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May 30, 2016

パン屋が再襲撃 ハニ・アブ・アサド 『オマールの壁』

Omk1ここんとこシネコンのわかりやすいエンターテイメントをずっととりあげていましたが、今日は久々に渋い社会派の映画の話をします。パレスチナに生きる若者たちの壮絶な青春を描いた『オマールの壁』、ご紹介します。

イスラエル統治下のパレスチナに生きるオマールはパン屋で生計を立てる一方、地下組織の一員として政府に一矢報いる機会をずっとうかがっていた。それは若さゆえの反骨心と、組織のリーダーに認められて彼の妹のナディアと晴れて結ばれたいという願いがあったからだった。やがて決行に踏み切ったオマールたち。だが秘密警察はたやすく実行犯を突き止め、オマールは彼らの手に落ちてしまう。果たして彼は自由を取り戻すことができるのか。

というわけで海老で有名なオマール地方とは何の関係もありません。オマールという兄ちゃんの話であります。この映画はオマールが10メートルはあろうかという壁をえっちらおっちら登っていくシーンから始まります。この壁はベルリンの壁のように「越えたら即死刑」というほど厳しいものではなく、政府が地域を支配しやすいようにするために便宜上こしらえたもののようで。ただ越えているところを見つかったら銃で狙われたりするので、命がけなことに変わりはありません。

この映画を観て少し前に公開された『ディーパンの闘い』を思い出しました。パンつながり…というわけではなく。結婚して穏やかな家庭を築く。それは人にとってごく当たり前のささやかな幸せです。しかし世界にはそれすら許されない悲しい社会があります。わたしは普通にゆるされてる環境で独り身ですがそれはおいといて。
一方でオマールが銃を取らなければここまで八方ふさがりの状況にはならなかったのでは…とも思います。まあ彼は暴力の世界に身を置くことになろうとも恋人のナディアがほしかったんでしょうね。好きなあの子を「何が何でも自分のものにしたい」と願って周りが見えなくなるのは、若者にはよくあることです。
ただこのナディアちゃんというのが、なかなかに小ずるいと言うかしたたかと言うか。はたで見ているおっさんとしては、「その娘っ子、そこまでつくしてやるほどの嬢ちゃんやないで…」と思いました。たとえばオマールが独房に入れられてるシーンで彼は「お前みたいに自由に飛んでいけたら」と小さな虫に親近感を抱いちゃうのですが、別のシーンでナディアは家の中に入ってきた虫を容赦なく「ぶちゅ」と踏みつぶします。そのあたりでもうオマールにハッピーエンドは望めないのだろうなあ…とハラハラと涙せずにはいられませんでした。

オマールを地獄につきおとすもう一人のメフィストフェレスに、秘密警察のラミ捜査官がいさんます。初めこそ悪魔のような憎たらしい男でありますが、いいように利用していながらオマールに同情心や親しみを抱いていることもうかがえます。中盤に至っては疑似的な親子のように見えなくもないです。そんな二人の関係が痛々しくも興味深かったのですが、ちらちら優しさを見せたところで、やっぱりオマールにとっては彼は悪魔には変わりないんですよね。というかこのラミさん、ちょっと喪黒福造に近いものがありました。

以下、ラストについて少々ほのめかしているのでご了承ください。

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さんざん体制や仲間から虫けらのように利用され続けてきたオマール。しかし一寸の虫にも五分の魂。最後の最後で彼は自分を苦しめてきた者に「ドーーーーン!!」とやり返します。普通ならスカッとするところなのに、ここがとても哀しい。いろんなしがらみにがんじがらめになってしまったオマールが、自由を得るにはこの方法しかなかったのかなあ…と思うと。その直前に青空の下ランチを食べてる彼の顔が、とても気持ちよさそうで晴れやかなのがまた哀しかったです。
20160530_143328_001この映画、本国のパレスチナでは2013年製作だったにも関わらず日本では3年経ったいまごろになって公開となりました。おそらく買い付け料が安くなったからだと思いますが、配給の皆さんの尽力も大きかったと思われます。お疲れ様でした。
下の画像は入場特典のコースター。パンのおともにおいしいコーヒーでも飲んでくださいということでしょうか。


