永遠のロビン・ライト スタニスワフ・レム アリ・フォルマン 『コングレス 未来学会議』
第81回アカデミー外国語賞を『おくりびと』と争ったアニメ映画『戦場でワルツを』。その監督であるアリ・フォルマン氏の新作が本国より二年遅れて公開されると聞き、新宿はシネマカリテまで行ってまいりました。『コングレス 未来学会議』、ご紹介します。
かつてはスター女優だったロビン・ライト。だが年を重ねたことと我儘を繰り返してきたことが災いし、彼女はプロダクションからある決断を迫られる。それは彼女の容姿と演技パターンを映画会社に「キャラクター」として売り、今後はCGキャラがロビンの代わりに演技をするというものだった。女優としてのプライドを傷つけられたロビンは激昂するが、病気の息子のことを思うと条件を飲むべきか深く迷うのであった。
原作は『ソラリスの陽のもとで』でなどで知られるスタニスワフ・レムの『泰平ヨンの未来学会議』。なんともすっとぼけたタイトルです(^_^; 奇矯な冒険家泰平ヨン(原語は違う名前だと思うんですが)が、未来や宇宙で様々な文化に出会うというシリーズの一編。ただ今回の映画化はかなりアレンジが加えられているようです。主人公である泰平ヨン氏が登場せず、代わりに現代の実在の女優ロビン・ライトがその役を担っていることからもその点は明らかです。
わたしはこの映画、それは変わったアニメだと聞いて楽しみにしていたのですが、アニメに入るまでにちょっと時間がかかります。ロビンさんが女優としての進退に悩む話が、どこでどうやってアニメにつながっていくのか? なんだかハラハラしながら鑑賞しておりました。
しかし中盤からある設定によりアニメのパートに入っていくと、それはもう予想をはるかに上回るぶっ飛び具合を見せてくれます。まるでだれかがラリっている時の脳内をそのまんまビジュアル化してみせたよう。
一方で現実に目をそむけ妄想の中で生きざるを得ないことのさびしさも、ちゃんと描かれています。まるでしっとりとした『マトリックス』か『ゼーガペイン』のようでもありました。
アニメは優れた美術表現のひとつでもあると思うんですけど、非現実的なビジュアル・世界を扱うことも多いだけに時として受け手の現実逃避の場所となってしまうこともしばしば。この映画などは妄想の世界のパートがすべてアニメで描かれているため、アニメが持つ現実逃避の側面が一層強調されてた気がします。しかしその逃避を批判的に描くのではなく、「これもまた仕方ないのよね…」という論調で語られていたせいか、アニメファンとしても不快感は感じませんでした。
もうひとつ考えさせられたのは映画の今後、ということについて。ご存知のように現在の映画界はかなりCGが幅を利かせています。もう死んでしまった人に喋らせたり演技させたりすることさえできます。『アバター』のように最初から最後までほぼCGで作られた映画も数多くあります。
だとしたらもう生身の役者が演技をする必要もないのでは…? そう考える映画製作者もいることでしょう。いまの段階ではまだコンピューターの技術がそこまで追いついてないですし、「そんなこととんでもない!」とお怒りになる映画ファンも大勢いるでしょう。ただCGの技術の進歩をずっと目の当たりにしてきた身としては、そっちの方がが主流になる時代も来るのかなあ…なんて思ったりもして。わたしだっていやですけどねー
さて、この映画で変わってるところがもう一点あります。それはヒロインを実在の女優ロビン・ライトがそのまんまの名前・経歴で演じていることです。ロビンさんというとわたしはショーン・ペンの元妻で『フォレスト・ガンプ』『ベオウルフ』に出てた人…くらいの印象。日本でもそんなに知名度高くないと思うんですが、この映画ではまるで一世を風靡したスター女優のように語られております。もしかしたら欧米では本当にそれくらい人気があったのでしょうか。『プリンセス・ブライド・ストーリー』とかどのくらい売れたのかよく知らないのですが…
まあそれはともかく、この映画はロビン・ライト自身がテーマの映画とも言えます。大林宣彦監督は「監督の仕事は女優に惚れること」とおっしゃってましたが、フォルマン監督のロビンさんへの愛情があまりにも激しくて心和みましたw
『コングレス 未来学会議』は上映館は決して多くありませんが、新宿シネマカリテをはじめ全国で順次公開中。くわしくはコチラをごらんください。ラブライバーよ、これもアニメだ!
Comments
ロビン・ライトは確かに一世を風靡したとまではいかないですよね。
初めはケイト・ブランシェットを考えていたそうです。
こちらだったら確かに、一世を風靡した大女優と言えるケド…。
本当、ハリウッドの今後をつい考えてしまいましたよね。
最近だと、スカイミッションがそうで、ポールのシーンのある種の角度は全部同じように見えました。
CGが故なのかも…と思いましたね〜
Posted by: とらねこ | July 08, 2015 01:14 PM
>とらねこさん
こんばんは。ああ確かにケイトさんならもっとふさわしかったかな? ただ「キラキラ輝いてセクシーだった」かといえば(^_^;
>ポールのシーンのある種の角度は全部同じように見えました。
なるほど… まだまだ生の人間の自然さや躍動感を出すところまではいってないですよね。いってもいやだけど
とりあえず故人でも映像に出しやすくはなりましたよね。肖像権の問題さえクリアすれば
Posted by: SGA屋伍一 | July 08, 2015 09:56 PM