レクイエム・フォー・ドッグ チャド・スタエルスキー 『ジョン・ウィック』
キアヌ・リーブスといえば『スピード』『マトリックス』などで90年代後半はアクション俳優としてもぶいぶい言わせておりました。ところが最近は作品に恵まれないこともあって、すっかり「アクション」のイメージが薄れてた感があります(『47RONIN』なんかではそれなりにアクションしてたような気もしますが、もう内容が忘却の彼方)。そこへ「キアヌ・リーブス完全復活!」と銘打ってアクションバリバリの新作がやってまいりました。『ジョン・ウィック』、ご紹介します。
最愛の妻を失い、うちひしがれる男・ジョン。立ち直れない彼のもとへ、生前妻が贈った一匹の子犬が届く。彼女の愛を感じ、わずかに安らぎを得るジョン。だが彼の車に目をつけたマフィアの息子・ヨセフがジョンの家に押し入り、子犬はあえなく殺されてしまう。ことを知ったヨセフの父・ヴィゴは狼狽する。なぜならジョンは彼がかつて雇っていた超一級の殺人マシンだったからだ…
え~、今回もネタバレ満載の辛口評価で。なんにでもべろべろに甘いのがこのブログの特色だったのに… アイデンティティの危機にさらされてる今日この頃です。
まずツッコミの一点目。みんなから「伝説伝説」ともてはやされてたジョンさんが、不意をつかれたとはいえ冒頭でヘタレなマフィアの青二才にあっさりやられてしまうのがおかしい。ブランクと妻の死で感覚が鈍りきってたってことですかねえ。それにしてもなんだかすっきりしないところであります。
二点目。幸運にも?ジョンを気絶させて車を奪うことに成功したヨセフ。しかし彼はジョンを殺さずに痛めつけただけで満足して帰ってしまいます。そこはのちのちの禍根を残さないためにも殺しとかないと。いくらなんでもそこまでやるのはやりすぎだと思ったんでしょうか。ただその不徹底が彼の命を縮めることになりました。やるならとことんやる。やらないなら何もやらない。中途半端が一番よくありません。…と偉そうに書きましたが、わたしも中途半端にかけてはなかなかのレベルなので、なんか見ていて悲しくなってしまったのでした。確かに同情の余地もないクズ野郎なんでしょうけど…
三点目。この映画には他にもベテランの殺し屋が何人も登場するのですが、ベテランの割にはなんか脇が甘いというか緊張感が足りないところがあります。ジョンの友人のマーカスや顔なじみのバーキンスなどはそれぞれ信義のため、あるいは金のためにやばい橋を渡るのですが、それだけのリスクを冒したならとっとと高跳びするなり厳重に身辺に警戒するなりしないと。なのにのんきにその辺をフラフラ歩いてるからあっさり殺されちゃうわけじゃないですか。よくそんなんでこれまで生きてこられたなあ、と不思議でありません。
あと警察。警察仕事しろよ(笑) そんなんだからデアデビルがいろいろ苦労することになるわけで。
もう一点、これはツッコミというかないものねだりのようなことですが、ジョンの奥さんが贈ったのがもし子猫だったら、賊が来ても吠えたりせず逃げただろうし、バカ息子もお父さんの顔で指を詰める程度で許してもらえたかもしれません。しかしまあ『What’s Michael』などを読むと極道が猫を飼うというのは相当に恥ずかしいことのようなので、ウィック夫人もその辺のことを考えて犬を贈ったのでしょうね。これはやはり致し方なきことかも。
いい点もあげましょう。ひとつはなかなかお目にかかれない柔術アクション。映画の格闘場面で殴ったり蹴ったりというのは普通にありますが、投げたり絞めたり関節を極めたりというのはあまり観たことがありません。ラーメンや千葉真一などで日本通のキアヌ・リーブスだからこそ取り入れた要素かもしれません。これも銃弾が飛び交ってる中実用的にどうなんだろ、という気もしないでもないですが、斬新だったのでありです。ちなみに柔道漫画『帯をギュッとね!』によりますと絞められて落ちる瞬間というのはわりと気持ちいいらしいです。一度体験したいような、くせになったら困るような。
さらにこの映画からは貴重な教訓が得られます。マフィアにとって最も重要なこととはなにか、ということです。それは「息子の教育」。『ラン・オールナイト』『ロード・トゥ・パーディション』『イースタン・プロミス』などもそうですが、息子の教育をしっかりやらなかったばかりに、組織が危機に面することになる…ということはよくあります。当代随一の知恵を誇ったソロモン王も息子は相当なボンクラだったそうなので、これ権力がでかければでかいほど難しいことなのかもしれません。でももしあなたがマフィアのボスで、組織を盤石のものにしたいなら、息子は甘やかしたりせず寺にでも預けて人格面を磨き上げとくことをおすすめします。
『ジョン・ウィック』はまだ全国の映画館で上映中…だよな? どっちにしてもそろそろ終わりそうです。本国ではかなりヒットしたようで、早々と続編が決まりました。今度はワンちゃんがひどい目にあいませんように。
Comments