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May 24, 2016

カルタ馬鹿一代(と仲間たち)・ 「からくれないに水くくるとは編」 末次由紀・小泉徳宏 『ちはやふる 下の句』

Chfs1GWに観た映画の感想をまだ書いてます… 連載中の人気漫画を映画化(3回連続だ)。前編がじわじわと評判を呼び満を持しての公開となった『ちはやふる 下の句』、ご紹介します。前編の『上の句』の紹介はこちら

友情パワーと千早の超聴力でなんとか全国大会への切符を手に入れた瑞沢高校かるた部。これで会場で新と再会できると喜び勇んだ千早だったが、彼は憧れだった元名人の祖父を亡くしたことから、カルタへの情熱を失っていた。また新と昔のようにカルタがしたいと願う千早は、彼の注目をひきつけるためにクイーンへ挑戦することを決意する。だがその目標のために千早は瑞沢のチームメイトと足並みがそろわなくなっていき…

前回のレビューでわたくし「友情・努力・勝利という少年漫画の要素がかっ詰まってる」みたいなことを書きましたが、『下の句』では少しムードが変わりました。今回はとにかく「友情第一」であります。努力するのは友に元気を出してほしいためであり、勝利にいたっては一生懸命やってダメだったら仕方ない、くらいの描かれ方でした。サッカー日本代表の「決して負けられない」云々とは明らかに違う姿勢です。
そのもっとも中心となっているのは千早と新君の友情であります。もしかしたらこれ限りなく「恋」に近いものなのかもしれませんが、とりあえず表面上は「友情」の域を越えるものではありませんでしたね。そのへんの淡い慎ましい心の通い合いがおっさんとしてはついていきやすかったです。

ただ千早が新くんのために一生懸命になればなるほど、団体戦での練習は難しくなっていきます。彼女にしてみれば幼馴染もチームメイトも大切なわけで、両方大事にしたいんだけどそれがなかなか難しい…というのが前半のキモの部分になっています。ここで普通なら瑞沢の面々が「チームのために尽くせや!」と怒りそうなものなのですが、ジェラシーに悩んでいる太一以外はみんな「あなたのやりたいようにやりなさい」とお母さんのように温かい目で彼女を応援してくれるのが。めっちゃ微笑ましいですね。彼らだってまだまだ十代なのになんでこんなに人のことを思いやれるのでしょう。まあこんな風にみんな競技に打ち込んではいてもそれは自分のためでなく、大事な誰かのためにがんばっているところが泣かせます。ただ一人、『下の句』から登場のラスボス的存在・若宮詩暢をのぞけば。
日本カルタ界の女帝である彼女に言わせれば競技者はしょせん一人であり、自分のためのみに技を磨いている者こそが最強であるというわけです。実際チャンピオンというかクイーンになることで彼女はそれを実証しています。だけどそれでは何のためにカルタをやっているのか、それはあまりにもさびしいのではないか…と千早たちはアンチテーゼをとなえます。映画はどちらが正しいのか声高に主張したりはせず、クイーンの心が少し動かされた様子を見せて幕となります。この辺がおしつけがましくないあたりも心地よかったですね。

スポーツものにおいてはとかく「勝利」こそが第一であり、なぜそこまで勝ちたいのか、なんのためにそこまでがんばるのか…ということは触れられないことも多いのですが、合計4時間の中でちゃんとその動機にまで踏み込もうとしたのはなかなかに意欲的でありました。急きょ決まった3作目においてさらにその先が描かれるのか、楽しみにしたいと思います。

キラキラとまぶしい若い役者さんが多く出ている本作品。『下の句』で最も輝いていたのはクイーン演じる松岡茉優さんだった気がします。本当に堂々たる存在感で、強面の合間に見せるかわいらしい表情が強烈な萌え感情を刺激します。『桐嶋、部活やめるってよ』の時は心から「このクソブスむかつくなあ」と思ったものですが、あれも彼女の演技力の効果だったように思えてきました。
あと前作に引き続き脇で地味メンたちが目頭を熱くさせるようなことを言ったりやったりしてくれました。ドS気質はそのままに敵に塩を送るスドー先輩。照れくさがりながら「もっと俺たちを頼ってくれよ」と言う肉まんくん。そして前作のウジウジキモオタから別人のような成長を遂げてしまった机くん。ここまで来るともはや聖人です、聖人。正直キモオタぶりに共感を抱いていたおじさんはちょっとさびしかったです。ふううう。

