« May 2016 | Main | July 2016 »

June 29, 2016

チェコアニメ泥酔編 ヤロスラフ・ハシェク イジー・トルンカ 「兵士シュヴェイク」シリーズ

400x311健康診断のため二日酒をひかえていたんですが、今日は豪快に深酒してていい気分ですw そんな心持ちにもってこいのチェコアニメ、「兵士シュヴェイク」シリーズを紹介いたします。

時は第一次世界大戦。平和だったチェコでも軍人たちがやたらと威張り散らかすようになっていた。そんな中下位のの兵士シュヴェイクはいたずら心なのか天然なのか、上官たちを逆なでするようなことを言っては窮地に追い込まれる。だがシュヴェイクはまったく意に介することなく、偶然なのか計算なのか、そうしたピンチを次々と乗り越えていく。

今回記事を書くにあたって初めて知ったのですが、シュヴェイクというのはもともとチェコのユーモア作家ハシェクが想像した国民的キャラクターなんですね。岩波書店から邦訳も出てますし、チェコ語で検索すると実写版の動画もいくつかあがってきます。このハシェクさんという方の経歴をさらっと読んでみたら、うっかりちゃっかりした作風とは対照的に太宰治もかくや…というほどの壮絶な人生を歩まれています。

それはさておき。

その国民的キャラクターを人形アニメ化したのがシュバンクマイエルと並び称されるチェコアニメの巨匠イジー・トルンカ。1954年に「コニャックを探せ!」(24分)、「列車騒動をおさめろ!」(21分)、「行き先はどこだ?」(30分)の3作品が作られました。これまで度々チェコアニメの上映会で名前はみてましたが、なかなかタイミングが合わず、先日渋谷はアップリンクで行われたイベントでようやく拝見することができました。

というわけでチェコアニメにしては珍しい軍記物なのですが、想像をはるかに上回るゆるゆるさです。まず兵器もそんなに進歩していなかった第一次大戦というのがゆるさの原因のひとつです(この戦争とて場所によっては相当悲惨だったようですが)。ちらっと影絵で当時の空戦の様子が映るのですが、機銃がまだ飛行機に搭載されていなかったころゆえかパイロットが拳銃で撃ちあったりしてました。
それですらイメージ場面です。シュヴェイクにいたっては全く戦わないし周囲のだれも死にません。ひたすら後方をのらくらのらくらしてるだけです。このムード、イベントの主催者さんもおっしゃってましたが『釣りバカ日誌』のハマちゃんに少し通ずるものがあります。植木等の「無責任男」シリーズやとんち話の一休さんなども彷彿とさせますね。かように与太郎モノがいけすかない上役を出し抜く話は洋の東西や時代に関わらず人気があるということですね。
あとこのアニメのもうひとつの特徴は登場人物がとにかくよく酒をガバガバ飲むということです。さすがはその辺子供向けの体裁を取りながら子供のことなんかあんまり考えてないイジー・トルンカであります。まあ酒は身を滅ぼすみたいな教訓が感じられないでもないですが、人形たちがそれはもううまそうにお酒をのむこと。こんなの子供のころから観てたらお酒への愛着が深まるばかりですよ。ちなみにチェコは世界で最も1人当たりのビール消費量が激しい国とのこと。このイベントもワンドリンク制でビールを飲みのみ鑑賞させていただきました。そして鑑賞後もついつい近くのお店で酒が弾んでしまったりしてね… ははは…

400x311_2渋谷アップリンクではこれからも間隔を置いてチェコアニメ上映会を開催する模様。くわしくは公式HPをごらんください。
ここまで書いておいてなんですが、やっぱり飲みすぎはよくないですね! 気をつけましょう! ぷはー


| | Comments (0) | TrackBack (0)

June 27, 2016

クローバー畑で捕まえられて ダン・トラクテンバーグ 『10クローバーフィールド・レーン』

20090910184612みなさん2008年の『クローバーフィールド』という映画を覚えているでしょうか。当時は謎が謎を呼ぶ宣伝形式がそれなりに話題になったりしていました。怪獣映画であるにも関わらず、最初から最後までいわゆるPOV形式だったのも印象的でした。画像は劇中でチラチラ断片しか映らなかった主役の怪獣です。その『クローバーフィールド』から8年。抜き打ちのようにしてあいつが帰ってきた…のかな? 『10クローバーフィールド・レーン』、ご紹介します。

