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November 03, 2015

執念ジャンプ 大場つぐみ・小畑健・大根仁 『バクマン。』

Bkmn1少年ジャンプの内幕を痛快に描いた人気漫画を『モテキ』などの大根仁監督が映画化。最初は興味なかったんですが、やけに評判がいいので気になって観てきました。『バクマン。』、ご紹介します。

「絵がうまい」ということ以外取り立てて目立つところのない高校生・真城は、漫画原作者を目指す高木との出会いや、同級生小豆への告白から本気で漫画家になることを決意する。それも日本漫画界の頂点である週刊少年ジャンプで。飽くなきセッションの中で急成長した真城と高木の作品は、見事ジャンプ誌の新人賞の副賞に輝く。だがその上を行き「天才」とうたわれる新人作家新妻エイジの存在が、二人に闘志を燃やさせる。真城と高木はどちらが先にジャンプで人気の頂点を取るか、エイジに挑戦状をたたきつける。

以下ネタバレ気味で(^_^;
わたしこの映画の何が特に気持ちよかったかというと、漫画家版『スラムダンク』であったということ。
素質はあるのに特に目標を持ってなかった若者が、恋をきっかけにしてそのジャンルに異常なまでの熱意を燃やすようになり、チームメイトとの切磋琢磨も手伝ってグングンと急成長を遂げる。何度かの挫折を経てとうとう大一番を迎えた主人公は再起不能のリスクも顧みずみごとに大勝利をおさめる。しかしそこで全力を使い果たした主人公チームはほどなくして一度燃え尽きてしまう…

見事に『スラムダンク』そのものじゃないですか。わたし『バクマン。』原作は未読なんで憶測ではございますが、漫画の方はここまで『スラムダンク』ではないと思います。そもそも劇中にあからさまに『スラムダンク』からセリフを引用したりパク…オマージュしたシーンがありましたしね。監督がよほど『スラムダンク』がお好きなんでしょうね。わたしも大好きです。

で、『スラムダンク』の何が特に鮮烈かというと、やはり主人公がクライマックスでボロボロになっても最後までやり遂げようとする姿なんですよ。才能ある若者には、誰に強制されるでもなく、このあとどうなってもかまわないから、できるのはいましかないから、意地でもこれを完遂したい…という瞬間があります。非常にはかない、うつろい安い栄光のためにね。
これ、本当は大人は鬼になっても止めてあげなきゃいけないのかもしれないし、安易に美化してはいけないんでしょうね。でもやっぱりできることならやらせてあげたいと思うし、そういう若者の姿は本当にキラキラとまぶしく映るのですよ。映画『バクマン。』の佐藤健君と神木隆之介君からはまさしくそんな目もくらむような輝きが放たれていました。

あとこれは映画とは直接関係ないんですが、「少年ジャンプにおける漫画の手法」ということについても色々考えさせられました。わたしはちょうどジャンプ黄金期に小中学生でありました。で、そのころの看板作品というのは絶好の「終わり時」を迎えても人気があるうちは終わらせてもらえず、ダラダラとマンネリな展開を続けさせられ、読者に飽きられた途端打ち切りのようにして終わるものが少なくありませんでした。当然完成度もへったくれもありません。たぶん編集サイドは長期的な構成なんてほとんど考えてなくて、次の一週をいかにして楽しませるか、それだけに全力を注いでたんでしょうね。まるで作品が味がなくなっても噛み続けられ、その挙句道端に吐き捨てられるガムのようで、一時期すごくそうしたやり方に反感を覚えました。
ただ、今のジャンプはそういうやり方…映画『バクマン。』で描かれてるような作り方をしてませんよね。おおまかな構成もちゃんと考えられてて、傍からは「これまだいけるんじゃないの?」と思える場合でも余力を残して人気作品を終わらせている。そんなわけで10年後20年後まとめて読んでも遜色のない「名作」が増えてきました。しかしそうしたやり方のせいか、そして漫画自体に勢いがなくなってきたせいか、ジャンプはかつてほどの隆盛を誇ってはいません。そのことにさびしさを感じるのも確かです。

若者たちの一番の関心がスマホやSNSに移ってしまった今、漫画が以前のような栄光を取り戻すことはもうないでしょう。けれども情熱ある作り手はこれからも絶えず現れるでしょうし、傑作・名作も引き続き作られていくことでと思います。
わたしがこの映画で特に好きなのは、二人が一仕事終えたあと、その漫画が小学生や肉体労働者、サラリーマンなど様々な人たちに読まれていくシーン。娯楽の形も色々ありますが、やっぱり週刊連載漫画というのは最も手軽に、最も多くの人たちに届きやすい媒体なんではないかな、と。

Bkmn2映画『バクマン。』は引き続き現在全国の映画館で上映中です。漫画に限らず「物語」を作ることにあこがれている方々におすすめです。


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Comments

まいど。
>ジャンプはかつてほどの隆盛
まぁ、他所みたいに畳んだ風呂敷(=名作)を
わざわざ広げてしまったり
(=続編:それも元ジャンプ作品
も居るからなぁ)だらだら
長期連載(こち亀は例外と思う)
するよりはまだマシですけどねぇ・・・・・・。

>スラムダンク
ああ、そういえば似てるね。
この作者は落ちぶれても安易に
続編は書かないと思ってます。

「黙して語らず」とか「触れないで置こう」という
センスを察せ無い「面子」共がマンガを
つまらなくした戦犯かもしれませんね。

>漫画自体に勢い
安易に既存作品の続編や
巷で見かけるのが多いアニメグッズが
「D・B」とか「O・P」ばかりというのも
それが出ていると思います。
個人的に週マガは
最後の砦である某ボクシング漫画が
終わりどころを逃し、迷走してるのに忍びず
とうとう陥落・・・・・・・・・・・・。
そもそも、「日本のスポーツは
何時までも、何努力しても
外人には勝てん」的内容では
嫌になっちゃいますよ・・・・・・・・現実なめんな!
(この件はかなり頭来てるのでどうか察して・・・)

こうした「賞味期限」も大事ですねぇ。

Posted by: まさとし | November 03, 2015 at 11:50 PM

ジャンプのマンガが口承でしか伝えられない「シャーマン・ジャンプ」という媒体だったらヒットはやっぱり難しかったただろう。

Posted by: ふじき78 | November 04, 2015 at 08:16 PM

>まさとしさん

お版です~

>他所みたいに

新潮社のバ○チのことでしょうか(^_^; あれはゼ○ンになったんだっけ…

>スラムダンク

かつては第二部を切望していたのですが、いまとなってはあの形が美しいような気もします

>某ボクシング漫画

まさか100巻を越しても終わりが見えないとはね(^_^; 200巻までには完結してほしい(笑)

Posted by: SGA屋伍一 | November 05, 2015 at 09:50 PM

>ふじき78さん

それ、ジャンプというよりチャンピオンの『恐怖新聞』みたいだなあ。古いなあ

Posted by: SGA屋伍一 | November 05, 2015 at 09:51 PM

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