Chfs2『ちはやふる 下の句』はまだ辛うじて上映されている『上の句』とともに全国の映画館で公開中。いまのうちに上下一気観してみるのも一興かと思います。先にも述べましたが公開時期は未定ながら第3作も製作決定。ひきつづき日本映画界をバシバシ盛り上げていってほしいものです。


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May 18, 2016

2599年殺虫の旅 貴家悠・橘賢一・三池崇史 『テラフォーマーズ』

Tfm1青年誌に連載されている人気漫画を映画化… って最近書いたばっかりの書き出しだな(^_^; ゾンビの次は宇宙怪物!ということで鬼才三池崇史監督と異才中島かずきがアレンジしたSFアクション『テラフォーマーズ』、ご紹介します。

近未来、地球はさらなる環境破壊と人口増加により深刻な危機を迎えていた。そこで各国首脳は火星を地球化し、増えすぎた人類を移民させることを計画する。幼馴染の身代わりとなって警察に追われていた青年・小町庄吉は、「火星先遣隊としての適正がある」ということで、減刑と引替に宇宙へ旅立つことになる。ひきあわされたチームのメンバーは同じようにして選ばれた犯罪者ばかり。そして目的地である火星には想像を超えた怪物が待ち受けていた。

大体2、3ヶ月に一度くらいは試写会の段階で「こりゃひどい…」という噂が流れてくる映画があります。去年の代表格で言うと『ギャラクシー銀河』とか。で、今年上半期の代表格がこの作品。ツイッターを眺めていたら普段温厚な人まで「著しく消耗した」とかおっしゃってましたし、「観ていて心が死んだ」なんてつぶやきもありました。
だけど…だけどです。予告編を観たらそれなりにビジュアルがSFしてたし、脚本が中島かずきさんだったんです。そして『パシフィック・リム』ファンとしてはもう一度菊地凛子のパイロットスーツっぽいものが見られるわけです。行かないわけにはいかないでしょう。「俺のハートはそう簡単にくたばったりはしないぜ?」とそれこそ巨悪に立ち向かうアクションヒーローのような心境で観にいきました。

で、まあ確かにつっこみどころをあげたらキリがない映画ではありましたが、耐えられないほどではありませんでしたw むしろ面白い部分もいろいろありました。
例えばこれは原作のアイデアの功績ですが、主人公たちはそれぞれ昆虫の遺伝子を組み込まれた強化人間ということになってます。スズメバチやバッタやヘッピリ虫の能力を人間大に増幅させたらどうなるかという発想がなかなかユニークです。そして能力を発揮する場面で池田秀一氏(シャア)のEテレの番組のような渋い解説が流れます。昆虫好きにはたまりません。
あとアラもあるんですけど、ちゃんと脚本に意外な展開やどんでん返しがあるところにも感心しましたし、圧倒的大多数の軍勢に少人数のグループが気合でつっこんでいくノリが好みでした。そう、この映画、大抵のことは気合でなんとかなる世界観なんですね。そこはさすが『グレンラガン』の中島かずきであり、『デッド・オア・アライブ』の三池崇史です。SF的ガジェットやビーグルもまあまあ良くできていました。
そんな広い心で楽しく観た『テラフォーマーズ』ですが、それでもどうしても悲しかったのはモリマコこと菊地凛子さんがいつの間にか久本雅美のようになってしまったことですね… 俺のマコを返してください。大きなお世話ですけど染谷君との新婚生活はうまくいってるのかな?と少し心配になりました。

わたくしは自分の中でダメ映画を次のようにカテゴライズしています。
①…「ダメなのはわかってるけど好きなんだ! 命をかけてかばう!」という映画。『CASSHERN』『進撃の巨人』など
②…「ダメなりに楽しく見たけど、かばってあげたいというほどの思い入れはない」という映画。『デビルマン』『ガッチャマン』など
③…「さしものわたしもフォローしようがない。あきらめてくれ」という映画。『大日本人』『キューティーハニー』など
④…「観る気ないけど遠くで応援してる。がんばって』という映画。『ギャラクシー銀河』など。
『テラフォーマーズ』はこの中でいうと②のグループかな~