恋人と別れて車で疾走していたミシェルは事故に合い気を失う。彼女が目覚めるとそこは見知らぬ一室で片足は鎖でつながれていた。やがて部屋に一人の男(演ジョン・グッドマン)が入ってきた。おびえるミシェルに男は周囲は毒ガスで汚染されてしまったので、しばらくこのシェルターに避難するよう告げるのだが…

前作?の感想はこちらなんですが、久しぶりに読んでみたらなかなかひどい文章でわけのわからないこと書いてたので、あえて読まないようお願いします。
この続編?、実に変わった形で世に出てきました。普通メジャー洋画の続編というものは2年くらい前から企画が発表されて期待をあおるものです。ところが『10クローバーフィールド・レーン』の製作が明かされたのはわずか半年前。「実はこっそりこんなもの作ってました!」的な発表で世界中の映画ファンの度肝を抜きました。
ただ2014年ごろ、J.J.エイブラムスらが『ザ・セルラー』という映画を製作することが発表されていたのですが、この『ザ・セルラー』のキャストやあらすじが『10クローバー~』と全く一緒なんです。つまりまったく独立した映画を作ってるように見せかけて、実は『クローバーフィールド』とつながったお話をこしらえていたわけですね。やってくれたなJJエイブ! くわしくはこちらの杉山すぴ豊さんの記事をごらんください。

さて、そうなるとどうしても期待してしまいますよね。怪獣を。ではさぞや怪獣が大暴れするかというとこれが … … … よくも悪くも怪獣よりもジョン・グッドマンの方が目立っていたと言わざるを得ません。
一言で言うとこれは「ジョン・グッドマンをどこまで信じられるか?」という映画です。
ジョンさんてちょっとでっぷりしてるけど優しそうだし笑顔もさわやかだし、いい人の役をいっぱいやってるのでこの映画でもいい人だと信じたいんです。なんせ名前も「グッドマン」ってくらいだし。たとえ見ず知らずの女性をいきなり手錠でつないだりしたとしても。
実際彼が演じるハワードは多少情緒不安定だったり挙動不審だったりはしますが、それなりに懐も大きそうだしミシェルを心配してるようにも見える。微妙に怪しげでも彼の「周囲に怪しいものがうろついている」という言葉も本当なのでは…と思えてきます。だってそうじゃないと『クローバーフィールド』とつながらないし。そんな風にハワード=グッドマンの一言一言、一挙手一投足に心が揺れ続ける約100分でした(怪獣は?)。

シェルターの中にはもう一人エメットという若い男がおります。この男も最初いかにもちゃらくて胡散臭げなのですが、彼の背景がわかってくるとだんだん親しみがわいてくるし、わりかしきれいな顔をしてることに気づきます。演じるジョン・ギャラガーJr.は少し前の『ショート・ターム』でも似たような印象でした。

ちなみにこの『10クローバーフィールド・レーン』、ハリウッド映画としてはけっこう低予算の部類に入ります。製作費1500万$だそうなので。比較しますと前作が2500万、『スカイライン』が1000万、『モンスターズ/地球外生命体』が50万、今度やる『インデぺンデンス・デイ:リサージェンス』が2億です(^_^; SF映画の予算もめちゃくちゃはばがありますねい。その低予算が功を奏したのか、本国では中ヒットながらもすでに世界で製作費の十倍近くを稼いでいる模様。JJがまたなんか変わったアイデアを思いついたら、「クローバーフィールド」の世界の別のお話が観られるかもしれません。観たいな!

