ホエールが吠える ロン・ハワード 『白鯨との闘い』
一週間寝ずに考えてこんな記事タイトルしか思い浮かびませんでした…(うそ)。昨年は『バケモノの子』で主人公が愛読してたり、『ウォーリアー』でお父さんが朗読を聞いてたりと『白鯨』がちょくちょく小道具で使われてる映画が目立ちましたが、今度はその元となった実話の映像化が実現。名匠ロン・ハワードの『白鯨との闘い』、ご紹介します。
19世紀なかばの英国。金持ちになろうと捕鯨に精を出す一等航海士のチェイスは、新米の船長ポラードのお守として新たな航海に出る。最初こそ順調に鯨が取れたものの、そのあとは長い不漁が続き、チェイスたちは心身ともに追いつめられていく。そんな折立ち寄った島で一行は、ある海域に鯨の群れがいると聞いて藁をもすがる思いでそこへ向かう。だがそこには彼らの想像を超える怪物が潜んでいた。
『アポロ13』『シンデレラマン』『ビューティフル・マインド』『フロスト×ニクソン』『ラッシュ』…と、「実話に基づく物語」をよく手掛けるロン監督。ただどれもが第一次大戦より後の話なのに対し、今回は石油が流通する以前のもっと古い時代を扱っております。
タイトルやポスターなどから怪獣めいた鯨との一大バトル・パニックを想像される方もおられるかと思います。たしかにそういう要素もありますが、モンスター部分は全体からすると2割くらいでしょうか。その他の部分では当時の航海・捕鯨・漂流はどんな風だったのか、ということが描写されます(漂流は現代でもあまり変わらないかも…)。航海ものも好きなわたしとしてはその辺もけっこう楽しんで観てました。特に鯨漁のくだりなんかはこれまで映像で観たことなかったので勉強になりました。いまでこそ鯨を獲ると轟々と避難する欧米ですが、昔は彼らも貪欲に捕鯨を行ってきたわけですよね。しかも食べるためではなく、油(燃料)を取るためだけに。
この辺に『白鯨といた海』のテーマが見え隠れしてる気がします。以下だんだんネタバレしていくのでご了承ください。
この映画の原題は『In the Heart of the Sea』。『闇の奥(Heart Of Darkness)』を思い出させるタイトルです。さしずめ「その海の深奥で」みたいな意味でしょうか。映画では海の奥だけではなく人間の心の暗闇も語られます。
お話の途中ポラード船長は「人間は万物の霊長で神に似せてられたんだから、動物をいくら好き勝手に扱ってもかまわない」みたいなことを言います。それに対し「傲慢では…」と異を唱えるチェイス(ちなみに聖書には「家畜を優しく扱いなさい」という一文もあります)。人間、生きるためにはやっぱり何かを殺して食べることもあります。だから自分のために死んだ命に敬意を払い、感謝を抱くことが大事なんでは。わたしには大鯨や漂流といった災厄は、金儲けのために残酷に鯨を殺し続けるチェイスたちにくだされた神罰のように見えました。そのことに反省し、モリを持つ手を止めたとき、彼らは許され命を永らえます。たとえ食べたものが○○であったとしてもです。
ちなみに実際はどうだったのかというと、「エセックス号」で検索するといろいろ資料が出てきます。この記事とか。わたし鯨の逆襲で船が沈没したというのは映画を盛り上げるためのフィクションだと思ってましたが、これ本当だったみたいです。おだやかなイメージのある鯨も、怒らせると怖いんですね… わたしも気を損ねないようくれぐれも気をつけたいです。スキューバとか全然興味ないんで、たぶん一生接触することはないと思いますが。
『白鯨との闘い』は現在全国の映画館で上映中。『白鯨』言うたら熟年世代のハートをジャストミートするのでは、と予想してましたが、二週目にして10位以内から陥落とかなりの苦戦を強いられているようです。鯨や漂流が好きな人でまだ観そびれている人はお早めに!
Comments
「FUCK GAYとの闘い」とか、ふざけちゃいかんですよね。
Posted by: ふじき78 | February 16, 2016 10:03 PM
>ふじき78さん
ゲイ方面はうっかりしたことを言うと「差別だ!」と怒られますからね
Posted by: SGA屋伍一 | February 19, 2016 08:24 PM