090703_130139そんな『テラフォーマーズ』、人気原作にも関わらず初登場からぱっとしない成績です。そろそろ公開も終わりそうな勢い。いつもなら「興味のある人はお早めに」と言うところですが、こればっかりはどうぞ検討に検討を重ねて慎重に鑑賞を決めてください。あなたが虫好きならおすすめですが…


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May 16, 2016

ジャパン・オブ・ザ・デッド 花沢健吾・佐藤信介 『アイアムアヒーロー』

Iamh1♪ ヒーロー ヒーローになるとき ああ アイアムア
ビッグコミックスピリッツ連載の人気漫画を映画化。よくある流れよね…と思ったらこれが世界各国の映画祭で絶賛だという。権威に弱いわたしはそれで観ることにしました(笑) 『アイアムアヒーロー』、ご紹介します。

鈴木英雄はうだつのあがらない35歳の漫画家。ビッグになることを日々妄想し続けるが連載は決まらず、ついには同棲していた恋人のテッコに愛想をつかされてしまう。なんとかよりを戻そうと苦悩する英雄をよそに、街では異変が起き始めていた。高熱に冒された人々が野獣のように他の人を食い殺すZQN(ゾキュン)と化して暴れ出したのだ。奇病はまたたくまに広がり、都市機能はマヒしてしまう。英雄は偶然知り合った女子高生比呂美と共に、菌が感染しないという高所の富士山を目指す。

というわけでどこからどこを切り取っても見事なまでにゾンビ映画です。皆さんゾンビお好きですか? わたしはそんなに好きじゃありません。昔っからヌルヌルグチョグチョした生物感あふれるものより、ツルツルピカピカしたメタリックなものの方が好きなので。まあゾンビって触ったらいつまでも汚れとか匂いとか落ちなさそうですよね。
それでも期待して本作品を観に行ったのは、先にも述べた海外での評判とこの予告編がめっちゃチャカチャカしてて楽しそうだったので。暗く息苦しい本来のゾンビものとは違う、はっきり言っちゃうと和製『ゾンビランド』のようなものを期待していたのですね。
で、実際に観てどうだったかと申しますと、さすがに『ゾンビランド』よりはシリアスでした。しかし直球のゾンビ映画に比べるとまだユーモアや爽快感があって、一応期待にはこたえていただきました。
ゾンビの本場といえばもちろんアメリカ。かの国なら仮にゾンビが発生しても容易に銃が入手できるゆえ、一般人でもある程度は対抗することができます。しかしそうはいかない日本では何で戦えばよいのでしょう。日本刀… だってそうそう周りにあるものではないですよね。しかしこの映画では都合のいいことに主人公の趣味がクレー射撃だったりするので、おうちに普通にショットガンがあったりします。ではそれで序盤からバカスカ撃ちまくるのかといえばそれも違ったりします(^_^; 英雄くんは生来の気弱な性格のため、ゾンビや悪者にもなかなか引き金をひくことができないのです。この辺、なかなか日本人的というかリアルなキャラ造形だな~と思いました。

というわけでせっかくのライフルをもちながら長いこと宝の持ち腐れ状態が続きます。しかしそこはそこでなかなか面白かったりして。不思議なかわいらしさを放つヒロイン比呂美ちゃんと、どこか抜けた英雄がバタバタ走り回ったり、時にまったり旅をするのを眺めているのは観ていて飽きませんでした。どこへどう転がっていくかわからないストーリー展開にもひきつけられましたし。

以下、ラストまでネタバレで…


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そしてそれまでどうしてもゾンビを撃てなかった英雄が、いろいろ辛酸をなめたり葛藤を繰り返した末、クライマックスでは大噴火した火山のように無双の活躍を見せます。これ最初はなかなか痛快だったんですが、あまりにもドロドログチャグチャ人肉と内臓が飛び散るので最後の方ではすっかり胸焼けしてしまいました。もう床一面にぬたぬたしたもんが散乱していて、誰がこれ片づけるんですか状態。まあでもここまで徹底したゴア描写はシネコン邦画ではなかなかできるものではなく、その点では感心しました。
後に映画秘宝で読んだところによると、ゾンビの脳みそはプリンで製作されていたとのこと(そして撮影地の韓国ではそれが入手しづらく大変だったとのこと)。「あ、あれ本当はプリンなんだよな」とか考えながら観たら胸焼けもおこさずにすんだかもしれません。

