世界はPCで回っている ジャコ・ヴァン・ドルマル 『神様メール』
『トト・ザ・ヒーロー』『ミスター・ノーバディ』で知られるベルギーの鬼才ジャコ・ヴァン・ドルマル。その最新作はとにかく「奇妙奇天烈」としか言いようのない異色コメディ。『神様メール』、ご紹介します。
21世紀の現代。地球を治める神はブリュッセルのあるアパートに住み、その部屋のパソコンから人々の運命をもてあそんで楽しんでいた。神の一人娘エアはそんな父親が大嫌いで、彼の作った秩序をぶちこわそうと世界中の人々に余命を知らせるメールを送信する。そして自分なりの新しい聖書を作ろうと生まれて初めてアパートの外へ脱出する。
えええと、どうでしょう。この説明でわかっていただけたでしょうか。…わかりませんよね(^_^; 大体パソコンを使って運命をあやつるなら、それが発明される前はどうやって業務をこなしていたんでしょう。そんな風に頭にひらめく疑問が数限りなく生じてくるのですが、たぶんその辺の謎に答えはありません。なんというかこの映画はそういう風にまともな思考でつっこんでしまったら負けのような気がします。豆腐のように柔らかい頭でそのぶっとんだ感覚を「うわーい、へんてこりんだーい」と楽しめた人の勝ちでしょう。
ですからついていけない人はついていけないと思います。お笑いセンスというのは本当に人によってそれぞれですから。しかし幸いわたしはドル丸監督のギャグと波長があうところがありまして、けっこう楽しませていただきました。とくに受けたのは神様が作り出した様々な意地悪な法則とか、エアちゃんが選んだ三番目の使徒のエロエロな妄想などなど。余命がまだまだあると知って無茶なチャレンジを繰り返す青年にも笑わせてもらいました。ちなみにこの映画子供が主人公なのにおっぱいも出たりするためPG15設定となっております。
原題は「Le tout nouveau testament」。字幕では「新・新約聖書」と訳されていました。旧約聖書の神は、時に人々に恐ろしく容赦ない神だと思われるようです。『ノア』や『エクソダス』を観てもわかるように、自分に従わない人々を天変地異でざーっと滅ぼしてしまうこともあるので。この映画の意地悪な神様はそうしたイメージを膨らませて監督が作り上げたものかと(それにしてはいろいろせこすぎますが)。それに対して西暦1世紀に人々にやさしく愛を説いてまわったのが「神の子」と言われるイエス・キリスト。そしてそれから約2千年。いい加減新しい神様、新しい聖書、新しい使徒たちが登場してもいいんじゃないの?という発想のもとこの映画は作られたのでしょう。
ただ新しい神様はどっからどう見てもまだ幼い女の子だし、使徒に選ばれるのはモラル的に自由奔放な人々ばかり。キリスト教が根深く信じられてる欧州では怒られたりしなかったのかなあ…と思いましたがとりあえず本国ではけっこうなヒットを飛ばして色々賞も獲得してるようなので、ヨーロッパの人たちもあまりその辺に関して厳しくはないようです。
話を少し戻して。わたしがこの映画になんとかついていけたのは、これまでなじんできた数々のヘンテコ映画を思い出させるところがあったからかもしれません。『地下鉄のザジ』『エル・トポ』『マルコビッチの穴』『サウンド・オブ・ノイズ』『レニングラード・カウボーイズ モーゼに会う』など。これらの映画の好きな方だったらたぶん『神様メール』も楽しめるかと思います。
それにしてもテレンス・マリックといい、アレハンドロ・ホドロフスキーといい、そしてこのジャコ・ヴァン・ドルマルもこれまで「寡作」と言われてきた監督がここにきて製作ペースを早めてきていますね。さすがに余命が気になってきて焦ってるんでしょうか。いいことです。
『神様メール』は現在都市部を中心に全国の映画館で公開中であります。
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