君よ、心に尻尾は突き立っているか 斎藤敦夫・河村友宏・小森啓裕 『GAMBA ガンバと仲間たち』
かつてTVアニメ化もされた斎藤敦夫の名作児童文学を、日本におけるCG製作の雄「白組」が映画化。あまり話題になってませんが、これ本当によかった… 『GAMBA ガンバと仲間たち』、ご紹介します。
町に住むドブネズミのガンバとマンプクは、ある日突然海を観にいこうと思い立つ。たまたま港では船乗りネズミたちのパーティーが行われていて、二匹も飛び入りで参加することに。主催者のヨイショとトラブルもあったが大いに楽しんでいたところへ、弱りきった一匹の子ネズミがやってきた。その子ネズミ…忠太がいうには、彼の故郷が恐ろしい白イタチのノロイに襲われて壊滅状態なのだという。はじめはいきり立っていた船乗りネズミたちだったが、「ノロイ」の名を聞いた途端引っ込んでしまう。途方に暮れる忠太を見てガンバは「俺が一緒に行く」と申し出るのだった…
原作ではその姿に心打たれた14匹がガンバと忠太に同行しますが、映画版ではTVと同じ総勢7匹がノロイ討伐行に向かいます。わたしが特に好きなのはこの出崎統氏が監督したテレビシリーズでして。再放送のたびに夢中になって観たし、DVD-BOXを買った唯一のアニメでもあります。アニメをウン十年観続けて、いまだにオールタイムベストの五本の指に入ります。
ですから今回の新作、おそらく自分の中で出崎版を越えることはなかろうと思ってました。でもひさしぶりに「ガンバ」にスポットをあててくれたことが嬉しくて、いわばご祝儀の様な気持ちで観に行ってきました。そしたらそれはもう~ ボロボロダラダラズビズビと泣きましたね… 泣きすぎて頭が痛くなったくらい(^_^; あらためて自分はこのガンバの物語が本当に好きなんだな…と感じ入りました。
「ガンバ」のストーリーでまず思い出すのは黒澤監督の名作『七人の侍』です。その面白さゆえに多くのフォロワーを産んだこの作品に、斎藤先生も影響を受けたのかもしれません。また絶対悪である魔王に純真な者たちがパーティーを組んで打倒に向かうあたりは『ロード・オブ・ザ・リング』というか『指輪物語』をも想起させます。
ただこの二つの先達に比べて「ガンバ」が際立っているのは、主人公たちがなにしろちっぽけな存在であること。なんせ彼らはネズミさんたちですから。人間よりも大幅にサイズは小さいですし、都会・自然を問わず多くの敵に絶えず狙われています。そんなネズミさんたちが到底かなわないような化け物を相手に、決して希望と明るさを失わず果敢に立ち向かう姿に、おじさんは泣かずにはいられないのでした。そしてその信念が絶体絶命のその時に思わぬ奇跡を呼ぶクライマックスにはすでに知っている話だというのに、頭頂からつま先まで鳥肌が立ちまくりました。
こっから先はちょっとネタバレで。
今回のバージョンでちょっと物足りなかったのが出発からあっという間にノロイ島に着いてしまうこと。これは尺の都合上仕方なかったのかもしれません。その代わりとてもよかったのはTV版でひとつのキャラに統合されてたボーボとマンプクがちゃんと二匹のキャラに分けられてたことですね。この二匹戦力的には著しく下の方のやつらなんですが、マンプクはとにかくガンバを信じる気持ちが熱い。臆病な性分のくせに親友を思って地獄のような場所までついていきます。そしてボーボは… ボーボはねえ… 原作を読んでる人はマンプクと分けられた時点で察してるかと思いますが、彼についてはやはり本編をごらんいただきたい。原作でのイカサマとのやり取りが特に胸に残ったわたしとしては、もう何も言えません
加えてもうひとつ感動したのが入場時くれたカードのQRコードを読み解くと観られる映画の後日談。わずか3分ほどのセリフなしの映像ですが、これがまたむちゃくちゃいいんですわ… これ、普通にEDで流せばよかったじゃん!とも思いましたが、正規の絵本調のEDもまたそれはそれですばらしいのです。
というわけで『GAMBA ガンバと冒険者たち』は現在公開中ですが、興行的にはかなり苦戦していて、早いところでは明後日、ほかのところでも来週中にはおおむね終了してしまうようです。最初は「それなりに後に残ればそれでいいか」なんて思ってましたが、この映画のことを思い返す度に「やっぱりもっともっと多くの人に観てほしい」という思いが募るばかり。そしてこれを機に原作やTV版にも興味をもってほしい。すでに朝一の回しか残っていないとこもありますが、観られる方はガンバって早起きしてぜひご鑑賞ください!
Comments
>はTV版でひとつのキャラに統合されてたボーボとマンプクがちゃんと二匹のキャラに分けられてたことですね。
シジンが……(ノ_-。)
Posted by: ナドレック | November 02, 2015 06:00 PM
>ナドレックさん
確かに酒飲みオヤジのシジンがいなくなってしまったのはTVシリーズのファンにはさびしいところですね。決死行の中にあってもロマンを失わないところはボーボに引き継がれてましたが…
Posted by: SGA屋伍一 | November 03, 2015 09:20 PM