ボーンクラ・アイデンティティー ニマ・ヌリザデ 『エージェント・ウルトラ』
ちょっと奇妙な風貌と早口で、若手俳優の中では異彩を放っているジェシー・アイゼンバーグ。前作『嗤う分身』はドストエフスキー原作のアート作品でしたが、今回はブレイクした『ゾンビランド』のようなB級血みどろアクションに再挑戦。『エージェント・ウルトラ』、ご紹介します。
アメリカの片田舎に住むマイクはドラッグ大好きなボンクラ青年。自分の素性もわからず、心因性の病気で「街から出られない」という症状を患っていたが、彼には(なぜか)優しくかわいいフィービーという恋人がいて、ラブラブで幸せな毎日を送っていた。
いい加減フィービーに結婚指輪を渡そうとマイクが思い悩んでいたある日、彼は勤め先のスーパーで謎の男たちに襲われる。しかし意外なことに体が覚えていた殺人技術で、マイクは瞬時にして刺客たちを返り討ちにしてしまう。自分は一体何者なのか… 彼の悩みがさらに追加されたのをよそに、街では国家的陰謀が着々と進行していた。
この映画、原題を『アメリカン・ウルトラ』と言います。アメリカン・サイコ、アメリカン・ジゴロ、アメリカン・ビューティー、アメリカン・ギャングスター、アメリカン・ヒストリーX、アメリカン・パイ…と並べてわかるように、「アメリカン」とつく映画の主人公は大抵ろくでもないやつばかりです。よくてボンクラ、悪くて人でなし、うんと悪くて大量殺人者です。本作品の主人公マイク君もなかなかのボンクラで、しかもその正体は殺人マシン。ですが人並みに恋人に関するあれこれで悩んでいたり、おバカな漫画「宇宙ゴリラの物語」を自作してたりと他のバッドでアメリカンなやつらと比べると実に小市民的な親しみやすさがあります。ぶつぶつつぶやきながらフラフラ歩き回るその様は、潜在能力が半端ないこともあいまって『究極超人あ~る』のR・田中一郎を彷彿とさせていました。
で、ちょっとネタバレしちゃうとこの映画、主なストーリーは『ボーン・アイデンティティー』と大体一緒なんですよね。でもちょっとしたさじ加減の違いで印象を大幅に異なるものにしています。マイク君はボーンや『イコライザー』のデンゼルさんのように身の回りのものを武器として使うのですが、その日用品というのがカップラーメンだったりただのスプーンだったりおおよそ武器らしくないものばかりで、いちいち笑いを誘ってくれます。
おおよそ殺し屋のイメージから程遠いジェシー君の振る舞いもこの映画にコメディ要素を増し加えています。凄腕の暗殺者たちに命を狙われているというのに、指輪を渡すタイミングを見計らってたり、すねて家でふて寝したり… だのになんとかピンチを切り抜けちゃったりするから不思議です。
あとこうしたスパイ系映画というのは大都会で世界をまたにかけて暴れたりするものですが、あくまで田舎の町で閉鎖的に進行していくあたりも独特でした。
そんなヘンテコなスパイアクションに花を添えているのがクリステン・スチュワート。『トワイライト』や『スノーホワイト』で純愛乙女を演じたかと思えば、こないだは『オン・ザ・ロード』でセックス&ドラッグにふけるビッチ役をやったり、色々迷走してるなあと思っていましたが、今回はたぶん素に近い役だからでしょうか。自然体のかわいらしい魅力にあふれていました。最後の方でぼこぼこになぐられて顔面崩壊状態になってたのは「あー、また無理してる」とは思いましたが。
『エージェント・ウルトラ』は実は本国ではけっこうコケたりしたのですが、日本でも公開館が少ないせいかあまり話題になっていません(^_^; というかもう今週で公開終わる…のかな… ちなみにアイゼンバーグ君は3月公開の『バットマンVSスーパーマン』でも重要な役を演じています。そっちの方での活躍も楽しみです!
Comments
いろんな人から押さえで見られてる感じの、ランクの低い感じがこの映画の可愛さだと思います。
Posted by: ふじき78 | February 16, 2016 10:08 PM
>ふじき78さん
邦画で似たようなことをやったら叩かれたんでしょうけど、ジェシー&クリステンのかわいらしさで許せる感じの作品でした。それなりに面白かったし
Posted by: SGA屋伍一 | February 19, 2016 08:26 PM