サラリーマン近未来 テリー・ギリアム 『ゼロの未来』
強烈な個性で根強い人気を持つ英国の作家テリー・ギリアム。そのギリアム氏の新作が日本では5年ぶりの公開となりましたので観に行ってまいりました。『ゼロの未来』、ご紹介します。
近未来、プログラマーのコーエンは、勤め先で来る日も来る日も数式の解析をやらされてうんざりしていた。自分にいつかどこかから重要な電話がかかってくると信じ込んでいたコーエンは、会社に自宅勤務に変えてくれるように直訴する。彼の才能を評価していた会社はこれを承諾。晴れて望みがかなったコーエンだったが、仕事の能率は思うようにははかどらない…
管理社会を描いた作品は多くあります。そうした作品というのは未来への警鐘を鳴らすためか、暗く重苦しく殺風景になりがちなもの。しかしこの『ゼロの未来』はギリアム氏のセンスゆえか、町の風景や会社の中などが実にとっちらかったデザイン・色調となっております。コーエンのやっている「数式の解析」というのもテレビゲームで遊んでいるようにしか見えないw だからかある種のディストピア作品でありながら、あまり「暗い」という印象は受けませんでした。コーエンが仕事をさぼっても機材を壊しても、具体的に何か制裁を受けるわけでもないし(ゆるい会社…)。むしろ彼を監視している会社は、甘い幻想やお色気たっぷりの美女を用いてコントロールしようとします。「アメとムチ」という言葉がありますが、ひたすらアメだけ与えて依存させていくようなやり方。考えようによってはそっちの方が怖いかもしれません。
ここまで読まれた方は「お、なんか楽しそうじゃん」と思われるかもしれません。しかし正直に言うと、今回のこれ個人的にはちょっと厳しいものがありました(^_^;
考えてみればわたしギリアム作品って、『バロン』以外ウマがあったことがなかったんですよね… 『12モンキーズ』『Dr.パルナサスの鏡』は観終わったあとなんか釈然としなかったし、『ブラザーズ・グリム』はもうほとんど印象に残ってないし。まあ最高傑作と言われている『未来世紀ブラジル』と『フィッシャー・キング』をまだ観てないんですが(^_^;
ともかく今まで観た作品は、相性が悪くても一応わかりやすいストーリーがついておりました。ですが『ゼロの未来』はのっけからシュールなやり取りがえんえんと続いていて、観てる側がそれなりに思索をめぐらさないと置いてけぼりを食うこと必至です。たまにはそういう作品も悪くないですけど、この日は一日働いて大盛りラーメンを食べあとに観たせいか、いまひとつ映画の中に入っていけず残念でした。メガシャキかなにかをキメてから臨むべきでしたね…
それでも最後まで寝ずに映画を観ることができたのは、ヒロインを演じるメラニー・ティエリーのインパクトに負うところが大きいです。この方『海の上のピアニスト』では幻想的な美少女を演じておられましたが、あれから16年(笑)、今回はこれでもかってくらいムチムチなボディでビッチ役をがんばっておられました。昔あこがれてた同級生が夜の蝶になってしまったようで少しさびしいですが、こうなったらこのままこの路線をつきすすんでいってほしいです。
『ゼロの未来』はまだぽつぽつ上映館が残っている模様。くわしくはこちらをご覧ください。ギリアムさんが好き!という人におすすめします。わたしが観た回は平日レイトだったのにも関わらず、そんなオーラを放つひとたちが5人ばかり来ていてほっこりしました。
ギリアム監督は2000年から立ち上げては頓挫している『ドン・キホーテを殺した男』がようやく軌道に乗り、来年から撮影に入る模様。今度こそ実現するといいですね…
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