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February 17, 2016

ジャガイモ畑でいきのびて アンディ・ウィアー リドリー・スコット 『オデッセイ』

Yjimage近年『ゼロ・グラビティ』『インターステラー』と宇宙開発映画の力作が続きましたが、今度は御大リドリー・スコットが火星探査を題材にドカンとやってくれました。SF小説『火星の人』を原作とした『オデッセイ』、紹介いたします。

火星への有人探査が可能となった近未来。宇宙飛行士ワトニーは突然の大嵐に襲われ行方不明となってしまう。クルーは彼が死んだものと諦め地球へと帰還の旅に着くが、実はワトニーはまだ生きていた。限られた水・空気・食料で次の船が来るまでの4年間どうやって生き延びるか。ワトニーは持ち前のポジティブ思考で知恵を巡らし、なんとか生き延びようと決意する。

そんなん無理に決まってんだろーっ!!…と普通は思います。しかしあっさり死んでしまったら映画はすぐに終わってしまうわけで。どうやってワトニーが多くの不可能をクリアしていくのか、そんなミステリー的な面白さがまずあります。

さらにこの映画の魅力として、リアルな火星開発を描いているという点があげられます。これまで火星を題材とした映画はいくつかありましたが、大抵タコみたいな宇宙人が出てくる荒唐無稽なものばかりでした。『レッド・プラネット』はいい線行ってましたがあれも結局アクション重視の作品でありましたし。『オデッセイ』では実際の火星の環境や風景はどんなものなのか。空気も水もろくにないところでどうやって生きていくのか。学習漫画のように素人にもわかりやすく面白く解説してくれます。

監督は『エイリアン』『ブレードランナー』などで知られる超ベテランのリドリー・スコット。彼のイメージをわたしなりに表すと「撲殺・斬殺・時々射殺」みたいな感じです。つまり作品の中でいっぱい人が死にます。しかしこの『オデッセイ』では…(ぼちぼちネタバレに入ります)
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驚くべきことに誰1人として死にません。天国に一番近い位置にいるワトニーはもちろん、出演中の死亡率が大変高いショーン・ビーンでさえも(クビは飛んでましたが)。
こんなに人が死なないリドスコ作品はおそらく『プロヴァンスの贈り物』(未見)以来ではないでしょうか。でもあれだって冒頭でおじさんが死んでるらしいし。
あとリドスコ作品は笑える場面があまりなく、男たちが血管を浮かせて「ぶっ殺すー!」と叫んでるシーンの方が多い印象です。しかし『オデッセイ』ではみんな静かになごやかにしゃべってますし、ユーモラスな要素もたっぷりあります。生きるか死ぬかの瀬戸際だというのに。
これはまあ原作(未読)がそうだから、と言ってしまえばそうですが、バイオレンスのスペシャリストのリドスコがそんな原作に興味を持ったということが不思議です。老いて心境の変化でもあったのか、弟の死が影響を与えたのか。ただ言ってみれば「彼らしくない」この映画が、『グラディエイター』以来の大好評を呼んでアカデミー賞にもバンバンノミネートされているのはなかなかに皮肉ですね。あと次回作は『エイリアン』前日談の『プロメテウス』の続編だそうなので、また死人がゴロゴロ出る作風に戻るかと思われます。

20160217_121311こんだけウダウダと書いた後になんですけど、「その監督らしい・らしくない」なんてのはまあどうでもいいことですよね。面白けりゃいいんです。そしてこの『オデッセイ』はかなり普遍的に「面白い」作品になっていると思います。ゆるキャラも怪獣も出なけりゃスター的な俳優が出ているわけでもないのに、二週にわたって興行一位に輝いていることがそれを証明しています。「こわくなさそう・わかりやすそう」ということで年少者たちにも好評のようですし。
そんなわけで『オデッセイ』はまだまだ公開続いちゃうんじゃないかと思われます。無事に生き延びたマット・デイモン氏ですが、次回作はおなじみのジェイソン・ボーン・シリーズで命が危なくなるとのこと。そちらも期待してます。


