蟻男の恐怖 ペイトン・リード 『アントマン』
7年前に書いた「アベンジャーズ」の記事でこんなことを書きました。「『アントマン』がいつの間にか(企画から)消えてしまい、代わりに『アイアンマン2』があがっています。まああんまり当たる話とも思えないので、賢明でしょう。」
…本当にごめんなさい(^_^; マーベル・シネマティック・ユニバース・フェイズ2の最後を飾るのはどんどん小さくなれる奇妙なヒーローのお話。『アントマン』、ご紹介します。
正義感から企業グループにハッキングし、大損害を与えたスコット・ラングは、その罪で刑務所に服役することに。無事刑期を終えてシャバに戻ってはきたものの再就職は難しく、元妻に「娘に会わせたくない」とも言われてしまう。鬱憤のたまったラングは悪い仲間に誘われるまま、ハンク・ピムという老人の家の金庫破りを決行する。だが金庫の中には金目のものはなく、奇妙な潜水スーツが一着あるだけだった。遊び半分にそれを着て、手のひらのスイッチを押したラングは、驚くべきことにアリと同じ大きさにまで縮小してしまったのだった…
アントマンの誕生は1962年。『Tales to Astonish』というオムニバス・シリーズの1エピソードに登場したのがその始まりでした。翌年の『アベンジャーズ』創刊号にてアントマン=ハンク・ピムは恋人のジャネット・ヴァン・ダイン=ワスプと共にアベンジャーズの創設メンバーに参加します。
その後巨大化して「ジャイアントマン」になったり、また小さくなって「イエロージャケット」と改名したり、それぞれのコードネームに二代目が登場したり、自らの看板タイトルがないにも関わらず(ないせいか?)アントマンは非常に不安定な活躍を続けます。
大きさの不安定さは精神の不安定を招くのか、いつしかピムは精神を病み、妻のジャンを殴ったり仲間のアベンジャーズを罠にはめたりヒーローらしからぬ行動を連発します。「アントマン クズ」で検索しますと大量の情報がヒットするのがその特徴をよくあらわしていますね(^_^; サイズだけでなく器量もアリ並みに小さいというか。思うにマーベルには他にトニー・スターク、ブルース・バナー、リード・リチャーズといった科学者系のヒーローが3人もいるので、ピムは差別化のためにクズ系の科学者ヒーローとして特化していったのでしょう。
そんなクズヒーローをどうやって映画化するのかドキドキしながら楽しみにしていたのですが、製作が進むにつれ二代目のスコット・ラングが主人公となることを知ってちょっとがっかりしました。ピムに比べれば(元犯罪者ではあるものの)人格者ではありますが、ある期間ずっと死んでたりしてかなり影の薄いキャラクターだったからです(ちなみにアントマンには3代目もいますが、この男も相当の問題児だったりします)。
しかしさすがそこは安定のMCU。コミックでは華のなかったスコット・ラングを見事に魅力的な共感のできるキャラクターに作り上げ、「アントマン」の物語を一級のエンターテイメントに仕上げてやがり参りました(あと先生的な立場となったハンク・ピムも原作のようなクズではありませんでした・笑)。
この「共感しやすい」という点が今回特に重要なポイントかと。ラングは娯楽映画においては実はそんなに珍しいキャラではありません。人生に一度失敗して、最愛の家族はいるもののうまくいってない状態。そこで立派な父親となるべくビッグな試練に挑もうとする… そんな映画、ぱっと10はタイトルが思い浮かびます。
ですがこれがMCUの中ではとても斬新な設定だったりします。MCUのヒーローたちはみんな人間臭く好感のもてるやつらですが、大金持ち、神様、天才、暗殺者、超人、宇宙人の養子と我々とは縁の遠い存在でもあることも確か。そこへいくと就職に悩むスコット・ラングは隣近所に住んでいてもおかしくないようなめっちゃ身近な男です。おそらくこの『アントマン』は『アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン』で宇宙規模まで広がってしまったMCUが、わたしたちの「小さな世界も同時にある」お話でもあることを再認識させるために作られたものだと思われます。
マーベルと切り離して考えても『アントマン』はとてもセンス・オブ・ワンダーに満ちた独特な作品です。まずこれまで実写でこんなにアリをフィーチャーした映画はちょっと思い当りません。少し前邦画で『アリのままでいたい』というのがアリましたが、あれはアリは一部しか出てこないそうです。その点『アントマン』ではアリにもさまざまな種類があり、どんな特徴をもっているのかわかりやすく教えてくれます。そしてアリが大活躍します。アリなのに。
実はわたしもアントマンの活躍を読んだことはほとんどなくて、「小さくなることに何の利点があるのだろう…」と常々感じていたのですが、映画を観ると「小さいってこんなに便利なんだ! 小さいって素晴らしい!」と思えてくるから不思議です。
さらに映画ではまれにしか映し出されない「小さいものの世界」が、最新の映像技術でもってきめ細かに描かれてわたしたちを驚かせてくれます。この一点だけを持っても『アントマン』は十分観る価値のアリな映画と言えるでしょう。
そしてMCUはいよいよさらにスケールの大きな「フェイズ3」へと移行していきます。
今後の予定を簡単に記しておきましょう。
2016年:『キャプテン・アメリカ:シビルウォー』 『ドクター・ストレンジ』(オカルト系)
2017年:『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー2』 『スパイダーマン』(3度目の新生) 『マイティ・ソー:ラグナロク』
2018年:『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォーPART1』 『ブラック・パンサー』(ジャングル系?) 『キャプテン・マーベル』(女子力高め系)
2019年:『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォーPART2』 『インヒューマンズ』(宇宙人系?)
