そして姉妹になる 吉田秋生・是枝裕和 『海街diary』(劇場版)
吉田秋生の人気漫画を、『そして父になる』などで海外からの評価も高い是枝裕和氏が映画化。『海街diary』、ご紹介いたします。
あらすじは…前に感想書いた漫画版といっしょです。そっから引用いたしますと
鎌倉に姉妹たちだけ住んでいる幸、佳乃、千佳のもとに、ある日消息がわからなくなっていた父の訃報が届いた。父に対し強いわだかまりを抱いていた幸は、佳乃と千佳の二人だけで、葬儀に出てくるように申し渡す。
観光気分でその場所へ赴いていった二人を待っていたのは、腹違いの妹であるすずだった。その後結局やってきた幸はすずと話をするうちに、彼女に「一緒に住まない?」ともちかける
…こんな感じです。で、漫画の方は三女の千佳
がこんなデザインであることからもわかるように、しんみりするところ、抒情的なところもありますが、同時に笑えてほのぼのする作品です。前にも書きましたがハードバイオレンスとかゲイレイプとか描いてた吉田先生がねえ… 人は変われば変わるものです。
対して映画の方はいまをときめく4人の若手女優さんが競演。鎌倉の美しい風景を、是枝監督のメガホンがさらにみずみずしく彩っております。だからひとつひとつの場面がいちいち透明感にあふれ、ギャグやしらす丼でさえキラキラしてました。ですからストーリーは基本的に原作に忠実であるのに、完全に是枝ワールドとして再構築されておりました。
わたくしこの作品が映画化されると聞いたとき、4姉妹と同じくらいキャスティングが重要なのは佳乃のちゃらい彼氏「藤井君」だろうと思ってました。ですが是枝監督、藤井君に関しては本当にさくっと流しましたね… まあ彼の複雑な背景に関しては前日談である『ラヴァーズ・キス』を読まないとよくわからなかったりするので、きちんと扱うのが面倒くさいと思われたのかもしれません。
で、藤井君のパートがほぼオミットされたので、その分長女の幸と四女のすずに一層焦点が当てられていました。原作では幸がすずを引き取ったのは包容力というか親分気質というか、そういう懐の広さから出た行動のように感じられました。しかし映画では人間の酷薄さもよく題材にされる是枝氏だけに、マイナスの動機…母へのあてつけ、意地…もあったことが語られています。それを知ってしまったすずちゃんの、姉妹たちへの距離感が彼女の返事からよく伝わってきました。姉への返事がせっかく「はい」から「うん」になったのに、また「はい」に戻ってしまったりして
そこで多感な少女なら「うるせー! こんなとこ俺だって来たくなかったわー!!」とぐれたり暴れたりするものですが、逆にお姉さんを思いやってあげられるところがすずちゃんのいいところです。まあゆっくり死にゆくお父さんを、ほとんど一人で看取ったような子ですからね… そんなすずの思いを感じ取って自分を見つめなおし、改めて妹として受け入れようとする幸。これはそんな風に時折さざ波を立たせながらも、一年かけてゆっくり姉妹になっていく家族の物語です。
んで、この映画で特に監督が「挑戦してるなー」と思ったのは、4姉妹のお父さんの顔が最後まで出てこないこと。実は原作では回想場面や写真などでちらっとだけ出てきます。ラスト近くでセピア調の風景と共に、笑顔の似合うおじさんを「お父さん」として出せばいくらでも「泣かせ」に走ることができたと思います。でもあえてそれを封印し、父親の風貌や声は観客の想像にゆだねる。その辺が氏が世界からも評価される所以かな、と感じました。
ちなみに彼女らが父を評して「やさしくてダメだった人」と言うのは原作にもあるセリフです。まあ一般的にお人よしというかベタベタにやさしい人というのは、社会的能力に乏しい、はっきり言うと「役に立たない人」の場合が多いですよね… 逆に仕事のできる人というのは、ある種の非情さというか割り切りを持ち合わせていたりするもの。最悪なのは情けもない上にろくな能力もない人です(他人事のように)。
話がそれましたが、『海街diary』、まだもう少し全国の映画館で上映されてるかと思います。で、映画が気に入った方はぜひ原作も読んでほしいです。藤井君とすずちゃんがさらっと触れ合うエピソードが本当に良いので。
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