スターク・ウォーズ ドローンの攻撃 ジョス・ウェスドン 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』から約10ヶ月。ようやく待望のマーベル・シネマティック・ユニバースの最新作が公開されました。個人的には今年もっとも楽しみにしていたと言っても過言ではない『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』、ご紹介いたします。ちなみに一作目のレビューはコチラ
超人たちが力を結集し、なんとか宇宙からの侵略者を撃退したニューヨーク決戦。しかし異次元の穴の向こうで想像を上回る大軍勢を見てしまったトニー・スターク=アイアンマンは、「彼らがまたやってくるのでは…」という不安をつのらせる。
折しもアベンジャーズは秘密結社ヒドラにより奪われた「ロキの杖」を奪回。人類のそれをはるかに上回るテクノロジーで作られたそのアイテムをもってすれば、地球防衛の要となる人工知能の軍勢を作り出すことができるかもしれない… そう考えたスタークは、ブルース・バナー博士と共に人口知能プログラム「ウルトロン」の開発に取り組む。だがプログラムは不可解なハプニングにより暴走。「平和を生み出す」ことを目的として作られたウルトロンは、「人類を絶滅の淵においやる」ことが平和の達成と考え、アベンジャーズに牙をむく。
というわけでどうでしょうこのストーリー。ヒーローものとしてはすごくスカッとしないですよね(^_^; 言ってみれば自分たちが引き起こした災害の事後処理にヒーローたちが奔走する話なわけですから。
でもこの映画はヒーローものであると同時に、歴史のヒトコマ的な物語であるととらえていただきたいです。スターウォーズやロード・オブ・ザ・リングの1パートのように。
アベンジャーズが直面してる状況は黒船来航時の日本とよく似ています。こちらをはるかに上回る技術・国力をもった相手に、どう立ち向かったらいいのか? 普通のエンターテイメントなら強引な脚本とか根性とかですいすいっと解決してしまうわけですが、MCUはそういう安易な道を選びません。実際の歴史と同じように、夜明け前の苦闘や試行錯誤をきっちりと描きます。明治維新もその前には多くの衝突や犠牲がありました。そういう「暗黒時代」の話だから爽快でないのは仕方なきことなのです。しかしそうした試練を経ることで、やがて大いなる勝利へと至っていくわけです。
またMCUの物語は神々の葛藤の物語でもあります。コミック研究家の小野耕生氏はアメコミを「現代のギリシャ神話」に例えておられました。ギリシャ神話の神々というのは超人的なパワーをもってはいますが非常に人間臭い存在で、弱さや欠点もあれば失敗もします。ありがたい存在である反面、人間たちに多大な迷惑をかけたりもします(笑) アベンジャーズの面々もまさにそんなギリシャの神々のようなキャラクター。メンバーの多くは罪の意識を背負いながら戦っています。
アイアンマンはそもそも今回の元凶ですし、かつて自分が作った兵器で被害にあった人々を目の当たりにします。ハルクは変身時己がもたらした被害のことを絶えず気にかけています。キャプテン・アメリカ、ブラック・ウィドウ、ホークアイは国の命令とはいえ多くの人命を奪ってきたことが心にのしかかっています。新顔のマキシモフ兄妹は復讐心に駆られてやったことの惨状を見せつけられて、深く後悔します。ソーは本来は王として故郷を治めるべきなのに、その勤めを果たしていないことに良心の咎めを感じているようです。こういう風に誰もが「業を背負っている」ことが強調されているのも、「エイジ・オブ・ウルトロン」の独特なところですね。
ただそういった罪の意識から解放されているキャラが二名ばかりいます。アベンジャーズの宿敵となるウルトロンと、切り札となるヴィジョンです。先ほどアベンジャーズのメンバーをギリシャの神々に例えましたが、この二人はどちらかといえば旧約聖書などに出てくる唯一神をモデルにしているのかもしれません。ウルトロンは災害などで悪行者を滅ぼしてきた神の苛烈な面を、ヴィジョンはすべての生き物を慈しむ情け深い面をあらわしている気がしました。
また、この映画で特に重要なキーワードに「おうち」というのがあると思いました。マキシモフ兄妹はおうちを奪われたことに深く傷つき、復讐の炎を燃やします。そのワンダに傷つけられたアベンジャーズの面々はホークアイのお家で心の怪我を癒します。かようにお家というのは重要な場所なんだなあ…と。アベンジャーズが結集して戦っている目的だって元はといえば地球という大きなおうちを守るためですしね。
で、特にその「お家」を求めてさまよっているのがキャプテン・アメリカ。彼にとってのお家は21世紀の現在ではなく、慣れ親しんだ人々が生きていた第二次大戦時だから。それでも新しい仲間たちのことを思い「ここが家だ」と自分を納得させるように言うキャップに、またしても鼻水をすすらされたのでした。
あと昨年から『ロボコップ』『チャッピー』などでも描かれてましたが「ドローン兵器に対する不安」みたいなものも含まれていると思いました。いまや実戦でもバンバン投入されているドローン兵器ですが、米国民の皆さんも人道的な面でどうかとか、得体のしれない恐ろしさみたいなものを感じてるんじゃないでしょうかね。「このままじゃ俺たち、機械に支配されちまうぜ!」というメカ沢新一の言葉が頭をよぎります。
