コンドルは飛んでいく・根性は絞り出す ジャン=マルク・ヴァレ 『わたしに会うまでの1600キロ』
でんでんむしよりは雀のほうがいい そうだとも そりゃそうだ もっともだ まったくだ (坂崎幸之助・訳)
すっかり実力派女優となった感のあるリース・ウィザースプーンが、『ダラス・バイヤーズ・クラブ』のジャン=マルク・ヴァレと組んだ「実話に基づく物語」。先日遅れてこちらで公開してたので観てまいりました。『わたしに会うまでの1600キロ』、ご紹介します。ちなみに原題は『Wild』となっております。
シェリル・ストレイドは最愛の母の死後精神のバランスを崩し、ドラッグとセックスに溺れる日々を送っていた。そのため結婚生活も破綻してしまう。だがある日立ち直ろうと決意した彼女は、母親に認められる自分となるためにアメリカ合衆国を歩いて縦断する過酷な旅「パシフィック・クレスト・トレイル」への参加を申し込む。しかしアウトドアの素人である彼女にとって、その旅は苦難の連続であった。
この映画で特に印象深かったのは、シェリルさんの中でいかにお母さんが大きな存在だったか、ということです。どっちかというと母親の死をひきずりやすいのは男の方だと思うのです。現実・フィクションを問わずそういう話ちょくちょく聞きますからね。親子の絆の濃さも人によってそれぞれなんでしょうけど、大人の女性がお母さんを失ってしまったことでここまでえんえんと苦しみ続ける話はちょっと珍しい。
彼女のお母さんが本当にあったかくて素晴らしい人だったから、喪失感もそれだけ大きかったということなのでしょう。加えてうっかり心無い言葉を言ってしまったことや、あまり恩返しができなかったことの罪悪感も、シェリルさんのダメージを一層深くしたのだと思います。
そんなお母さんがなんでか好きでよく歌ってた歌が冒頭で出したサイモン&ガーファンクルの(元はメキシコ民謡)『コンドルは飛んでいく』。この曲が冒頭からエンドロールまで本当によくかかります。
いつ終わるともわからない行程を、かたつむりのように地道に歩き続けなければならない彼女にしてみれば、きっと何回も「鳥みたいにピャーッと飛んでければ楽だろうなあ」と思ったに違いありません。最初のうちはシェリルが旅に慣れてないせいでなかなか先に進まないわ、頻繁に回想シーンは入るわで、観てる側も「これ2時間以内で本当に終わるのか? もしかして続編に続いちゃうんじゃないか?」とハラハラします。
経験不足以外にも険しい自然や、女の一人旅であることもシェリルを苦しめます。ただ一組を除いて彼女が旅で出会った野郎どもは、みな親切で紳士的でしたね。アメリカ人って性的にガツガツしててハングリーな人が多いんだろうな~なんて偏見を前から抱いてましたが、改めなくてはなりません。
前半こそ厳しい旅に四苦八苦してたシェリルさんですが、PCT参加者のアドバイスや、彼女自身の成長もあって後半はスムーズに行程を進めていきます。やっぱり何事も慣れるまでが大変ってことですかね…
大手の邦画であれば終盤に近付くにつれ勇ましいマーチをかけ、ゴールへの感動を高めようとするものだと思いますが、ジャン監督は前作と同じくその辺は淡々としてます。涙や鼻水がこぼれ落ちるということはありませんでしたが、そのあっさり加減がテーマ曲にマッチしていて心地よい映画でありました。
『わたしに会うまでの1600キロ』はまだ地方で公開されてるところもあるようなので、ご興味持たれた方は公式サイトで探されてみてください。ちなみに同時期にやはり似た題材・タイトルの『奇跡の2000マイル』という映画もやってましたが、そちらは流れてこなかったのでスルー(^_^;
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Comments
伍一くん☆
本当にお母さんのことで随分と引きずっていたね~
母一人で頑張ってくれていたからこそなのかもだけど、優しい夫もいてどうして?と思っちゃうわ。
私なんて心無い言葉言われまくりだけど、罪悪感は感じてくれているのかしらん??
Posted by: ノルウェーまだ~む | November 06, 2015 10:28 PM
>ノルウェーまだ~むさん
おくれてすみませぬー
ああ、旦那さんは底抜けにいい人でしたね… 彼女が旅で出会ったどの男よりも優しい人だったと思います
お子さんたちもきっと心の中では「言い過ぎた…」と反省してると思いますよ。近い間柄ほどついきついことを言ってしまうこともありますよね…
Posted by: SGA屋伍一 | November 10, 2015 09:33 PM