしてますが、たぶんもっともヒットするのはこの作品ではなかろうかと。ピクサー草創期の傑作『ファインディング・ニモ』のその後を描く『ファインディング・ドリー』、ご紹介します。
地球をまたにかけたあの大冒険から一年後くらい(現実には12年の月日が経ってますが…)。クマノミのマーリン親子の親友で忘れん坊のドリーは、突然自分に両親がいたことを思い出す。矢も楯もたまらず、おぼろげな記憶を頼りに故郷に向かおうとするドリー。そんな彼女をほっておけず、マーリンとニモはドリーの家族を見つけるため再び旅に出ることに。
前作でマーリンの相棒を務めたナンヨウハギのドリー。ちょっと泳ぐともう前のことを忘れてしまう彼女を見て、「ナンヨウハギっていうのはそんなに記憶容量が少ないんだ」と思ったものでした。しかし今回彼女の主演の映画を観て、この障害はナンヨウハギすべてに共通する特徴ではなく、ドリー個人(個体)のものであったことが明かされました。まあ考えてみれば魚がどれほど前のことを覚えているかなんて、魚になってみなけりゃわかりませんからねえ。
そんなわけで今回のテーマは「忘却」であります。いつも明るく振舞っているドリーですが、その裏で彼女がどれほど心細く悲しい思いをしていたかがやんわり語られ、冒頭から涙ちょちょ切れました。
あとドリーほどひどくないにせよ、わたしも最近物忘れがどんどんひどくなっているので彼女の障害が他人事というか他魚事とは思えませんでした。まず人の顔を覚えるのがさらに苦手になりました。たぶん前に会った人から道端であいさつされ、「誰だっけこのひと」と悩むことなどしょっちゅうです。ほかにも昨日何を食べたか、ということですらすぐには思い出せません。きっとわたしは人よりボケるのが早いと思います。
ただ不思議なもので好きなこととか、子供のころのことというのは鮮明に覚えているものですね。ドリーも自分の原体験を芋づる式に呼び起こして少しずつ故郷へと近づいていきます。前作のクライマックスはニモに会った時のドリーのフラッシュバックだと思っているのですが、今回はもうフラッシュバックの乱れ打ちで滅法楽しかった反面すこし胃もたれがしました(^_^;
話は少しそれますが先日お酒の席で「自分が一番最初に覚えている記憶は何か」なんて話になりまして。自分の場合は2歳まで住んでた団地から見える山の風景だった…なんてことを久しぶりに思い出したりしました。
あと前作もそうでしたが、ドリーとマーリンの関係というのも興味深いですね。お互い大切に思っている者同士なのに、種が違うゆえに決して夫婦になることはないという。でも二匹も別にそれで十分満足してるように見えます。よく「男と女の間に友情は成立するか?」という問いかけがあります。もてないゆえにお友達レベルから先に進ませてもらえないわたしとしては「そんなもん成立するに決まってんだろバッキャロー!」と言いたいですが、マーリンとドリーはこの性を越えた友情の理想形と言えるかもしれません。
ほかに印象深い点としてはやっぱり「八代亜紀」でしょうか。ドリーが目指す博物館でかかるおごそこなアナウンスの声がなぜか八代亜紀なのですね。登場人物(動物)も「八代亜紀さんがこう言ってた」と連呼したりするので、魚の間でも彼女は有名人のようです。これ、もちろん本国では八代亜紀ではなくシガ二―・ウィーバーが声をあてているそうです。それはもちろんSF好きのスタントン監督の趣味かと思われますが(『WALL・E』でも起用している)、なぜシガ二―が八代になったのかは謎です。聞いたところによると八代さんは霊感が強くこれまでに何度も心霊現象に出くわしてるとのことなので、そういう超常と縁のあるところから日本版シガ二―として選ばれたのかな…(苦しい) いずれにせよ彼女の歌うエンディングはなかなかしっとりしたいい曲でした。もちろん『舟歌』ではありません。
さらによくわからなかったシロイルカの遠視能力をわかりやすく映像で表現してたのも高ポイントでした。実際にあんな風に見えてるのかはやっぱりシロイルカになってみないとわからないでしょうけど、こういう表現、今まで映画の『デアデビル』くらいでしか見たことなかったのでテンションあがっちゃったのですね。
というわけで今回も「さすがはピクサー」とうならされた『ファインディング・ドリー』。唯一ひっかかるのは前作の主役であったマーリンさんの影の薄さでしょうか。チラシには「ドリーとニモの冒険が始まる!」と書いてあるし、グッズもこの二匹のばかりだし… まあわたしも時々彼の名前忘れるんでひとのこと言えないんですけどね(笑)
夏休みぶっちぎりのヒットになるかと思った本作品ですが、現在『ワンピース』と『シン・ゴジラ』の三つ巴のような戦いを繰り広げています。奇しくも3本とも海関係。なんにせよ映画館がにぎわってて大変めでたきとことであります。
Comments
伍一くん☆
涙ちょちょ切れたよね~
子供ドリーが何でもすぐ忘れちゃうのを目の当たりにした時、両親がぎゅーっと抱きしめるシーンで、愛おしい気持ちと心配な気持ちと親としての様々な感情がもんんんんんんの凄く身に染みて堪らなかったわ。
そんな我が家は今日から息子が友達とタイにバックパッカーの旅へ出掛けて行きました。ほぼ準備期間なしでふらりと行ったけど…(汗)
伍一くん、物忘れ早すぎ!!
でも忘れるのも大切な事ってあるよね。
私も認知症の義母の介護にまた帰省するためには、大変だったこと忘れやすい性格で良かったと思うようにしているわ。
Posted by: ノルウェーまだ~む | August 05, 2016 05:36 PM
>ノルウェーまだ~むさん
親御さんの立場から見たらドリーを心配する親ナンヨウハギの気持ちはぐっと心にしみたでしょうね。わたしは独り身ですがドリーちゃんが半べそかきながら海を放浪するシーンで鼻水が噴出しました
まあまだ~むさん、「かわいいこには旅をさせよ」っことじゃないでしょうかね(偉そうに)
介護もお疲れ様です。まだ~むのポジティブな考え方、大変すばらしいですね。見習いたい限りです
Posted by: SGA屋伍一 | August 08, 2016 08:43 PM