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January 14, 2016

この壁、越えるべからず スティーブン・スピルバーグ 『ブリッジ・オブ・スパイ』

Geteiltd一年経つのははやいもので、もうぼちぼちアカデミー賞のノミネートが発表される時期であります。本日はその有力候補にして名匠S・スピルバーグの最新作『ブリッジ・オブ・スパイ』をご紹介します。

冷戦が激しくなってきた1957年。主に保険の業務を担当していた弁護士のジェームズ・B・ドノバンは、上司の推薦を受け逮捕されたソ連のスパイ・ルドルフ・アベルの弁護を行うことになる。「死刑にせよ」という世論に反してアベルの命を救おうとするその弁護は、多くの敵意を身に招くことになった。それでもなんとか裁判を終えたドノバンだったが、彼の仕事はまだ終わらなかった…

前作に続き知られざる(米国では有名なのかな?)歴史秘話を扱った作品。昨年は派手なアクションで彩られたスパイ映画が目立ちましたが、諜報活動というのは実際にはかなりひっそり、地味に地味に行われてることがこの映画を観るとよくわかります。

脚本は『ノー・カントリー』『ファーゴ』などで知られるコーエン兄弟。近年のスピルバーグはしみじみ感動を呼ぶような作風のものが多いですが、コーエン兄弟はどちらかというと皮肉っぽい冷笑的な作品が目立ちます。果たしてそのふたつがうまく溶け合うのかな… と思いましたが、観てみたらそれなりにうまくいってましたね。大衆や国家の思惑を描くところは皮肉っぽく、でも個人=ドノバンの葛藤や戦いに関しては素直に賞賛できるような演出になっていました。で、ここぞという場面で大げさな音楽がかかったり、役者が絶叫するわけでもなく、あくまで静々とお話は進行していきます。でも観終わって一日経って思い返すと、目に涙をいっぱいたたえたドノバンの表情や、淡々と語るアベルさんのセリフがおごそかに胸にひびいてくるのです。そんな京料理のように、いつまでもさわやかな風味が残っていく映画でありました。

前に作家の大沢在昌先生が「ハードボイルドというのはスタイルとかキザなセリフではなく、全く接点のなかった二人が出会い、わずかな間ふれあい、そして別れていく話」というようなことをおっしゃってましたが、そういう意味で言うなら『ブリッジ・オブ・スパイ』はまさに直球のハードボイルドでございました。

難点をひとつあげるなら、ソ連とアメリカ、そして東ドイツをめぐる謀略の行き違いが画面だけだとちょっとわかりづらいことですね。中学生のころまだ冷戦が続いていたわたしはなんとかついていけましたが、いまの若い人にはどうだろうなあ… というわけで、なじみのない世代はその辺をさらっと予習してから臨んだ方がいいかもしれません。

あとこの手の「真実に基づく物語」って、すごく重要なことを最後の字幕でさくっと済ませたりしますが、この映画もやっぱりそうでした。そっちの話もぜひ映画化していただきたいものです。

Photo『ブリッジ・オブ・スパイ』はまだ公開1週目なのでもう2,3週はつづくものと思われます。果たしてアカデミー賞にどこまで食い込めますか。まあスピルバーグはもう2回もらってるからいいんじゃね?という気もしますが(笑)


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Comments

伍一くん☆
趣のある素敵なレビューですね♪
この映画はたしかにそんな京料理のような上品さも持ち合わせているように思うわ。
私もスピルバーグとコーエンの組み合わせでどうなるの?って思っていたけど、実に巧く融合していたわ。

Posted by: ノルウェーまだ~む | January 18, 2016 at 11:37 PM

>ノルウェーまだ~むさん

新年早々おほめいただきうれしゅうございます♪(まだ正月気分が抜けない)
いちご大福のようなしいたけヨーグルトのような、意外な組み合わせが不思議なハーモニーを醸し出した作品でした
まああまりに上品なんで「寝ちゃう」って人がいるのもわかるんですがね(^_^; スピルバーグお得意の残酷シーンもなかったし

Posted by: SGA屋伍一 | January 20, 2016 at 06:19 PM

ラストシーン、交換が合意に達した所でロッキーのテーマを流してもらいたかった。

Posted by: ふじき78 | January 21, 2016 at 09:55 PM

>ふじき78さん

そしたら続編がえんえんと作られちゃうじゃないですかー

Posted by: SGA屋伍一 | January 25, 2016 at 09:16 PM

こんばんは、久々に映画を見に行きました!

>難点をひとつあげるなら、ソ連とアメリカ、そして東ドイツをめぐる謀略の行き違いが画面だけだとちょっとわかりづらいことですね。

確かに・・・!大岡越前の三方一両損みたいな話なのかなって大雑把に考えてましたw
でもこれも相手の思惑がふわふわな状態で駆け引き打たなきゃいけない緊張感の演出なんでしょうね(^_^;)

ちなみに今の学生は冷戦どころか911テロも知らないので、戦後の現代史が意外な盲点になっています。高校の歴史は今後そこをフォーカスするみたいですね。

Posted by: ゴーダイ | February 13, 2016 at 08:53 PM

>ゴーダイさん

当時の東欧の国って、みんなソ連に右に倣えで一枚岩かとおもってたんですが、東ドイツは東ドイツ一個の国家としてのプライドがあったのね…というところが意外というか勉強になりました

>ちなみに今の学生は冷戦どころか911テロも知らない

ははは(^_^; こりゃいよいよ昭和を知る世代も引退間近になってきたな…

Posted by: SGA屋伍一 | February 16, 2016 at 08:56 PM

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