団地夫 昼下がりの銃撃 ジャック・オーディアール 『ディーパンの闘い』
『預言者』『君と歩く世界』などで近年我が国でも注目を集めているフランスの実力派ジャック・オーディアール監督。こちらの方まではなかなか作品が流れてこなかったりするんですが(^_^;,先日上京のタイミングがあったので最新作を観てきました。第68回カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた『ディーパンの闘い』、ご紹介します。
内紛の続くスリランカで戦争に疲れたディーパンは、赤の他人の女子供と「家族だ」と偽り、フランスへと移り住む(家族だと渡航許可が下りやすいそうです)。苦労しながらもなんとか団地の管理人の仕事を得たディーパン。共に来た二人とも次第に打ち解け、安らかな生活を手に入れたはずだった。だが団地を根城とするギャングたちの争いが、次第に彼らの上に暗い影を落とし始める。
「闘い」とタイトルについてはいますが、半ばほどまでディーパンは文字通りのバトルはしません。見ず知らずの女性との生活や、慣れない土地で生計を立てるのに難儀する、そういう戦いはありますが。前半はそんなディーパンさんたちの喜怒哀楽を微笑ましく見ておりましたが、後半彼はタイトル通り再び「闘い」に巻き込まれていき、その痛々しい姿に胸をしめつけられることになります。
お話の合間に何度か象徴的なゾウさんの映像が写し出されます。ゾウは基本的におだやかな生き物ですが、わが身や家族に危険が迫ると嵐のように怒り狂います。戦いを避け続けていたのに追いつめられて阿修羅のようになるディーパンさんが、まるでそんなゾウさんのように思えました。
ただ普通のアクション映画と異なっているのは、ギャングたちがそんなに悪くも見えないところ。わかりやすいエンターテイメントでは主人公と敵対する者たちをこれでもかってくらい悪どく描くものです。自分たちの利益や欲望のためにとことん弱い者たちを食い物にしたりしてね。
しかしこの映画のギャングたちは闇雲に周りの住民たちを襲ったりはしません。団地のど真ん中で抗争を繰り広げたりするので、これ以上ないくらいはた迷惑な存在ではありますが。おそらく彼らも貧しい環境から流されて流されてそんな風になってしまったのでしょう。大体ちょっとでも金があったら団地などを根城にしたりはしないと思います。
ですから監督が伝えたかったのは誰が悪いかとかそういうことではなく、地球のどこにいっても暴力から逃れられない、そういう悲しさなんでしょうね… 実際銃や暴力におびえずに暮らせる国というのは世界では少ないほうではないでしょうか。日本も問題はいろいろありますが、いきなり撃ち殺される心配がないという点では大変ありがたいことです。
そんな国に住んでるからか、あるいは前半ののどかなムードとの落差のためか、この映画で鳴り響く銃声は大変重苦しく、恐ろしく感じられました。無敵のヒーローが活躍する映画ではいくら射撃音が鳴り響こうと一向に平気なのですが…
ここから結末に触れます。
ラストシーン、打って変わって立派なお家で幸せそうに暮らすディーパンさんたち。「いろいろあったけど最後はハッピーでよかったね!」と思いたいところですけど、不自然でとってつけたような雰囲気が観る者を困惑させます。いまわの際に彼が見た幻影と考える方がしっくりくるかもしれませんが、それじゃあまりにも悲しすぎるじゃありませんか。こういうやんわりと観客の判断にゆだねる結末、文学的ではありますが実にもやもやします。
『ディーパンの闘い』は現在東京は有楽町を中心にほそぼそと公開中。おフランスの地方の現実を知りたいという方などにおすすめです。
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