あとそこまで山場が凄惨だったせいか、ラストで車が山道をカントリーミュージックと共に走っていくシーンがすごくさわやかに感じられました。ずっと「英雄と書いてヒデオです」と名乗っていた主人公が、そこで初めて「ただの…ヒデオです」とつぶやきます。やはりサバイバルバトルを描いたドラマ『仮面ライダー龍騎』の「英雄ってのはなろうと思った瞬間に失格なんだよ」という言葉を思い出しました。英雄になりたいという欲求を捨てて、ようやくヒデオは真の英雄になれたのだと思います。
Ia2『アイアムアヒーロー』はうるさ方の映画ファンからの後押しも受けて、現在R15ながら中ヒット上映中。わたしは富士の見える(笑)柿田川サントムーンというショッピングモールで観たのですが、映画の日とは言え満席になったのには驚きました。地方ではあまりそういうことはないので…
この作品で一皮むけた感のある佐藤信介監督の次回作はなんとあの『デスノート』の後日談。不安もありますがこちらも楽しみです。


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May 12, 2016

マーベル南北戦争・劇場版 ルッソ兄弟 『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』

20150815220750はやいもので2008年から始まった「マーベル・シネマティック・ユニバース」ももうフェイズ3(第3期)を迎えることになりました。開始当初は色々スムーズに進まなくてやきもきしたものですが、いまやスターウォーズに並ぶほどの人気シリーズとなり、ファンとしては感無量です。そんなわけで本日はそのフェイズ3のスタートとなるこの作品を紹介します。『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』、参ります。

ウルトロンの暴走後も世界各地でヴィランたちと戦い続けていたアベンジャーズ。だがその戦いには彼らが全力を尽くしても市民の犠牲がつきまとい、アベンジャーズは世間からの非難を浴びることになる。国連はこのことから「ソコヴィア協定」を提案。ヒーローたちに彼らの管理化に入るよう要求してくる。しかしアベンジャーズは協定に賛同するアイアンマン側と拒否するキャプテン・アメリカ側で対立。双方の溝は埋まらぬまま締結の日を迎える。そしてその会場でキャップの親友であり国際指名手配されているヒドラのエージェント、「ウィンターソルジャー」の姿が目撃される。

原作について少し。『シビルウォー』は2006年から2007年にかけて行われたマーベル・コミックスの一大イベント。若手ヒーローの不祥事から「ヒーローは全員素性を明かし政府の管理下に入るべき」という運動が起き、賛同派のアイアンマンと反対派のキャップが対立し… というストーリー。映画と違うのはその登場人物の多さですかね(^_^; ざっと100名以上のキャラクターが二派に分かれて大激突するので、邦訳を地味に追っかけていたわたしですら誰が誰やら状態でした(ちなみにハルクは宇宙へ出張、ソーは行方不明で登場しません。X-MENは事態を静観していてごく一部のメンバーだけが参加)。
この原作『シビルウォー』はカタルシスのほとんどないただただ辛いストーリーのせいか、日本の読者には大変評判が悪いです。しかしこの一連のクロスオーバーがマーベルコミックスをより盛り上げたこともまちがいなく、発表から10年経った今もこれを越える企画はないんじゃないか…というくらいです。というか先日10周年を記念してか『シビルウォーⅡ』というプロジェクトが発表されました… ヴィランたちの存在意義がどんどん薄くなっていきます。

さて、映画の方。キャップとアイアンマンの対決はいろんなものになぞらえることができます。銃規制の是非を巡る争いにも見えるし、民主党と共和党、あるいは保守とリベラルの戦いにも見える。「シビルウォー(内戦)」というタイトルが表わしているように、USAも決して一枚岩ではなく中に様々な対立をはらんでいるわけですよね。
わたしとしましてはアイアンマンが「政府・法律」の代表であるならば、キャップは「個人・自由」の代表だと思いました。一般人が普通に生きていくうえで、法律も自由も必要なものです。そのバランスがとれているときはいいのですけど、時としてこのふたつは衝突することもよくあります。

