モンスター・チルドレン 細田守 『バケモノの子』
「もう新作は作らない」 日本映画界に激震が走った「ジブリ・ショック」から約一年。宮崎駿なき(まだ生きてる)今、その穴を埋めるのはやはりこの男なのか… 細田守監督最新作、『バケモノの子』、紹介します。
ただ一人の家族であった母を亡くし、天涯孤独の身の上となった少年・蓮は、渋谷の街をさまよっていたところ、奇妙な男に「弟子にならないか」と声をかけられる。成り行きで男のあとを追った蓮が行き着いた先は、なんとバケモノたちが暮らす街「渋天街」だった。そして蓮に声をかけた男も「熊徹」という名のバケモノであった。街の実力者・猪王山にやられてもやられても立ち向かう熊徹の姿を観ているうちに、蓮の心にある感情が浮かび上がる。そして彼の弟子となることを受け入れるのだが…
これまでは割と「現実7:非現実3」くらいの割合で作品を作っていた細田監督。しかしあらすじを読んでいただけるとわかるように、今回はその比率が逆転しております。この辺なかなか新境地というか、冒険してると思いました。
ただ十代のころならともかく、40代(…)の固い頭で見ると、我々の世界からひょいとオバケの街にワープしてしまうあたりがなかなかついていきづらかったです。現実世界の描写がリアルできめ細かかったりすると、よけいにね…
そんなひっかかりを感じながら鑑賞してたのですが、観終わってちょっと経って気づきました。これ、もしかしてバケモノの世界ってのは文字通りのそれなのではなく、もしかしたら日本とは異なる人種、異なる価値観のコミュニティの比喩なんじゃないかな…と。
幼いころある理由で中○街、もしくは○国人街で暮らすことになった少年が、成長して、やがて自分の進路やアイデンティティに悩む話…と考えると実に腑に落ちるんですね。
『サマーウォーズ』を除くと『時かけ』以降の細田作品というのは思春期の少年少女が進路に悩んだり決断を迫られたりする話です。勧善懲悪の物語ならともかく、そういう決断というのはどっちを選んでも基本誤りではないんですよね。だから主人公たちがどちらの道を選ぶのかわからない。細田作品の面白さというのは、そういうちょっと先の読めないストーリーにあるような気がします(くどいようですが『サマーウォーズ』はのぞいて)。
「異なる価値観」という点に話を戻しますと、このアニメ「本当に強いとはどういうことか」を問う作品でもありました。そうです。幕ノ内一歩が100巻かけてもまだ結論が出せてないあの論題です。お話の冒頭の部分でいろんな妖怪に武術の心得を訪ねて回るくだりがあるんですが、そこですでに「強さには色々な種類がある」「腕力だけが強さではない」ということが匂わされています。
で、特に十代のころというのは腕力よりも心の強さが求められる時期だと思うのですね。なんでかっていうとこの年頃というのは人によって差はあるでしょうけど、特に不安定だったり、暗黒面に飲み込まれやすい時代だから。じゃあどうすれば強くなれるのか。それはいい大人の手本にならい、その助けを受け入れることです。だから子供の周りの大人というのは子供たちのお手本となり、進んで助けてあげなくてはいけない…ということですよね。たとえ100点満点でなくても。なんか書いてて心苦しくなってきたんですが。
まあそんな風に大人は大人なりにいろいろ考えさせられる作品でした。
『バケモノの子』は『ジュラシック・ワールド』にこそ抜かれましたが、夏休みの興行ではそれに次ぐ大ヒットを記録。これならジブリの穴も1/3くらいは埋められるかもしれません。ただ細田監督も毎年映画が作れるわけではないので、彼と同じくらい実力・収益が安定してるアニメのクリエイターがもう二人くらいほしいところです
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Comments
> 日本とは異なる人種、異なる価値観のコミュニティの比喩なんじゃないかな…と。
というのは、なかなか納得のできる発言でした。ああ、だから、あのバケモノ達は人を襲わないのね。一歩間違えるとノンマルトのようだ、と。今回の映画ではテーマから外れてしまうので、バケモノと人間の九太以外の接触はなかったですけど、比喩表現でいいので、異なるコミュニティがぶつかって打ち解けていく話とかも作ってほしいですね。
Posted by: ふじき78 | September 06, 2015 12:35 AM
>ふじき78さん
ご賛同ありがとうございます。「異なるコミュニティがぶつかって打ち解けていく話」って、ちょうどいま感想を書いた『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』がそんな話でした。これ、なんとなくふじきさんが好きそうな話なのでよかったらごらんください。モーニング限定ですが…
Posted by: SGA屋伍一 | September 08, 2015 09:43 PM