C10rただこの映画、日本では初登場で10位以内に入らなかったので早めに終わりそうな予感。興味おありの方は急ぎましょう。夏には直球の怪獣映画(だといいなあ)の『シン・ゴジラ』も公開されますので見比べてみるのも一興かと。


| | Comments (4) | TrackBack (4)

June 24, 2016

アンドロイドでも大丈夫じゃない アレックス・ガーランド 『エクス・マキナ』

Exmcn1低予算ながら海外で高い評価を得、日本ではいつ観られるかな…とやきもきしてたらアカデミー視覚効果賞を受賞してようやく公開が決まりました。『エクス・マキナ』ご紹介します。

IT系の企業に働くケイレブは社内で行われていた「社長の屋敷で一週間すごせる」という懸賞に当選。意気揚々と大自然に囲まれた邸宅にやってくる。だがケイレブは社長のネイサンと会い、それが単なる慰労ではなく人工知能のテストの試験員も兼ねていたということを知らされる。やがてネイサンの最新作である女性型ロボット「エヴァ」と引き合わされるケイレブ。彼女と対話を重ねていくうちに、ケイレブは純真で繊細なエヴァに惹かれていき…

これが日本の少年漫画なら、とくにとりえもないけどお人よしの少年がキュートなロボットに「萌え~」とか言いながらうっかりちゃっかりしたラブコメを繰り広げていくんでしょうね。しかしこの映画にはそうしたお気楽なムードは一片もなく、お話が進むにつれどんどん不穏な緊張感が高められていきます。
この「一週間の間見知らぬ人たちと過ごすことになる」「最初はフレンドリーだったのにだんだんおっかなくなってくる」というストーリー、最近どっかで…と思ったらシャマランの『ヴィジット』がそうでした。そういやあれもけっこうな低予算でしたなあ。ただ『ヴィジット』は怖がりながらも笑える映画でしたが、こちらは「それはひょっとしてギャグなのか?」と戸惑う場面が2,3ある程度でした。

なんでこの映画がそんなに怖いのか。それはたぶん欧米の人たちにとって人工知能というのは基本的にモンスターだからだと思うのです。日本ではアトムやドラえもんの功績で親しみやすいロボットですが、向こうの人たちにとってロボの原点はフランケンシュタインやゴーレムの怪物ですからね(トランスフォーマーやR2-D2といった例外もありますが)。加えて人間とは根本的に作りが違うゆえ、「何を考えているかわからない」そういった得体のしれない不気味さもあるのでは。
ただ…ですね… (ここからどんどんネタバレしていきます) 「なにを考えているかわからない」そういう怖さは相手が人間でも十分にあることです。相手は「あなたのこと愛してる♪」と言っていても、もしかしたら単に自分のエゴのためにあなたを利用しようとしてるだけかもしれない。怖い… 現実的なだけに一層怖い話ですね!! まあエヴァちゃんも人間に使われてただけなのが、そういったエゴに目覚めることによってある意味「人間」として完成されたと言えなくもありません。

女性型ロボットのアイコンといえば『メトロポリス』のマリアがおります。『エクス・マキナ』の「エヴァ」という名は彼女を意識して付けられたものかもしれません。聖女の象徴のようなマリアに対し、自分の欲望のために人類に死をもたらしたエヴァ。そんな恐ろしい女にロボロボ、じゃなくてボロボロにされてみたいものですね!

そんなエヴァちゃんに翻弄されるのが最近売出し中のドーナル・グリーソン君。なんか血色が薄くて不幸のよく似合う顔立ち。そういう意味では今回も大変役柄にマッチしておりました。もう一人ドーナル君を翻弄していたのが『スターウォーズ』でも一緒に出てたオスカー・アイザックさん。今回はポー・ダメロンとはうって変ってハゲにヒゲダルマで登場します。ていうかそのスタイルで日本趣味もありエキセントリックでITの寵児って「ジョブズかよ!」と誰もがつっこみたくなったのではないでしょうか。

Img_0『エクス・マキナ』は小規模公開ながらも現在各都市の映画館で公開中。気になる方は公式サイトをチェックしてみてください。


| | Comments (2) | TrackBack (1)

June 17, 2016

ボクシング映画によくある風景 アントワン・フークア 『サウスポー』

Susp1イケメンながらキモい系の役も十二分にこなす実力派俳優ジェイク・ギレンホール。そのジェイク氏が熱いボクシング映画をやると聞いて「これは間違いない!」と思い行ってまいりました。『サウスポー』、ご紹介します。

ビリー・ホープは孤児ながら愛する人の支えと類まれなる闘志でボクシングのランクを駆け上り、ついには世界統一王者のベルトをも手に入れる。だが頂点に上り詰めたのもつかの間、自分の激昂がもとで起きた事故から彼は最愛の妻を失い、茫然自失の状態に陥ってしまう。試合には負け、財産を失い、信頼していたプロモーターには去られ、ついには唯一残った娘とも引き離されてしまうホープ。栄光からどん底まで転落した彼は、父として、チャンプとして再び立つことはできるのだろうか。

