« 5歳のボクが、部屋を出るまでと出てから レニー・エイブラハムソン 『ルーム』 | Main | 天は天の上に動物を作らず リッチ・ムーア バイロン・ハワード 『ズートピア』 »

April 27, 2016

カルタ馬鹿一代(と仲間たち)・ 「もろともにあはれと思へ山桜編」 末次由紀・小泉徳宏 『ちはやふる 上の句』

111226_182501原作は途中まで読んでたものの、スルー予定だったこの映画。あまりの評判のよさにおされてみて参りました。二部作の前編にあたる『ちはやふる 上の句』、ご紹介します。

千早と太一、新の三人は子供のころ競技カルタで共にチームを組んだ幼馴染だった。しかし新は遠くへ転校してしまい、太一は成長するとカルタから離れてしまう。ただ一人変わらず情熱を失わない千早は、高校でカルタ部を創設しようと奮闘。その熱い思いに引き寄せられ、一人、また一人とカルタ部にメンバーが集まってくる。

原作についてちょこっと書いた記事はコチラ。うっすら忘れかけてましたけど、この漫画かなり少年漫画っぽいんですよね。映画はそれをさらに前面に押し出していました。どういうことかというと、やけどするくらい「友情!努力!勝利!」が画面の中にぐらぐらとたぎっております。甘酸っぱい恋模様みたいのもないではないですが、少年スポーツ漫画においてそういうのはあくまで添え物。鈍感な主人公は自分に向けられた淡い思いになかなか気づかなかったりしてねw 少年漫画と違うのは主人公とヒロインの性別が逆転しているところです。凸凹したメンバーが時にはぶつかりあったりしながらも、やがて一丸となってチームとして強くなっていくあたりはスポーツ映画の名作『クール・ランニング』を思い出したりもしました。

ただ少女漫画らしい要素も確かにあります。強く静かに誰かを思いやる描写とか、過去の過ちをひきずったまま立ち直れてない細やかな心理描写などは、汗臭く絶叫が飛び交う少年雑誌にはなかなか見られないもの。扱う題材が百人一首というところも映画に上品なムードをそこはかとなく醸し出しております。

で、この映画は普段邦画や世にあふれる「漫画原作映画」に辛口の皆さんもこぞってほめておられるのですが、その鍵がこの「上品さ」にあるような気がします。『ちはやふる 上の句』がいつもシネコンでかかっている邦画と作りが大幅に違うかといえば、そんなことはないと思うのです。ただ少しセリフを少なくして、少し大げさな演出を減らして、若い役者さんたちのいい表情を極限まで引きずり出して、ここぞというところでそれを際立たせる。そんな風に気の利いた抑制をするだけで「漫画原作映画」でもこれだけの良いものが出来る、という実証のような作品でした。ただその絶妙なコントロールというものがなかなか難しいものなのかもしれません。スポンサーや会社のお偉いさんから横やりが入るならなおさらのことでしょう。

あと『上の句』で面白いと思ったのは一番おいしい場面で観客の心をもっていくのは主人公の千早ではなく、ヒロイン(笑)の太一とわき役の「机くん」だったりするんですよ。特に机くんは明らかに原作よりも重要な役回りとなっています。男のわたしはおかげでさらに感情移入しやすかったですけど、思い切りましたねえ(^_^; まあ真打の大活躍は「下の句」までとっておこうという考えなのかもしれません。

机くんもそうですが、原作漫画には味のある地味メンが多く登場します。それらのキャラクターがイメージ通りに再現されてたのも高ポイントでした。特にひいきの「ヒョロ君」は漫画そのまんまでしたねえ。できればジョニー・デップに演じてほしかったところですが、坂口良太郎君のヒョロ君ぶりも本当に見事でした。

Chf1離れていた友と思いがつながった直後、また途切れてしまったところで幕となった「上の句」。3人の「またカルタで出会いたい」という願いは果たされるのか(果たされんでどーする)。『ちはやふる 下の句』は今週末より公開です。おそらく「上の句」「下の句」が同時公開されるのは1週間くらいではないのかな… 千葉真一氏のご子息である新役の真剣祐君には、「上の句」で封印していた豪快なチャンバラアクションを期待してます。


|

« 5歳のボクが、部屋を出るまでと出てから レニー・エイブラハムソン 『ルーム』 | Main | 天は天の上に動物を作らず リッチ・ムーア バイロン・ハワード 『ズートピア』 »

Comments

そうでした、持ってったのは、部長と机くん。
いいんです、すずぽんは、そこにいてくれれば。下の句では、もーのすごいことになり…ますかねえ? クイーン戦。(笑)
(もう見たけど)

Posted by: ボー | May 10, 2016 10:14 PM

>ボーさん

下の句では松岡茉優にもっていかれたような…(あっ)
なに、まだ3作目がある!

