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May 12, 2016

マーベル南北戦争・劇場版 ルッソ兄弟 『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』

20150815220750はやいもので2008年から始まった「マーベル・シネマティック・ユニバース」ももうフェイズ3(第3期)を迎えることになりました。開始当初は色々スムーズに進まなくてやきもきしたものですが、いまやスターウォーズに並ぶほどの人気シリーズとなり、ファンとしては感無量です。そんなわけで本日はそのフェイズ3のスタートとなるこの作品を紹介します。『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』、参ります。

ウルトロンの暴走後も世界各地でヴィランたちと戦い続けていたアベンジャーズ。だがその戦いには彼らが全力を尽くしても市民の犠牲がつきまとい、アベンジャーズは世間からの非難を浴びることになる。国連はこのことから「ソコヴィア協定」を提案。ヒーローたちに彼らの管理化に入るよう要求してくる。しかしアベンジャーズは協定に賛同するアイアンマン側と拒否するキャプテン・アメリカ側で対立。双方の溝は埋まらぬまま締結の日を迎える。そしてその会場でキャップの親友であり国際指名手配されているヒドラのエージェント、「ウィンターソルジャー」の姿が目撃される。

原作について少し。『シビルウォー』は2006年から2007年にかけて行われたマーベル・コミックスの一大イベント。若手ヒーローの不祥事から「ヒーローは全員素性を明かし政府の管理下に入るべき」という運動が起き、賛同派のアイアンマンと反対派のキャップが対立し… というストーリー。映画と違うのはその登場人物の多さですかね(^_^; ざっと100名以上のキャラクターが二派に分かれて大激突するので、邦訳を地味に追っかけていたわたしですら誰が誰やら状態でした(ちなみにハルクは宇宙へ出張、ソーは行方不明で登場しません。X-MENは事態を静観していてごく一部のメンバーだけが参加)。
この原作『シビルウォー』はカタルシスのほとんどないただただ辛いストーリーのせいか、日本の読者には大変評判が悪いです。しかしこの一連のクロスオーバーがマーベルコミックスをより盛り上げたこともまちがいなく、発表から10年経った今もこれを越える企画はないんじゃないか…というくらいです。というか先日10周年を記念してか『シビルウォーⅡ』というプロジェクトが発表されました… ヴィランたちの存在意義がどんどん薄くなっていきます。

さて、映画の方。キャップとアイアンマンの対決はいろんなものになぞらえることができます。銃規制の是非を巡る争いにも見えるし、民主党と共和党、あるいは保守とリベラルの戦いにも見える。「シビルウォー(内戦)」というタイトルが表わしているように、USAも決して一枚岩ではなく中に様々な対立をはらんでいるわけですよね。
わたしとしましてはアイアンマンが「政府・法律」の代表であるならば、キャップは「個人・自由」の代表だと思いました。一般人が普通に生きていくうえで、法律も自由も必要なものです。そのバランスがとれているときはいいのですけど、時としてこのふたつは衝突することもよくあります。

以下、ネタバレになりますけど




前半から中盤にかけて理性的に振舞っていたアイアンマンですが、復讐心を刺激されるやいなや感情のままに暴れ狂う。これ、アメリカが歴史を通じて何度か見せていた姿ですよね。アラモ砦、真珠湾、そして9.11と。そんな風に国家が復讐心・好戦ムード一色になったとき重要になるのが、キャプテンアメリカが見せた命を尊ぶ姿勢とか、友を思いやる心だと思うのです。名前に「アメリカ」とついてるのでどうもひっかかるところはありますが(^_^;、

『シビルウォー』は政治テーマも含んだ作品であると同時に、シンプルな友情の物語でもあります。スティーブン・ロジャースの戦いの根底にあるのはいつも「誰かを守るため」ということであります。アイアンマンの猛攻から自ら盾となって親友を守るスティーブ。しかしこれは同時にトニー・スタークの心も守っていたのではないかと思われます。わたしの好きな漫画『鋼の錬金術師』で上官が復讐心に取りつかれた時、主人公が必死になってそれをいさめる場面があります。メンタル的に不安定なトニーのこと、もし衝動に駆られてバッキーを殺したとしたら我に返った時また激しく落ち込むのでは… キャップはそう考えてまたしてもズタボロになりながら二人の友を守ったのでしょう。未だ怒りが収まらないトニーに「その盾をおいていけ!」と言われ素直に自分のシンボルをゆだねたのは、スティーブの「もう君のそばにはいられないけれど、自分を大事にしてほしい、守ってほしい」という気持ちの表れだったのだと思います。
ただMCUにおけるトニーとスティーブというのはいままでそんなに仲良しこよしでもなかったと思うのですよね。どっちかというとぶつかりあったり、あてこすりを言ったりする場面の方が多い。恐らくトニーは自分に厳しかった父が偶像のようにキャップについて語るのを聞いていて、親しみと同時にどこか素直になれない感情を抱いていたのでしょう。そしてキャップは親友が彼の両親を殺めていたことを知って、初めて彼に負い目のような気持ちを抱いたのだと思います。そして全ての秘密が明かされてお互い全力でぶつかり合うことによって、ようやく彼らは真の友達になれたのではないでしょうか。

