天は天の上に動物を作らず リッチ・ムーア バイロン・ハワード 『ズートピア』
今年もはやいもんでもうゴールデンウィーク突入ですよ! 映画館もにぎわっているようでなによりでございます。今日はその盛況に一役買ってるディズニー最新作『ズートピア』、ご紹介します。
四足歩行の野生哺乳動物だけが異様な進化を遂げた並行世界。ウサギのジュディはみなが「無理だ」という中、持ち前の負けん気とたゆまぬ努力で大都会「ズートピア」の警察官になるという夢を果たす。やる気満々で出勤してきたジュディだったが、彼女に当面与えられた仕事は日も当たらず感謝もされない駐車違反の取り締まりだった。それでも懸命に仕事に励んでいたジュディは、ある日胡散臭げな雄ギツネのニックと知り合う。
…ううむ、あまり面白くなさそうなあらすじだ… しかしこれはわたしの書き方が下手なだけであって、実際観てみたら多くの人が「面白い! 楽しい!」と感じられる作品だと思います。
とりあえず予告やイメージイラストから先に公開された『トゥモローランド』のような未来SFを想像したのですが、ズートピアは意外と現代の都市風景とあまり変わりがありません。変わっているのは区画によって季節が違ったり、住人の大きさが違っていることくらいです。で、お話が進むにつれ未来どころか60年代のハードボイルドかフィルムノワールのような様相を呈してきて意表をつかれました。ただそれもこの映画の一要素にしかすぎず、ジャンルで言うと動物アニメでもあり、ポリスアクションでもあり、ホラーっぽいところもあり、やっぱりSFっぽいところもあり、青春ドラマでもあり、ユートピア小説でもあり… あああ、もう詰め込みすぎじゃ!と言いたくもなります。しかしそのごった煮のような作風が実にすきっときれいにまとめられており、ことごとくプラスの方向に働いているあたりがすごいところです。
そしていろんなとこで言われてるのでわざわざここで書くこともないのですが、このアニメ、実に差別や偏見について真実をついたメッセージを発しているのですね。それはいわゆる社会から見たら「善良な市民」と言える人たちでさえ、特定のカテゴリの人々について偏った見方をしがち、ということです。で、そういう差別はどうやって生まれるのか、みたいなことも語られます。ひとつは政治家が自分の思うとおりにことを運びたい場合、プロパガンダによって偏見を助長することがある、という例。もうひとつは一度ある種の人々…たとえば一人の巨人ファンから嫌な目にあわされたとしましょう。そうすると人というのは往々にして「巨人ファンはみんないやな人たちだ」と思い込んでしまう場合がある、ということです。実際には巨人ファンにだっていい人はたくさんいる(たぶん…)のにね。
というわけで自分はリベラルだと思っている人でさえも、容易に偏見にとらわれることがあるということです。「アニメファンを差別するな!」と言っているあなたも心の底では特撮ファンをバカにしているかもしれない。オタクはみんな平等じゃないですか! 差別よくない! …なんか自分で書いててよくわからなくなってきましたが、わかっていただけだでしょうか。
そんな深遠なテーマをはらみながらも、ハラハラドキドキニコニコメソメソなエンターテイメントとしても十分に楽しめる本作。ニックとジュディは二匹とも欠点こそありますが、だからこそ憎めないし愛着のわくキャラクター。さらに二匹の周囲の動物たちが、出番の多い少ないにも関わらずどいつもこいつも無駄にキャラが立ちまくっております。そんな連中が画面をひっきりなしに飛び回り暴れまわってるのですから面白くないわけがありません。先に『アーロと少年』を送り出したピクサーも引き続きがんばっていますが、ラセター氏が最近力を入れているのは明らかにディズニーご本家のような気がしてなりません。
それでも少しだけ不満点を言わせてもらうならば…以下ネタバレです。
クライマックスの追跡劇→ピンチ切り抜けも決して悪くなかったけれど、子供向けのアニメならばもう少しドカーンと来るような派手なカタストロフで盛り上げてほしかったところ。また引合いに出して恐縮ですが、その点以前のピクサーは申し分なかったですよね。
あともう一点はこれは完全に個人的な好みですが、できればニックには警官にならずに街のアウトローのままでいてほしかったなあ… 新米警官とやさぐれた詐欺師というコンビがとても気に入っていたのでね。もし続編が作られるのであればニックは「俺やっぱり性にあわない」ということで元の職業に戻ってほしいものです(^_^;
『ズートピア』は現在全国の映画館で、名探偵コナンと熾烈なデッドヒートを展開中。GWの映画館を制するのはおそらくこの二本でしょう!(一番頑張ってほしいのは『シビルウォー/
キャプテン・アメリカ』ですが…)
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