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Comments

絶望しかない『悪の法則』が結構好きだったんですが、こちらは希望しかない作品で、これまた好きでした。
確かにリドス子らしくない作品で、むしろトニスコ思い出す映画だったんですけど、
GG賞受賞の際に「寂しいよ、トニー」って言ってたの聞いて、なんか膝を打つものがありました。

Posted by: とらねこ | February 22, 2016 at 03:44 PM

>とらねこ先生

実は『悪の法則』見てないのよね… バルデムさんの髪型が面白そうだし今度借りよう

リドスコらしくて評判はいまいちだった『エクソダス』もトニスコ氏にささげられてました。あれは仲たがいした兄弟の話だったので、見ていて切ないものがありましたです

Posted by: SGA屋伍一 | February 23, 2016 at 10:16 AM

伍一くん☆
ワトニー並みにギリギリのところでなんとか無事、息子の受験も終わってほっとしているところです。
人が一人も死なないリドスコ映画、とってもポジティブで面白かったわ~

Posted by: ノルウェーまだ~む | February 28, 2016 at 11:16 AM

>ノルウェーまだ~むさん

受験応援お疲れ様でした~!
わたしは最近人がバタバタ死ぬ映画が3連続で続いてしまってちょっと疲れました(^_^;

Posted by: SGA屋伍一 | February 28, 2016 at 10:00 PM

> しかしあっさり死んでしまったら映画はすぐに終わってしまうわけで。

あっさり死んで霊体としてポルターガイストを起こしながら、死んではいるけど故郷に帰る話って作り方が出来なくもない。鬼太郎だって火星に一人じゃ寂しいでしょって事で。そう言えば火星にはバルタン星人が苦手なスペシウムがいっぱいあるんでしたっけ?

Posted by: ふじき78 | March 07, 2016 at 08:50 AM

>ふじき78さん

そういえば『ゴースト・オブ・マーズ』なんて映画もありましたねー 名作の誉れ高い『火星年代記』もそんなはなしだったような

Posted by: SGA屋伍一 | March 09, 2016 at 10:28 AM

マークのタフガイらしさ、強い者が劣悪な環境に立ち向かい、地を耕していく、という意味では、科学が全面に出て、監督らしい啓示とか教訓は無かったですね。
ただ、生き延びたい、という叫びが、当然のごとく環境に何とか対応して行く、マークから発せられ、それが、別れた仲間を再び一つにすると。これは、宇宙神話のアメリカナイズですね。何でも、吸収して、自国のものにしてしまうと。
この後日談があるとすると、火星が大規模なコロニーとなって、彼の教え子たちが、地を耕し、あるいは、山を削り、資源を獲得する、人間の物語になる、という事だと思います。

変に応じるのが人間、では、最高の知能が迷い、うちひしがれる事態をも想定出来ないと、完璧なストーリーは描けないと思います。ここでは、賢明にドラマを引っ張ったマークが、それに当たると思いますし、地球と交信がつながったところは、本当に感動的でした。こうした、開拓計画は、些末な情報とかいって、過去の記憶を無碍には出来ないですね。いつ、どこで、ストーリーは繋がるか分かりませんから。

Posted by: 隆 | April 03, 2016 at 10:55 PM

>隆さん

アメリカ的、といえば西部のような景色とあいまって、不毛な土地で作物を育てるあたりは本当に西部開拓史のようでした。インディアンやならず者が登場しないのは平和でしたが、その分ほかの逆境がすごすぎてマークには本当に「お疲れ様…」と言いたくなりました
実際にはまだ火星への有人飛行はできてないわけですが、こういう映画をみると「近い将来実現しないかな」と思いをはせてしまいます

ちなみに近日公開予定の邦画「テラフォーマーズ」も火星を開拓する話のようですが、こちらはもっと荒唐無稽な感じですね

Posted by: SGA屋伍一 | April 04, 2016 at 10:46 AM

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