そんなに頻繁ではないですが、ハリウッドでもポツポツと作られてますよね、ボクシング映画。で、その名作は「再起の物語」であることが少なくありません。日本のスポーツ漫画のように才能のある若者が健康的にステップアップしていくのではなく、すでにいい年のうらぶれた大人が底辺から這い上がっていく話が多いです(その点暮れに公開されていた『クリード』はなかなか異色ものでした)。まあやっぱりボクシングで頂点に挑むというのは、「再起の物語」としてそれだけ絵になるし、観る者の心を燃え立たせるものがあるんでしょうね。実際の例としても先日亡くなったモハメッド・アリやジョージ・フォアマンの復帰戦などは、下手なフィクションが裸足で逃げ出すほどにドラマチックでしたし。
ただ大変なのは演じる役者さん。アスリートでもないのにボクサーを演じるとなればそれなりに体を作ってこなければなりません。今回ジェイク君がそのためにこなしたメニューは

・ランニング/13㎞ 週5回
・縄跳び/15分
・ディフェンス練習/3分×3
・パンチング練習/3分×6
・サンドバッグ打ち(動きなし)/3分×3
・サンドバッグ打ち(動きあり)/3分×3
・腹筋/500〜1000回
・懸垂/100回
・ディップス/100回
・136㎏のタイヤをハンマーでたたく/3分
・136㎏のタイヤを投げる/20回
・スクワット/100回

…これを一日二回、約半年続けたそうです。お疲れ様でした… 『ナイトクロウラー』で演じた貧弱メンヘラの面影は全くありません。そこまでして作り上げたバディがまず見どころと言えます。

あと『サウスポー』の際立った点と言いますと、再起ものとはいえとにかくどん底の部分が長い。そしてきつい(^_^; まあ主人公が追い込まれれば追い込まれるほどクライマックスのファイトも盛り上がるものかもしれませんが、それにしても辛い。あんなに自分を慕っていた娘ちゃんから「死ねばよかったのに!」と言われるほどですからこのボディブローは相当なものです。『ロッキー・ザ・ファイナル』で「人生ほど重いパンチはない!」とスタローンが言ってましたが、まさにヘビー級のメガトンパンチでしたね。それでもなお起き上がり、少しずつ人格的にも成長していくホープの姿には目を見張るものがありました。

以下、ネタバレ。

再びつかんだタイトルマッチにおいて、娘との絆を取り戻すホープ。わたしてっきりここでパパのピンチにお嬢ちゃんがリングサイドに駆けつけ、弱ってる彼の闘志を燃えあがらせるのかと思ってました。ところがお嬢ちゃんはいつまで立っても控室から出ることなく、ついにそのまま試合終了。この辺の展開には少し首をかしげました。
考えてみますに、成長前のホープはいわば「世界最強の男」であるのに奥さんに依存しきってるようなところがありました。試合中でさえもいつも客席で奥さんを探しているほどに。ここでお嬢ちゃんが出なければ勝てないのであれば、それではやはり誰かに依存していることに変わりがなくなってしまう。そばで見ていなくても心の中の支えとして自分の力にすることで、ようやくホープは一人前の大人になれた…ということだったんですかね~

31jfgz6clというわけで現在全国で公開中の『サウスポー』ですが、今の日本ではボクシングものって人気ないのかあんまりお客さん入ってないようです。おなかがポヨンと出っ張った人は引き締めるモチベーションを高めるためにもぜひ観に行きましょう。あしたのため~そのいち~ ひだりわきえぐりこむように~


| | Comments (0) | TrackBack (0)

June 13, 2016

チミチャンガは俺チャンが ティム・ミラー 『デッドプール』

20160611_2004322016年も続く怒涛のアメコミ映画ラッシュ。そしてついにマーベルきっての異端児というか問題児の登場とあいなりました。全米で公開されるや大旋風を巻き起こした『デッドプール』、ご紹介しましょう。