以下、ネタバレになりますけど
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前半から中盤にかけて理性的に振舞っていたアイアンマンですが、復讐心を刺激されるやいなや感情のままに暴れ狂う。これ、アメリカが歴史を通じて何度か見せていた姿ですよね。アラモ砦、真珠湾、そして9.11と。そんな風に国家が復讐心・好戦ムード一色になったとき重要になるのが、キャプテンアメリカが見せた命を尊ぶ姿勢とか、友を思いやる心だと思うのです。名前に「アメリカ」とついてるのでどうもひっかかるところはありますが(^_^;、

『シビルウォー』は政治テーマも含んだ作品であると同時に、シンプルな友情の物語でもあります。スティーブン・ロジャースの戦いの根底にあるのはいつも「誰かを守るため」ということであります。アイアンマンの猛攻から自ら盾となって親友を守るスティーブ。しかしこれは同時にトニー・スタークの心も守っていたのではないかと思われます。わたしの好きな漫画『鋼の錬金術師』で上官が復讐心に取りつかれた時、主人公が必死になってそれをいさめる場面があります。メンタル的に不安定なトニーのこと、もし衝動に駆られてバッキーを殺したとしたら我に返った時また激しく落ち込むのでは… キャップはそう考えてまたしてもズタボロになりながら二人の友を守ったのでしょう。未だ怒りが収まらないトニーに「その盾をおいていけ!」と言われ素直に自分のシンボルをゆだねたのは、スティーブの「もう君のそばにはいられないけれど、自分を大事にしてほしい、守ってほしい」という気持ちの表れだったのだと思います。
ただMCUにおけるトニーとスティーブというのはいままでそんなに仲良しこよしでもなかったと思うのですよね。どっちかというとぶつかりあったり、あてこすりを言ったりする場面の方が多い。恐らくトニーは自分に厳しかった父が偶像のようにキャップについて語るのを聞いていて、親しみと同時にどこか素直になれない感情を抱いていたのでしょう。そしてキャップは親友が彼の両親を殺めていたことを知って、初めて彼に負い目のような気持ちを抱いたのだと思います。そして全ての秘密が明かされてお互い全力でぶつかり合うことによって、ようやく彼らは真の友達になれたのではないでしょうか。

度々当ブログでは小野耕生氏にならってアメコミを現代のギリシャ神話に例えていましたが、今回はシェイクスピア悲劇に近い趣きもありました。一人の人物の諌言というか陰謀によって、英雄たちの絆が引き裂かれ、破滅に近づいていく展開が。救いなのは一歩手前で本当に悲劇的結末になるのを避けられたことです。傷つき過ちを犯した英雄たちは、スパイダーマンやブラックパンサーといった若きヒーローたちに支えられ、再び力を取り戻すことでしょう。暗いムードもいくとこまでいってしまったMCUですが、ティチャラの成長した姿やピーターの明るい笑顔を見ていると再び希望の光がともりはじめたような気がします。少年ジ○ンプの有名な言葉を借りるなら、まさに「俺たちの戦いはこれからだ!」ということができましょう。

Img_7_m『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』は連休中『コナン』『ズートピア』の上を行くことは出来ませんでしたが、それでもMCU作品中最高の初週動員を記録しました。世界にいたっては歴代5位のオープニング成績です。この分ならフェイズ3も大丈夫かな…とは思いますが、引き続き油断せずMCUを応援していこうと思います。次はメインストーリーからはずれたベネディクト・カンバーバッチ主演の異次元SF映画『ドクター・ストレンジ』が予定されていますが、これがまだ日本では年内公開なのか年明け公開なのかはっきりしません。さっさと決めちゃって!


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May 09, 2016

ある日森の中クマさんと殺りあった アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ 『レヴェナント 蘇えりし者』

Photo本当にいまさらながらではございますが、レオナルド・ディカプリオ、念願のアカデミー主演男優賞おめでとう! 本日はその受賞作品である『レヴェナント 蘇えりし者』ご紹介します。

19世紀初めのアメリカ北西部、ヘンリー隊長率いる毛皮ハンターたちは原住民の襲撃に合い厳しい旅の途上にあった。そのさなか道案内役を務めていたヒュー・グラスは子連れの熊に襲われ瀕死の重傷を負う。隊長はグラスの息子含む三人の付き添いを残し先に砦に向かうことを決定。だが付き添いの一人フィッツジェラルドは、グラスを足手まといとみなしてひそかに殺そうと企てる。

