騎士道も死ぬことと見つけたり 紀里谷和明 『ラスト・ナイツ』
1年のうちで1回くらいしかやらない3日連続更新に挑んでおります。なぜにそんなに急いでいるのか。それはこの映画がもう終わってしまいそうだからです。マイ・フェイバリット・ディレクターの一人紀里谷和明氏が6年ぶりに挑んだファンタジーアクション。『ラスト・ナイツ』、ご紹介します。
様々な人種が入り乱れるある帝国。野心家のギザ・モット大臣は己の地位を利用して私腹を肥やすことに精力を傾けていた。しかし高潔な地方領主バルトークはギザ・モットに賄賂を贈ることを拒絶したため、大臣の恨みを買うことに。二人の確執は深刻なものとなり、ついにバルトークはギザ・モットの訴えにより自身の家臣の手で斬首されることになる。バルトークに忠誠を誓い、しかしわが手で彼の命を絶つことになった騎士団長ライデンは深く慟哭する。彼はギザ・モットに復讐するのでは…という噂がささやかれたが、一年後、町で別人のように落ちぶれたライデンの姿があった。
というわけで読んでいたければわかるとおりこのお話、西洋風の世界でありながら『忠臣蔵』を題材としています。
紀里谷ファンのわたしも今回はいろいろと不安でした。まず予告編を見たらいつもの紀里谷らしさがまったくない。そんでロッテントマトメーターでも悲惨な結果を出していて、封切りと同時になぜかビデオ配信されているという謎の公開スタイル。そしてハリウッド資本で『忠臣蔵』を作るといったらいやでもあの珍作『47RONIN』を思い出してしまうではないですか…
しかしそうした不安は杞憂でした。ファンタジー世界を舞台としながらも驚くほどしっかりと『忠臣蔵』を再現している。やはりモチはモチ屋というべきか、日本の題材は日本人にアレンジさせた方が自然に仕上がります。忠臣蔵のあのエピソードやこのエピソードが実に心憎く配分されています。これ、知らない人に「外国の監督が撮ったシェイクスピア原作作品」と言ったら信じてしまうのでは…と思ったほどに重厚な造りになっていました。
紀里谷氏お得意のドラゴンボールみたいな無茶アクションは確かにありませんでしたが、忠臣蔵にあれを取り入れたらそれこそ『47RONIN』みたくなっちゃいますしね… 題材のために普段のスタイルを捨てて地味に徹した監督の判断は正しいと思いました。
もしひっかるところがあるとすれば、中世ヨーロッパ風に世界に普通に黒人やアジア人が多数存在してるあたりですかね。ここはあくまで「架空世界」ということで見過ごしましょう。あとモーガン・フリーマンの髭のはやし方や伊原剛志さんの髪型が変だなあとは思いましたが、細かいことです。
まあとにかく画面のひとつひとつが計算された絵画のように美しい。CGを極力排した剣舞のようなアクションにもいちいち見惚れます。そして重要な場面でどアップになるクライヴ・オーウェンがこれまた美しい。不精髭の生えたおっさんであるにも関わらず、です。主君への忠誠ゆえに苦悩する場面や、落ちぶれ果てて虚無的な目をするあたりはキャラクターの心情とあいまって一層輝きを増しておりました。こう言うとやや語弊がありますが、全編クライヴ氏のPVと言っても過言ではないくらいです。やはり映画監督の大林宣彦氏は「映画を撮るときはヒロインに惚れないと」と言っておられましたが、まさにクライブさんへの紀里谷氏の惚れっぷりがビンビンと伝わってきました。
あと難攻不落の城砦をどうやって攻め落とすのか?という戦術的な面白さもあります。原作と同様こちらのローニンたちもあれこれと策をめぐらしますが、ギザ・モットは吉良よりも権力があるので金にモノをいわせて防備を幾重にも固めます。それを知略をめぐらしてバルトークの騎士たちがひとつひとつ攻略していく様は痛快であるとともに実に手に汗握らされました。
そして忠臣蔵と言えばナイツたちのラストはどうなるのかおおよそ予想がつきますが、果たしてそれがどのようにアレンジされているのか…という点も気になります。その辺はご自分の目で確かめられてください。
この映画が公開される前、「しくじり先生」というバラエティ番組で紀里谷氏がご自分の歩みを振り返っておられました。好きな監督であるにも関わらず、「きっとオシャレですかしたクールな人なんだろうなー」と思い込んでおりましたが、某評論家をユーモアたっぷりに締め上げるところとか実に面白かったです。そして今の映画界に対して大いに反骨心を抱いている方であることもよくわかりました。
残念ながらこの『ラスト・ナイツ』は興行的には振るわなかったようなので、これから彼の行く道はさらに険しいものになるかと思われます。でもその行動力と反骨心なら、きっとさらに高いステップを踏めるであろうとわたしは信じています。がんばれ! キリヤーン!!
というわけで『ラスト・ナイツ』は早いところは明日明後日で終了してしまう模様(はえーよ)。『300』や『グラディエイター』が好きな方にSGA屋伍一強く推奨します!(おせーよ)
Comments
伍一くん☆
やっぱり日本人の侍の心は日本人でこそ描けるといったかんじでしょうか。
なかなか良かったよね!
ごちゃまぜ感のある配役もお城も、段々と気にならなくなるほど。
討ち入りの時はハラハラしました。
Posted by: ノルウェーまだ~む | December 11, 2015 02:25 PM
>ノルウェーまだ~むさん
そうですね~ アメリカでの評価が低かったのはやっぱりこの日本ならではのスピリッツが伝わらなかったからか… それでも47RONINよりは全然よかったですけどね!
わたしも伊原さんの髪型はだんだん気にならなくなりました(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | December 13, 2015 10:40 PM