元特殊部隊で今は町の用心棒をしているウェイド・ウィルソンは、ある日自分と同じように弾けた性格の娼婦ヴァネッサと出会う。たちまち激しい恋に落ちたウェイドは彼女と暮らし始め、やがて念願のプロポーズへとこぎつけ、ヴァネッサの承諾を得る。だが幸せの絶頂もつかの間。ウェイドは自分が重度のガンに侵されていることを知る。失意のウェイドに怪しげな組織が近づく。彼らは自分たちの実験に協力すればガンの治療も可能だとウェイドにもちかける。だがそれが彼をとんでもない怪物というか超人というかヘンテコな存在「デッドプール」に変えることになろうとは…

デッドプールの誕生は1991年。X-MENの分家のひとつ「ニューミュータンツ」の悪役として登場したのでした。当初一回こっきりのゲストキャラとして作り出されたデッドプールは、製作陣の悪ノリで「これでもか」というくらいヘンテコな設定を盛られます。それが読者に大うけして25年後の今映画の主役にまでなってしまうのですから、世の中な何がどうなるかわかりません。
代表的なヘンテコ設定のひとつは「体がいくら損壊してもすぐ元通りになる」というもの。原作ではウルヴァリンの超回復能力を移植されたということになってます。ただ完全にうまく移植できなかったのか、全身の表面が「くさったアボガドと腐ったアボガドが×××した」ような状態に。ファンキーな軽口を連発していてもこのあたりがちょっと同情を誘うキャラクターではあります。
あとこの体質が脳に影響を及ぼしてしまったのか、彼の精神状態は普通ではありません。どう普通じゃないかというと、自分はコミックブックのキャラであり、周りの出来事もすべてコミック内の出来事だと思い込んでいるのです。それはある意味正しいのですが、真剣に悪役や社会問題と戦っているヒーローたちからしたらそんなデップーさんは狂人にしか見えません。それでもお構いなしに読者に向かって「これからの展開はね」と語りかけるデップーさん。アメコミヒーロー史上かつてないほどにぶっとんだ野郎であります。

ですからデップーさんというのはとても危険なキャラクターであります。ほかのヒーローたちがいくら真剣なムードで緊迫感を高めていても、彼がマイペースで活躍すればするほどドリフのコントのようになってしまうわけですから。まあマーベルコミックスというのはなんでもアリというか非常に多様性に満ちた世界なので、こんな規格外なデップーさんでさえそれなりに違和感なく?真面目ヒーローと共存したりしてます。
しかし映画のX-MENユニバースにおいてはどうでしょう。怒り・悲しみ・別れ・愛を一貫して謳いあげてきた叙情性豊かなこのシリーズにこんな下ネタおちゃらけ野郎を放り込んだら、今まで築き上げてきたシリアスな世界観がぶちこわしになります。というかもうこの作品が売上的にシリーズ最新作『アポカリプス』を大きく上回るのはまちがいないので、すでにぶちこわしかけております。…まあそうなったらそうなったでどうなるか、ちょっと楽しみだったりして♪

ただ「ぶっとんだ」「規格外」と書いてまりましたが、「映画のデップーさんはコミックほどイカレてない」という声もよく聞きます。それはおそらく映画オリジナルのヒロイン・ヴァネッサさんのせいでしょう。今回デップーさんが行動するのはすべて彼女の存在ゆえです。彼女にひけ目なく会いたいから顔をもとに戻す方法を必死で探し、彼女を守るために悪党たちと戦うわけです。時々脱線することはあってもその行動には一貫性があります。その点コミックのデップーにはこれといって大切な人もいなけりゃ(最近結婚したんだっけ?)、やりたいことも頻繁に変わるというか常に衝動で動いているので予測不可能なことこの上ありません。そういうのを期待してた人にはちょっと物足りなかったかもしれませんね。

けれどデップー特有の下ネタやサブカルに満ちた語り口は健在でしたし、例の「第4の壁破り」も一生懸命やってくれたので、わたしとしては大いに満足いたしました。これを踏み台として次回作ではもっともっとそのいかれっぷりを発揮してもらいましょう。