というわけで全体的にはどんよりとしていてスカッとしない『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』ですが、思ったより子供たちには浸透していたのか今年の洋画ではNo.1のヒットスタートとなりました。これから強敵となる大作が公開されるので油断はできませんが、まずは一安心といったところでしょうか。
さて、ひとつの戦いは終わったものの、アベンジャーズにはまだまだ苦難が待っているようで(やーねー)その話は来年中ごろの『キャプテン・アメリカ/シビルウォー』で語られるようです。それとその前にMCUシリーズでは世界最小のヒーロー『アントマン』が公開されます。こちらはまたえらく気の抜けた話のようで気分転換にはちょうどよさそう! アベンジャーズとMCUがこの先どこに向かっていくのか、引き続き固唾をのんで見守っていく所存であります。
Comments
マーベル・シネマティック・ユニバースはガーディアンズ・オブ・ギャラクシーも含んじゃうんですね〜
ダーク・ワールドのラストカットには驚きました。
私にはギリシャ神話というより、ドラゴンボールか!と思いましたよ
あれも竜の玉を7つ集めるんだよね
今回は、ヴィジョン誕生の物語ってことなんでしょうね
キャップの家がないということには、私は哀しさは覚えなかったな
むしろ、彼には何も失うべきものがなく、だからこそ強いという、
彼には闇が無いという描写の、心理としての伏線回収の一つ、
と私は思ったのですが
Posted by: とらねこ | July 19, 2015 02:57 PM
SGAさんこんばんわ♪
正直言うと過去のマーベル関連作の色々な伏線や用語などを忘れてしまってる部分もあり、少々補完出来なくなってもいるこの頃で、まだまだ増えるのかな~?という懸念も抱きはするアベンジャーズではあるのですが、でもやはり世界中にファンがたくさんいて各ヒーローの繋がりやストーリーも壮大なものがあるからこそ、作り手も妥協なしに時間をめいっぱい掛けて作り込みたいんでしょうね。・・・ギリシャ神話ですかー。自分はゲーム脳が働いてだんだんスーパーロボット大戦に見えてきたりw
そいえば本作で新しく登場したキャラクターで超能力を持つマキシモフ姉弟ですが、wikiとか見たら2人ともマグニートーの子供と言う設定になってました。それに一番びっくり^^;
Posted by: メビウス | July 19, 2015 10:53 PM
>とらねこさん
その節はども。そうそう、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーはどうつながってるかというと、ソー・ダークワールド、本作の最後でようやっとわかるというね…
いままでの活躍ぶりを見るにサノスさんってどうもいまひとつ抜けてる印象がぬぐえないんだけど、ドラゴンボール(違)を全部そろえられたらこりゃたまったもんじゃないわけで
そんなフリーザ様みたいな相手をアベンジャーズがどう戦うか楽しみと同時に心配であります
キャプテンは一応「ぼくにも暗黒面はある」と自己申告してましたよね。童貞ゆえの強がりだったのかもしれませんが、ハンマーを持ち上げられなかったあたり、やっぱりそれなりに黒い部分があるんじゃないかな、と。まあその辺は今後明らかになっていくでしょう~
Posted by: SGA屋伍一 | July 20, 2015 09:36 PM
>メビウスさん
こんばんは。MCUももう始まって7年ですからね… 忘れちゃったこと、つじつまがあわなくなってるところ、いろいろあるかと思います(^_^; わたしは今回は「ハルクは前の彼女のこと完全に忘れちゃったのか!?」と思いました
スパロボ大戦といえば、時空振動弾でいくつもの世界が融合してしまうという作品があるそうで。わたしはアベンジャーズ3前後編でいったん世界がリセットされて、ついにはX-MENとも融合させてしまう…というのがマーベルの狙いなんじゃないかと考えてます。まあまだまだ先の話ですがw
X-MENといえばMCUではマグニートーは存在しないようなので、おそらくその辺の設定はオミットされてると思います。この双子はアベンジャーズとX-MEN、両方に縁の深いキャラでそこが面白くもあり、ややこしくもあり…
Posted by: SGA屋伍一 | July 20, 2015 09:48 PM
伍一くん☆
出遅れて観てまいりました~
なんだか伍一くんのレビューを見ると、物凄く深くいいお話のような気がしてきたわ。
私は大勢の敵をわ~~と倒していく戦いものが苦手なので(凄い迫力ではあったけど)、ずーっと戦ってばかりだなぁと退屈に思えたり。
彼らの苦悩をこんな風に救い上げてあげれたら、もっと面白かったかも…
Posted by: ノルウェーまだ~む | July 24, 2015 12:45 AM
>ノルウェーまだ~むさん
実はわたしも一度目観たときはいろいろ消化しきれなかったのですが、二回目観たら各キャラそれぞれの心情が実にしっくり理解できましてね… 深くていい話なんですよ!
ただやっぱりアメコミやMCUに思い入れのない人には入り込みにくい話かな、とも思いました(^_^;
Posted by: SGA屋伍一 | July 24, 2015 10:55 PM