7年前、わたしはこうも書きました。「2011年は『スパイダーマン4』もありますし、アメコミ的にすごい年になりそう。その時、ぼくは一体幾つになってるんだろう? ・・・・考えたくもねえ」
いまはすでに2015年。2019年にははたして… ま、そんときゃそんときですよね!!
Comments
SGAさんこんばんわ♪コメント有難うございました♪
そう言えば本作の主人公のスコットって、アントマンという立場では二代目なんですよね。初代のストーリーを飛び越えて二代目からスタートするというのも珍しい気がしますけど、ピム博士がそんな好かれない性格なら別に飛び越えても良かったかなぁみたいな?^^;
でもミニマムサイズながら、アントマンのアクションはとても楽しめました。仰るとおり、サイズを縮小する事での利便性が存分に分かる映像は素晴らしかったですし、時折描かれるユーモアも程よい脱力感があって面白かったですね。シリーズ化となるならばこの路線は維持してもらいたいです♪
Posted by: メビウス | October 03, 2015 05:49 PM
>MCUのヒーローたちはみんな人間臭く好感のもてるやつらですが、
トニー・スタークは嫌味なヤツで好感もてませんでした……
二匹目のドジョウを狙って、日本でも『ミクロイドS』をリメイクして欲しいです。
Posted by: ナドレック | October 04, 2015 07:59 PM
>メビウスさん
メジャーヒーローには二代目がいる場合が少ないのですが(そして大抵影が薄い)、いきなり二代目が主人公というのは確かに稀有な例ですね。もし原作通り偏屈なピムが主人公だったらこんなに一般受けする内容にはならなかったでしょう(^_^;
今回実は「ジャイアントマンにもなるのでは」とヒヤヒヤしてましたが、幸いにもその事態は免れました。なんか安易に巨大化したらしらけそうで… 次の『シビルウォー』でもアリのままでいてほしいです
Posted by: SGA屋伍一 | October 05, 2015 10:13 PM
>ナドレックさん
原作のトニーは根暗で偏屈なのでもっととっつきにくかったりします(^_^;
日本的には虫アニメといえば『みつばちハッチ』などもありましたな… ヒーローものではありませんが
Posted by: SGA屋伍一 | October 05, 2015 10:15 PM
伍一くん☆
TBだけしててごめんなさい~~
パパンが出張中なぜかWi-Fiが繋がらなくなって、PC使えなくなってました。
ワスプってなにかなぁ?と思ったら、恋人なのね?
2018年待ち遠しいです。
そしてマーベル続々続編なのね!
こりゃ全部網羅するのは大変そう~~
Posted by: ノルウェーまだ~む | October 15, 2015 10:27 PM
>ノルウェーまだ~むさん
いえいえ、事情のある時や忙しい時はTBだけでも全然かまわないです。こちらも返事が遅くてごめんなさい(^_^;
ワスプは原作ではアベンジャーズ創設メンバーなのに、映画では出番がどんどん後回しにされてて気の毒な限りです
もちろんわたしはこれからも映画館で全作制覇する気満々ですが、それには大病やら事故にも気をつけないと~
Posted by: SGA屋伍一 | October 18, 2015 09:20 PM