20160604_163703というわけで日本ではマイナーもいいところだった『デッドプール』、いろいろ工夫をこらした宣伝が功を奏したのか初日からけっこうなヒットをとばしています。よかった… これからはスパイダーマンやバットマンと並んでデップーさんが老若男女にもてはやされる時代が来るのでしょうね… 怖い時代になったものです。
『デッドプール』は現在全国で絶賛上映中。二か月後には若干影が薄くなったご本家の『X-MEN:アポカリプス』も待機中。当然セットでこちらも鑑賞する予定です。


| | Comments (8) | TrackBack (9)

June 07, 2016

世界はPCで回っている ジャコ・ヴァン・ドルマル 『神様メール』

Photo_2『トト・ザ・ヒーロー』『ミスター・ノーバディ』で知られるベルギーの鬼才ジャコ・ヴァン・ドルマル。その最新作はとにかく「奇妙奇天烈」としか言いようのない異色コメディ。『神様メール』、ご紹介します。

21世紀の現代。地球を治める神はブリュッセルのあるアパートに住み、その部屋のパソコンから人々の運命をもてあそんで楽しんでいた。神の一人娘エアはそんな父親が大嫌いで、彼の作った秩序をぶちこわそうと世界中の人々に余命を知らせるメールを送信する。そして自分なりの新しい聖書を作ろうと生まれて初めてアパートの外へ脱出する。

えええと、どうでしょう。この説明でわかっていただけたでしょうか。…わかりませんよね(^_^; 大体パソコンを使って運命をあやつるなら、それが発明される前はどうやって業務をこなしていたんでしょう。そんな風に頭にひらめく疑問が数限りなく生じてくるのですが、たぶんその辺の謎に答えはありません。なんというかこの映画はそういう風にまともな思考でつっこんでしまったら負けのような気がします。豆腐のように柔らかい頭でそのぶっとんだ感覚を「うわーい、へんてこりんだーい」と楽しめた人の勝ちでしょう。
ですからついていけない人はついていけないと思います。お笑いセンスというのは本当に人によってそれぞれですから。しかし幸いわたしはドル丸監督のギャグと波長があうところがありまして、けっこう楽しませていただきました。とくに受けたのは神様が作り出した様々な意地悪な法則とか、エアちゃんが選んだ三番目の使徒のエロエロな妄想などなど。余命がまだまだあると知って無茶なチャレンジを繰り返す青年にも笑わせてもらいました。ちなみにこの映画子供が主人公なのにおっぱいも出たりするためPG15設定となっております。

原題は「Le tout nouveau testament」。字幕では「新・新約聖書」と訳されていました。旧約聖書の神は、時に人々に恐ろしく容赦ない神だと思われるようです。『ノア』や『エクソダス』を観てもわかるように、自分に従わない人々を天変地異でざーっと滅ぼしてしまうこともあるので。この映画の意地悪な神様はそうしたイメージを膨らませて監督が作り上げたものかと(それにしてはいろいろせこすぎますが)。それに対して西暦1世紀に人々にやさしく愛を説いてまわったのが「神の子」と言われるイエス・キリスト。そしてそれから約2千年。いい加減新しい神様、新しい聖書、新しい使徒たちが登場してもいいんじゃないの?という発想のもとこの映画は作られたのでしょう。
ただ新しい神様はどっからどう見てもまだ幼い女の子だし、使徒に選ばれるのはモラル的に自由奔放な人々ばかり。キリスト教が根深く信じられてる欧州では怒られたりしなかったのかなあ…と思いましたがとりあえず本国ではけっこうなヒットを飛ばして色々賞も獲得してるようなので、ヨーロッパの人たちもあまりその辺に関して厳しくはないようです。

話を少し戻して。わたしがこの映画になんとかついていけたのは、これまでなじんできた数々のヘンテコ映画を思い出させるところがあったからかもしれません。『地下鉄のザジ』『エル・トポ』『マルコビッチの穴』『サウンド・オブ・ノイズ』『レニングラード・カウボーイズ モーゼに会う』など。これらの映画の好きな方だったらたぶん『神様メール』も楽しめるかと思います。

20070912193400それにしてもテレンス・マリックといい、アレハンドロ・ホドロフスキーといい、そしてこのジャコ・ヴァン・ドルマルもこれまで「寡作」と言われてきた監督がここにきて製作ペースを早めてきていますね。さすがに余命が気になってきて焦ってるんでしょうか。いいことです。
『神様メール』は現在都市部を中心に全国の映画館で公開中であります。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