度々当ブログでは小野耕生氏にならってアメコミを現代のギリシャ神話に例えていましたが、今回はシェイクスピア悲劇に近い趣きもありました。一人の人物の諌言というか陰謀によって、英雄たちの絆が引き裂かれ、破滅に近づいていく展開が。救いなのは一歩手前で本当に悲劇的結末になるのを避けられたことです。傷つき過ちを犯した英雄たちは、スパイダーマンやブラックパンサーといった若きヒーローたちに支えられ、再び力を取り戻すことでしょう。暗いムードもいくとこまでいってしまったMCUですが、ティチャラの成長した姿やピーターの明るい笑顔を見ていると再び希望の光がともりはじめたような気がします。少年ジ○ンプの有名な言葉を借りるなら、まさに「俺たちの戦いはこれからだ!」ということができましょう。

Img_7_m『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』は連休中『コナン』『ズートピア』の上を行くことは出来ませんでしたが、それでもMCU作品中最高の初週動員を記録しました。世界にいたっては歴代5位のオープニング成績です。この分ならフェイズ3も大丈夫かな…とは思いますが、引き続き油断せずMCUを応援していこうと思います。次はメインストーリーからはずれたベネディクト・カンバーバッチ主演の異次元SF映画『ドクター・ストレンジ』が予定されていますが、これがまだ日本では年内公開なのか年明け公開なのかはっきりしません。さっさと決めちゃって!


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Comments

こんばんは。私も東京で見ました。確かにギリシャ神話ですよね、この世界観って。

最後の喧嘩でシールドをあっさり返しちゃうのは、私はもう投げやりに見えたんですけど、人によって取り方違うんだなあって思いましたw

アイアンマンは「政府、法律」というよりは、一応法令は遵守するけど政治経済学的にはやっぱりリバタリアン、新自由主義って感じがします。キャプテンよりもアナーキーな人が、ヒーロー登録法に“個人的事情”で賛同する“ねじれ”が『シビルウォー』の意外性であり面白いところですよね。

あと命を重んじる?キャプテンはバットマン(最近ではアントマン?)みたいに不殺のヒーローがいいんだけど、ファーストアベンジャーの時からかなりえげつなくヒドラの人たちぶっ殺してたよな(^_^;)

ちなみに、この映画は前半はとっちかかっちゃってそれはそれでフェスティバル的で面白かったんですが、一番好きなのはラストに至るまとめ方ですよね。
マーベルの映画って悪役の印象が薄いんですけど、今回はそれを逆手にとっていてやられましたwうまいなあって。

Posted by: ゴーダイ | May 12, 2016 10:42 PM

伍一くん☆
えー!原作では100人もヒーローが出てきて戦うの?
コミック描くのも大変だったでしょうねぇ。
もうどっぷりとコアなファンでないとついて行けないかんじ…
ところで「ハガレン」の実写の話あるよね??こ、怖いなぁ。

Posted by: ノルウェーまだ~む | May 13, 2016 11:58 PM

>ゴーダイさん

キャップはわりと盾に関しては扱いがぞんざいなところがあって、「ウィンターソルジャー」でも「お前とはたたかわない」と言って船からポイ捨てするシーンがありましたw

まあそうなんだよね… キャプテンが元兵士で戦争に加わってたことを考えるとなかなか擁護しづらいものがあるんだけど、強制的にではなく、自分で戦うか否か決められる社会のためにキャップはがんばってるのだと思います

>マーベルの映画って悪役の印象が薄いんですけど、今回はそれを逆手にとっていてやられました

ダニュエル・ブリュール、薄いのに迫力あるさすがの演技力でしたw

Posted by: SGA屋伍一 | May 15, 2016 08:19 PM

>ノルウェーまだ~むさん

コミックの方は最近そういう画力とか人海戦術で映画に一生懸命対抗している感がありますw
漫画実写化と言えば最近はちはやふる、アイアムアヒーローなどよかったですね。テラフォーマーズも思ったほどひどくなかったw

Posted by: SGA屋伍一 | May 15, 2016 08:22 PM

> 「俺たちの戦いはこれからだ!」

と言って今回のこれで終わられても困るよなあ。

Posted by: ふじき78 | September 19, 2016 12:07 AM

>ふじき78さん

「ルッソ兄弟先生の次回作にご期待ください」

Posted by: SGA屋伍一 | September 20, 2016 09:14 PM

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