マイ・フェア・レディス&ジェントルメン マーク・ミラー マシュー・ヴォーン 『キングスマン』
本来ならスパイ映画ラッシュの先駆けとなるはずが、日本では遅れに遅れて本国より9ケ月のブランクを経て公開。でもまあ、無事公開されてよかったよかった。原作マーク・ミラー、監督マシュー・ヴォーンの『キックアス』コンビによる謀略アクション『キングスマン』ご紹介します。
幼いころ父を亡くし、粗暴な継父のもと鬱屈した日々を過ごす青年エグジーは、ある日無鉄砲の末警察に捕まってしまう。「困ったことがあったら助けになる」という父の友人の言葉を思い出したエグジーは、教えられた電話番号にコールする。約束通り何事もなかったように彼を警察署から連れ出した紳士・ハリーはエグジーに説く。無為な生活から抜け出し一角の人物となりたければ、父と同じように世界で最も優秀なスパイ「キングスマン」になるための試験を受けるのだと。
かくしてエグジー君の過酷な試練の日々が始まるのですが、それと並行してスパイ映画にはおなじみの「世界に影響力を持つ」悪の組織の親玉が恐るべき計画を進行させていきます。とはいっても劇中で語られている通り、ダニエル・クレイグがボンドを務めるやたらシリアスな最近の007とはちょっと違う。全体的にバカバカしくてスパイがやたらおしゃれにこだわったりするあたりは、漫画チックだったロジャー・ムーアの時代を意識しているようです。
結論からいえばそのぶっ飛んだノリにずいぶんと楽しませてもらいました。ただしかし、いくつかひっかかった点があったのも事実。今回はそれらの点と、わたしがそれにどうやって折り合いをつけたか語って行きます。あ、ネタバレ全開なのでその点ご了承ください。
まず引っかかった一つの点は、「キングスマンの強さにやたらブレがある」ということ。たった一人で無数の敵を片づけて無双の強さを見せたかと思えば、そのあとコロッと死んじゃったりする。これは彼らが豪傑ではなく忍者だと思うことで納得いたしました。山田風太郎とか『伊賀の影丸』とか読むとわかっていただけると思うのですが、忍者って「これは無敵だ!」という忍術を見せた後非常にあっさりとその術を破られて頓死したりします。ドラゴンボールの悟空たちのように、自分より強さ数値の低い相手に負けることは絶対にない…ということはないのですね。ものすごく戦闘力は高いですが、ショックや油断が元で簡単に命を落としてしまう、人間臭くてはかない連中なのであります。決して表には出ず人知れず活動を続けるあたりも忍者と似ています。
二つ目の点は「命の重さにブレがある」ということ。冒頭でエグジーは警察に捕まるにも関わらず目の前に飛び出したキツネをよけます。死亡者続出のように見えた試験でもちゃんと「実は生きてるんだよ」という説明がありましたし、スパイ映画に時々ある「飼いならした犬を殺せ」という場面でも犬は撃たれません。ですから「生き物の命はみんな大切なんだよ!」というあたたかいメッセージの込められた映画なんだと思いながら観てました。
ところが中盤のあるシーンから人間たちがまるでゴミのようにくだらなく大量に死んでいきます。少なからず当惑いたしました(^_^; でもよく考えると、死んでる連中のほとんどは勝手に人を差別したりランクづけたりする傲慢なやつらばかりなのですね。マーク&マシューの中では「差別主義者よりも無垢な動物の命の方が大事。ていうか差別するやつはバンバン死んでよくね?」とそういうことになってるのかもしれません。とりあえず映画に出てきたワンちゃんたちが演技とはいえ死ななくてようございました。フィクションの中であれば、人間はいくら死んだっていいです(どっかから怒られそうな発言)。
三つ目の点は前の点と矛盾しますが、ある重要人物がまたコロッと死んでしまったこと。このシーン、わたし「わかってるわかってる、死んだふりして主人公のピンチにさっそうと現れるんでしょ?」と冷めた目で観ておりました。しかし彼の助けがなくても見事に自力でピンチを脱出する主人公。「あ、わかった! エンドロールの前後で『実は生きてました』ってシーンがあるんだな!」と思い直しました。ですが結局彼は以降最後まで画面に出てこず「なんやねん! 死にっぱなしかい!」と。