June 02, 2016

スター惨状 コーエン兄弟 『ヘイル、シーザー!』

Dsc_3176スケールの大きい作品も作ればこぢんまりとした映画も撮り、殺伐としたストーリーも手掛ければのんびりした話もやる映画界の「不確定要素」コーエン兄弟。全体として共通してるのは「皮肉っぽさ」かなあ…とわたしなどは思っております。そのコーエン兄弟の最新作は1950年代のハリウッドを舞台とした映画界の内幕劇。『ヘイル、シーザー!』、ご紹介します。

まだかろうじて映画がTVよりも庶民にとって身近だった時代。映画プロダクションのもめごと処理屋エディは、日々起きるスターたちのトラブル解決に奔走していた。人気女優のスキャンダルをもみ消したり、大根役者に憤激する監督をなだめたり。果ては撮影中の主演俳優が何者かにより誘拐されるという事件まで起きてしまう。他業界からの誘いに迷いつつも、エディは自分の仕事をまっとうしようと奮闘する。

わたくしむかしの映画業界ものって好きなんですよね。あののんびりした雰囲気とか、歴史的興味などから。例を挙げるなら『グッドモーニング、バビロン!』『アーティスト』『ウォルト・ディズニーの約束』など。コーエン兄弟も『バートン・フィンク』というのを作ってましたよね。
そんな古き良き時代の映画作りを見学しているのがまず楽しい。またスカーレット・ヨハンソンやチャニング・テイタムといった一級のスターたちが豪華なセットで愉快なダンスを披露している様は、「新春スターかくし芸大会」などを思い起こさせました。そんな華やかなムードもこの映画の魅力です。

「のんびりとした雰囲気」と書きましたが、誘拐劇であるのに映画のテンポもそんな感じです。コーエン兄弟って誘拐ものよく作りますけど、あんまり緊迫感あふれるものってないですよね。
わたしが思い出したのは「フロスト警部」シリーズなどで知られる「モジュラー型」と呼ばれるミステリー。狭い範囲の町や村を舞台に複数の事件が同時進行で起き、最後にはなんとなく解決してる、といったたぐいの犯罪小説です。『踊る大捜査線』の第1作もこの範疇に含まれるかもしれません。

というわけでうっかりちゃっかりした群像喜劇ものとして楽しめればそれでいいのかもしれませんが、一応考えさせられる要素もあったりします。それはコーエン兄弟の独特の宗教観。まず映画の中心となっているのが『ベン・ハー』や『聖衣』を彷彿とさせる宗教劇であります。また主人公のエディは俳優たちには傍若無人な振る舞いをしますが、その陰で頻繁といえるほどに教会に懺悔にいってたりします。
それらが滑稽感たっぷりに描かれてるところを見るとコーエン兄弟が到底信心深い方々とは思えないのですが、とことんバカにしてたり攻撃しているわけでもない。きっと彼らにもそれなりに信仰心もあるとは思うのです。でもついつい神様をおちょくらずにはいられず、笑いながら「ごめんなさいw」と言ってるような、そんな印象を受けます。この罰当たりが!w
そしてこの作品でキリスト教の敵として描かれるのが同性愛と共産主義です。ただ彼らは彼らで間の抜けた陽気な連中のように描かれてるので、コーエンさんちもそういった人たちを「悪」とは考えていないと思います。兄弟にとってはあらゆる思想・宗教すべてが等しく笑える対象なんじゃないでしょうかね。一方でそういった自分のポリシーに邁進する人たちをそれなりに愛情深くも見つめているような。なんというか『トゥルー・グリット』からそれより前に濃厚だった底意地の悪さみたいなものが少しなりを潜めた気がします。コーエンさんちも還暦前後の年齢になって丸くなってきたということでしょうか。
I320『ヘイル、シーザー』は現在全国をぼちぼちと公開中というか巡回中。聖書劇映画としてはキリストの復活を描いた『復活』や、べクマンべトフ監督の手による『ベン・ハー』リメイクなどが控えています。本当にこのジャンルも廃れませんよね…


| | Comments (0) | TrackBack (0)

« May 2016 | Main | July 2016 »