ロッキー・ザ・ネクスト ライアン・クーグラー 『クリード チャンプを継ぐ男』
最初に製作の噂を聞いた時には「いやー、無理だろw」と思いましたが、その後の絶賛の嵐に目を疑った本作品。終わったはずだった『ロッキー』のシリーズを、新星ライアン・クーグラーが巧みな発想でよみがえらせた『クリード チャンプを継ぐ男』、紹介します。
父の顔を知らず、母と死に別れた少年アドニスは、施設にいたところを父の「正妻」であったメアリー・アンという女性に引き取られる。母はボクシングのチャンピオンとして名をはせたアポロ・クリードの愛人だったことをアドニスは知る。メアリー・アンの愛情を受け恵まれた暮らしを送っていたアドニスだったが、成長するにつれ父の影を追うようにボクシングに打ち込むようになる。思うようにコーチを見つけられなかった彼は、父の最大のライバルでやはり伝説のチャンピオンである「ロッキー・バルボア」の元を訪ね、師となってくれるよう頼むが…
そういえば「ロッキー」シリーズについては「ファイナル」公開時こんな文章を書いたことがありました。我ながらよくまとまってる(ような気がする)ので、お暇な方はご覧ください。
近年どん詰まりになって「もういい加減リブートしちゃえば」と誰もが思っていたところを、見事な発想と技巧で盛り返したシリーズがふたつありました。「X-MEN」シリーズと「ワイルド・スピード」シリーズです。どちらもうっかりやってしまったシリーズの黒歴史を、切り捨てることなくきちんと流れにくみこんで、感動するレベルにまでもっていったのには脱帽というほかありません。
この度の『クリード』もその二つに負けていません。シリーズの中でどう考えても浮いている「4」を土台に据え、ロッキーの盟友アポロの息子にスポットを当てる…という着眼点がまず見事。その新主人公の背景や成長をしっかりと描くと同時に、旧作と比べてまったく違和感のないロッキーの姿を見せ、その葛藤も織り込む。本当に丁寧で巧みな造りになっています。また最初は教えられる一方だったアドニスが、いつしか老境のロッキーを励ましひっぱっていくようになります。環境も人種も違うのにだんだんと親子のようになっていく二人のやり取りに、何度となく鼻水をぶしゅっと噴出させられました。
ただシリーズ一作目の『ロッキー』と今回の『クリード』は、方向性は同じですけど質的に違うものも感じられました。若かりしころのロッキーは基本的に自分のために戦っております。一人前の男になるために、一角の人物になるためにダメダメだった自分に別れを告げてリングに向かいます。そんなロッキーの(あるいはスタローンの)「変わりたい」という思いが強く感じられる映画でした。
一方で今回のクリードは「変わりたい」というより「自分が何者なのかたしかめたい」という気持ちでリングにあがっているように感じられました。自分は本当に人々が噂するあの偉大なチャンプの息子なのか。同じ血が流れているのか。父と一度も語ることがなかったアドニスは父と同じ世界に飛び込むことでその答えを得ようとします。その戦いに、やがて「病気のロッキーを励ましたい」という別の動機も加わっていきます。若者特有の激しさや図々しさもあるけれど、このアドニスが本当にいいやつなんですよね…
この映画、現実と3つの点でシンクロしてるように感じられました。ひとつはクーグラー監督がスタローンに企画を持って行った時の経緯。最初スタローンはやんわり断ったそうですが、クーグラー監督が諦めずに熱意を訴えたところ、思い直して俄然協力的になったとか。なんだか劇中のクリードとロッキーの出会いを彷彿とさせるものがありますw
二つ目は主演のマイケル・B・ジョーダン君に関して。彼、有名なバスケ選手のマイケル・ジョーダンと名前がほぼ一緒ですよね。Bが入ってるか入ってないか。きっとこれまで100万回くらい「あの人と名前似てるよね」と言われ続けたと思います。でもこの映画でこれだけの実力を示したからには、もう「ビッグ・ジョーダンと名前がクリソツ」ということで彼を思い出す人はぐっと減ったことでしょう。それくらいマイケル・「B」・ジョーダンの存在感が際立った映画でありました。
