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February 09, 2016

ブラックキャットによろしく・劇場版 杉作・山本透 『猫なんてよんでもこない。』

Sga3話せば長くなるのですが、高校のころ格闘技ファンの友人のすすめで愛読していた『キック・ざ・ちゅう』という漫画がありました。原作はベテランのなかいま強先生で、作画は杉崎守さんという方でした。で、その単行本のオマケページに杉崎先生のエッセイがのっていて「弟がボクシングの4回戦でがんばっている」なんてことが書かれていました。それから十年以上たって、その弟さんが描いたネコ漫画を読むことになろうとは夢にも思いませんでした。彼はその後「杉作」というペンネームで漫画家に転身し、このブログでも何回か紹介した『クロ號』、そして『猫なんてよんでもこない』を著すことになります。今日は現在公開中の『猫よん』の映画版を観てきたのでその感想をば。まずはあらすじから。

おそらく90年代。ボクサーとしていまひとつ壁を越えることのできないミツオは、ボクシングに集中するためバイトをすべてやめ、兄のところに転がり込む。だが兄が拾ってきた二匹の捨て猫・クロとチンの世話を押し付けられたため、ミツオはなかなかトレーニングに専念できない。元々猫があまり好きではなかったこともあり、ミツオのストレスは高まっていく。それでもともに過ごしていくうちにお互いになれていき一安心と思えたころ、ミツオは大きなアクシデントに見舞われる。

ネコをテーマにした映画はちらほらあります。しかし猫というのは基本的に犬より扱いにくく、思い通りに動いてくれない動物です。だからドラマや映画に出てくる猫というのは大抵の場合じっとしてるか、ただ普通に歩いてるかというシーンが多いです。ですがこの『猫なんてよんでもこない』では驚くべきことに猫が演技してるように、その場その場にあった動きをします。実は映画化されると聞いたときその点が一番心配だったのですが、みごとに原作のクロ・チン(子)を再現していました。調教師の腕が見事だったのか、思うように動いてくれるまでスタッフが忍耐し続けたのか、はたまた巧妙なCGなのか… ま、その点がまずすごいし、ほんわかさせられる映画でした。

ただこの映画はほんわか和むだけの話ではなく、けっこうきついというか『火垂るの墓』を彷彿とさせるところもあったりします。以下はけっこうネタバレしてるのでご了承ください。




『火垂るの墓』は戦争が主人公兄妹を追い込んだ…という風に受け止められてますし、確かにそういう側面もある話ですが、兄がおばさんの家を飛び出したりしなければ妹は死ななかった…ということも匂わされています。
『猫なんてよんでもこない』も映画で観て改めて気づいたのですが、ミツオの無邪気な判断というかよかれと思ってやったことが結果的にクロの寿命を縮めてしまうことになります。実はその贖罪のために描かれたというところもふたつの作品は似ています。
自分のせいで守るべきものが死ぬとわかった時、ボクシングを諦めたときも兄に放り出された時もぼや~っとしていただけだった青年が、はじめて声をあげて泣きます。わたしは別に飼い猫に負い目とかない(…と思う)ですけど、あいつももう15歳なので遠からず別れる時が来るんだろうなあ、と思うとさすがに胸をしめつけられるものがありました。後ろの席で観ていたお客さんも同じように感じたのかはたまた自分の経験を思い出したのか、「ごぶっ」という嗚咽の音を漏らしていました。それなりに映画館に通ってますけどそんな音を聞いたのは初めてだったのでちょっとびっくりしましたね(^_^;

「主人公のせい」と書きましたが、「猫を飼う」ということについてもいろいろ考えさせられました。今の日本の都市部ではそりゃ去勢・避妊してなるべく家から出さない…という飼い方が当たり前なのかもしれません。それが猫が最も長生きして近所に迷惑もかからない飼い方だから。でもそれが本当に猫にとって幸せな生き方なのか…ということはやっぱり猫に聞いてみないとわからない。でもまあ猫は希望を答えてくれるわけではないので、やっぱり色々考えを巡らせて、最善と思える飼い方をするしかないんですよね。

結果的に短い生涯を終えたクロですが、このクロちゃん、ミツオが言うようにまさに「奇跡の猫」だと思います。段ボール箱に捨てられてたごく普通の猫だったのに、飼い主の生き方を変え、二度に渡って漫画化され、日本中の多くの人を感動させてるわけですから。そんな猫はそうそういるものではありません。

これはごくごく小さい世界のお話です。ストーリーの半分くらいは家の中で進むし、あとの半分も家の周辺の範囲内でおさまってます。ただ前後にスケールの大きい映画ばかり観てた(スターウォーズとか捕鯨の話とか綱渡りの話とかスパイの歴史秘話とか)ので、この小ささがなんとも心地よく感じられたのでした。
20160209_142749ただ『猫なんてよんでもこない』、原作はそれなりに売れてたと思ったのに映画はそんなに入ってないようです(^_^; なぜだ… ニャンコの自然な演技だけでも一見の価値がありますので、特に『岩合光昭の世界ネコ歩き』などが好きな方はごらんになってみてください。あと一週あるかないか…かな…


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