まあそういう「命を越えた精神の継承」みたいなものがテーマだったのかもしれませんが、この点に関してだけは正直納得がいってません。続編が準備中とのことなのでそちらで何とか解決してください。ジョジョ第3部のアブドゥルと同じトリックで生き返らせることができると思います。
というわけで『キングスマン』は現在全国の映画館で公開中ですが、彼らの外見が地味なゆえかいまひとつ大ヒットには結びついてない模様。「不謹慎な映画大好き!」という人はぜひ早めにご覧になってみてください。
Comments
簡単に死にすぎ、というか、必ずしも武闘派ではないヴァレンタインに討ち取られたのは、少々肩すかしでしたね。人類が凶暴化するアラームは、何気にホワイトハウスも参加しているのが、何ともやりきれないと思いました。セレブ達も、ヴァレンタインと同じ穴のムジナ、という意味では、必罰が明確で、そこは、典型的な正義を語るストーリーでもありましたね。
格闘は見物でしたが、ヴァレンタインに討ち取られたのは、兵器が進化した時代のリアリティを、描いているように思いました。個の武勇が通用するのは、修羅場であって、二代目ガラハッドも、通用する兵器しか、敵地に持ち込まないわけで。アイテムのかっこよさは、今やファッションショウと化したスパイ映画ならではの、良さでしたよ。
Posted by: 隆 | September 24, 2015 03:37 PM
伍一くん☆
不謹慎な映画、楽しんじゃいました。
でも教会のところはさすがに不謹慎すぎて、ちょっとドン引き~~
無垢な動物の命優先ならば、教会に来る純粋な人々の命も大切にしてほしかったかも。
タダのスマホをゲットした時点で純粋じゃないのかな??
Posted by: ノルウェーまだ~む | September 24, 2015 11:11 PM
こんにちは。
「飼いならした犬を殺せ」という場面、元々マシュー・ヴォーンは殺すつもりだったそうですね。共同脚本のジェーン・ゴールドマンが、それは客ウケが悪いと止めたそうな。
撃っていたら、こんなに好きな映画にならなかったかも
Posted by: ナドレック | September 27, 2015 12:52 PM
>隆さん
再びご来訪ありがとうございます。
ヴァレンタインにたやすく討ち取られたのは、やすやすと敵に罠とはいえたくさんの一般市民を殺してしまったショックが大きかったのかなあと。自身にも厳しそうなハリーのことだからたとえ生き残ったとしても自分を責め続けるでしょうね… それでも復活してほしいですけど
小道具にはいちいち心ときめきましたが、もっともエグジーに感心したのは小道具とか関係ない、グラスをすりかえるシーンだったりしてw
Posted by: SGA屋伍一 | September 27, 2015 06:14 PM
>ノルウェーまだ~むさん
解説によりますと、あの教会に集まってるグループは人種差別が甚だしかったり堕胎を禁止したりしてる過激な一派がモデルなんだとか。だからといってあの扱いはまあ、あんまりだと思いますけど(^_^;
Posted by: SGA屋伍一 | September 27, 2015 06:17 PM
>ナドレックさん
ああ、たしかにマシュー・ヴォーンはやりそう。そして共同脚本の人偉い! 殊勲賞ものです! わたしもヴォーンの案通りだったらワーストにしたかもw
来月評判の『ジョン・ウィック』が始まりますがワンちゃん受難の話だそうで観たいけどつらい
Posted by: SGA屋伍一 | September 27, 2015 06:19 PM
こんにちは。
「不謹慎」な作品とは言え、立派な男子成長物語だったと思います。
そう、確かに、エグジーのような労働者階級が、これからの地球を救う!の、かも…。
Posted by: ここなつ | November 17, 2015 05:50 PM
>ここなつさん
コメントありがとうございます。成長するのに大事なものはマナー、良い師、上物のスーツ…ということですかね
とりあえず地球を救うのは劇中のサミュエルLジャクソンのようなIT企業のボスではないとは思います(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | November 18, 2015 09:08 PM