育ちすぎだよ、カメ! 園子温 『ラブ&ピース』
熊の映画が4本続きましたが、それと重なって「おもちゃが念で動く映画」も3本続いてしまいました。変な偶然ってあるもんですね… 今回は初挑戦となる園子温作品『ラブ&ピース』、ご紹介します。
かつてミュージシャンとなる夢を抱いていたうだつの上がらないサラリーマン・鈴木良一。常にみんなが自分をあざけっていると思い込んでる彼の慰めは、やさしい同僚の寺島裕子とペットの亀のピカドンだけ。鈴木はむさくるしいアパートの自室でピカドンに誇大妄想的な夢を繰り返し語り聞かせる。だがある日会社にピカドンを連れてきていることがバレ、パニックに陥った鈴木は思いもよらぬ行動にでてしまう。
園子監督といえば凄惨な殺人事件を描いた『冷たい熱帯魚』で国内外から高い評価を得た人。ですが少し前にETVで放映されていた永井豪先生との対談番組によりますと、「ああいうえぐい作品は僕の本道じゃない」とのこと。じゃあどういうのが本道なのか? 『愛のむきだし』『恋の罪』そしてこの『ラブ&ピース』といった作品タイトルを見ると、ピュアーな「愛」こそが彼の描きたいものなのか? とりあえず『ラブ&ピース』は彼が中学校のころ書いた脚本をできるだけいじらず使用したとのこと。本道ならずとも原点とは言えそうです。それにしてもリアル中二ワールドかよ… しかも彼が今年に入って撮った映画は評判のアレなものが多く、ちょっと地雷原に踏み込むような気持ちで鑑賞にのぞみました。
ちなみになぜわたしがなじみのない園作品をそんな覚悟までして観に行ったかというと、「怪獣が出るらしい」という情報を聞いたからです。バカですね。
で、実際にどうだったかというと、作品の8割くらいはすごく観ていてはずかしかったです。特に鈴木君が恥ずかしい。ここまで極端でないにせよいまだに中二的な部分をひきずっているわたしとしては、自分の恥部をことさら強調したものが大画面に映されているようで、「おねがい! もう堪忍して!」と涙目になりながら客席で身もだえしておりました。あやうく羞恥プレイに目覚めそうになったほどです。
また鈴木君のドラマと並行してお人形さんや動物たちが繰り広げている童話のようなパートも(なぜか)あるのですが、これが対象年齢6歳以下の児童番組を見せられているようで、さっきとは別の意味でちょっぴりはずかしい。ちなみに鈴木君パートと人形さんたちパート、それぞれのムードが全く異なっているのでまるっきりかみ合ってないように見えます。ずいぶん変な映画にあたっちゃったな~と晩御飯のことなど考えながら鑑賞してたのですが、忘れたころに目当てだったアレのシーンが見事に大爆発。水と油のようだった2つのパートも見事に融合し、気が付いたら感動の涙を滂沱と流している自分がおりました。いやあ、映画ってやつは本当に最後まで観てみないとわからないものですねえ。やっぱ世の中愛っすよ、愛。
そんな奇天烈な映画の中でとりわけ輝いていたのが主演の長谷川博巳氏。ドラマ『デート』ではかっこ悪いナルシストを、映画『進撃の巨人』ではかっこいいナルシストを演じておられた氏ですが、本作品では「かっこ悪い」から「それもアリか」にシフトする難しいナルシストを演じています。いまナルシーを演じさせたらおそらく日本では彼の右に出るものはいないでしょう。今後の(ナルシストとしての)活躍にますます期待です。
『ラブ&ピース』は非常にわずかながらではありますが、まだちょっとだけ上映館が残っています。くわしくはコチラをご覧ください。11月末にはDVDも出る模様。くどいようですが「ヘンテコな映画好き~」という方におすすめです。
Comments
伍一くん☆
今年の園監督作品は、中二的作品が続いてるよね~~(笑)
「みんなエスパーだよ!」はさすがに観に行かないけど、やっぱり言えるのは園監督はSですね!
伍一くんもそんな園監督のプレイにハマってしまったようですが?
Posted by: ノルウェーまだ~む | September 18, 2015 11:30 PM
鈴木君のパートは、もう堪忍して状態ですね。
あれがあるから最後の大感動に繋がるのですが。
本作のおかげで我が園子温熱が再燃しております。
公開が始まった『映画 みんな!エスパーだよ!』は10割恥ずかしいので元・中二男子必見です。
そういう意味ではピュアーな「愛」よりピュアーな「性愛」を描く『恋の罪』もかなり恥ずかしい……。
Posted by: ナドレック | September 19, 2015 04:43 PM
>ノルウェーまだ~むさん
こちらにもありがとう!
わたしはどちらかというとM気質なのですが、園監督とは相性がいいのか悪いのか?
『みんな、エスパーだよ!』は原作は途中からシリアス路線になったようですが、映画はそんなことなさそうですねwww
Posted by: SGA屋伍一 | September 22, 2015 08:51 PM
>ナドレックさん
先日『進撃の巨人』後編を観てきましたが、この映画での長谷川氏を思い出すとシリアスなシーンでも笑いがこみあげてしまって難儀しました(^_^;
園作品は「恥」がひとつのキーワードなんですかね? 『愛のむきだし』でもパンチラを撮られて恥じらう少女たちのシーンがいっぱいあると聞きましたが…
Posted by: SGA屋伍一 | September 22, 2015 08:57 PM
> ちなみになぜわたしがなじみのない園作品をそんな覚悟までして観に行ったかというと、「怪獣が出るらしい」という情報を聞いたからです。バカですね。
バカである事を認める。
Posted by: ふじき78 | September 23, 2015 10:04 AM
>ふじき78さん
なんか釈然としないな…
先生、バカって言う人がバカだと思います!
Posted by: SGA屋伍一 | September 23, 2015 10:01 PM
ワイルドリョウとして、デビューするところとか、業界に拾い上げられた
ラッキーマンですよね。だけど、ライブで反響呼ぶ力量があって、
それまでの不幸が信じられないくらい、リアリティがない話だと思いましたよ。
凡才ではなく、天才が欲しいと言いたげな、プロデューサーといい、
リョウといい、主人公となれたのはファンの力。だから、バンド内での
内ゲバがあり、成功と才能だけを求める彼らは孤独なんでしょうね。
でも、リョウが崩れ落ちるところとか、リョウのままで、変わった、という事実と、
裕子さんが居てくれている、という安心感が残ったのは良かったと思いました。一歩、一歩と。
Posted by: 隆 | March 08, 2016 12:50 AM
>隆さん
リョウがサクセスするくだりは監督の若いころの妄想というか願望なのでリアリティに欠けるのは仕方ないですね(^_^; でも映画監督としてはサクセスしたわけだからちょっとは実現したのかな…
最近過激な物言いも目立つ園監督ですが、その裏にさびしい気持ちとかリョウみたいな純真な気持ちがあるとするなら許せるような気がします
Posted by: SGA屋伍一 | March 09, 2016 10:43 AM