カルタ馬鹿一代(と仲間たち)・ 「からくれないに水くくるとは編」 末次由紀・小泉徳宏 『ちはやふる 下の句』
GWに観た映画の感想をまだ書いてます… 連載中の人気漫画を映画化(3回連続だ)。前編がじわじわと評判を呼び満を持しての公開となった『ちはやふる 下の句』、ご紹介します。前編の『上の句』の紹介はこちら。
友情パワーと千早の超聴力でなんとか全国大会への切符を手に入れた瑞沢高校かるた部。これで会場で新と再会できると喜び勇んだ千早だったが、彼は憧れだった元名人の祖父を亡くしたことから、カルタへの情熱を失っていた。また新と昔のようにカルタがしたいと願う千早は、彼の注目をひきつけるためにクイーンへ挑戦することを決意する。だがその目標のために千早は瑞沢のチームメイトと足並みがそろわなくなっていき…
前回のレビューでわたくし「友情・努力・勝利という少年漫画の要素がかっ詰まってる」みたいなことを書きましたが、『下の句』では少しムードが変わりました。今回はとにかく「友情第一」であります。努力するのは友に元気を出してほしいためであり、勝利にいたっては一生懸命やってダメだったら仕方ない、くらいの描かれ方でした。サッカー日本代表の「決して負けられない」云々とは明らかに違う姿勢です。
そのもっとも中心となっているのは千早と新君の友情であります。もしかしたらこれ限りなく「恋」に近いものなのかもしれませんが、とりあえず表面上は「友情」の域を越えるものではありませんでしたね。そのへんの淡い慎ましい心の通い合いがおっさんとしてはついていきやすかったです。
ただ千早が新くんのために一生懸命になればなるほど、団体戦での練習は難しくなっていきます。彼女にしてみれば幼馴染もチームメイトも大切なわけで、両方大事にしたいんだけどそれがなかなか難しい…というのが前半のキモの部分になっています。ここで普通なら瑞沢の面々が「チームのために尽くせや!」と怒りそうなものなのですが、ジェラシーに悩んでいる太一以外はみんな「あなたのやりたいようにやりなさい」とお母さんのように温かい目で彼女を応援してくれるのが。めっちゃ微笑ましいですね。彼らだってまだまだ十代なのになんでこんなに人のことを思いやれるのでしょう。まあこんな風にみんな競技に打ち込んではいてもそれは自分のためでなく、大事な誰かのためにがんばっているところが泣かせます。ただ一人、『下の句』から登場のラスボス的存在・若宮詩暢をのぞけば。
日本カルタ界の女帝である彼女に言わせれば競技者はしょせん一人であり、自分のためのみに技を磨いている者こそが最強であるというわけです。実際チャンピオンというかクイーンになることで彼女はそれを実証しています。だけどそれでは何のためにカルタをやっているのか、それはあまりにもさびしいのではないか…と千早たちはアンチテーゼをとなえます。映画はどちらが正しいのか声高に主張したりはせず、クイーンの心が少し動かされた様子を見せて幕となります。この辺がおしつけがましくないあたりも心地よかったですね。
スポーツものにおいてはとかく「勝利」こそが第一であり、なぜそこまで勝ちたいのか、なんのためにそこまでがんばるのか…ということは触れられないことも多いのですが、合計4時間の中でちゃんとその動機にまで踏み込もうとしたのはなかなかに意欲的でありました。急きょ決まった3作目においてさらにその先が描かれるのか、楽しみにしたいと思います。
キラキラとまぶしい若い役者さんが多く出ている本作品。『下の句』で最も輝いていたのはクイーン演じる松岡茉優さんだった気がします。本当に堂々たる存在感で、強面の合間に見せるかわいらしい表情が強烈な萌え感情を刺激します。『桐嶋、部活やめるってよ』の時は心から「このクソブスむかつくなあ」と思ったものですが、あれも彼女の演技力の効果だったように思えてきました。
あと前作に引き続き脇で地味メンたちが目頭を熱くさせるようなことを言ったりやったりしてくれました。ドS気質はそのままに敵に塩を送るスドー先輩。照れくさがりながら「もっと俺たちを頼ってくれよ」と言う肉まんくん。そして前作のウジウジキモオタから別人のような成長を遂げてしまった机くん。ここまで来るともはや聖人です、聖人。正直キモオタぶりに共感を抱いていたおじさんはちょっとさびしかったです。ふううう。
『ちはやふる 下の句』はまだ辛うじて上映されている『上の句』とともに全国の映画館で公開中。いまのうちに上下一気観してみるのも一興かと思います。先にも述べましたが公開時期は未定ながら第3作も製作決定。ひきつづき日本映画界をバシバシ盛り上げていってほしいものです。
Comments
次作は、いきなり、千早おばあちゃんの時代になっても面白い。
Posted by: ボー | May 28, 2016 01:05 PM
>ボーさん
マッドマックス2のように最後に伝説として語られる…というのもいいですね
Posted by: SGA屋伍一 | May 30, 2016 10:31 PM