Posted by: SGA屋伍一 | May 12, 2016 09:55 PM

そうか、上品が鍵だったのか。
それは気が付かなかった。

じゃあ、これをヒットしないように下品にすると

「俺より強い奴がいるなんて許せねえ」と激怒しながらアンプルを首筋に突き立てて昆虫化しながらカルタを取ったりする。

ってなる訳です。いや、逆に火星でのGとの対戦を殴りあいではなく、カルタにしたらちょっと上品になってヒットしたかもしれない、あの映画。

Posted by: ふじき78 | May 20, 2016 09:43 AM

>ふじきさん

虫に札… 『甲虫王者ムシキング』ですね!
『ちはやふる』は『遊戯王』みたく後ろに古の歌人のビジュアルが浮かび上がるような演出があってもよかったかも

Posted by: SGA屋伍一 | May 22, 2016 04:49 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference カルタ馬鹿一代(と仲間たち)・ 「もろともにあはれと思へ山桜編」 末次由紀・小泉徳宏 『ちはやふる 上の句』:

» 「ちはやふる -上の句-」 [或る日の出来事]
学園部活感動成長青春ものとして、よかったですっ。 [Read More]

Tracked on May 10, 2016 10:10 PM

» 『ちはやふる上の句』を109シネマズ木場2で、『64前編』をトーホーシネマズ府中3で観て(64にネタバレ記述あり)、どっちもグーふじき★★★★★,★★★★ [ふじき78の死屍累々映画日記]
前編同士ほんに傑作。 私は、映画の中のキャラが立ってて役者がステキな映画が好きなのだ。 どっちも条件バッチリ。 ちなみにどっちも原作未読、派生物未鑑賞です。 ◆『ちはや ... [Read More]

Tracked on May 21, 2016 12:06 AM

» すずちゃんの白目サイコー!(そこかいな。(;´∀`))〜ちはやふる上の句&下の句〜 [ペパーミントの魔術師]
るろ剣あたりから、前編後編一気に見れるようになったおかげで、 はしごで見てまいりました〜☆ちなみに原作は未読。 余談なんですけど、娘が小6のときに、 百人一首を覚えました。担任の先生がこういうことを授業とは別にやってくれて、 そのためにそれこそ単語カード...... [Read More]

Tracked on May 22, 2016 06:12 PM

» ちはやふる -上の句- [銀幕大帝α]
2016年 日本 111分 青春/ドラマ 劇場公開(2016/03/19) 監督: 小泉徳宏 『ガチ☆ボーイ』 原作: 末次由紀『ちはやふる』 脚本: 小泉徳宏 主題歌: Perfume『FLASH』 出演: 広瀬すず:綾瀬千早 野村周平:真島太一 真剣佑:綿谷新 上白石萌音:大江奏 矢本...... [Read More]

Tracked on September 22, 2016 02:57 PM

» ちはやふる -上の句-/ちはやふる -下の句- [いやいやえん]
【概略】 綾瀬千早、真島太一、綿谷新の3人は幼なじみ。新に教わった“競技かるた”でいつも一緒に遊んでいた。そして千早は新の“競技かるた”に懸ける情熱に、夢を持つということを教えてもらった。そんな矢先、家の事情で新が故郷の福井へ戻り、はなればなれになってしまう。高校生になった千早は、新に会いたい一心で“競技かるた部”創部を決意する。 青春 【概略】 「かるたはもうやらん」と言う新の告白にショックを受ける千早だったが、全国大会へ向けて仲間たちと練習に励む。そんな中、千早は最強のクイー... [Read More]

Tracked on November 14, 2016 03:20 PM

« 5歳のボクが、部屋を出るまでと出てから レニー・エイブラハムソン 『ルーム』 | Main | 天は天の上に動物を作らず リッチ・ムーア バイロン・ハワード 『ズートピア』 »