賞レースとは関係無しに前から楽しみにしていた作品。というのは情報等からわたしの好きな小説家ジャック・ロンドンの作品世界を彷彿とさせるところがあったので。ロンドンの作風を手短に説明すると、雄大な自然、たくましい生き物たち、ふつふつとたぎる冒険心、そしていつ野たれ死ぬかもわからない過酷な環境… ま、そんなところです。そしてその期待には十分にこたえてもらいました。『レヴェナント』の重要な要素である親子の情愛の絆とか、復讐劇などはロンドンの小説にはあまり見られないものでしたけどね。

で、宣伝からもっとヒリヒリと焼付くような復讐劇を想像していたのですが、微妙にムードが違っておりました。復讐劇というのは普通標的が越後屋のような極悪人で、主人公は激しくその憎悪を吐露するものですが、本作品のフィッツジェラルドが凶行に走った心情もわからないでもないし、グラスの復讐心ももっとこう淡々としています。
かわりに強調されているのは神々しいまでのアメリカ北西部の自然風景と、ディカプリオを見舞う幾多の災難です。原住民に熊にならず者たちに寒さに飢えに水死の危険に… その全てに体当たりの演技で臨むディカプー。ベジタリアンであるのに生の肝臓まで食らったりしたというから驚きです。まさにオスカーも納得のベストアクトということができましょう。そして「復讐してやるぞー」という思いでもなければグラスもまず生き残ることはできなかったでしょう。

ただ実話というか原作ではグラスさんの復讐の動機は息子を殺されたからではなく、置き去りにされたこととお気に入りの銃をかっぱらわれたことが原因だったようです。なぜ原作にはない「息子」の設定を取り入れたのか。それはイニャリトゥ監督の方針としか言いようがありません。彼の作品は全部観たわけではありませんが、調べてみたらほぼ全ての監督作に「悩めるお父さん」が主人公、もしくはそれに順ずる立場で出てきます。なんでもデビュー作『アモーレス・ロペス』も亡くなった息子のために作ったとのことで、監督は「人は失ったもので形成される。人生は失うことの連続だ。失うことでなりたかった自分になるのではなく、本当の自分になれるのだ。」とコメントしております。イニャリトゥ氏が息子さんのことを思いながらずっとレクイエムのように映画を作りつづけているのだとしたら、なんとも切ないものがありますね…

あとこれはどうでもいいことなんですけど、こないだ観たピクサーアニメ『アーロと少年』といろいろかぶったり対照的になってる点も面白かったです。どちらも大西部の雄大な風景を舞台にした親子のサバイバル劇ですが、『レヴェナント』では親が子を失うのに対し、『アーロと少年』では子が親を失います。以下結末までネタバレしちゃうのでご了承ください。

shock
shock
shock
shock

そして『アーロ』では家族を失うきっかけになった者と温かい絆を育んでいくのに対し、『レヴェナント』では同情せず最後まで仇を追いつめていきます。とどめの段階で急に「自然にまかせる」とか言い出したのはちょっと謎でしたが。芥川龍之介の『芋粥』のような心境でしょうか。また主人公に幻想を見せて生死をあいまいにして終わらせるやり方は前作『バードマン』を思い出しました。

Img10323167531『レヴェナント 蘇えりし者』は現在全国の映画館で公開中。非常に高レベルの作品であるのに同日公開の動物映画『ズートピア』と明暗がくっきりわかれました。やっぱり子供たちは牛の肝臓を生で食うような映画は嫌いか… ご興味おありの方は早めに劇場に行かれてください。


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May 02, 2016

天は天の上に動物を作らず リッチ・ムーア バイロン・ハワード 『ズートピア』

Zpt2今年もはやいもんでもうゴールデンウィーク突入ですよ! 映画館もにぎわっているようでなによりでございます。今日はその盛況に一役買ってるディズニー最新作『ズートピア』、ご紹介します。

