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June 08, 2015

鉄人22号 ニール・ブロムカンプ 『チャッピー』

405516w300『第9地区』で脚光を浴びたニール・ブロムカンプ氏の第三作は、南アフリカを舞台とした近未来SF(またかよっ)。『チャッピー』、ご紹介します。

犯罪が多発する南アフリカ。警察はドローンのロボット警官を多数導入することでそれに対抗し、かなりの成果をあげる。その開発者である若きエンジニア・ディオンは功績をたたえられるが、実は彼が本当に望んでいるのは高性能なドローンを作り出すことではなく、人間と同じ知性・自我を持つロボットを創造することであった。上司から提案を却下されるも彼はめげず、ひそかに廃棄されたロボットを持ち出して悲願を達成しようとする。

で、見事ディオンは知性を持ったロボットを作り上げ、そのロボットが「チャッピー」と名付けられるわけです。
自我を持ってしまった機械の話といえば古くは『鉄腕アトム』や『キカイダー』、最近では『A.I.』などを思い出しますが、わたしが思い出したのはロボットとか出てこないディケンズの名作『オリバー・ツイスト』。突然社会に放り出された孤児のオリバー君が、悪い大人に捕まって犯罪の片棒をかつがされそうになる話です。
人並み以上の腕力と耐久性を持つチャッピー君ですが、メンタル面ではせいぜい小学校中学年程度。まだまだちゃんとした親の保護や義務教育が大事な年齢なのに、弱肉強食的な世界に放り出されて深く傷つくわけです。本当に親たちは何をやってるんだ!とむかむかせずにはいられませんでした。
まず生みの親のキテレツ…じゃなくてディオンは、ことあるごとに「わたしがお前の創造主だ!」とえらぶるのですが、彼がチャッピーを大事に思うのは愛してるからではなく、研究材料として不可欠だからです。また、育ての親のチンピラ夫婦・ニンジャとヨーランディも、チャッピーを引き取った?動機は強盗の役に立つと考えたからです。
どいつもこいつも大人のくせに子供を食い物にしおって… しかし紛争地域や貧富の差が激しい国ではこういうことってよくあるんでしょうね。やるせない限りであります。

あとこの映画はブロムカンプ氏お得意の「差別」をテーマにした作品でもあります。『第9地区』では「人種が違うからといって迫害してもいいのか?」ということを訴え、『エリジウム』では「人を財産の有無で区分けしてもいいのか?」という疑問を投げかけてきました。
で、『チャッピー』では「ロボットだからといって差別してもいいのか?」という議題を掲げております。いや… さすがにロボットは人間じゃないから差別してもいいんじゃないの?と思う人もおられましょうが、ブロムカンプ氏の考えはそうじゃないみたいです。この辺は『第9地区』でも共通してますが、「人間」とは単に外見や生物学的な問題ではなく、「そのうちに人間性や知性があるならばそれはもう人間として認めよう」というのが彼の主張のようです。
人間の心を持った機械… そんなものが登場するのはまだ少し先のことかと思われますが、機械にさえ感情移入でき、その個性を尊重できるなら、同じホモ・サピエンスにはもっとそうできるはずですよね。そんなやさしい社会をなるたけ築いていきたいものです。

そういった社会性豊かな面もある一方、『チャッピー』は変態暴力監督ポール・バーホーベンの『ロボコップ』に深いオマージュをささげている部分もあります。登場メカ「ムース」はどう見てもロボコップの好敵手ED-209ですし、犯罪に手を焼く市警がロボットを導入するという発想も似てます。そもそも「ロボコップ」って正確にはロボットじゃなくてサイボーグなんですよね。そういう意味ではチャッピーこそ本当の意味でのロボコップと言え…ないか。どっちかというとコップじゃなくてギャングだったし(^_^;
ブロムカンプ監督のオール・タイム・ベストって『エイリアン』『ロボコップ』『ターミネーター』とかそんなのばっかしで、わたしとしてはすっごく親近感感じるんですけど、それだったらもっと爽快でヒャッハーしそうな映画作りそうなもんじゃないですか。だのにストーリー的にはいつもカタルシス薄めというか、「これでよかったのかなあ…」と思わせられるものばかり。そういうところがブロムカンプという作家の興味深いところだと思っております。

個性という点ではチャッピーを拾うニンジャとヨーランディというギャング夫婦もめちゃくちゃキャラが立っております。「いかにもチンピラみたいな二人だなあ」と思いながら観てましたが、彼ら本当に「ニンジャ」「ヨーランディ」という名前で活動してるミュージシャンだそうで… これ、日本だったらデーモン小暮や綾小路翔がそのまんまの名前で映画のキャラを演じてるようなもんですよね。ブロムカンプ監督も思い切ったことをなさる。よっぽど二人のキャラが気に入ったんでしょうね。Chapy1『チャッピー』は現在全国の映画館で上映中ですが、あまり興行が振るわないようなので興味のある方は早めにいかれた方がよいかと。そんな状況がますますチャッピーの悲哀を際立たせているような?


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Comments

伍一くん☆
ラストの絵が上手!なかなか似ておりますよ。
さてデーモン小暮かどうかは別として、ギャングの夫婦がなかなか良かったです。
同時にちょっと生意気そうなかんじに、ポケット?に手をかけて肩をゆすって歩くチャッピーが超ツボでした。

Posted by: ノルウェーまだ~む | June 11, 2015 at 04:47 PM

>ノルウェーまだ~むさん

ありがとうございます! ニンジャの方は自信あります!(笑)
デーモン小暮はそぐわないですか。まあ夫婦ですからねえ。なら林家ペー&パー子か…
チャッピーもとりあえずは更正してくれたのでしょうか。ギャングのかっこだけまねするのはいいけど、ドラッグはダメ! 絶対!

Posted by: SGA屋伍一 | June 12, 2015 at 02:09 PM

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