三つ目はスタローンの「息子」について。五作目の『ロッキー/最後のドラマ』でロッキーの息子役を演じたこともあるスタローンの長男は、この映画が公開される3年前に不幸な亡くなり方をしました。『クリード』では息子は遠くへ越したということになってましたが、息子に会えなくてさみしそうなロッキーの姿を見ていると、どうしてもその悲劇を思い出してしまうのでした。映画とはいえ、新たな息子を得たことでスタローンの悲しみが少しでも和らいでくれたなら嬉しいです。
で、今回の1作目以来の大評判に気をよくしたロッキー、じゃなくてスタローンは,早くも続編を企画中…なんて情報が今日入ってきました(^_^; いや、クリードの物語はここで終わった方が美しいのでは…とも思いましたが、スタローンが元気になってくれならそれもいいかな、と。だからどうか続編でロッキーが死にませんように。
『クリード チャンプを継ぐ男』はその評判とは裏腹に、日本では興行に苦戦してる模様。映画の様に最後まであきらめず着実にポイントをもぎ取って行ってほしいものです…
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Comments
伍一くん☆
あら、私ったらスタローンの息子さんが亡くなっていたなんて、存じませんでしたわ。
5作目ロッキーも実は観て無くて・・・
そうなると益々ぐっと胸に響きますね。
最後涙ボロボロでした~
Posted by: ノルウェーまだ~む | January 13, 2016 12:20 AM
>ノルウェーまだ~むさん
6作目にもロッキーの息子が登場するんですけど、こちらはスタローンの実子じゃないんですよね。なんか事情があったのか
こないだGG賞もらったときにきれいな娘さんたちと出ていて、なごみましたね~
Posted by: SGA屋伍一 | January 14, 2016 01:21 PM
こちらにも失礼します。
まもなく公開されるクリードシリーズ第2作「炎の宿敵」、その新聞広告で初めてマイケル・B・ジョーダンを知りました。
そのうち僕の口癖が「冗談きついぜマイケル」から「冗談きついぜマイケルB」に変わる日も来るかもしれません!?
Posted by: ネズミ色の猫 | December 26, 2018 09:57 PM
>ネズミ色の猫さん
こんばんはー そういえばジョーダンと冗談をひっかけた「ジョーダンじゃないよ!」なんてバスケ漫画がありましたよ…
それはともかくこの『クリード』、よい映画なのでおすすめです。とりあえず1作目からどうぞ。『ロッキー』から見なくても多分大丈夫
Posted by: SGA屋伍一 | December 29, 2018 11:31 PM
こんばんは。『ジョーダンじゃないよ!』とはこれまた懐かしいですね。作者の斉藤むねおさんは少年サンデー本誌への登場も途絶えて久しいですが、近作として『日本史探偵コナン』シリーズ3冊を手がけていらした模様です。
もっと古い事例ではF1レースの世界に実在したジョーダン・グランプリというチーム名。それをもじり、ラジオ番組で「冗談グランプリ」と言っていらしたのがアルフィーの坂崎さんです。
『クリード』のお話に戻りましょう。1作目のDVDを借りて視聴中・・・ロッキーとアドニスの会話で出てくる、ネット用語としての「クラウド」。要はデータ保存用の外部サーバーってことですが、ロッキーはその意味を知らず「?」な顔をしている、というジェネレーションギャップの描き方がニクイですね。
Posted by: ネズミ色の猫 | January 07, 2019 09:58 PM
>ネズミ色の猫さん
ご存知でしたか(笑) そういえば連載時期が『ますらお』と近かったかな。その後の斉藤先生ですが、わたしはコミック乱誌でちらっとお見かけしました
>アルフィーの坂崎さん
ラジオで空耳アワーに似た(こっちが先?)コーナーを設けていてよく笑わせてもらいました
わたしもいまだにクラウドをそんなに利用してないのでどっちかといえばロッキーに近い世代です。ともあれ、週末の続編公開が楽しみですね!
Posted by: SGA屋伍一 | January 09, 2019 09:50 PM