四足歩行の野生哺乳動物だけが異様な進化を遂げた並行世界。ウサギのジュディはみなが「無理だ」という中、持ち前の負けん気とたゆまぬ努力で大都会「ズートピア」の警察官になるという夢を果たす。やる気満々で出勤してきたジュディだったが、彼女に当面与えられた仕事は日も当たらず感謝もされない駐車違反の取り締まりだった。それでも懸命に仕事に励んでいたジュディは、ある日胡散臭げな雄ギツネのニックと知り合う。

…ううむ、あまり面白くなさそうなあらすじだ… しかしこれはわたしの書き方が下手なだけであって、実際観てみたら多くの人が「面白い! 楽しい!」と感じられる作品だと思います。
とりあえず予告やイメージイラストから先に公開された『トゥモローランド』のような未来SFを想像したのですが、ズートピアは意外と現代の都市風景とあまり変わりがありません。変わっているのは区画によって季節が違ったり、住人の大きさが違っていることくらいです。で、お話が進むにつれ未来どころか60年代のハードボイルドかフィルムノワールのような様相を呈してきて意表をつかれました。ただそれもこの映画の一要素にしかすぎず、ジャンルで言うと動物アニメでもあり、ポリスアクションでもあり、ホラーっぽいところもあり、やっぱりSFっぽいところもあり、青春ドラマでもあり、ユートピア小説でもあり… あああ、もう詰め込みすぎじゃ!と言いたくもなります。しかしそのごった煮のような作風が実にすきっときれいにまとめられており、ことごとくプラスの方向に働いているあたりがすごいところです。

そしていろんなとこで言われてるのでわざわざここで書くこともないのですが、このアニメ、実に差別や偏見について真実をついたメッセージを発しているのですね。それはいわゆる社会から見たら「善良な市民」と言える人たちでさえ、特定のカテゴリの人々について偏った見方をしがち、ということです。で、そういう差別はどうやって生まれるのか、みたいなことも語られます。ひとつは政治家が自分の思うとおりにことを運びたい場合、プロパガンダによって偏見を助長することがある、という例。もうひとつは一度ある種の人々…たとえば一人の巨人ファンから嫌な目にあわされたとしましょう。そうすると人というのは往々にして「巨人ファンはみんないやな人たちだ」と思い込んでしまう場合がある、ということです。実際には巨人ファンにだっていい人はたくさんいる(たぶん…)のにね。
というわけで自分はリベラルだと思っている人でさえも、容易に偏見にとらわれることがあるということです。「アニメファンを差別するな!」と言っているあなたも心の底では特撮ファンをバカにしているかもしれない。オタクはみんな平等じゃないですか! 差別よくない! …なんか自分で書いててよくわからなくなってきましたが、わかっていただけだでしょうか。

そんな深遠なテーマをはらみながらも、ハラハラドキドキニコニコメソメソなエンターテイメントとしても十分に楽しめる本作。ニックとジュディは二匹とも欠点こそありますが、だからこそ憎めないし愛着のわくキャラクター。さらに二匹の周囲の動物たちが、出番の多い少ないにも関わらずどいつもこいつも無駄にキャラが立ちまくっております。そんな連中が画面をひっきりなしに飛び回り暴れまわってるのですから面白くないわけがありません。先に『アーロと少年』を送り出したピクサーも引き続きがんばっていますが、ラセター氏が最近力を入れているのは明らかにディズニーご本家のような気がしてなりません。

それでも少しだけ不満点を言わせてもらうならば…以下ネタバレです。

dog
cat
dog
cat

クライマックスの追跡劇→ピンチ切り抜けも決して悪くなかったけれど、子供向けのアニメならばもう少しドカーンと来るような派手なカタストロフで盛り上げてほしかったところ。また引合いに出して恐縮ですが、その点以前のピクサーは申し分なかったですよね。
あともう一点はこれは完全に個人的な好みですが、できればニックには警官にならずに街のアウトローのままでいてほしかったなあ… 新米警官とやさぐれた詐欺師というコンビがとても気に入っていたのでね。もし続編が作られるのであればニックは「俺やっぱり性にあわない」ということで元の職業に戻ってほしいものです(^_^;

149099adea『ズートピア』は現在全国の映画館で、名探偵コナンと熾烈なデッドヒートを展開中。GWの映画館を制するのはおそらくこの二本でしょう!(一番頑張ってほしいのは『シビルウォー/
キャプテン・アメリカ』ですが…)

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