熊出没チュー意! バンジャマン・レネール ステファン・オビエ&バンサン・パタール 『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』
渋谷は金玉…じゃなくて金王坂というとこの近くに、アート系の渋い映画や新進作家のドキュメンタリーをよく上映しているイメージフォーラムという映画館があります。そこで珍しく子供向けのほんわかしたアニメ映画をかけるというので興味をひかれて行ってまいりました。『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』、ご紹介します。
地上には熊たちが、地下にはネズミたちが暮らす世界。ネズミたちは熊が恐ろしい残酷な生き物だと信じていたが、孤児院で暮らすセレスティーヌは本当にそうなのか疑問を抱いていた。ある時熊の歯を盗みに地上に出たセレスティーヌは、腹ペコのオヤジ熊アーネストに見つかってしまい、あわや食べられそうになる。そんな風に決して友好的な出会いではなかった二匹だったが、思いがけず助け合ううちに大の仲良しになり…
最初に目をひくのは水彩画風の絵本のような描線。少し前公開されていた『かぐや姫の物語』のタッチと少し似ています。この淡くやわらかな線や色調に、温かい気持ちにさせられます。あとごくごくシンプルな構図なのに(あるいはそれゆえか)背景の大きさや奥行きがしっかりと出ていてすごいな、と思いました。
原作は1981年にベルギーで出版され、現在にいたるまで20冊の作品が描かれている長寿シリーズとのこと。ちなみに原作の絵はアニメよりももう少しリアルなタッチとなっております(上の画像を参照)。
熊の社会はわたしたちとはあまり変わらないのですが、面白いのはネズミの世界の描写。そこでは「歯」がなによりも大事なものとしてありがたがられています。もしネズミが歯を失ったら食べることはもちろん、喋ることや土木工事もできなくなってしまうので。よってこの世界では歯医者が最も尊敬される職業となっております。
あと地下にはりめぐらされていることと、ミニサイズのネズミたちがこしらえているということで、街の作りがいちいちこっていたり様々な仕掛けがあったりします。そんなおもちゃの様な町で怪獣の様なアーネストが暴れまわるのがまた楽しかったりします。
で、このアーネストおじさんですがかなりの問題児であります。「腹が減ったから」といって金も払わずよその店の商品をためらうことなく食い漁る、「よくそれで今まで生きてこられたな…」というキャラクター。当然生活力は皆無に等しいです。しかしそんないい年こいて純真というか子供のようなところが微笑ましくもあります。『バケモノの子』の熊徹や『テッド』もそうですが、熊のオヤジというのは問題児なのにどこかにくめない、愛嬌がある…というキャラが多いですね。そんなおやっさんがいつしかちっちゃな女の子のためにあれこれ奔走する姿が、冬の夜の石狩鍋のようにまたなんとも言えずあたたかいのです。
しかしこの世界ではネズミと熊は決して相容れぬ存在。社会のルールを踏み越えようとする二匹は両方の社会から極悪犯罪人として追われることになります。これがヌーベルバーグやアメリカン・ニューシネマであれば逃亡の果てに悲壮な最期がまっているわけですが、果たしてこのアニメではどうなるでしょう(笑) つづきはご自分で確かめてみてください。
『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』は、現在全国で五か所の上映館が確認されています。アカデミー賞長編アニメ部門ノミネート作品だというのにこの少なさ… くわしくは公式サイトをごらんください。メインのイメージフォーラムではたぶんまだあと10日くらいはやってるはず。年末の12月2日にはDVDも出ます。
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